第15話 アラフィフ介護士 研修を受ける。
キョウカさんとローザさんは、経過報告と次の準備のため養老院へ戻ることになったが、俺はそのままギルドに残ることになった。
討伐依頼を受けるには、冒険者登録と最低限の講習・訓練が必要だ――とギルド側から告げられたのだ。
たしかに俺は、知識も経験も足りない。だが、知らないより知っていることが何よりの武器になるのは、介護現場も戦場も同じだ。
俺はギルドの申し出を受け入れ、1週間の研修に参加することになった。
それを聞いたキョウカさんが「私も残ります! 先輩として指導を……」と即座に名乗り出たが――
「アンタ、仕事あるでしょ!」とローザさんの一喝で、そのまま引きずられて退場。
ただ、去り際にローザさんがぽつりと「ま……がんばんなさい」と呟いたのが、妙に印象に残った。
*
現役時代、地方研修に参加した時は旅費を浮かせ、一杯ひっかけたこともあったな――そんな昔を懐かしみながら、俺は他の新人冒険者たちと机を並べた。
モンスターの種類や特性、毒や薬草の知識、スキルの習得条件に魔法体系、戦術と役割分担の基本……。
以前なら眠くなっていた座学も、今の俺にはすべてが新鮮で興味深かった。
午前中は座学、午後は実技。ゴブリン戦の経験が知られていたこともあり、俺は実技であっさり「あんた、やはりモンクで決まりだね」と言われる。
どうやらモンクというのは、ただの拳法使いではなく、少林寺や僧兵、修験者、格闘家――広義の「素手戦闘スペシャリスト」を指す職業らしい。
戦術の幅を広げたいなら投擲武器も、と勧められ、俺は「チャクラム」を選んだ。円盤状の戦輪で、熟練すれば首も飛ばせるという代物だ。
魔法は「風属性」。飛び道具を防いだり、風圧を盾のように使えるという点が決め手だった。
武器は勿論、日ごろ鍛えた我が拳!・・・・と言い切る度胸もなかったので拳部分に小型の鉄板を仕込んだ「鉄甲」を装着。ガントレットより軽く、俺の体術にも合っていると教官からも太鼓判をもらった。
防具は胸部に鉄板を縫い込んだワンショルダーの革鎧に、薄鉄板入りのアンクルガード。軽さと防御力のバランスも悪くない。
ようやく“冒険者の形”が整った。
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そして研修最終日。俺たちは実践訓練として、簡単な討伐依頼に挑むことになった。
標的は、街近くの廃鉱跡に巣食うゴブリンの群れで推定十体ほど。
参加メンバーは新人冒険者6人。男4人、女2人。
女性陣はヒーラーとアーチャー。男性陣は火球魔法の魔導士、大柄なタンク、そして――家系に騎士を持つ名家出身の戦士。
その鎧と盾剣は淡く青白く輝き、いかにも“家伝”といった風格だった。
教官役のベテラン冒険者が1人帯同する。
「俺はおまけだ。危なくなったら助ける。だから心配すんな」
その一言に、場の緊張が少しだけ和らいだ。
――が、空気をぶち壊したのが、名家出身の戦士・グラント(19歳)の一言。
「ゴブリンなんて僕一人で全滅させて、ランク上位に名を刻んでやりますよ!」
(……若いって、怖いもん知らずだ)
精神年齢50代手前の俺は、思わず心の中で本音を漏らす。
廃鉱は峡谷の奥、岩肌の斜面に開いた黒い穴だった。まるでムンクの『叫び』のように、ぽっかりと口を開けている。
夕暮れ時。奥から這い出してきたゴブリンたちが、入り口でかがり火を灯す。
夜行性で暗がりを好む彼らは、森や洞窟を拠点に、人里に現れては略奪と破壊を繰り返す。
「以前もここに巣を作って討伐されたが、また住み着きやがった。ま、イタチごっこだな。俺らのメシの種でもあるが」
教官が肩をすくめた。
俺たちは決めていた戦術の最終確認に入る。
まずは火球魔法で先手を打ち、アーチャーが援護。タンクが前線を張り、俺とグラントが突撃。ヒーラーが後方支援。教官はあくまでサポート。
シンプルながら、今の俺たちにとってはベストな布陣だった。
そのとき、またもグラントが口を開いた。
「ゴブリン程度で、いちいち大げさすぎるんだよな……」
一瞬、場の空気が凍る。
情報共有と意識の統一――どちらが欠けても、現場では大きなほころびになる。俺も若い頃、痛い目を何度も見てきた。
(……こいつ、やらかすタイプか?)
警戒心が芽生えるが、いま対立しても仕方がない。
「他にいい案があるなら教えてくれ。俺たちも余裕があるわけじゃない。現状これが精いっぱいだった」
そう声をかけると、グラントは少し驚いたように目を瞬き、
「……いや、戦場での抜け駆けは部隊全滅に繋がるって、父上から口を酸っぱくして言われてたよ」と素直に引き下がった。
(……初陣前で神経が張ってただけか)
そう思ったタイミングで、ヒーラーの少女――イアンが明るく声を上げる。
「じゃあ、みんなで初討伐、成功させましょう!」
その笑顔に、張り詰めていた空気がふっと和らいだ。




