第17話 アラフィフ介護士 実技研修に挑む②
しばしの沈黙の後、奥からほのかな明かりが見えた。続いて、朗らかな声が響く。
「――ああ、やっと会えました!」
イアンだ。照明魔法に照らされた白基調の装束が、闇の中でひときわ目立っている。
その背後からも声が上がった。
「トシゾウか!? あ、教官もいるな」
ドールマンの声だ。巨体に隠れていたが、魔法使いのスミットとアーチャーのクインシーもその後ろにいた。
彼らの顔を見た瞬間、思わず大きな声が出た。
「大丈夫か!? ああ……良かった……」
自分でも驚くほどの安堵だった。想像以上に、暗闇が心に影を落としていたのだろう。
彼らは探索をしながら、こちらの到着を待っていたらしい。無事を確認し合う中――グラントの姿だけが見えなかった。
(無事なら、一発くらい嫌味でも言ってやろうと思ってたのに)
しかし、どこにもいない。ウィンドウを開いても、彼の情報は表示されなかった。
「……あいつは?」と問うと、ドールマンが険しい顔で答える。
「それなんだが――ついてきてくれ」
案内されるまま進むと、ドールマンの松明がぴたりと止まった。
「ここだ」
灯りの先、坑道の端にゴブリンの死体が転がっていた。肩から斜めに一刀両断され、目を見開いたまま絶命している。
「これ……グラントがやったのか?」
イアンが答える。
「これだけじゃありません。こういう死体が、この先に何体も……」
出会った敵を片っ端から倒し、奥へ進んだのか。無謀だが、確かな実力があったらしい。
――そう思った瞬間だった。
教官がぽつりと呟く。
「……まずいな」
「何がですか?」スミットが顔をしかめる。
教官は坑道の奥を見つめたまま、低く語った。
「入り口で倒した数と合わせれば、もう討伐数は揃ってる。普通なら引き返すはずだが……」
よくよく見ると、戦闘を止めた形跡が見られない。
「たぶん、奴は残りのゴブリンを見つけて、追いかけたんだろうな」
教官の声は淡々としていたが、焦りがにじんでいた。
「ゴブリンは、弱いからこそ狡猾だ。仲間の死体すら罠に使う。勝ち誇ったグラントを、有利な場所に誘い込んだ。亡骸を餌にして……そして、奴はそれに気づけなかった」
俺たちは顔を見合わせる。
まさか、グラントが――
「急ぐぞ!」
教官の一声で我に返る。
「最終試験で死者を出すわけにはいかん!」
全員が一斉に走り出した。曲がりくねった坑道を、息を切らしながら駆ける。
途中、肌に風が触れた。
この先に広い空間がある。
ウィンドウの地図にも反応があった。壁際に青い点、そしてその上に重なるように赤い点――
ウィンドウの表記をそのまま解釈するなら、グラントはゴブリンに・・・・!?
その不安を確信に変えたのは、次の瞬間だった。
「うわああああ! 来るな! 来るなああああ!!」
暗闇を裂く、断末魔のような絶叫。
全員の血の気が、一気に引いた。




