↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/35

第14話 アラフィフ介護士 プレゼンをする

 介護技術のレクチャーを終えてから、養老院の空気は明らかに変わった。


 修行の一環として“苦行”扱いされていた高齢者の世話が、技術の導入によって格段に楽になり、修道女達の身体的負担も大きく軽減された。


 利用者たちも、「迷惑かけたくない」と遠慮していたのが嘘のように、徐々に活動的になっていった。他の入所者と談笑したり、車椅子で庭を散歩したりする姿が、自然と増えていく。


 ローザさんと若い修道女たちとの距離も、少しずつ縮まっていった。近寄りがたい雰囲気を纏っていた彼女が、ふとした瞬間に笑顔を見せるようになったのだ。


 ――笑顔の美魔女、それはもう反則級の破壊力だった。


 そして俺も、ウィンドウ内の「介護能力」にある「作成」スキルの実用性に気づき始めていた。


 試すうちに分かったのは、「作成」は素材と記憶さえあれば、頭に思い浮かべた介護用具を組み立てられる能力だということ。たとえば、足首を痛めたお年寄りのために、手元の板や棒を使って補装具を試作すると、驚くほど自然に形になっていく。


 それを装着してもらうと、「おお、こりゃあええ!」と年配の方が軽快に歩き出し、修道女たちも目を丸くした。


 こうして俺は、現役時代に見てきた「オーバーテーブル」や「三点支持の杖」などを素材を工夫して再現し、次々と導入。みんなに喜ばれていった。


 戦闘スキルの「創造」が短時間で無から有を生み出す高コスト魔法だとすれば、「作成」は日常に馴染む“道具の魔法”。介護の現場ではまさに理想的な能力だった。


 環境が改善されるにつれ、修道女たちも笑顔が増え、入所者と楽しげに話す様子が見られるようになった。


 そんな、少し余裕が出てきたある日。俺の中にひとつの“欲”が芽生えた。


 ――もっと快適に動けるように、施設に手すりやスロープを設置したい。


 前世で福祉住環境コーディネーターの資格を取っていた俺には、ごく自然な発想だった。


「ここに手すりがあれば、一人でトイレまで行けるかもしれないな……」


 そんな考えをローザさんに話すと、彼女は意外にも真剣な表情で頷いた。


「それ、あったら絶対にいいわよね」


 ただ、建物の規模に対して使える資材や権限は明らかに限度があった。


「じゃあ、私が一緒に修道院長に掛け合ってあげる」


 その一言に背中を押され、二人で院長に面会することになった。


 俺は必要な設備配置と規模を、ローザさんは必要性を説明。初老の修道院長は熱心に耳を傾けてくれた。


「実は、この養老院の変化は王都の本部にも届いていましてね」


 口元にひげを蓄えた院長の言葉に、思わずローザさんと顔を見合わせた。思った以上に影響は広がっていたらしい。


 しかし、問題はやはり予算だった。


 最終的に院長がギルドに相談してみるよう、推薦状を一筆したためてくれた。そして――俺がギルドへ出向くことになる。


「私も行く!」と割って入ってきたのはキョウカさんだ。


「ちょうど街で買い物もあるしね」と、やけに張り切っている。


 女の子と二人で街へ――高校時代に何度夢見たことか。思わずニヤけそうになるが、そこにローザさんが口を挟んだ。


「これは修道院からの“正式な依頼と交渉”なの。私が同行しないと」


「手紙届けるだけでしょ?」とキョウカさんが反論するも、


「ただ渡すだけじゃないのよ。あなた、内容を説明できるの?」


 正論でバッサリ切り捨てられ、キョウカさんは渋々引き下がった。「はいはい、先輩の顔は立てないと」と、表情は妙に不満げだったが。


 そんな微妙な空気のまま、俺は両手に花(かもしれない)状態でギルドに向かった。


 応接室に通され、ギルド長と対面。プレゼン担当はローザさん。修道院長への説明同様、論理的かつ的確で、まさにキャリアウーマンの完璧な話しぶりだった。


 ただし、間違いなく「怖い女上司」のランキング上位だ。


 ギルド長からは、「うちの養老院は接遇レベルが高い」と感謝の言葉をいただいたが、やはり予算には厳しかった。


 戦争で人手が減り、ようやく人口が戻りつつある今。他の事業にも資源を回さなければならないという。


 そこでギルド長が静かに提案する。


「実は、困っている討伐依頼がある。報酬には色をつけよう。その金で設備整備は十分まかなえるはずだ」


 その瞬間――キョウカさんの目が変わった。


「戦闘で済むなら、それに越したことないね。最近なまってたし、トシ君がいれば楽勝よ」


 柔らかな笑顔ではなく、鋭く光る戦闘モードの目付きに変わっていた。静かに、だが容赦のない闘気が滲み出ている。


 ローザさんも椅子から身を乗り出し、


「養老院のこともあるし、私も動くわ。あんたらだけに戦わせて、自分が後ろでふんぞり返ってるなんて、性に合わないのよ」


 ……いや、二人とも明らかに殺気立ってる。


 俺は思わず黙り込んだ。それに気づいたキョウカさんが、覗き込むように問いかけてくる。


「どうしたの? 話、長くて疲れちゃった?」


 その声音と笑顔は、いつもの優しいそれだった。だからこそ、余計に怖かった――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。