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第三章 49 『交渉と娯楽』

 ロジェとグレイは、あの後めちゃくちゃ怒られ、最終的にメルから貰ったフライパンを没収された後、即座に王城から追い出された。ただ善意でした事なのに怒られるのも大概理不尽だが、アレで罪人にされてない以上は優しいと思うのでこちらから文句を言うつもりはない。


「こんにちはロッドさん。今日は遊びに来た訳じゃなくて、私の頼んだ杖の進捗状況について聞きに来ました! 」


「ちっ...また来やがったか。今度は何の用だ杖折りの姉ちゃん。暇なら外のイベントでも行っとけってんだ」


 そして二人は個人的に用があった魔法杖職人のロッドさんのところに遊びに来ていたのだった。大人しく二人で外の露店を回っても良かったのだが、それをする前にどうしても話をつけておきたい事があったので、この来訪は仕方の無い事だった。



 ――というかロッドさん、私が急に遊びに来てもなんだかんだ最後まで相手してくれるし、この人真面目すぎるからおちょくるのが楽しいのよね。私、この人の事は割と嫌いじゃないわよ。



「...先に言っとくが杖ならまだ出来てねぇぞ。というか俺言ったよな、完成には二週間は最低でもかかるって! まだ一週間も経ってねぇのに何度も何度も来やがって...今度は何の用だ! 」


「今回はロッドさんにお話したい事があってこちらに来たんです。すぐ終わる話だし、展示されてる杖をちょっと触ったらすぐ帰るので突然の来訪も許してください」


「なっ...! そこにある杖は全部商売道具だ。そんなポンポン自由に触られて前みたいに壊されたらたまったもんじゃねえ。絶対触らせねえかんな! これ以上折られるのは、こっちも懲り懲りしてんだよ! 」


 そう、ロジェは前に遊びに来た時に、展示されていた魔力変換率がほぼ0に近い修行用の杖を使って、真っ二つに折った事がある。

 そもそも廃棄予定の物だったので弁償まではならなかったが、割とガッツリ怒られたので、結構本気で反省した瞬間でもある。(ちなみに杖が折れた原因は、負けず嫌いのロジェが本気で魔力を込めたせいで、杖にある魔力の受け皿を壊したから)


「なるほど...まぁその件はオマケなんてどうでもいいんです。今回主にお話しに来たのはお金の話です。具体的な金額について聞いておきたいと思ったんですよ」


「なんだ、結局その件だし俺の予想は合ってんじゃねえかよ...ほら、それが今回の請求書だ。正直俺の作業を邪魔したって事で追加で金ぶんどってやりてぇとこだが、その件でまた杖でも折られたら困んのはこっちだ。次からは取るから覚悟しとけよ! 」


 そう言ってロッドさんが、お金の書いた一枚の紙を渡してきた。内容もちゃんと魔法文字で書かれてるし、紙からうっすらと魔力の気配を感じる。そういえば前にロッドさんはそれなりに腕のある魔導師とか言ってたような...他人の昔話に興味無いから全然覚えてないけど。



 えっと、なになに――材料代にコーティング料、デザイン代、着色料金、魔力器拡張代....魔法杖を一つ作るだけなのに項目まだまだあるんだけど、一体どうなってんの?



 軽く数えただけでも項目が三十もある。だが、不思議な事にそれぞれの項目の横に書いてある代金は全体的に安い金額だったので、これならば何とかなると思う――グレイ達の借金返済が間に合ってなかったら絶対払えてない金額だけどね...


「魔法杖って意外とお金かかるんですねぇ...正直もっと安く済むと思ってました。まさかとは思うけと、前に杖を折った事を根に持ってるせいで金額を盛ってるとかじゃよね? 」


「なっ、こんなに項目が多いのは全部てめぇの要望が多いせいだろ! ったく。こちとら暇じゃねえってんのに、暇さえあればここに遊びに来やがって...その紙を作る手間もあるのに、こっちの労力も考えやがれ」



 私の出した要望ってそんな多かったっけ? 記憶が間違えてなきゃそんなに無かったと思うんだけど...この様子じゃ、ちょっとくらい安くして貰える可能性にかけてここに来たけど流石に無理そうね。大人しく観念するかぁ...



「とりあえず分かったわ。というかロッドさん、廃棄予定の杖とかって無いの? 要らないなら少し分けてくれないかしら」


 今回ここにグレイを連れてきた目的はこれである。何故か知らないけど彼は廃棄予定の杖が欲しいらしい...君さ、魔導師じゃないのにどうやって使うつもり? 先に言っとくけど、念魔は特殊すぎるから流し込んでも杖に反応は出ないよ。


「はぁ? なんでこの俺がてめぇらなんかに廃棄の杖なんてやらんなきゃなんねぇんだ! 第一、杖折りの姉ちゃんのは今作ってんだから、廃棄品なんて要らねえだろ!」


 その言葉を聞いてグレイが前に出てきてこう言った。


「ロッドさん初めまして。こいつの友達のグレイと申します。要らない魔法杖があれば少しばかり俺に分けてくれませんか? 」


「....小僧、てめぇもまたそこの杖折りの姉ちゃんと違って妙な気配を放ってんな。一体杖なんか貰って何に使うんだ? 」


「魔法杖に使われている素材って貴重なものが多いんですよ。実は俺、物の生成に興味がありまして...職人のおっさんの杖を参考に自分でも同じようなものを作ってみたいと思ってたんです」



 いや絶対それ嘘でしょ。その貴重な素材とやらを得るために杖を分解して回収した後、なんか作る為の素材にするのが目に見えてるわよグレイ――いやまぁ、最初から素材狙いだろうと思ったよ。思ってたけどさ、たまには私の予想の範疇を超えに来てくれませんかねこの男ッ!!!



「へぇ...お前さん。杖作りに興味あんのかい? 」


「はい。俺は出来る範囲で彼女のサポートをしてやりたいと思ってるんで。というかこいつが馬鹿やって杖を壊した時に備えて、杖の知識を蓄える為に今色々と調べてるところです」



 てかいつの間にそんな事調べてたの? 私は知らなかったんだけど。そういう自然な気配りが出来るところはキュンとしちゃう。カッコいい...カッコいい――んだけどさ、なんで私が杖壊す前提で調べてんの? ねぇ!



「...じゃあこれくらいは答えられんだろ? 木製の杖の先端によく着いてる渦みたいなマークの部分の名称は」


「スパイラル・ヘッド」


「杖の内部が絶対に三重構造になってる理由は? 」


「魔法変換の回路、循環、出力調整を同時に行った時、衝突しないようにする為」


「じゃあこれは? 」


 かれこれグレイとロッドさんの一問一答は三十問近く続いたが、グレイは全て正解していた。私は半分くらいクイズに間違えていたけど、どうやらこの男は本当に杖について調べていたらしい。てかなんでそんな詳しいの? 私より杖に詳しいとかもはや私の立場がないんだけど....


「お前さん、ちょっとはやるじゃねえか。引っ掛け問題も混ぜて問題を出してやったのに正解するとは、どうやら口だけの素材狙いじゃないようだな」



 いやこの男の本当の狙いは絶対素材だし、私の杖の何とかってのはオマケだよ。そんな簡単に信じちゃダメですロッドさん。



「俺の実力を認めて頂けて嬉しいです。全問正解出来るとは思ってもなかったので...」


 そう言って謎の握手が交わされているが、何故こんなにも打ち解けるのが早いんだろ。私なんて話す度に未だに舌打ちされてるんだけど、君達距離詰めるの早いね。ちょっと扱いがおかしくないかしら。


「とりあえず一本だけ廃棄の杖をやんよ。ほい。もうこれ以降はやんねえから、それ受け取ったら帰れ、帰れ! 作業の邪魔だ! てめぇみてぇな色物は見るに堪えないから外の店でも行ってこい」


 そう言ってロッドさんは使い物にならないくらいにボロボロになった赤色の杖を投げ渡してきた。もっとまともなものをくれると期待しただけに残念だ。


「えぇ...もっとマシな杖を貰えると思ってたのに。ちなみにこの杖ってどういう効果があるんですか? 」


「ちっ、それは三流の店から譲り受けた廃棄品だ。使いたきゃ勝手に使え。俺の作品は他のにも使い回すから誰にも譲らねえって決めてんだ。残念だったな杖折りの姉ちゃん」


 どうやったら私もグレイみたいに舌打ちされずに話す事が出来るのかな。やっぱりクイズに全問正解しなきゃダメ? それに関しては多分出来ないよ私は...


「その呼び名に関しては色々文句を言いたいけど、とりあえず分かったわ。今日の所はこれくらいにしといてあげるわね。てかさ! 今度遊びに来た時は、そろそろロッドさんの作った本物の杖を使っても良いでしょ? 良いよね! 普段から手伝いもしてるし、私もそろそろ本物を使ってみたいの! 」


「馬鹿言え、姉ちゃんにだけはぜってぇに俺の作品だけは使わせねえかんなッ! また変な事して折られるのが目に見えてんだ! とりあえず、金はちゃんと用意しとけよ。今見せた金額は俺から出来る最大限の譲歩だし、これ以上負ける気ねぇ。分かったな! 」



 ちぇー、少しくらい本物を試させてくれたっていいのに...



 少ししょんぼりしたロジェが外に出ようとしたその時だった。請求書を改めて確認していたグレイが何か疑問を持ったのか、手を挙げて質問をする。


「なぁ職人のおっさん。請求書の項目にあるこの『眼福料』ってやつはなんだ? そこだけおっさんの方から俺達に金を払ってる事になってるけど良いのかよ」


「あぁそれか。それはそこの杖折りの姉ちゃんの事だ」


「へ、私ですか? なんもしてないのになんで? もしかしてだけど、私の事でも狙ってんの? やだなぁ――んもうっ! 私の事を気に入ってるってんなら最初からそう言ってくれれば良いのに! 」


「....たわけが、お前さんみたいな奴の事なんて誰が狙うかっての。気にいるわけねえし、調子に乗んなッ! 」



 別に私が軽く背中をペシペシ叩いただけでそんな嫌そうに手を退けなくても良いじゃん....別に照れなくてもいいのに。



「まぁ話を戻すが、その眼福料ってのはそこの姉ちゃんが来る度に毎回勝手に魔力を勝手に吸わせてもらってるからだ。何度文句言っても懲りずに来やがるから、入口のドアの所に魔力を吸い出す効果のある薬品を塗ってやっててな、その吸い取った魔力はこっちで勝手に利用させてもらってるから、その分だけサービスしてやってるだけだよ。なんか不満でもあんのか? 」


「....勝手に人の魔力を吸い出すなんて何考えてるんですか? 確かに、この店に来る度に若干私の魔力が減ってるからおかしいとは思ってたけど、まさかロッドさんが嫌がらせしてるとは思ってなかったわよ! てか、人の魔力なんて集めて何してるわけ? 場合によっては温厚な私も怒るわよ」


 その質問をすると、ロッドさんが奥の方に移動して小さな一つの箱を持ってきた。中を開くと入っていたのは、杖の手入れで使う専用の『石鹸』だった。


「実はな。姉ちゃんの魔力をベースに特殊な石鹸を作って副業としてここで売ってんだ。女の魔力って書いただけでおもろいくらいに売れるからな。心配しなくとも姉ちゃんの名前は出してねえし、安心しろ」



 いや、そんなの売っていい許可なんて出してないんだけど...てかグレイもそうだけど、普通にドン引きするようなものを作るのはやめて貰えませんかねっ!



 ロジェはこのあと軽く嫌がらせの仕返しとして、石鹸の売上金の七割を私に譲るように上手くおど――上手く交渉したあと、ロッドさんの頭を軽く叩いて店を出て行った。ロッドさんはそこそこ怒っていたが、それに使った魔力は私のものなので、この取引は妥当な取引である。


 ロジェは、自分が絡んだ事に関するお金には、意外とうるさい女なのだ。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




「見て見て、あそこで射的がやってるわよ! 今年はめちゃくちゃ珍しいのやってるじゃない! 早く行きましょ! 」


「なんで今年は射的なんてやったんだろうな? 例年通りならこんな屋台みたいな露骨な店なんて出るわけがねえのに」


 ロジェとグレイは現在、仲良く二人で露店巡りをしていた。正直露店巡りの方はあーるんも誘いたかったのだが、今日もメルの修行を付けるとか言ってどこかに行ってしまったので、軽いお祭りデートになっている。


 ロジェの衣装はいつも通りだが、実は特定の距離に入った瞬間に私への好感度やトキメキ具合が上がる「キッドチューン」を自分にかけているので、さっきからグレイに対してこっそりアピールしている。だが、相手には全く効いてなさそうなのがちょっと残念なのよ.....


「てか私、射的とかやった事ないのよねぇ。あれってさ狙った景品に向かって銃口を向けて脳天をバーンってぶち抜くゲームなんでしょ? 意外と撃つ距離とか制限あるし、難しかったりするのかしら....」


「...あながち間違ちゃねえけど、言い方が物騒過ぎんだろ。脳天は撃ち抜く必要ないし、そもそもこれは的を狙うゲームだかんな? お前、絶対それを店の人とかに言うんじゃねえぞ。周りにいる奴に俺まで白い目で見られんだから」


「大体意味があってるなら同じようなもんでしょ。そもそも珍しいものなんだし、多少間違えようが、周りの人は何も思わないわよ」



 そもそも長い期間生きてきたけど射的なんて露店を見るのは初めてだから、普通に経験ある人の方が少ないはずだ。だったら恥をかく可能性なんてない....はず!



 そんなこんなで雑談しながら店の列に並んでいると、ようやく私達の出番が来たので、店主と思われる女性の人が話しかけてきた


「いらっしゃい。若いカップルがい? うちの店は普段やらないようなものしてるおかげで大繁盛だが、これ程お似合いのカップルなんてわたしゃ見たことないよ」


「いやだもぉ。そんなカップルだなんてぇ...もうっ! 照れるじゃないですかぁ! ...チラッ」


 念の為グレイの顔を確認するが、相変わらずびっくりするくらい目の色が死んでいた。この男は甘味巡りの時以外だと感情を隠しているのか、そもそも興味無いのか分からないけど、とにかく目のハイライトが無くなる傾向にあるのである。



 ――いやグレイの目、くっっっっっろ! 普段はあんな黄金色に輝いてるくせに、今みたいなハイライトのない目なんて見るのすごく久しぶりなんだけど、そんな露骨に『興味無いです』みたいな目の色にしなくて良くない? せっかくのデートなんだから、もっと目を輝かせて欲しいわね、まったく。



「射的の奥さん。こいつは目の色が何故かめちゃくちゃ光ってますけど、俺達はただの友達ですし、そんな関係じゃないっすよ。まぁカップルに見えてもおかしくないですし、そう見えるのは嬉しいっちゃ嬉しいですが」


「いや、めちゃくちゃハッキリ言ったしぃ!! 仮にそんな関係じゃなくとも、カップルに見えるだけってんなら言わせときゃ良いのよ! すみません射的の奥さん。この子は照れ屋なんで変な事言っちゃって...とりあえずこの射的で狙いやすいものとかってありますか? 」



 ほら、グレイが変な事言うから奥さんが困ってるじゃん。この微妙に取っ付きにくい空気感はどうすんのよ!!!



「え、えぇ...狙い目はあのチョーカーかな。三日月のアレ見えるかい? 」


 そうして奥さんの刺してきた指先を見ると、そこには白い三日月の形をしたチョーカーがあった。的は小さいけれど、見た目的に何か縁起のよさそうなものの気配を感じる。私は見る目がないから、そういうのは当たった記憶が無いけど...


「おー...悪くないわね。よし、私はアレを狙うわ! 奥さん、銃口向けるから射的の銃を貸してくれるかしら? 脳天、ぶち抜いてあげるわ! 」


「ふふ。勢いのある彼女さんだこと。脳天をぶち抜くとかはちょっと何言ってるか分からないけど、頑張ってね」


 そう言って射的の奥さんが笑いながら射的用の銃を手渡ししてくれた。引かれた線まで下がり、標準を合わせる為にロジェは神経を強く尖らせる。



 こういうのはノリと勢いが大事って習ったし、しっかり標準を合わせれば私でも――行けるはず!



 そうしてロジェが第一投を放つ。すると、チョーカーの的には直撃―――せずに、ペンダントの右斜め上にあったうさぎのぬいぐるみにヒットした。


「あれ? おっかしいなぁ...ちゃんと狙ったはずなのに」


 念の為もう一度打ってみるが、ペンダント以外の景品にばかり直撃していたし、なんならぬいぐるみやお菓子やら色々と落ちていく。


「彼女さんやるねぇ。うちの屋台の景品全部持ってくつもりかい? 」


「いやどうやったらそうなんだよ! なんで綺麗にチョーカー以外の景品にばっか直撃すんだ? 」


「ま、まぁ? 私にかかればこれくらい朝飯前ですし....」



 至って私は真面目にペンダント狙いなんだけどなぁ...もしかしてだけどこれ裏で何か変な細工されてんじゃないの? こんなにやってもこうなるって明らかにおかしいんだけど...



「ほ、ほら。グレイも一応やって見てよ。私がなにか不正してるとか思われるのは嫌だし! 」


「...........え? 俺もやんの? 」


「そう言ってんじゃない。ほらほら、やってみなさいよ! 実際にやってみたらあなたもこれの難しさが分かるわ! 」


 そう言ってロジェはグレイに銃を渡してあげる。結構な数の挑戦しているせいでお金がどんどん溶けている気がするが、さっきロッドさんには脅しという名の交渉をしてきたので、ある程度金銭に余裕がある以上は、この程度遊んでも問題はないと思う。


「しょうがねぇなぁ...てか射的か。俺、こういうのは数回くらいしかやった事ねぇんだよなぁ...あんま自信ないけど、ここは俺が決めてやるとするか」


 すると、グレイの目の色が一段と強く光り始める。恐らくこれはかなり集中してる証だ。付き合いの長いロジェには分かる。となればここは茶化さずに見届けてやるのが自称彼女のやるべき事だ。


 そしてグレイが銃口を解き放つと、ペンダントの的のど真ん中を撃ち抜き、チョーカーが大きく揺れるが、ギリギリ落とす事は出来なかった。


「あぁ、惜しい! あともうちょっとだったのにぃ! 」


「いやぁ、ちょっと当たる位置がズレてたな。おばさん、もっかいやらせてくれ! 」



 ついにグレイが自腹を切って射的に打ち込み始めた。どうやら彼の負けず嫌いが発動してしまったらしい。これは――彼の手持ちとチョーカー、どっちが先に尽きるかしら...? 個人的にはグレイの事を応援したいところだが、悔しがる彼の顔も個人的にとても刺さるので捨てがたい...贅沢な悩みねこれは。



 こうして悪戦苦闘を続ける事数十回、ついに盤面が動き、グレイがチョーカーに勝利した。その勢いのままロジェはグレイに向かってハイタッチをしてやる。


「イッエーイ! さっすがグレイね! さすグレってとこかしら? 」


「なんだよさすグレって...まぁとりあえずこれでお前の狙ってたチョーカーもゲットだ。大事にしろよ? 」


 そうして奥さんから受け取った三日月の形をしたチョーカーをグレイがロジェの首元につけてくれた。どうやらこの男、最後の気遣いまで完璧のようだ---こういうサービス精神もあるし、こんな思わせぶりな態度を取る癖に私に対する恋愛感情が一切ないんだよ? 信じられないよね、あはは...


「おめでとさん。お似合いのカップルって感じがして初々しいねぇ。そのチョーカー、彼女さんは大事にしてやるんだよ」


「はい! ちなみにこのチョーカー、もしかして魔道具だったりします? 独特の気配を感じるんですけど...」


「あぁそれかい。そのチョーカーはね、『月華の輝き(ヘルフラッシュ)』っていう名前の魔道具さ。効果は...忘れちゃったけど確か安全なものだったはずだよ」


「効果が分からないのはちょっと怖いですけど...なんだかこの三日月のネックレス、ずっと良い感じに輝くのでとても良いですね! まるで本当の三日月みたいにうっすらと周りを照らしてくれてるみたいで最高かも! 」


「ちなみに、そのペンダントを受け取ったカップルは末永く光り輝くって意味もあるらしいよ。だから二人共、末永く仲良くやんな!」


 なにそれハイパーロマンティックじゃん....! そんなの聞いちゃったらもう正直魔道具の性能とかどうでもいいわ。実質これ、グレイからの結婚指輪的なものってことでしょ? そんなん最高じゃない! どうせ本人はなんも考えてないと思うけど。


「よーし、グレイ。ここから色んなお店回るわよ! ここ以外にも色んな出店があるんだから、せっかくだし全部回んなきゃ! 」


「やれやれ....今日は色々と忙しくなりそうだな。 次はどこを回るんだ?」


「うーん...確かこの先に魔導書が売ってるお店があるらしくてね、あそこ行ってみたい!! 」


 そうしてロジェとグレイは射的の奥さんに例を言ってから店を後にし、露店巡りを再開した。この日のグレイは心做しかいつもよりも機嫌が良さそうな気がしたとロジェは後に語るのであった。私の魔法が効いてたら良いなぁ。



 △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 ――今日のこいつ、なんだかいつも以上に可愛く見えるんだが...一体俺に何したんだ?



 グレイは今まで感じた事の無い少し変わった感情に少し動揺しながらも、いつもの立ち回りを強く意識する。心の奥底からドキドキするような不思議な感情とは何なのか深く考えながら...

これにて第三章完結となります。ここから数話だけ『魔女の道』を挟んでから第四章となりますが、今回射的で得たネックレスはどう本編に絡んでくるのか? 第四章の更新をお楽しみに!


第三章面白かったよ!という方は、感想や評価、ブックマークなどなどして頂けると、作者のモチベになりますので、気軽にしてくれると嬉しいです!


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