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第三章 46 『解決』

 パルデル皇帝陛下は、ずっとロジェと名乗る女の事を観察していた。そうしたのも我が娘のメロールにどんな無茶難題を課してくるのか不安だったのが一番の理由だが、彼女は観察すればするほど何がしたいのか理解出来なかった。


 彼女は突然、我々の護衛をやると言い出したり、その癖して逃げること無く率先してカエルに食われたりと、あまりにも理解できない行動ばかりをしている。これではまるで本当に自分がこの事件の黒幕かと言っているのと同じだ。流石にそんなお粗末な事はしないと思うが、狙いが全くと言っていいほど見えてこない。



 ――だが、彼女が自らを犠牲にする事で暴走するカエルの動きを止めたとするならばどうだ?



 実際彼女が食われてからのカエルはこの場で暴れる事を辞め、突然さっきのような爆発を起こした。つまり彼女がカエルの体内で何らかの行動を起こしたという事になる。


 もちろん狐化したメロールの力によってカエルが動けなくなったのもあるだろうが、あれは確実に内部からの干渉だ。自分の培ってきた勘がそう言っている。


「お、お父様。わだじは....」


 私は攻撃対象じゃないのだろう。メロールがパルデルの隣にやってきてその場に立ち尽くしていた。まだ予想の範疇だが、この仮面には誰かを強く守ろうとする護衛衝動を増幅させるような効果があると見ている。


「メロール...お前の自我はまだ残っているのか?」


「はばば、はい。なん...どか」



 これは不味いな。ロジェも言っていたが、少しずつ彼女の自我が侵食され始めている。このまま仮に暴走する殺人鬼となれば、私はロジェを絶対に許しはしない。このような危険な仮面を渡し、仮面の着用を強要した彼女にこの責任を取らせるべきだろう。こんな事をしてタダでは済むと思うな。



「お父....様。お姉様は....な、にも...悪くあり、まじぇん」


 メロールの信頼する者だし、私もそうだと信じたい。だが、この信頼がどうなるかは全ては彼女の課す『道化の過錬』という悪戯次第だ。彼女の課すそれは今まで死人は居なかったと聞いているが、それだってどこまで信用していいのか分からない。


「分かっている。だからお前は強く自我を保つ事に集中しなさい。仮面の力とはいえ、ロジェと名乗る者やカエルを倒せるほどに強くなったなんて凄いことだ。それは私の自慢の娘として誇れ、メロール」


 そう言いながら娘の頭を撫でてやる。すると心底安心したのか、彼女に生えていた立派な狐の尻尾が少し小さくなった気がする。どうやら彼女の本能的な部分は色濃く残っているようだ。


 そして撫でながら愛おしい娘の説得を試みていると、突然「カラン」と音を立てながら彼女が付けていた狐の仮面が強制的に剥がされた。


「仮面が....剥がされた? だが、一体誰がそんな事を――」


 その仮面が剥がれたと同時に、その場にいた全員が謎の光に包まれ始めた。自分の娘を守るためにパルデルは自ら娘の前に出る。だが、そこからの出来事は一瞬だった。パルデル自身も何が起きたかは分からない。




 ――ただ、自分が声を発すると「ケロッ」という変な声を発したという事だけは理解出来た。



「なるほど....これはつまり、彼女がこの場の暴走を止める為に使った『魔法』か。となれば、また一つ大きな借りを使ってしまった事になるな」


 元々返しきれない恩に加え、更なる借りを作ってしまった。メロールの成長の可能性の開拓に加え、この大会を含めた一連の騒ぎの沈静化まで成し遂げたのだから、本格的に何かを恩を返さねばいけないしれない。今回の彼女のやり方には多少の問題はあるが、少なくとも自分の中で評価がプラスに働いた。



 そんな事を考えていると、煙が上がっていた中心地から、炭か何かによって全身が黒焦げになっている魔導師のロジェと彼女の黒猫が姿を現し、フラフラの状態でこちらに向かって歩いてくるのが見える。


「わ、忘れて...た。もう...ダメ、限、界――」


 体力的にも限界だったのかは分からないが、そう意味深な事を言いながらロジェはその場に倒れた。何故かは分からないが、カエル状態のメロールが彼女の頬へと寄り添い、その身を強く心配しているように思える。

 メロールのその姿を見るが、本当にこの者達は信頼しても良い相手なのかもしれない。そう強く感じさせる何かがある。



 ――とりあえず、この騒ぎに関する彼女の責任や罪の有無は、彼女の治療が終わった後でいい。



 そう思いながらパルデルは近くに落ちていた赤い狐の仮面を観察していた。そして少しすると、誰かが部屋に入ってきてこう伝えた。


『この国を騒がせていた例の予言が、先程のカエルの消滅と共に完全に消えました!! 』



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 ロジェが目を覚ますと、そこは装飾が派手な天井だった。このふかふか度合いの高いベットと言い、普段なら絶対に見ることの無い装飾といい、ここはきっと王城だろう。


 私はただ感じた痛みを誤魔化す為だけに魔力を使い切る勢いで一気に振り絞った事、そして大量に魔力を消費する魔法を使った事が重なった事による魔力切れで倒れただけなのだが、何故こんなにも手厚い保証をされているのか全く分からなかった。何の風の吹き回しかしら...



「あ、ロジェちゃんおはよう! ようやく目覚めたね! 」


「...ったく、あんだけ家に居ろって言ったのに無茶しやがって。全身傷だらけだったし、割と本気で心配したぞ」


 聞き覚えしかない声が聞こえたので体を動かして様子を見ると、隣にはいつものようにグレイとあーるんが座っていた。どうやら私は彼らが合流するまで深く眠ってしまっていたらしい。外を見るともう明るいし、これはもう次の日になっていると見ていいだろう。


「...ここ多分王城なんだけど、なんで居るの? 」


「僕達はね、家の前に置かれてた馬鹿みたいな魔法陣から逆探知してわざわざここまで来たんだよ? そしたらロジェちゃんはまた一人で無茶して面白そうな事してるし...正直ズルい! 」



 何も面白い事なんて一つもありませんでしたけど? 私はここに拉致られてただけでなくカエルに食われて、狐メロールに蹴り飛ばされただけなのに、これのどこが面白いんだか...



「わざわざ探知してここまできたのか...人も殺してないし、えらいえらい」


 人を殺したかの確認は取れてないけど、多分大丈夫だろう。そしたらメロールがこの部屋に残ってて、目覚めた瞬間私に怒ってくるはずだ。あとついでに追加で気になる事があるので、ロジェはあーるんの頭を撫でながら質問をした。


「って事はもしかして二人が私の事治療してくれたの? てかいつの間にか私の服まで変わってるし...ローブとか回収されてないか心配ね。そのせいで変なこと勘付かれたら困るんだけど」


「それに関しては心配すんな。お前の黒焦げになった服はあーるんが全部回収してきたし、治療はいつも通りポーションである程度は直してある。けど、今回のは結構深手の傷だからちゃんとした治療はやって貰った方がいい。怪我なんて治せる時にしっかりと治してもらうに超したことないからな」


 そう言ってグレイが私の寝ているベットの隣にあった机の上にそこそこ大きな鞄を置いた。ロジェは頭に乗せてあったタオルを退けながら何とか起き上がり、中身を確認するが、そこには金硬貨が大量に入っていた。嫌な予感がしたので念の為硬貨を確認するが、血液とかは一つも付いていなかった。


「....こんな大金、何処から回収してきたの? 」


 金銭感覚が麻痺しているが、幾らこの街がお祭り状態だとしても七千万はそう短時間で稼げる金額じゃない大金だ。借金を返してくれるのは有難いが、一瞬で金策してくるとなると何かが匂う。一体何を売ったんだろうか。


 その質問をすると、グレイとあーるんは笑顔を浮かべながらこう言った。


「おう! ちゃんとお前の狙い通りアイツらに対して正式な取引をやってきた。誰も損しないし、最高に平和的な取引だ。だからそんな心配そうな顔をすんな」


「ロジェちゃんの狙い通り、ちゃんと落とし前も付けてきたし、ルールも守っといたから大丈夫! これで全部一件落着だね」


「.....具体的に言うと? 」


「俺の作った味覚改変ポーションを瓶詰めした奴を売ってやったんだ。量的には四杯分と言ったとこだ。☆7の肩書きを持つ奴でも、どうやら不味いものには全然耐性がなかったらしい。だから俺は七千万でそれを売ってやったんだ。ちなみにアレは余裕で億超の価値があるし、互いに条件を満たせてお得ってやつだな」


「そーそー。あん時のあいつらの顔がさぁ、めちゃくちゃ面白かったの!罠に引っかかったフグみたいな顔しててつい爆笑しそうになっちゃった! 何とか堪えたけど――ぷぷ、思い出して笑いそうになっちゃった! 」


「なら別にいっか。正直どんな方法で集めてきたのか不安だったけど、それなら私が心配するまでもないわね」


 話を聞く限り、変な店で毒料理でも掴まされて苦しんでいた間抜けな冒険者が居たので、それ相手に取引したとかだろう。基本的にほぼないけど、露店の料理で熱処理に失敗したものとか掴まされて死にかけたーみたいな事例が過去にも何回かあったらしいし、今時そんな話を聞いても不思議には思わない。


 それに、グレイ達は悪党みたいな事を無許可でしない子達だし、そういう運の悪い冒険者を助けたに違いない。



「あー、あとついでに僕の方から誤解は解いといたよ! この前ロジェちゃんが言ってたじゃん? 氷結熱鳥(オーバーフロスト)の照り焼きが食べたいってやつ」


「あー...私の誤解から広まったアレか。どこまで広まってるか分かんないし、依頼は出した覚えないけど---って、それがどうかしたの? 」


 というかこれに関しては、私の適当な発言を勝手に依頼に変換してくるメロールが悪い。私は違うって言ってんのに「でも今は要らないんですよね。つまり後で欲しくなる....という事ですか? 」とか言い始めて、勝手にロッキーさんにオーダーを出すんだから、溜まったもんじゃないわ、まったくっ!


「それは誤解だから僕がちゃんと訂正しといたよ。そいつら(氷結熱鳥)すら狩りにいけないチキン野郎共はギルドに揚げ(フライドバード)を大量に納品しとけって! 」



 ――ん? 揚げ(フライドバード)? それって確か☆1とかの初心者向けの雑魚敵だし、肉屋とかで売ってる美味しいアレの事だよね? 氷結熱鳥もそうだけど、急に何の話?



「そしたらよぉ、あいつら顔真っ赤にして大声で吠えてやがったんだ。馬鹿みたいに煩かったが、それも一種の娯楽だし、色々あったがめちゃくちゃ面白かったぜ。相手が良いカモ過ぎて俺、割と嫌いじゃないぞアイツら」



 なるほど...どうやら二人はお金持ちで懐の緩い顧客を見つけたらしい。話を聞いてる限りでは特に変な確執とか作ってなさそうだし、私からは止める必要はないか。



「んまー...せっかく準備運動したのにそいつらと戦えなかったのはちょっと残念だけど、これもロジェちゃんの狙いがあるからだし、僕は何も言わないよ! 正直あんなのは何時でも殺りに行けるし、手を出さなくても良いやって感じかな? 」


「そっかそっか。正直最後まで何言ってるかよく分からないけど、無闇に人を攻撃してないなんて、えらいえらい」


 ロジェは色々言いたい事があったが、もう突っ込まない事にした。意味分からないのはいつもの事だし、平和で終わるならそれに越したことはない。それにあーるんの野蛮な所は今に始まった事じゃないし、今更それを止めようが彼女は変わらないからね。



 そうして彼らの金策話を聞かされていると、頭に置いてあったタオルを交換しに来てくれたのか、今度はメロールが恐る恐る部屋の中に入ってきた。

 メロールは起き上がっていた私の顔を見て、手元にあった水の入った桶を落としそうになるが、あーるんがすぐさま上手く受け止めて、水桶が床に零れないよう回避する。


「え、ロジェお姉様が起きてる!? そ、それに、なななな、なんでお兄様達までここに....こ、殺される」


 メロールが何かに怯えているが、ロジェはそんな事お構い無しに話を続ける。


「メル、あなたの方は大丈夫だったの? 私のは別に大したのじゃないけど、あなたは仮面の反動とかガッツリあるだろうし、今はあまり無茶しちゃダメよ」



 ところでさっきからメロールの震えが時間が経つ度に凄い事になってるけど私、なにかしたっけ? 確かにカエルには変えたよ? けどさ、私が生き延びるには一か八かでカエルに変えて仮面が剥がれる事を祈るしかないもん! 仕方ないじゃんっ!!!



 すると、あーるんが落ちた水桶をメロールに返しながら笑ってない笑顔で近付き、優しい声を出しながらこういった。


「ねぇメル...話は聞いたよ? あんた、あの騒ぎの時に狐の仮面を使って自我を乗っ取られかけたんだ――って? 」


「ひぃっ!? ちちち、ちなうんですお姉様! あれは予想外の力が――」


「違うも何もないよ? 僕、前に言ったよね。魔道具如きに自我を乗っ取られる奴は精神力がクソ雑魚の証だって。想定外に対応出来ないのは実力が足りてない証だって、さぁ...」



 口が動けば動くほど早口になっているあーるんがメロールの肩を優しく撫でる。その瞬間メロールの顔が遠目から見ても分かるくらいに真っ青になり、今にも泣き出しそうだった...前にも言ったけどあーるんって本当に普段からどんな指導してるの?



「僕だって正直嬉しかったんだよ? あの大会の時、メルが頑張って僕の教えた事を精一杯実践してくれてたし、こっちの仕事が終わったらたんまりと褒めてあげようって思ったのにさ...こっちに来たらこの体たらく。それだけじゃなくて僕のロジェちゃんを守るどころか、暴走して蹴り飛ばしたんでしょ? 」


「そ、それは――その...」


「僕、一番最初に言ったよね? 自分の足を切り落とされようが死にかけてようが、誰よりも優先してロジェちゃんの事だけは守れって。それは自我を乗っ取られようが関係ない必須事項なの。分かる? メロールなら賢いし分かるよねぇ、そう動けるよう体に叩き込んだもんねぇ――なぁ...........おい。黙ってねぇで、答っえろよッ!!! 」


「は、はいぃ....! 」


 そして、あーるんの怒りが完全に爆発したのか、突然甲高い声で全力で怒鳴りつけ始めた。手を出してない時点でまだ裏人格は出てきてないだろうが、これじゃあちょっと心配だ。


「今まで何の為に、僕が、これまで指導したと思ってんだぁ"ッ! あの程度の仮面なんかに、人格を乗っ取られやがって...あの日から、ずっと、制御、出来るようになるまで、訓練してやったのを、忘れたのかぁ"! あぁん!? 」


「ごめんなさい、ごめんなさい! アレは全部未熟な私が悪いんです!!! 全部私の責任なんです!!!! 」


 そう言ってメロールが本気で泣きながら謝り続けていた。スパルタ教育上等なのかな? 彼女は何故か人一倍精神面が強いから何とかなってるけど、こんな事したら普通の子なら病んで動けなくなるよ...やめなよ。


「謝んなら、まずは僕じゃなくて、ロジェちゃんに、だろうがッ! 今っすぐ言ってこいよ、これ以上僕の顔に泥塗ってんじゃねえこのマヌケがッ!!! 」


 その言葉を聞いて、半泣きのメロールが走りながらこっちにやってくる。


「ご、ごめんなさいロジェお姉様...私がまだまだ未熟なばかりにあんな目に...」


「いやいやいや....メルが私に謝る事じゃないわよ。なんで仮面なんて付けたのか知らないけど、別に私は何とも思ってないし、あなたは十分頑張ってたから気にしてない。むしろ全力で褒めてあげたいくらいよ」


 その言葉を聞いた瞬間、メロールは首を傾げながらこう言った。


「....え? でもお姉様、あの時私に仮面を付けろって言ってませんでした? 」



 ――それは...一体どの時だろう。そんな事は一度も言った覚えないんだけど、何の話?



「私はそんな事言ってな――ってあーるん。あなたもそんな怒鳴らなくていいわよ。メルは十分頑張ってたんだし、彼女はカエルに食われそうになった私を助けてくれたんだもの。そう睨みつけてあげないで? メルもめちゃくちゃ怯えてるじゃない。」


 そう言うと部屋の入り口付近にいたあーるんが風のように私の元へと現れ、猫撫で声で確認してくる。


「ほんと? ねぇ、ちゃんとよくやってた? メルが雑魚のカエルにトドメを刺したの? 成果ゼロで恥を晒しただけじゃない? 首切る必要はある? 」


「うんうん。質問はやたら多いけどそんな心配しなくてもちゃんとよくやってたわ。メルのおかげで私もカエルに捕食されなかったし、あの子の攻撃のおかげで私もそこから脱出出来た。だから首切りなんて要らないわ」


 正直助けて貰えたのかは分からないけど、本当の事を話せばメルはこの後殺されかねない。相手は皇女様だし、命に変えてもそれだけは避けなくては――メルも泣きべそかきながらベットに回り込んでまで私の後ろに隠れようとしなくて大丈夫だよ....


「トドメは? あのレベルの雑魚に、誰がトドメを刺したの?」


「..............え? うーん....それは分かんないけど、多分メルがしたんじゃない? 確かにカエルは爆発はしたけど、メルは十分良く頑張ってたし、きっと彼女の手柄だわ。私もその辺の事はよく覚えてなくてハッキリ断言は出来ないけど....」


「爆...発......? じゃあ――ダメ、じゃん」


 その言葉を聞いて、あーるんがかなり分かりやすく目の色を変えた。どうやら私は知らないうちに何か地雷を踏んでしまったらしい。これは---私でも止めるのは無理そうね。


「....先に言っとくけどやり過ぎないでよ? 」


 その言葉をかけても、あーるんは何も答えてくれなかった。言葉の理解よりも先に、怒りの感情が勝ってしまったらしい。


「おいメル、今ッから死ぬまで特訓だッ"! これから遊んでる暇なんて一秒たりともねえぞ!! てんめぇが仮面に飲まれないようになるまで、休憩無しだかんなッ"!! 」


「え...? ちょ、お姉――」


 そうして二人が風のように部屋を駆け抜け、その勢いでメロールが外へと連行されていった。メル...私のタオルを交換しに来ただけなのに、こうなるなんてちょっと可哀想...

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