第三章 45 『対価』
一度会話を試みる前に、侵入してきた二人組を念の為よく観察しながら、ロリイーネは武器をいつでも構えられるように体制を整える。
月明かりが照らす窓の側に立つ二人の立ち居振る舞いは、恐怖や罪悪感といったものを一切感じさせないものだった。
鬼の仮面を被っている――あーるんの方は俺達の拠点にある本棚や引き出しを勝手に漁り、指輪や小道具系の魔道具を見ながら目を輝かせているし、サンドホークのお面を被っている――グレイの方は、普段ロリイーネが座っている少しだけ装飾が目立つ専用の椅子に堂々と腰を下ろして足を組んで座っている。
明らかにやり慣れている動きや態度を見る限り、こいつらは過去にもこんな手段を何度もしてきたのだろう。じゃなければ説明出来ないほどに手際が良い。
それを見て同じ結論に至ったのかその堂々たる立ち回りを見たキースが声を上げる。
「おい、てめぇらの正体は黒冒険者だったのかよ! 勝手に来たかと思えばこんな真似しやがって...」
「対価とは一体何の話だ。俺は今日までお前らに対価を渡すような契約は無い。言いがかりをつけに来たってなら今すぐこの場所から出ていけ」
その言葉を聞いてあーるんの逆鱗に触れたのか、彼女が物色を中断して前に出てくる。この場の空気感は今にでも一触即発の雰囲気を感じるほどに危険なものになっていた。
「あぁん? てめぇら、ロジェちゃんのおかげで命拾いしたくせに一体何様のつもりだぁ! そもそも僕達があんなゴミと一緒にされるとかちょーあり得ないし、次そんな態度取ったら、殺っすぞッ!」
「....そもそも会場での接点は無いのに命拾いだと? なに言ってんだてめぇは」
あの女はずっと観客席で呑気に大会を見ていたはずだ。あの場で何が起きようがこいつらはその場から一切動かなかったと聞いている。倒した手口は不明だが、少なくともあの女に助けられた覚えはない。
その言葉を聞いて、グレイと名乗る男が落ち着いた声で話し始める。
「まぁお前らはずっと別のとこに居たから分からねぇのも無理はねえか...よし、今から全部種明かししてやっから、終わるまでは大人しててくれ。俺達は別にこの場で戦っても良いが、ロジェに平和的な方法でやれって言われてんだ。だから変な事は考えんなよ? 」
そしてその男は堂々と椅子の上で人差し指を立てながらこう言った。
「結論を簡単に言うとな、あのカエルも犬のアレも起きること全部分かってた上で、アイツは敢えて見逃したんだ。まずはそれを前提として覚えといてくれよ」
「....は? 」
「じゃあなんでアイツはその事件を知っているくせに止めなかったのか。って思うだろ? それはな、お前らに『借り』を作るためだ」
「借り?」
そう言ってグレイは一つの薬品を見せてくる。色は何処にでもある普通のポーションだが、この場でわざわざ見せてくる時点で絶対何か裏があるはずだ。ロリいーネは警戒を解かずに話を聞き続ける。
「これはな、数滴垂らすだけでどんなに不味い料理でも頭がおかしくなるほど美味いと錯覚するポーションだ。一応中毒性がないように作ってるが、ある意味違法薬物かもな」
「そんなものを見せつけて来るとは一体なんのつもりだ」
「実はな。俺は色々あって大会に出される料理の置かれた保管場所に居たんだ。そんとき見たてめぇらの出してたシャーベット、よく出来てたよなぁ」
この男が素直に褒めてくるとは思えない。この薬の話をしたタイミングで料理の話題を振ってくるなんて――こいつらの言いたい事は一つしかない。
「.....まっ、まさかてめぇら!! その薬を――」
「そう、そのまさかだ。無駄に武器持ってる奴が正解したのは褒めてやるが無駄に騒ぐなよ? 俺はタダでそんな薬を盛るほど馬鹿じゃねえ。そんな事したのにも理由がある」
その言葉を聞いて嫌な予感がするが止める気は無い。ロリイーネは唾を飲みながら話を聞き続ける。
「俺は不思議だったんだ。あのロジェがあそこまで繊細な料理を一人で作れるはずが無いってな。でもあの場ではお前らの料理がロジェの料理として置かれてたんだ。それ見て俺はな――こう、結論を出した。『第三者が料理の場所を入れ替えてる』ってな」
一瞬ロリイーネの背筋が冷える。これは氷嵐槍斧の効果じゃない。本能から来る寒気だ。本能的に体が目の前の事実に怯えているのだ。俺の推測が正しければこれは――悪意しかない暗殺を狙った計画的犯行だと言える。
「そして案の定、料理の保管場所に俺以外の侵入者がいたし、大会に関係する事件に関係する『毒』もちゃんとあったぜ。まぁ俺は敢えてその犯人を見逃してやったがな」
「なんだと...?」
「やった理由としてはその後の会話を聞いたからだ。犯人の会話を聞いた時には驚いたよ。『ロジェと名乗る女が犯人を敢えて泳がせにきた』ってな。その連絡が聞こえた以上は、俺もその作戦に乗らない訳にはいかねのよ」
その言葉を受け継ぐかのように、あーるんと名乗る女の方が物を物色しながら挑発のような文言を並べ始める。
「僕も最初は犯人をぶっ殺そうと思ってたんだけどねぇ、ロジェちゃんが泳がせろって言うからやめたの。てめぇらみたいな雑魚は犯人が居た事すら気付いてなかったみたいだけど、僕達三人とも全員それを分かったって訳よ。これがてめぇらとの格の違い――かなぁ」
念の為、観客席に居たキースにアイコンタクトを取るが、彼は気付いていなかったと返してくる。どうやらこいつら、あの事件が起きる事を初めから全て知っていたようだ。
「それを聞いて俺はアイツの狙いをこう解釈したわけよ。『この大会にいる侵入者を泳がせろ。そして、お前らを無理やりにでも優勝させろ』って意味だってな。後者に関しては打ち合わせの時から「まさか...?」と思ってたが、この会話を聞いて俺は確信したってわけ。一応犯人の使った毒の解析を終わらせてから席に戻った時にロジェに確認を取ったが、アイツはニコニコしながら『正解だ』と言わんばかりに頷いてた。だからこれに関しては絶対に間違いねえ」
「....それがバレたらお前ら、タダじゃ済まねえぞ。事件を知った上で見逃したなんて事がバレたら間違いなく罪に問われる。それを分かった上で言ってんのか?」
ロリイーネの言葉に引き続き、キースが口を開く。
「それにな、てめぇらが俺達の料理に薬を盛った事は理解したが、それは一方的にやった事だろ! あの女に助けられたって言ってたが、全部嘘じゃねえか!それに、俺達を優勝させろって解釈も無理があんだろ!」
「だからまだ話は終わってないし、最後まで聞けっての。てめぇら、我慢って言葉を知らねえのか? 」
相手の声は常に冷静だが、お面越しにでも少しだけ笑っているのが声からして伝わってくる。相手は俺達を馬鹿にしているとしか思えなかった。
「そもそも俺はな、お前らの料理に毒を盛られそうになってた所を見た上で助けてやったんだぜ? 俺がそれを見逃せばお前らは今あの事件の主犯格にされてたってのに、見せるのはその態度かよ。 せめて感謝の一つくらい言って貰いたいもんだな」
「......」
「それにな、酷い話だがアイツは身内の俺達にすら大会の料理を一切教えなかったんだ。なんでだと思う?」
「突然何の話だ。てめぇらで起きた問題なんか興味ねえぞ」
「いいや、これはちゃんとお前らにも関係あるぜ。ちなみに正解を言うと、これは二つの理由がある。.第一の理由はさっきも言ったが、俺を無理やりにでも保管庫に向かわせる為だ。ここはさっきまで言ってたから説明するまでもねえだろ」
そしてグレイは人差し指だけでなく中指も立て、二の数字を指で作る。
「そしてもう一つの理由は、あの料理はカエルを倒す為に仕込んだ『毒』だから――だ。俺に味付けに関する無駄な細工をさせない為だよ」
本当にそうだとしたら、それはあまりにも理想論すぎる馬鹿げた計画だ。仮に、その料理が誰かに食われていたらどうするつもりだ。
あのカエルを一瞬で仕留める程の毒だ。それを食えば、生存出来る可能性は極めて低いだろう。皇女だって当日に電撃参戦していたし、仮にそれで殺されでもしたら死罪だけじゃ済まない。そんな勝算度外視の作戦を考える奴も奴だが、それを忠実に実行しやがるこいつらはまさに――
「....最高に狂ってやがる」
「それにな、俺達がどう動こうがロジェには全てお見通しなんだ。だから俺達がここに居る事も既に気付いてるだろうし、あいつの前では隠し事は一切通用しない―――あー....もう説明すんのも飽きてきたな。ここまで丁寧に言えば流石に何が言いたいのか分かんだろ? 」
話は大体見えてきた。大会の優勝も、あのカエルの騒ぎですらも、全ては俺達があの場で活躍する為の布石だったと言いたいのだろう。つまり――
「この事件の犯人を含めた会場にいた全員が、最初からあの女の掌で踊らされていた。そう言いたいんだな? 」
「正解だ。まっ、こんだけ丁寧に解説してやればどんなに馬鹿な奴でも分かるか。ここまで丁寧に説明して分からない可能性があるのは例の魔法馬鹿ぐらいだろ」
つまりこいつらは、その一方的に押し付けてきた実績を『対価』にして言い掛かりをつけ、金か――もしくは仲間の命を奪おうとしているという事になる。こんな事は到底許されるべきことでは無い。
「...だが、それだけで俺らが対価を払うのはおかしいだろ。さっきも言ったが、それはお前らが勝手にやった事だ。実績を勝手に押し付けた分際で対価を払えというのは滅茶苦茶だぞ」
その言葉を聞いて、グレイと名乗る男は呆れたような声を上げながらこう言った。
「はぁ...これだからプライドの高い英雄気取りは。だがその件は見逃してやろう。俺は隣にいる奴と違って『短気』じゃねえからな。多少の失言くらいは大目に見てやんよ」
そう言いながらグレイが座っていた席を立ち、ロリイーネの近くに移動しながらこう話す。
「だけどな、てめぇらも思ったろ? まさか、料理系の魔道具を使っただけで、大会に優勝出来るなんて思わなかったってな」
何故、その事がバレている。例の魔道具は既に拠点の奥に置いてある隠された物置にしまったはずだ。幾ら情報通とはいえ、そこまで勘づく程の時間がある訳でもないのに、何故それを...
「お前らがグレーゾーンである魔道具を使ったって事実を大会の連中に公表したらどうなるのかねぇ。お前らが表に立ってくれたお陰で俺達の目的は無事に達成出来たから感謝はしておくがな。よっ、料理大会でトップに輝いた《霜刻の凍鳥》の皆様、優勝めでとうございまーす! 」
「ヒューヒュー! ズルして優勝出来るなんてすごーい! 尊敬しちゃーう! 」
「...ッ、おいてめぇら! この期に及んで挑発とはなんのつもりだ! そもそもこっちはてめぇらの悪事も知ってんだぞ? 脅すとしても材料的にはこっちのが有利だから意味ねえよ! 」
その二人の挑発としか思えない態度に腹を立てたのかベイスが勝手に声を上げるが、彼の言う通りだ。
脅しに使うとしても爆弾の大きさがこいつらと俺達では違いすぎて話になってない。小さなルール違反と一大事件の隠蔽――どっちの方がやばいかなんて子供でも分かる話だ。
「はぁん!? せっかく祝ってやってんのに、僕達にまだ歯向かうの? おい、そこのアフロ頭、次調子乗った事言ったらその首ぶっ飛ばすよ? せっかく心の底から言ってるのにその感謝すら受け取らないなんて、それこそ、てめえらの言う英雄のやる事じゃねえだろうがッ! 」
「おい、落ち着けよあーるん。今はお前の出番じゃねえし、まだ終わってねえんだから打ち合わせ通りにやれって」
「えー! これだけはちゃんと言っとかないと舐められるよ? いいの? 」
「今は舐められてもいいんだよ。仮に舐められても俺達なら後でやり返せんだから」
グレイがあーるんを宥め、再び取引の話に戻ってくる。どうやら本当にこいつらはここで暴れる気はないようだ。
「話を戻すが――最初にも言った通り俺らは『対価』が欲しいだけなんだ。と言っても大したものは求めるつもりはない。それにな、あいつはこの時の為だけにあの打ち合わせで料理のヒントを与えたり、俺達にこんな指示したんだ。それに加えて酒場の修理代だってこっちが全額持ってやったんだし、これくらいやってもらわなきゃ俺達も面子が潰れちまう」
確かにあの意味不明なアドバイスは大会に出す料理の構造を強く固め、自分達の出す料理に自信をつけてくれた。だが、幾ら未来予知的な事が出来るにしても、人の思考回路まで完璧に読めるはずがない。こうなったのはただの偶然だし、アドバイスに関しては一方的に聞かされただけだ。
そんなやり方をしといて金を取るとか卑怯にも程があるし、こんな偶然を『未来を見通す眼』だとか言われても納得出来る奴のほうが珍しい。納得出来るかこんなもんッ!!!
「だが、今回は特別だ。本来なら打ち合わせの時のアドバイス料だとか含めて最低でも三憶は貰ってるとこだが、今回貰うのは薬の代金だけにしといてやるよ。あいつの優しさに感謝する事だな」
「....懐が潤ってる俺達から集るつもりか? 」
その言葉を聞き、再びあーるんに怒りの火が灯り、甲高い声が再び鳴り響く。
「だからさぁ、ちゃんと薬の代金だけっつってんだろ? 集るなんて妙な言い方すんじゃねえ! あの薬だって材料費といい、効果の確認として使った廃街地区のクソガキの確保といい、完成させる為に時間も金も掛かってるし、そもそもてめぇらの拠点を割り出すだけでもこっちは苦労してんのっ! 分かる? 分かるよねぇ...ッ!! 返しきれねえ恩が幾つもあるてめぇらがこっちに金を払うのは当然の義務なんだよ! 一億くらいさっさと払いやがれクソがッ"! 」
一億だと....? それって大会賞金全てじゃねえか。それなりの額を出してくる予想はしていたが、俺達がそれを呑むわけねえだろ!
そんな条件を飲まれたと世間に知られれば、戻りかけたパーティの名前は再び地に落ちる事になるし、第一、こいつらは俺達の事を舐めすぎだ。我慢にも限度と言うものある。
その言葉聞いて仲間達の顔を一層険しくなった。どうやら辿り着いた結論は皆同じのようだ。キースが代表して、怒りの声を上げる。
「そ、そんな提案、飲める訳ねえだろ! 確かにお膳立てされた事については感謝するが、それは賞金全部だ。勝手にやったくせにやり方が汚すぎだ! いい加減にしろ!!! 」
「それに今、そんな大金が流れたら悪い噂が立つぞ。どうするつもりだ? 」
まだ大会の熱が冷めないこの時期に一億もの大金が動けば、多少なりとも噂は流れるだろう。元々ロリイーネは払うつもりは無いが、脅して得た金をこいつらが持っていると噂が立てば、帝都で過ごすのも厳しくなっていくし、そんな方法使ってまで得た金で後悔するのは相手の方だ。
「いや、そこまでの額は求めてねぇよ。こいつは金を盛ってるが、俺は作るのに苦労した分まで払えなんて言うつもりはない。さっきも言ったが汚ねえやり方をするなって止められる以上は今回は特別だ」
「えぇ...ちょっとグレイちゃん! こういうのは貰えるだけ貰っとくべきだって。せっかく都合の良いカモが目の前に居るんだし、許可は貰ってるんでしょ? だったら全員ぶっ殺してでも奪いとりゃ良いじゃぁん! 」
「だからそれがアイツの言う汚い金なんだよ...俺達がやり過ぎたら後で何言われるか分かんねえし、そういうのはまた今度だ。今は最低限回収できれば十分だろ。な?」
「ちぇー。ロジェちゃんがそう言うなら辞めるけどさぁ。せっかく良さそうなカモが現れたから、限界まで搾り取ってやろうと思ってたのに...なんか残念だなぁ」
人の拠点を前にしてカモだとか、くだらない言い合いを堂々としているのが実に腹立たしい。こいつらは確実に怒っている俺達を眼中に入れていないというのがよく分かる。
「話を戻すが、確かにお前らの言う通り金の移動で噂が流れるのは俺達にとってもあんま良くない。だから俺は今からこういう手を取ることにした。ほらよ! 」
グレイがそう言ながら指を鳴らすと、二つのサンドイッチをキースとベイスの口を目掛けて入っているように見えた。どうやったかは知らないが――まるで無理やり口の中に押し込まれたかのように物が入っている。
「おいてめぇ、何のつもりだ! 俺の仲間に何を食わせた! 」
「そんなの見れば分かんだろ。お前の仲間に食わせたのは、自称天才料理人が手間隙かけて作った特製のカツサンドだ。味は――まぁ、うん。好きな奴は好きだと思う味だと思う。それは一生に一度味わえるかすら分からない絶品だし、ちゃんと残さず食えよ? 飯にも命ってもんがあるだから、残したりでもしたら食材に失礼だ」
その言葉を聞いてロリイーネは二人の様子を見るが、どこからどう見ても毒か何かで苦しんでいるようにしか見えなかった。仲間の魔導師が治癒魔法を定期的に使わなければ意識を失いかけているので、そんな症状が出るのであれば、毒を使ってなかろうがそれは――本物の『毒』と同じだと言える。
「てめぇら、もうぜってぇに許さねぇ...よくも俺の仲間に――」
「おっと、まだ話は終わってねえぞ。そのだっさい武器を抜く前に一旦落ち着けよ。俺は戦っても負ける気はしないが、解除方法を知らずに攻撃なんてして良いのか? 仮に俺が死んだりでもしたら、そいつらは一生そのままだぞ」
またしてもこいつらは仲間の命を天秤にかけやがって...ッ! 毒を解除した瞬間、一瞬で、確実に、絶対にぶっ殺してやる。
ロリイーネは低い声で唸り声を出しながら答えた。
「.........条件を、言え」
「ロジェがお前らに求める対価は七千万タールだ。それさえ払ってくれたらこの『解毒薬』をお前らに売ってやるよ。これなら俺らも変な噂も立たねえし、お前らは仲間の命を救えてラッキーだ。これならしっかりとした物品の取引だし互いに利害も一致してる。だから金を払ったらそこで取引成立だ」
そういって相手が、机の上に一つの液体が入った瓶を置いて見せてくる。確かにさっき提示された一億と比べたら全然マシに思えてくる。俺達が少し損する形になるが、手元に三千万は残るし、それで仲間を助けられるなら悪くない提案に思えてくる。
だが、なんでこいつらが得をする形で俺達が金を払わなければならない。大会に優勝したのは俺達だし、金額の折半も俺達が得をするならまだ納得したが、そんな無茶な取引が成立すると思ってるこいつらの態度が特に気に入らない。
「あー...あと一つ言い忘れてたわ。お前ら、俺達に隠れてロジェに手を出そうとしてたろ? だからこの取引でその件はチャラにしといてやるよ。これで全てアイツの目論見通りだ。勝手に喧嘩を売って勝手に自爆したんだから、まさか文句言ったりしねえよな? こうなるからやめとけって俺はあの酒場で警告してやったんだぞ」
ロリイーネが背中にある氷嵐槍斧を抜き、構えを取る。こんなもの交渉として全く成立していない。一度冷気を発生させ、相手が怯んだ隙に奪い取って使えれば十分だ。
「てめぇ、ら....! 俺達を舐めんのも、いい加減に――アッ"、あぁぁぁぁ!!! 」
だが、謎のカツサンドで苦しんでいる姿の仲間を見ると同時にロリイーネはその判断をやめた。料理で青ざめているこいつらを一刻も何とかしてやりたい。その気持ちが勝ったからだ。
「おいベイス、大丈夫か? 意識を強く保て!! 」
「おやおやぁ? アフロ野郎は意外と持つなぁ。僕的にはもう死んでる頃合だと思ってたのにやるねぇ。てめぇら意外と耐えるじゃん」
「言っとくがこいつらに食わせた料理は、自称天才料理人が専用のフライパンを使って作った料理だから即効性の毒じゃない。それにこっちはそれの回復手段だって提示している。だからここからどうするかはてめえら自身で決めろ」
その言葉を言い切ったあと、グレイは正体バレバレのお面をようやく外し、より一層目を黄金色に輝かせながら低い声を出す。今までこの男には怒りしか感じていなかったが、どんどん自分達が追い込まれている感覚を体に叩き込まれ、かなりの量の冷や汗が出てくる。これは本能的に相手に恐怖を抱いたときに出る現象だ。
「さぁ...お前らのリーダーは、大切な仲間の命と手元にある一億―――どっちを優先するんだ? 」
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「げふぉ、げふぉ。もー、一体なんなのこれ。このカエルの爆発、音が凄いだけで何も大したことないじゃない」
ロジェは爆発の中心地で困惑していた。カエルに直撃した時の爆発音だけは無駄に凄かったし、体に害のない煙もかなり湧き上がっている。そのせいで未だにロジェの耳には「キーン」と音が鳴っていて頭が痛い。
――でも何故か火が出るとか、有毒性のある黒煙が上がるとかは一つもなかった。これじゃあまるで私がよくやる見掛け倒しの爆発と同じだ。このカエルを作った奴は兵器としてこれを使いたいのか、そうじゃないのかよく分からない。
「まぁいいや。無事に何とか動けるならそれに超した事ないわよね! 」
傷だらけの体に鞭を打ち、何とかその場から立ち上がる。メロールに蹴られた所がまだ痛むので軽く治癒魔法をかけるが、ロジェの技術力では折れた骨や怪我までは治せないので、体の痛みを少しでも誤魔化すために魔力を全力で振り絞る。
――そういえばこの爆発で思い出したけど、私がこっそり作ってたあのカツサンド、いつの間にか二つ消えてたんだよねぇ。それってどこ行ったんだろ....
どうやってもカツサンドを無くした原因を思い出せる気がしなかった。無いものを考えても帰ってこないのだから前を向くべきだろう。
「よし、とりあえずまずは生存確認だけしとかなきゃ! おいで、キルメ! 」
「夜明けの時だ! 」
そんな馬鹿げた事を考えつつロジェは、口笛を吹いて端の方で隠れていたキルメを呼び寄せ、この地獄のような空間から解放される為に一番効果のありそうな魔法を脳死で放った。




