第18話 アラフィフ介護士 実技研修に挑む③
駆け足で進んだ先、先頭の教官が立ち止まる。
その向こうで坑道が途切れ、視界が一気に開けた。
そこは、まるでショッピングモールの中央広場のような広大な空間だった。
高い天井にかがり火が灯され、ぼんやりと周囲を照らしている。
その片隅に、小さな集団が固まっていた。
武器を構え、輪を作っている――ゴブリンたちだ。
囲まれた中央には、壁を背に座り込み、剣を振り回して暴れる人影。
グラントだ。
「……生きていただけ上等だな」
教官が低くつぶやくと、すぐに簡潔な指示を出し、最後に言った。
「――生き残るぞ」
俺たちの到着に気づかぬまま、ゴブリンたちはじわじわと間合いを詰めていた。
粗末な槍でグラントを突き、小突いて疲弊させようとしている。
彼は剣を滅茶苦茶に振り回して必死に応戦していたが、明らかに動きが鈍っていた。
そしてついに、槍を受けた拍子に剣が弾かれ、カラン、と床に転がる。
空になった手を呆然と見つめ――その意味に気づいた瞬間、悲鳴を上げて頭を抱えた。
「うわああああ!!」
――未来の騎士団長が自らの危機に取ったその姿は、皮肉にも最も“人間らしい”ものだった。
ゴブリンたちは勝利を確信し、奇声を上げる。
その表情には、獲物を嬲る快楽が滲んでいた。
だが、彼らの目論見はそこで崩れた。
とどめの槍を突き出した一体が、ぴたりと動きを止める。
次の瞬間、別のゴブリンが背後から矢を受けて倒れた。
囲みが崩れ始め、ようやく異変に気づいた敵が辺りを警戒し始めた頃――
教官の剣が喉元を貫き、呻く間もなく一体が崩れ落ちた。
俺も教官に続き、至近にいたゴブリンの顔面に拳を叩き込む。
鉄甲越しでも衝撃は鮮烈で、拳が頭蓋にめり込んだ。
すぐに引き抜き、中段回し蹴りで隣の一体を吹き飛ばす。
腹に直撃したゴブリンは血を吐き、膝をついたまま倒れた。
背後では、教官がさらに一体を仕留めていた。
囲みが崩れた隙に、グラントがようやく顔を上げた。
「おい!」と声をかけると、彼は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、こちらを振り返る。
毒の兆候や致命傷はない。
それを確認した教官が叫ぶ。
「死にたくなければ、こっちに来い!」
指し示された隙間へ、グラントはしばらく硬直していたが、「動け!」の一喝に肩を震わせ、「は、はひっ!」と情けない声を漏らして這い出てきた。
イアンとスミットが彼を支え、後方のドールマンのもとへ下げる。
再び崩れ落ちた彼に、イアンが回復魔法をかけた。
状況が落ち着いたのを確認し、俺と教官も後退。
ウィンドウを開くと、さらに多数の敵反応があった。
騒ぎを聞きつけたゴブリンたちが続々と押し寄せてくる。
その中に、一際大きな個体――ボスがいた。
クインシーとスミットが前に出る。
クインシーの矢がゴブリンの目を貫き、スミットの火球が敵を焼き尽くしていく。
その中で、最も冷静に戦況を見ていたのはボスだったかもしれない。
ボスが甲高い声を上げると、前列の数体が弓を構えた。
クインシーの矢も残り少なく、スミットの顔には疲労が浮かんでいる。
――このままでは押し切られる。
昨日寄せ集められたばかりの即席パーティー。連携はまだ粗い。
だが、状況を読み切っていたのはドールマンだった。
「俺の後ろに固まれ!」
その一声で全員が即座に盾の背後へと集まる。
ドールマンは確認すると、吼えた。
「このまま突っ込む!」
大盾を構え、真正面からゴブリンに突進。
その背後を、俺と教官が続いた。
言葉少なに共有された戦術――ドールマンが盾となり、俺たちが隙を突く。
矢が飛来する直前、俺は風魔法を発動。
風の壁が矢の軌道を逸らし、俺はすぐにドールマンの背後へ戻る。
「カッ、カッ!」と乾いた音が続き、矢が木を打つように地面に突き刺さる。
音が止んだその瞬間、俺は跳び上がり、両手からチャクラムを放つ。
放物線を描いた二枚の円刃が、外れたように見えたその瞬間――
チャクラムはゴブリンの側頭部に突き刺さり、二体が音もなく崩れ落ちた。
混乱した敵に、教官の剣が深く突き刺さる。
右脇腹を貫かれたゴブリンが呻き、剣を抜かれると同時に反対側へ倒れた。




