第三章 48 『事件の後』
「別にメルのやった事は間違ってるとは言わないよ? でもね、誘惑に負けるってのは基本的に甘えなの。その甘えが命取りになるかもしれない。それくらい分かるでしょ? 」
「はい。でもお姉様、今回のは私が全面的に悪くて...」
メロールは現在、あーるんお姉様こと師匠を自分の部屋に連れてきていた。細かく言うと、仮面を使った反動で動けなくなった自分をベットの上に連れて行ってもらうついでに、いつものように精神論的なものを聞かされているのである。
あーるんお姉様は基本的に強さにストイックだ。だからこそ修行内容は人一倍厳しい。けど、こうやって終わった後に聞かされるお姉様なりの『強さ』に対する精神論というやつは、綺麗事が一つもない芯のあるお話ばかりだから自分の身によく沁みる。
――だからこそメロールは、動けなくなるくらいにまでボコボコにされても心が折れないし、この修行は自分の為である事を強く認識が出来るのだ。
「はぁ...だからぁ、そういう変な落ち込み方はやめなって。確かにあの程度のカエルすらも倒せないのは僕も軽く失望したよ? けど、そういう反省の仕方したら成長に繋がんないんだから。やるにしてももっと違う方向で捉えなよ」
「じゃあ、例えば今回ならばどう反省するべきなんですか...? 」
メロールからすれば、今回の反省点は挙げていけば幾らでもあるが、その中でも代表的なものをあげるとしたら精神面が甘いになるだろう。そのせいであのロジェお姉様の骨に罅が入ってもおかしくない重症を与えてしまったのだから、今のメロールはかなり罪悪感を感じている。
そんな攻撃を受けたのに、何故かロジェお姉様は平然としていたけど、あれはお姉様が最強すぎてかすり傷にすらなってないだけだ。あんな攻撃を普通の人が受けたらきっと命を落としかねない一撃だった。
幾らお姉様から指示があったとしても暴走してしまうのであれば、流石のメロールでもちょっと自信をなくしてしまう。
「反省の仕方ぁ。そうだなぁ...今のメルって視点が一つしかないから、視点を増やしてみる事からやってみなよ」
「視点を...増やす?」
師匠の話を軽く聞いただけじゃ良く分からない。目を増やすとか物理的な問題を言ってくるとは思わないし、メロールは自分の視野が狭いとは思ってない。様々な視点を見た上で今のような判断を下しているつもりだ。
「そ。今、それってどういう事? みたいな顔したでしょ。先に言っとくけど、今のメルは視点が一つしかないに等しい状態だから。試しに自分が反省している所を一つずつ説明しながら上げてけば全部分かるし、そういうのはすぐ試す。ほら、今すぐやって? 」
「は、はい! 」
そう言われたのメロールは反省点を一つずつ上げていくが、三つ目に差し掛かった所でギブアップした。
「あれ、思ったより出てこない。箇条書きなら幾らでも出せるのに...」
「どゆことかその身を持って分かったでしょ? 相手にちゃんと説明出来ないものなんてね、反省とは言わないの。それはただの振り返りだから。そんな薄っぺらい視点で物を見てても成長もクソもないっての。だからそれは時間の無駄だし、すぐにでも辞めた方がいいよメル」
その言葉を聞いてメロールは自分の中で心の奥底から納得した。
こういう前向きさと強さについて分かりやすく言語化出来るのは、恐らく圧倒的にロジェお姉様の課す試練のようなものを乗り越え続けて来たからこそだ。あの地獄を乗り越えた経験値が誰よりも多いからこそ、自然と身についた考え方だと思う。
――そんな尊敬する師匠の領域にまで辿り着くならば、あと何万...いや、何億ものロジェお姉様の試練を超えなきゃならないと思う。私なんて一つ乗り越えるだけでもヘトヘトになるというのに...そんな試練をすぐに用意出来るお姉様も乗り越える師匠達も皆、化物だ...
「分かりました...気をつけます! あとお姉様、一つ質問なんですけど...大会に出てきてたあのカエルの事ってどこで知ったんですか? ロジェお姉様にも聞いたけど、案の定適当に流されたのでずっと気になってて...」
ロジェお姉様と会話をする瞬間が一度だけあったので、主犯格なのかの確認を取ったが、彼女は「うんうん。なんの話かしら?」と、どっちにも取れる曖昧な変な返事しかしてくれなかったので、ずっと気になっている。
もし仮に、尊敬するロジェお姉様が事件の主犯格であるならば、悪事がバレるのも時間の問題だ。バレないようにする為の対策をメロール唯一の味方であるヴァッツイと共に考えなくてはならない。彼はお父様と私にだけはめちゃくちゃ甘いので、きっと力になってくれるはず...!
すると、あーるんお姉様が「何言ってんの?」と言わんばかりの顔をしながら、こう続けた。
「あんなの僕達でも知らないに決まってんじゃん。アレはロジェちゃんの未来予知で得た情報だから詳しい事は分かんないんの。ほら、ロジェちゃんって何かと変に隠したがるでしょ? 」
――となれば、グレイお兄様も白と見ていいのかな...あとは一番の難敵であるロジェお姉様にも確認しなきゃ行けなくなったけど、今は主犯格じゃない事を祈る事しか出来ないのが、もどかしいっ!
「けどあのカエルの事なら見ただけで大体の事は分かるよ? というかあの程度のハプニングなら僕とグレイちゃんは何万と見てきたから慣れてるし、あんなので一々騒いでたら僕達はもう手遅れになって死んでっから」
「そうなんですか? ロジェお姉様ってやっぱり、身内だろうと権力者だろうと手加減はないんですね...」
「逆に聞くけどさ、メルは生温い相手ばっか倒してて自分の成長に繋がると思う? 」
「それは...全く繋がらないと思います。というか前、あーるんお姉様もこう言ってたじゃないですか。成長は死ぬギリギリを乗り越えないと起きないって」
いつもやるこの座学の中でも、この言葉はメロールの中で五本の指に入るくらいには好きな話だ。
人は死ぬギリギリ――というより実際に一度死んだ方が何倍も強くなれるという理論はめちゃくちゃだけど、割と筋は通ってるこの言葉が強烈なインパクトを残していたせいで、中々頭から離れなかった。
仮に師匠に死ねと言われて死ぬつもりは無いけど、死ぬ気でやらなきゃ成長しないのは今の自分に最も刺さる言葉でもある。
「いぐざくとりー! 最初に僕が教えた話なのに、よく覚えてたねそんな話! よーしよし、メルは偉い偉い」
そう言いながらあーるんお姉様が優しく頭を撫でてくれる。そして頭を撫でながらお姉様は話を続けた。
「まぁ僕も実際に死ねとは言わないけどさ、僕があの子と同じくらいの強さになってくれるようにする為にロジェちゃんはわざとキツい仕打ちを用意してくれてるの。だから僕もね、そう簡単に折れる訳にはいかないんだぁ。ロジェちゃんの目には基本狂いはないから、この程度なら死ぬギリギリだと思われてる以上、期待をしてくれてるって事だからね」
「なるほど...ならあのカエルも私の死ぬギリギリだった――って事なんですね」
なんだか師匠の話を聞いて、更に悲しくなってしまった。ロジェお姉様の見極めた『限界ギリギリ』を乗り越えられなかったという悲しさと悔しさがが一段と強まってる気がする。さっき師匠にそう落ち込むなと言われたばかりなのに...
「大丈夫大丈夫。そもそもまだメルは試練の数が二桁も行ってないんだからそんな気にする必要ないよ。僕だってそうだったからね。最初からアレを完璧にこなせるやつなんて存在しないから」
「え、そうだったんですか!? てっきり、最初から全部切り抜けてたのかと...」
「それは違うよ? 最初は僕もグレイちゃんも敵に負けまくったし、さっき僕の言った『反省』を繰り返した事で強くなったんだから。失敗の数が多ければ多いほど人は成長する。はいこれ今日の名言ね。ちゃんと覚えといてよ? 」
「は、はい! えーっと――失敗するほど強くなれる...と」
メロールは稽古を付け始めた辺りからずっと手元にある手帳に師匠の残した名言や刺さった話の内容をすぐさまメモしていく。心が折れそうになった時や、不安になった時に、これを見直して心を奮い立てれるようにする為だ。
「とりあえずそういう事だから、そう落ち込みすぎないように気をつけてよ? メルが落ち込んで病んだりでもしたら僕がロジェちゃんに嫌われちゃうんだから」
「は、はい! お姉様のお話を聞いて私、めちゃくちゃ元気出ました! また明日以降の訓練も頑張るので、その時はお願いします」
そうメルが言い残すと、お姉様が振り返りもせずに部屋を出ようとしていた。最近分かった事なのだが、これはお姉様なりの照れ隠しだ。遠目から見ても分かるくらいに耳が真っ赤になってるせいでバレバレである。
「メル、あんたは凄いよ。今日の技だって光り輝いてたし、所作もそれなりになってた。だから僕が責任もって強くしてあげる」
「あれ? お姉様今何か言いました? 」
「...ッ、僕は、何も、言ってない! メル、明日からみっちり扱いてやっから、今日はゆっくり休めよ! 分かったなッ!」
「は、はいっ!!」
あーるんお姉様は素直じゃない。けどそういうところが私にとって、とてもカッコよく見えるし、彼女が部屋から出ていくその背中を見る度に、そこから感じる神々しさを強く感じられる気がする。
そんなカッコいい師匠を見送りながら、メロールは、お気に入りのウサギを抱きしめながら、楽な姿勢で寝転がった。
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「やはり...調べれば調べるほど謎が多い事件ですね」
ロッキーは研究結果を一つの部屋に集めて、予言に纏わる情報を一から調べ直していた。この国に出ていた例の予言は完全に消えた事は喜ばしいが、今回は色々と不明な点が多すぎる。
――なにより、予言が消えたタイミングというのが、ロジェ殿がカエルに捕食された辺りというのがあまりにも引っかかる。
あのカエルが爆発したタイミングで消えたのであれば、ロッキーとてまだ納得が出来た。そのタイミングなら魔物が消滅した瞬間だし、自然な事だ。
――だが、捕食から解放されたタイミングで予言が消えたとなれば話が変わる。
あのカエルは魔法耐性が高い個体だが、内部から魔法を使って解決した。とか少しでもまともな事を言ってくれたらこちらも納得したのに、本人に聞いたら『カエルの口の中で自作のカツサンドを食べていた』とかふざけた事を言うのだから理解不能だ。彼女は本当に何がしたいんだッ!
そう脳内で起きた事を整理していると、この部屋に同席して事件について自ら調べていたパルデル皇帝陛下がこう言う。
「私の見る限り、例のカエルは明らかに内部から攻撃を受けていたと思ったのだが、本人がああいう以上は違うのだろう。こうなれば謎が深まるばかりだな....私も長い事生きてきたが、ここまで変わった魔導師は見た事がない。本当に興味の尽きぬ面白い女だ」
「.....陛下、貴方の目から見て彼女達をどう思いますか? 本当に信用して良い者達なのか、それとも違うのか。そういった評価の面を一度私に聞かせて頂けませんか」
パルデル陛下は元々気さくで、とても義理堅い御方だ。この国を救ってもらった恩があるので、彼女達に対して基本的には好印象を抱いているのだろう。陛下は隙あらば彼女達の事を調べているし、特にロジェの活躍した話を聞く度に「面白い女」だと称してメロール様と話をしている。
そのメロール皇女と同じく、恐らく陛下はあの者達...特にロジェの事を相当気に入っているあの者達について、この事件を通じた上での彼女達の評価が変わったならば、今はそれを聞く絶好の機会だ。この際に一度聞いてみても良いだろう。
「私から見たあの者の評価か? 彼女達はもちろん何かあると思うが、私は少なくともロジェに関しては我々に敵意を持っていないと踏んでいる」
「...何か含みのある言い方ですね」
「まぁ、ロジェに至っては敵意がない。というのが正しいかもな。彼女の隣にいる仲間は放つ気配も、秘めた野心も桁違いに高い。だがその凶暴な二人を従える彼女は、出世しようとする野心も、目の前で起きた事件解決のやる気すらも全く感じさせないし、何よりもあの如何にも弱そうな者があれほどの強力な実績を残せるだなんて、面白いと言わずとしてなんとなる」
やはり、陛下は見抜いていたのか。ロジェ殿はともかく、後ろの二人に関しては内に秘めた野心が桁違いに高い事に...アレは人を殺す事に躊躇しない目をしているし、言うなればアレは何をしてもおかしくはない危険な獣だ。本能的にそう感じさせる何かがある。
「それにだな、あれほど常識もなければ、常にふざけた事を言って場を和ませる事が出来るその能力は一種の才能とも言えるだろう」
「.....と、言いますと? 」
「強いだけの奴らなんて探せば幾らでもいる。だが、場の緊張感を和らげる事が出来たり、自分のプライドを捨ててまで笑いに持っていく事が出来る者はそう多くない。世界中を探しても一握りもいないだろう。もう少し場の空気を読んでもらいたいところだが、あのふざけたようにしか見えない立ち回りも何か狙いがあるんだろう。あれが素の性格だとは思い難い」
確かにそうだ。名を挙げた冒険者や実力者と言うのは、強くなればなるほどプライドが芽生え、自分の立場を下げるどころか無理して上げる事が多い。自らが道化になる実力者なんて聞いた事のない唯一無二の存在だ。
「それにあのカエルの討伐方法だって謎が多い。ただのカツサンドで魔物を討伐するような馬鹿みたいな話があるか? あれはあの者が内部で魔法を使った、もしくは毒を混ぜた料理を敢えて食わせて解決に導いたとみた方が良い」
「......」
「他の事件についても個人的に調べたが、彼女はずっと手の内や実績を隠したがっている。そこに関して我々から触れるつもりは無いが、今回もきっとこれまでと同じく実績を隠したがってるに違いない」
「....なるほど」
「この先だって彼女は何も無かったような顔をしながら意味不明な事を言いつつ事件を解決してくる事だろう。なら我々が今出来る事は様子を見る事だけだ」
「...その意味不明な発言が、ただの挑発じゃなければ良いですけどね」
ロッキーとてかれこれ約数ヶ月近くの付き合いがあるから分かる。彼女は本当に悪気がなく、本能のままに相手を馬鹿にしてふざけているのだ。下手すれば彼女は敢えて事件を撹乱させて話をややこしくしてる可能性だってある。その中に事件解決に関する本質情報をばら撒くのが、最高に性格の悪い彼女らしくて腹立たしいが...
――だが、そういった彼女の行動には全てに何かしらの意味があった。
これが彼女の持つ『未来を見通す眼』だとか『事象を操って人々を陥れる悪魔』だとか色々言われる由縁だが、彼女は常に各所に情報網を貼って一番キツい仕打ちを平等にかつ、目に入った者全員に課してくる印象がある。
「実際に私の目で体験した事だが、やはり彼女に纏わる噂は正しいようだ。私がリクエストした時に彼女が使った変身魔法も、大会での事件を分かった上での行動だろう。本当にどこからあれほどに精度の高い情報を集めているのか気になるところだが...」
「彼女の渡してきたメモに関しても、一応意味はありました。ですが、そのせいでメロール様にあのようなキツい仕打ちを課してしまった事は我々も反省すべき事ですが...」
今回の予言事件に関しては、全員が彼女の掌の上で踊らされていたと言っても過言ではない。ゴミ箱で拾ったあの出鱈目なメモがその代表と言えるだろう。
アレのせいで騎士団は料理系魔道具の回収と調査に手を取られ、メロール様にあのような酷い事を強要する形になったのだから、国を守る者としての誇りを奪われた事になる――そのおかげで国に蔓延る危険な魔道具はこの国から全て押収できたので、結果的に良かった以上、こちらから文句は言えないのだが...
「そのロジェ殿が残した予言の紙とやらは何か変かはあったか? 」
「いえ、文字自体は消えませんでした。ですが、その紙に丸印のようなものが入っており、既に解決したと見て良いと思われます。まさかとは思いますが、ロジェ殿が事件解決に纏わる料理系魔道具を既に手にしている可能性はありますので、後日個人的な調査は必要かと。陛下がそう心配そうな顔をなさらなくとも、我々で何とかします」
このメモを見る限り、恐らくこれはこの国に出ていた予言を未然に防ぐ為の魔道具について書かれているものだ。『美しい見た目をした』というのは恐らく会場にいた光り輝くあのカエルの事だろう。卵が羽化する前の状態でも一際目立つものだったと聞いているし、この部屋に集めた報告資料にもそう書いてあるのだから、それに違いない。
「未来が見えているのであれば、情報を隠さず我々に全て教えてくれれば良いのだが、それをしなかったのは彼女の悪い噂のアレだ。メロールも似たような事を言っていたしな」
「メロール様は何か言っていたのですか?」
「いや...メロールはこう言っていた。さっきのカエルも、大会の事も、全ては私の成長度合いを見せつける為、あのような実戦形式を用意した。そして私の可能性を広める為にアレはお姉様が全て仕組んだ事なので、お姉様は何も悪くない...とな」
これはまたもや否定しずらい内容だ。普通の人間ならば事件の内容すらも操るなど有り得ないと切り捨てる話だが、不思議と彼女ならそんな事も容易く出来てしまうように感じる。
――なんせ、彼女の課す道化の過錬とは、自身の持つ高度な情報収集能力と未来を見通す眼を使って先の未来で起こる事象を操り、他人の苦しむ姿を遠くから見て楽しむ為のものなのだから...
「どちらにせよ、彼女はメロールの成長を促しただけでなく、この事件を未然に防ぎきった功労者だ。その結果を受けてそれなりの褒美を出すつもりだが、内容は少し慎重に考えねばならんかもな。彼女はあの時金銭を求めていたが、それが欲しいが為にあのような事を仕組んだとは考え辛い」
「それについては勝手ながら私も案を出させて頂きます。彼女達の管理は私の領分ですので、何かしら役に立てるかもしれません」
ロッキーとて彼女の事を完璧に理解している訳では無いが、私の右に出て彼女と関係を持った国の者はいないと言える。だとすれば何かしら有益な情報や意見を一つくらいは出せるはずだ。あの者を完全に理解するのは難しい事だが、自分が担当しているのだからやるしかない。
「あと一つ、ロッキー卿に頼みたい事がある。」
「...ハッ。私に出来ることがあればなんなりとお申し付けください」
「グレイと名乗る男を強く警戒しろ。奴の頭上には『黒い風』が吹いていたし、きっと奴はこの事件について何かを知っている。前回も尾行は見破られているし、監視しろとまでは言わん。だが、無理のない程度で奴の動きを見ておけ」
「仰せの通りに....」
その言葉を発したと同時に何故か外の部屋が騒がしくなる。何事かと思い、ロッキーは即座にその場を立ち上がって厳重警戒をしていると、突然ドアが開いた。
「あ、いたいた。どうもこんにちは、陛下にロッキーさん。今少しだけお時間貰ってもいいですか? 」
ヴァッツイの静止を無視しながら部屋に来たのはロジェとグレイだった。さっきは爆速でこの部屋を出ていった癖に戻ってくるだなんて一体なんの用だろうか...今までの流れからしてろくでもない事を言われるのだけは分かる。
「.......今度はなんの風の吹き回しだ? 適当な世間話をしに来たのなら承知せんぞ」
「用件はすぐ終わります。というより今ここにいる皆さんにしか頼めない事があって」
「頼み事...? 」
「はい。皆さんにお願いなんですが、この前メルから貰ったフライパンを使って作った私の作った自信作の味を教えてくれませんか? せっかく作ったのにメルは見当たらないし、グレイやそこにいる顔の細い人は何故か食べようとしてくれないから困ってて...」
何を要求されるのか不安だったので少し身構えたが、内容は普段と比べたら何千倍もマシな用件だった。その程度の事くらいなら全然受けてやってもいいだろう。
「ロジェ様、何度も言いますが、僕の名前はヴァッツイです。あとその料理は流石にダメだとさっきから言ってますよね? 何故貴方はそれをロッキーや陛下に出そうとするのですか」
「だって誰も食べようとしてくれないんだもん。だったら後はここにいる二人に出すしかないじゃないですか」
その言葉を聞き、グレイやヴァッツィが大きな溜息を吐く。その言葉を聞いて不安になってきたロッキーは息を呑みながらこう言う。
「おいヴァッツイ、これはそんなにやばい一品か? 見た目は完璧な物に見えるが」
「.......何度止めても二人が屋敷の調理場に勝手に入ろうとするので、念の為僕も彼女の作業工程は見てましたが、手順や味付けには全く問題ないと思います。ですが、個人的に凄く嫌な予感がしていて――食べるならお気をつけください」
すぐさま覚悟を決め、ロッキーは目の前にあるハンバーグを手に取って毒味を始めた。陛下の懐刀として先に確認するのは必須の責務だ。陛下が食べると言い出す前に確認しておく必要がある。
そしてそれを一口食べると、ロッキーはその場に倒れ、薄れゆく意識の中で三途の川を強く目に捉える。最後にロッキーが捉えたのはこの料理を作った張本人が放った驚きの一言だった。
「....もしかして私の料理って――美味しくない? 」
念の為書いておきますがロッキーさんはまだ生きてます。死んでないので誤解しないでください!




