第37話 アラフィフ介護士 物件確認に行く
ギルドのあるファルスの街から王都とは逆方向へ伸びる街道。その沿線に点在する農村地帯の中間地点に、太く古びた道が一本、街道を分断するように走っている。
かつては立派な並木道だったその道も、今では誰にも整備されず、でこぼこに変形し、雑草が茂り放題。鬱蒼とした木々の間を抜けた先に、開けた広場があり、草に覆われたその中心に一軒の屋敷があった。
村長たちが示したその屋敷は、かつてある貴族が別荘として建てたものだった。生前は手入れが行き届いた立派な建物だったが、貴族が亡くなり一族も没落。今では壁に蔦が絡まり、当時の面影はほとんどない。
その後、村の木こりたちが拠点として使っていたが、ある時期から誰も寄り付かなくなった。
「何かに“見られている”ような感覚がしたって、皆言うんだよ。」それから気味悪がって皆離れて行ってしまう
やがて「魔物が住み着いたのでは」という噂が立ち、腕試しに乗り込んだ冒険者の一行が誰一人戻らなかったことで、以後は誰も近寄らなくなったという。
「ま、俺たちが子どもの頃によく聞かされた話さ。今思えば、危険な場所に近づかせないための作り話だったのかもな」
案内してくれた村人は、そう笑いながら語ってくれた。
「他に場所なかったの?」と、屋敷を目にしたクインシーが俺に尋ねる。
「他にあれば来ないよ。ずっと使うわけじゃないし」と、建物の全景を見ながら俺は答えた。
村のお年寄りを一時的に預かるショートステイの拠点として、この場所を調査しに来たのは午前中の事だった。
遠目には石造りの立派な門構えで、別荘というには大きすぎる二階建ての建物。俺の前世で言えば、公民館のような印象を受ける。
事情を知った俺とキョウカさんに、ローザさんが「とりあえず下見を」と言い出し、調査することに。修道院長からは「前回のように命を賭けるような真似はしないでください」と釘を刺され、人数を増やして臨むことになった。
話を聞きつけたグラントは「僕の成長を証明してやる!」と、ローザさんに熱い視線を送るも完全に無視されながらも同行を宣言。
「たまには体を動かさないとな」とドールマン。
「おじいちゃんたち曰く、あの辺り良い狩場らしいの」とクインシー。
イアンは「習った魔法を試したい」と言い、スミットも「魔法は実地でこそ価値があります」と続いた。
そして、キョウカさんとローザさんという最強ユニットが加わる。ある意味、地上最強のパーティーかもしれない。
依頼主である村に金銭的余裕はなく、俺たちはギルドに「報酬不要、その代わり評価を記録してほしい」と申請。経費と案内は村側で、現地で得られた物資は確認のうえでこちらが受け取る、という形式でこの屋敷に向かった。
蔦に覆われた屋敷を前に、「これ大丈夫ですか?」と俺が村人に尋ねると、
「こんなに絡まってたかなあ……。まあ、新しく建てるよりはマシだし、人手さえ集めれば繁忙期までには何とかなるだろう」と、目を細めながら応えてくれた。
俺たちは今後の予定を伝え、帰っていく村人を見送ってから、蔦まみれの門をくぐった。
持参した鉈で入口の蔦を払い、扉を開ける。中に入ると、窓から差し込む光に照らされた広間が現れた。そこには、かつて貴族が催し物を開いていた痕跡が残っていた。
小さな舞台まであるその空間は、片田舎とは思えない造りで、こんな場所にこれだけの資材をよく運んだものだと感心する。
屋敷は吹き抜け構造で、広間奥の左右から湾曲した階段が二階へ続き、二階部分は回廊のように広間を囲むテラスになっている。入口側には外へ続くバルコニーもあり、そこから差し込む光が館内を照らしていた。
今回は高齢者を受け入れる前提なので、二階の構造はあまり重要ではない。俺たちはまず一階の調査を進めることにし、二手に分かれて各部屋の確認に取りかかった。




