第20話 アラフィフ介護士 研修を終える①
「それでは、皆の無事と研修終了を祝して!」
ドールマンの音頭に合わせて、ジョッキが宙を舞い、乾いた音を立ててぶつかり合う。
俺たちは廃坑での研修を無事に終え、冒険者としての第一歩を記念して、ささやかな宴を開いていた。
エール酒を一気にあおり、ようやく全身の力が抜けていくのを感じた。解放感というより、全身から疲労がどっと流れ出していく様だった。
思えば、あの戦闘の後は生還を優先し、通常なら行うはずの探索も後回しにして、満身創痍のドールマンを守りながら出口を目指していた。
最後のボスとの戦いで、彼の受けたダメージは予想以上に重く、歩くのがやっとだった。
そんな彼に率先して肩を貸し、先導役を買って出たのが、意外にもグラントだった。
「すまない、すまない……」
泣きながら肩を貸すその顔に、あの尊大さは微塵もなかった。そこにあったのは、未熟さを痛感し、悔しさを噛み締める、一人の普通の若者の姿だった。
その様子を見ていたスミットも「ここは急がないとまずいでしょう」と言い、空いていたドールマンの腕を自分の肩にかけて歩き始めた。痩せている割に意外と力があり、少しだけグラントの負担が減ったようだった。
「怪我人は……この場合、無理はしないこと」
代わりに大盾を背負ったのはクインシー。
イアンの照明魔法が足元を照らし、教官が先頭を進む。
そして、俺は殿を引き受けた。
皆、思いも寄らぬ激戦を経て慎重になっていたが、幸いにも道中での襲撃はなく、無事、廃坑の入り口まで辿り着いた。
外に出ると、既に太陽は高く、午後の陽射しがまぶしかった。
入口のそばには、ギルド関係者らしき人々が集まっていたが――やたら人数が多い。
その中に、見覚えのあるメイド服が二つ。
「トシ君! よかった!! 怪我はない?!」
声と同時に抱きついてきたのは、案の定、キョウカさんだった。
顔がすっぽり胸に埋もれた瞬間、柔らかさと密度で身元が確定する。
……だが、嬉しいを通り越して、これは――苦しい!
し、死ぬ! マジで死ぬ!
あまりに強力な抱擁で呼吸ができず、声すら出せない。
そんな俺の窒息寸前の状態を察知したのか、ローザさんが後ろからキョウカさんを引き剥がす。
「おバカ! それじゃ、無事なものも無事じゃなくなるでしょ!」
天国への階段を一歩踏み出したところで、現実のドアをローザさんが蹴破ってきた。
「な、なんで二人がここに……?」
疑問を口にすると、事情を説明された。
本来、研修終了後にギルド関係者が評価のため入り口で待機していたのだが、いつまで経っても誰も出てこない。
構造が複雑な廃坑ではないのに連絡がない――不慮の事故を疑って、街に伝令が飛び、急遽探索隊が組織されたという。
キョウカさんたちは、依頼の準備と俺の出迎えのためにギルドを訪れていたが、その騒ぎを知って同行してきたらしい。
「何が起きるか分からないのも実践研修のうちよ。ここまでボロボロにされて、死ななかっただけでも運がいいと思いなさい」
ローザさんは、いつも通り冷たいような言い方をするが――それも、生きているからこそ言える塩対応なのかもしれない。
そんな彼女の様子を見て、キョウカさんが俺の耳元でそっと囁く。
「ローザさんね、トシ君たちのトラブル聞いて、皆が動揺してる中で一番最初に“探索隊の派遣を!”って叫んだのよ。“うちの大事な人材に何かあったら、分かってるでしょうね!”って」
「え……」
「で、いざ隊が編成されたら、“人手が足りない!”って言って強引にメンバーに割り込んで……私が止めなかったら、装備もせず一人で廃坑に突入する勢いだったの。ああ見えて、すっごく気にしてたのよ」
「なに余計なこと話してるの!」
とローザさんが怒鳴り、チラチラとこちらを見てくる。
ツン……デレかよ。
ふと周囲に視線を移すと、俺たちのやり取りを仲間たちが呆然と見つめていた。
漫才のようなこの展開に呆れたか?――と思いきや、よく見ると男連中の視線は、キョウカさんとローザさんに集中している。
中でもグラントに至っては、完全に魂が抜けたような顔で見惚れている。
一方、女性陣――特にイアンは、真っ直ぐにキョウカさんの爆乳を凝視したまま、こうつぶやいた。
「……ずるい」




