第21話 アラフィフ介護士 研修を終える②
こうして俺たちは街へ帰還した。
ギルド長からは「事態を軽視して、危険な目にあわせた」と謝罪を受けた上、当初研修レベルだった任務が実質的に依頼レベルの討伐になったことから、特例として多額の報奨金が支払われた。
この世界における冒険者のランクは、白から始まり、黄、青、紫、緑、茶と続き、最上位が黒と色分けされる。
俺たちは今回の成果が評価され、通常ならイエロー相当の内容だったところを、ブルーランクへと繰り上げ認定された。
中でも、ボスゴブリンを討ち取ったドールマンは、なんとパープルの認定を受けた。
一方でグラントは、自ら申し出て最下級のホワイトに降格された。意外だったが
「これは戒めだよ。思い上がりは、周りも自分も危険に晒す。それを忘れないためにね」
そう言った彼の姿は謙虚そのもの――かと思いきや、次の瞬間には笑顔でこう言い放った。
「でも見ていてくれ! ここから一気に駆け上がって、君たちを追い抜いてやる! そして僕の名前を歴史に刻むんだ!」
……うん。こいつ、やっぱり強者だ。いろんな意味で。
酒が進むにつれ、皆の緊張がほどけてきて、話題は自然と今回の戦闘へと移っていく。
中でもやはり、一番の注目はドールマンの活躍だった。
ローザさんがジョッキを煽りながら感心したように尋ねた。
「よく突っ込んでいけたわね。火だるまのボスゴブリン相手に、怖くなかったの?」
人の行動をここまで素直に褒める彼女を見るのは初めてかもしれない。
「い、いやあ……あの時、何もしてなかったのが俺だけで……そ、その、俺以外、誰も動ける気がしなかったから、気がついたら……」
顔を真っ赤にして、頭を掻きながらドールマンは答える。
あれだけの活躍をしても謙遜する――それが、彼らしい。
「頑張りなさい。あなた、リーダー向きだわ」
ローザさんのそんな一言に、彼は「が、がんばるですます! はい!」としどろもどろに返し、ひたすら照れまくっていた。
……ほんと、いい奴だな。
「僕も頑張ったんです!」
ドールマンの姿に触発されたのか、グラントが自分の“洞窟での武勇伝”を早口でローザさんにまくしたて始めた。
その様子はまるで、母親に褒めて欲しくて一生懸命話す子供のようだった。
「あんたに今必要なのは、協調性と他人への感謝」
長口上を全部聞いたうえで、ローザさんは無関心にズバッと斬って捨てるように言う。
普通ならその場で崩れ落ちそうな鋭さだったが、グラントは満面の笑みで、
「はいっ! ありがとうございます!!」
……なんかもう、清々しいまでの懲りなさだ。
「懲りないわねぇ……」とクインシーが呆れ顔でぼやく。
「もう一度、ゴブリンの群れに置いてきますかね」
スミットは無表情で、さらりと物騒なことを言いながらジョッキを空けていた。
すると、ドールマンがふと思い出したように俺の方を向いて聞いてくる。
「そういえばトシゾウ、本当にいいのか? あんなデカい魔石。見つけたのはお前だろ?」
俺は肩をすくめながら答えた。
「あれはボスゴブリンが落とした魔石で、倒したのはドールマンという冒険者。それなら所有権は倒した本人にあるだろ。教官たちもそう言ってたし、これはもう“ご祝儀”ってことでさ」
実のところ、あの魔石拾得には、例の“清拭”が関わっている。
戦闘後、周囲の確認をしていたとき、火だるまで圧死したボスゴブリンの遺体があった。
その身体の一部が崩れ、内臓らしきものが外に露出していた。
(……もし、魔物の内臓を“清拭”したらどうなる?)
興味本位でスキルを発動し、そっと触れてみると、硬い感触。赤く輝く、見覚えのある魔石が指先にあった。
俺たちを救ってくれたドールマンの顔が脳裏に浮かび、外部に到着した時点で、教官と関係者に「遺体のそばで見つけた」と報告した。
その場で魔石を渡し、「これは快気祝いと、初勝利の記念に」とドールマンに手渡したのだ。
なお、他のゴブリンの返り血を“清拭”したことで生成された数粒の魔石は……まあ、俺の“戦利品”ということで、こっそり持ち帰らせてもらったが‥‥




