第36話 アラフィフ介護士 フラグに遭遇する。
日常が戻ったある日、皆で故人の話をしていた。
俺が、故人がかつて魔族との戦争を生き延びた強者だったとコッズさんから聞いた話をすると、グラントが思い出したように口を開いた。
「僕、暇なときにコッズさんに剣術を見てもらってるんだ。そのとき教わった技、故人から受け継いだものらしくてね。昔の剣術書に載ってた幻の技で、実戦的すぎて伝承が途絶えたらしいんだよ」
武術の流派が時代とともに途絶えたり、危険ゆえに封印されるという話は、前世でも聞いたことがある。
「『よくこんな古い技を知ってましたね』って聞いたら、『これがわしらの使命じゃから』って返されたんだ。技の継承だけの話じゃない気がして……」
グラントは首をかしげた。
そこにドールマンも加わる。
「ヘストンさんって元タンクだろ。俺が駆け出しって知って、盾の使い方や戦い方をいろいろ教えてくれたんだ。俺の盾、かなり重いんだけど、あの人普通に使いこなすんだよ。動きもキレッキレで、今でも現役で通用しそうだった」
冗談めかして「まだ現役いけるんじゃないですか?」と聞いたら、「備えはしとかないと。それがわしの生きながらえてる理由さ」と、意味深な一言を残されたという。
俺とグラントが顔を見合わせていると、クインシーも口を挟んできた。
「元アーチャーの人たちもすごいわよ。教えてくれる弓術は現役のアーチャー顔負け。精密だし、威力も段違い」
「なにかあるのかしら、この人たち。事情はあるんだろうけど、深入りしちゃいけない気がする」
イアンの場合は、元ヒーラーの老女が日課として唱えている祈りが、実は微量の魔力を蓄積する技術だったという。
「毎日続ければ、何十年分もの魔力が……」と、イアンは言葉を切った。
スミットも元魔法使いの老人に呪文を習っていたが、その技は無駄がなく、威力も常軌を逸していた。
「あれは趣味の域じゃない。完全に実戦向きですよ」
「ここにいる人たち、本当にただ引退しただけなのかな?」とクインシーが疑問を口にする。
俺もコッズさんをただの好々爺だと思っていたが、ある日、誰もいない裏庭で棒を剣のように振っている姿を見た。気迫は運動というより、まさに実戦そのものだった。
その場をそっと離れながら、俺は思った。
——触れてはいけない過去がある。
介護士として、人には誰にも知られたくない過去があることを知っている。
「俺たちが詮索することじゃないよ。あの人たちの半分も生きてないんだから」
精神年齢だけは誰より年上のつもりで、俺は苦笑してそう言った。
一方で、講習会の成果は着実に広がっていた。
教えたのは初歩的なことばかりだったが、それだけで介護の負担が軽減され、家族の不安も和らいだ。
さらに、俺のスキルで作った四点歩行器や折りたたみ式の車椅子をモニター提供したことで、年寄りの行動範囲と自立度が大きく向上した。
「村に活気が出てきましたよ」
村人のそんな声を聞いた数日後、修道院長に呼ばれた。キョウカさんとローザさんも同席していた。
面会室には、講習会で訪問した各村の村長たちが集まっていた。
「講習会のおかげで村に活気が戻った。だが、繁忙期に向けて人手が足りない。安心して働くためにも、年寄りの世話をどうにかしたい」
ショートステイやデイケアのような支援を検討したが、人数や距離の問題で実現は難しい。
修道院長が街の教会支部やギルドに掛け合い、人手は確保できることになった。
俺は必要な物資や経費を提示し、村側で調達してもらえる話もついた。残るは場所の確保だけだ。
仮設か古い建物の転用を提案すると、ある村長が言った。
「そういえば、使ってない場所があったな……。規模もちょうどいい。……いや、でも、あそこは……」
「やっぱり無理か……でも、他に条件に合う場所が……」
村長たちのやり取りを聞きながら、俺は心の中でつぶやいた。
(あ、これがフラグってやつか)




