↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/35

第16話 アラフィフ介護士 実技研修に挑む①

 茂みから確認できたゴブリンは四体。まずは、こいつらを排除する。


 戦術の最終確認を終え、魔術師が詠唱に入る。聞いただけでは再現不能なほど複雑な呪文が響き、杖の先に火球が形成される。鋭い呪文の切れ目とともに、火球が放たれた。


 一体に直撃。火に包まれたゴブリンがのたうち回り、隣の仲間も巻き込んで、二体まとめて火達磨になった。


 その瞬間、アーチャーの矢が風を裂く。異変に気を取られ、こちらを振り向いたゴブリンの眉間を射抜き、三体目が崩れ落ちる。


 狙い通りの展開だった。


 残る一体は、あえて見逃す。逃げた先で仲間を呼ぶはずだ。出てくるところを叩いた方が、狭く暗い坑内に突っ込むよりも遥かに安全だ。


 教官に意図を伝えると、「冒険者に必要なのは生き残ること。臆病なくらいがちょうどいい」と評価してくれた。


 ――だが、予定はすぐに崩れた。


 タンクを先頭に突入しようとしたその瞬間、何かが疾風のように横を駆け抜けた。


 グラントだった。


 一気に間合いを詰め、残ったゴブリンを一太刀で斬り伏せる。


 呆気にとられる俺たちの前に、得意満面のグラントが戻ってくる。


「な? 言っただろ? 雑魚だって。これが証拠――」


 その言葉は途中で途切れた。


「お前! 何考えてるんだ!!」


 タンク=ドールマンが胸ぐらを掴み、怒鳴りつける。雷鳴のような声に空気が一変した。


 教官が慌てて間に入り、「まあ、落ち着け」となだめる。


 ドールマンはひと呼吸置き、無表情のまま静かに問いかけた。


「……あえて聞くが、ビビったのか?」


 仲間割れを避ける意図がその表情にはあった。


 だが、ひとりだけ理解できなかった者がいた。


「ビビりすぎなんだよ、お前ら! 見ただろ? 僕一人で十分だった! 慎重にやる意味なんてなかったんだ!」


 そこからは独演会だった。


 自分がいかに優れているか、家柄がどれほど誇らしいか、未来がどれだけ約束されているか。


 そして――


「僕は未来の騎士団長だ! それを証明するために来たんだ!」


 そう言い残し、グラントは単身、廃坑の中へと消えていった。


 誰も動けなかった。突飛すぎる行動に、全員が麻痺の呪文でも受けたかのように硬直していた。


 その沈黙を破ったのは、イアンだった。


「あのままじゃ……死ぬかもしれない。装備も、ちゃんとしてなかったし」


 その一言で、現実に引き戻される。


「……あのバカ」


 ドールマンがぼそりと呟き、先頭を切って廃坑へ入っていく。イアンが続き、残るメンバーも顔を見合わせて松明に火を灯し、後に続いた。


「これ、まずい状態ですよね……今さらだけど」


 俺がぼそっと呟くと、教官は天を仰ぎ、顔を手で覆いながら言った。


「ああいうの、いるんだよ。誇りを持つのは構わないが、根拠のない自信は命を縮める。窮地に陥って初めて気づく奴もいれば――それすら気づかず死ぬ奴の方が、多い」


 その口調には、苦い過去を抱えた者だけが持つ重みがあった。


 俺はそれ以上、何も言わず、教官と共に廃坑へ入った。


 


 中は想像以上に広く、高い天井があった。崩れかけの岩盤を支える柱と梁が縦横に走り、ところどころに黒ずんだ鉱脈の名残が見える。


 左目の「構造把握スキル」で通路の形や分岐は把握できるが、視界が得られるわけではない。


 照らしきれない暗がりを、松明の光で探りながら進む。


(そういえば……夜勤の巡回もこんな暗さだったな)


 介護士時代の記憶が、ふとよぎる。


 そのとき、教官がぽつりと語り出した。


「昔はミスリルが採れた場所だった。金を夢見て人が集まったが……戦争が起きてな。鉱夫たちは兵士として駆り出され、帰ってこなかった」


 戦争が終わる頃には、他にもっと豊かな鉱山が開かれ、人の流れは移った。


 ここは、“夢の跡”になったのだ。


「夢の跡って奴ですか…」


 自然と、そんな言葉が口をついて出た。


「お前さん、冒険者やめても吟遊詩人で食っていけそうだな」


 教官が笑う。


「それも、悪くないですね」


 そんな会話を交わしていたそのとき――教官が急に剣を構えた。


 俺も即座に拳を握り、警戒体勢に入る。


 だが、左目のスキルは、まだ“不快な反応”を示していなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。