第22話 アラフィフ介護士 研修を終える③
「トシ君はね、謙虚なのよ! でも、初めて会ったときは凄かったんだから!」
キョウカさんが突然後ろから俺の肩に腕を組んできて、まくし立てるように言った。
「襲ってくるゴブリンを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ――!」
大げさな身振り手振りに、勢いあまってそのままヘッドロックされそうな気配だ。
俺は笑いながらも、場をなだめるように言葉を返す。
「運が良かっただけだよ。最後はキョウカさんが助けてくれたし。気がついたら……倒してた、って感じだね」
しかし俺の謙遜よりも、キョウカさんの酔いどれっぷりに、ドールマンとスミットは完全に呆気に取られていた。
普段はあんなに落ち着いた雰囲気なのに、酒が入るとまるで別人。
――前世でもいたな。普段無口なのに、飲み会になると突然ハイテンションで騒ぎ、翌日には全部忘れてる人。
「これからはおねーさんがトシ君を一人前の冒険者に育てます! いいわね!」
その高らかな宣言に、間髪入れずローザさんがツッコミを入れる。
「任せたら、冒険者になる前に“酒の泉”で遭難させそうで怖いわね」
「ひっどぉい! でも否定はできなーい!」
そう言いながらキョウカさんは俺の背中をバシバシ叩き、ケラケラと笑っている。
そんな中、ローザさんが真剣な目で俺を見た。
「私だったら確実に、一人前に育てられるわ。あなたにその気があるなら、もっと上のレベルに引き上げることもできる。……どうする?」
そのまっすぐな視線に、俺は少し戸惑った。
いつもの「まったくあんたらは……」という呆れ顔ではない。
だからこそ、照れ隠しのように話題を変える。
「そういえばギルドで聞いたんですけど、お二人とも……現役時代は“黒=ブラックカラー”だったとか?」
その言葉に、場の空気が凍りついたように静まり返り――次の瞬間、どよめいた。
「ええぇぇぇぇぇぇ!!?」
周囲の視線が一斉に二人に集中する。
「やだぁ! そんなに見つめられたら……恥ずかしくなっちゃう~」
キョウカさんは顔を手で隠しながら、何故か俺の背中をまた叩く。なんでだ。
一方のローザさんは、ジョッキ片手にあっさりと口を開いた。
「誰でもなれるわよ、依頼をこなせばね」
だが、そこで語られた“依頼”の中身が桁外れだった。
山賊三十数人を、たった一人で制圧――どうやったらそんな芸当が可能なのか。
ローザさんは支援・補助に長けた付与魔術師=エンチャンターだと聞いていたが、その実、前衛もこなせる戦闘能力を持っているらしい。
キョウカさんについては、俺自身が最初の出会いで、その規格外の強さを嫌というほど体感している。
「……あれはあれで面倒なのよ」
ブラックカラーともなると、国からの要請や制約も多く、自由な活動ができなくなる。
「だから返上してランクを下げた」と、キョウカさんは少し苦笑しながら言った。
「養老院の仕事も、案外大変だしね」
その事実に、イアンがぽつりと呟く。
「すごいです……」
まるで奇跡でも見るかのような視線でローザさんを見つめている。
クインシーも同じような目をしていた。
「頑張りなさい、あなたたち」
ローザさんが静かにそう告げると、二人の少女たちは声を揃えて――
「はいっ! お姉さま!!」
そのハーモニーがあまりにも見事で、席が笑いに包まれた。




