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第三章 44 『嫌な予感』

 目の前に立つメロールは何も言ってくれないが、何故か私に攻撃を仕掛ける気満々の気配を放っている。

 最初の頃は、何で攻撃されたのかとか、こんなにも可愛いコスプレをしていたのか、色々と分かっていなかったけど、攻撃を数発避けて初めて気づいた。



 ――なんで私が適当な理由をつけて押し付けたあの狐の仮面をメルが付けてるの?



 確か仮面の制御は完璧に出来るようになったとあーるんが前に嬉しそうに話してたはずなんだけど、もしかして暴走中とかなのかな。この前仮面を付けた時は私に一切攻撃してこなかったのに、なんでこうも変わっちゃうんだろ。カエルに対してみっともない姿を見せたから尊敬度が薄まった可能性はあるけど――だとしても少し酷く無いかしら。



「お...姉様...? 」



 もしかしてまだ少し自我は残ってる? って事は交渉とかっていけるのかな....



「メル? 一旦落ち着きなさい。あなたはまだ自我は残ってるんで――」


「うっせぇ。私の拳でここに居る全員黙らせるッ! 」


 口調が違いすぎるし、これは確実に人格が乗っ取られて暴走してるやつだ。私が喋る度に拳や蹴りを当てようと必死に襲いかかってくるのが何よりの証拠だし、あまりにも攻撃速度が速すぎる。


 ――でも、攻撃は一つも私に当たらない。なんで?



「貴様、なぜ攻撃が当たらない。私の攻撃がなぜ....」



 いやそれはこっちが聞きたいんだけど。私もそんなの分からないし...てか攻撃しないで貰えませんかね。



「そんなの私にもわかんないわよ。というかメル、あなた前よりも腕上がってるじゃない。動きも早くなってるし、戦い方もあーるんそっくりよ! 」


「....黙れ。黙れ黙れ黙れッ! うるさいうるさいうるさい! 」



 まるで幼い子供の癇癪みたいな発言や行動ね....癇癪にしては少しやりすぎだけど、聞く耳を持ってないとことかまさにそうじゃない。



「この私を...馬鹿にするなぁ!!!」


 そう言って彼女は更に動く速度を上げて攻撃してくるが、案の定ロジェには一度も攻撃は当たらなかった。どうやらこの子はどんなに強化されようが、私にばかり傷一つ入れられないようね....正直助かったわ!


 すると、何故かメロールに襲われてなかった皇帝陛下が口を開いた。


「まさか...ロジェは攻撃全てを見切った上で、その都度的確に避けているのか? 」


「え? 」


 その言葉を聞き、近くで倒れていた周りの騎士も弱々しくもハッキリとした声を上げる


「間違いない...この者は相手の攻撃を見た上で避けて...ます」


「彼女はまさか、魔法だけでなく体術も出来るというのか? 」



 勝手に予想してるとこ悪いけど、違うよ? そもそも私何もしてないし...



「そもそも私は――」


「余所見するなぁ! 」


 そう言ってまたいい切る前に攻撃が振り下ろされる。どうやらメル狐(仮名)は私が他の誰かと話をするのが相当嫌いなようだ。一種のヤンデレかな?


「おたんこなすなお姉様は、私だけのもの。絶対に誰にも渡さない。誰にもあげない。だからこそ、私が彼女にトドメを指して私以外を考えられないよう教育してやるっ!」


「おたんこなすって言葉、今時聞かない言葉ね。それにトドメを決めるって....私を大切にしたいのか殺したいのかハッキリしなさいよ」


 誰にも渡さないってとこを見る限り、多分まだ自我残ってるわね。前と似たようなこと言ってるし――というかそんなに大切なら私にトドメを刺そうとしないでください....


「...ッ。いちいち喋るなぁッ! お姉様のクールでかわいらしい声を私以外に聞かせちゃ凡人の耳が浄化されるだろうがッ!! 」



 あらやだ嬉しい....! メルったらもうっ!! 内心そんなこと思ってくれてたなんてちょっと照れるじゃないの!!!



「そんなに褒めたいなら普段から素直に褒めてくれたらいいのに...メルも案外素直じゃないわね」



 にしてもなんで攻撃が当たらないんだろ。正直動いてすらない相手に攻撃を当てられない程にまでメル狐が無能なはずがないし....うーん。



「腕を組んで攻撃を受けるとは何様のつもりだ! まさか――この私を挑発しているのか? 」


 仮面のせいで口調も二重人格になっているメル狐をよく観察する。蹴りに拳といった動きを観察し続け、とある事に気づいた。




 あ、これ――私の体重が軽すぎるから飛んでくる攻撃の風圧のおかげで避けれてるだけじゃん....



 相手の攻撃が早すぎる弊害なのかは知らないが、彼女が攻撃を振り出す前に一瞬風が発生していた事に気付いた。

 つまり、現在紙切れのような軽さをしているロジェは、この風を受けて体が勝手に避けているだけなのである。


「...なるほど。これなら私が手を下すまでの相手じゃないわね」


 その言葉を聞いた皇帝や倒れていた者たちの目が見開き、全員が口を開けてその場固まっていた。なんか変な誤解をされてそうだが、否定しようとしたらまたメル狐に止められるので一旦スルーする。


「うっさいっ! 息を吐くな、声を出すな、私の為に――私の為だけにその綺麗な声を発しろ。他の誰にも聞かせるなッ!! 」


「はぁ...どこまで独占欲が強化されてんだか分かったもんじゃないわね。そこまで来るとちょっと怖いのよ」


 もはやヤンデレの域を優に超しているし、ここまで来ると怖いわ。私の持ってるこの美しくて綺麗な声とやらは誰にでも聞かせてあげるわよ。一生お喋り禁止は辛すぎるし、絶対やだもん!!


「メル。あなたがあーるんの稽古で習った成果ってのは、このか弱くて可愛い私にすらも攻撃出来ない程度のものなの? あの辛かった修行の時を思い出して自我を取り戻しなさい! 」


 辛かった記憶を必死に呼び戻せばわんちゃん元に戻るかもしれないし、これで大人しく解除されてくれたりしないかしら。


「....黙れ」


「その仮面なんかに自我を呑まれちゃダメでしょ。仮面に負けたなんて知ったらあの子は黙ってないし、それに、さっきあの子は半日梯子リレーをやるって言ってたわ。私なんかに苦戦してたらきっともっと辛い――」


「あぁ!? 貴様如きに私の何がわかる!!! この体は私のモノだ。この娘の自我など当に残ってないッ!! 無駄に呼び起こそうとするな! 」



 いや、その反応からして絶対メルの自我が残ってるじゃん。本当に残ってなかったらそんな言い方しないし。



「....それ、どう見ても嘘ついてる時にやるアレよ? 皇帝陛下やロッキーさん程度の人なら誤魔化せるかもだけど、残念だったわね。私は何度も死に目にあうような地獄を経験してきたんだからそんな事くらいお見通しなのよ!! 」



 まぁ、正確に言うと――気付いたら私が勝手に死にかけてるだけなんだけど。



「うるさいッ! 誰かは知らんが、貴様だけは絶対に殺すッ! 確実に息の根を止め、喉を指で貫いてから確実に...」


「やれるものならやってみなさい! 正直仮面に乗っ取られたあなたになんて負ける気がしないもの! 」


 そうして彼女の連撃が始まるが、案の定彼女の攻撃は一つも当たらない。とりあえず今は攻撃が終わるまでエアストールの効果が続いてくれる事を願うだけだ。


「ロジェ殿....まさか、この仮面の止め方を分かって――いるのか? 」


 腕を組みながら攻撃を避けていると死にそうな声でロッキーさんが質問してくるが、そんな事わかるわけが無い。それを知ってるなら最初からやってますよ私は。でも喋ったらまた中断されるので、「分かりません」の顔をしながら念の為手と顔を振っておく。


「メル、そろそろ限界が近いんじゃないの? そんな無茶してたら体が持たないわよ」


「はぁ...き、貴様には...そんな事――関係ないッ!! 」


 その指摘を無かった事にしようとしてくるが、彼女の腕の動きや動きが前よりも少し落ちているように感じる。多分仮面のせいで無茶してるんだろうけど、これが終わったあとの彼女が心配だ。ここまで来ると命に関わる可能性がある。


 そんなこんなで攻撃を避けていると、彼女が限界が来たのか一瞬攻撃が止んだ。それと同時に突然自分の体が重くなったように感じる。この時、ロジェは魔法の効果が切れたことを自覚した。


「はぁ....おたんこなすなお姉様、貴方もずっと避け続けてるんだし、そろそろ限界が近いんでしょ? だったら条件は同じはずです」



 うんうん....意味は違うけど私も限界が近いね。というよりもう既に私は限界だね。お願いします誰か私だけでも助けてください。土下座したら許してくれないかな。ダメ?



 そんな事を考えていると、まるであーるんのように、一瞬で目の前に彼女の姿が現れた。その動きはあまりにも静かでかつ、風のように早い。


「こ、これで終わりだ! 」


「えーっと...は、ハロー? とりあえず一時休戦に――」


 そんなロジェの言葉をメル狐は最後まで聞かずに、彼女から放たれる軽めの蹴りをロジェは避けることなく正面から素直に受け入れた。


「攻撃が、当たった...? 」


 この部屋にいた者達がメル狐含めて全員が驚いていたが無理もない。だって今まで一撃たりとも攻撃を受けてなかった者が初めて攻撃を受けたのだから、そうなるのも当然だ。



 あいたたた...メルったら思ったよりすんごい蹴りを放ってくるわね。やばそうな気配を感じたから咄嗟に魔力を振り絞ったおかげで多少威力が軽減されるとはいえ、どうせ血はガッツリ出てるし、魔法がなければ何本骨が折れてた事か予想出来ないわ。



 そんな事を考えているせいでロジェは気付かなかった。目の端で、あの嫌な光を放つカエルが点滅しているのが見えた。如何にもにも爆発しますみたいな顔をしていたやつだ。


『ロジェお姉様、そっちは危険です! 何とか避けて下さいっ!!! 』


「あれ? 一瞬メルの声が聞こえた...? それもメル狐の時は大違いの優しい声が――」


 突然聞こえた彼女の声に困惑していたが、ロジェは抵抗出来なかったので、そのままカエルに直撃する。

 その瞬間、カエルの体が一瞬だけ白く膨れ上がった。



 あー....これ、やっぱり爆発するやつだわ。



 すると、カエルに衝撃を与えた事でその場で小さな爆発を起こした。小さな衝撃波が部屋を軽く揺らし、ロジェの視界が一瞬真っ白に染まった。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「まさか俺達が大会で優勝しちまうとはな。出来すぎた話だ」


「正直俺もまさかロリイーネさんが優勝するなんて思っても見ませんでした....参加賞狙いの俺達がまさかの優勝なんて笑える話ですぜ」


 料理大会が終了し、まさかの大会優勝を果たしてしまった《霜刻の凍鳥》は、会場を後にして街中を歩いていた。会場では人に囲まれていたせいで、外の様子はもう暗いし、初日に出ていた大量の露店も店じまいを始めている。


「なぁお前ら、なんかこの結果は、俺達にとって都合が良すぎると思わないか?」


 その言葉を聞いてアフロ頭の男、ベイスが反応する。


「何か変なとこでもありましたっけ? 冒険者にとって変な分野で俺達の名が上がったのは確かに違和感を感じますが、何かおかしなとこでもありました? 」


「....考えてもみろ。幾ら俺達がグレーゾーンを攻めて大会に参加したとしてもだな、料理の専門知識がある訳でもない俺達が優勝出来ると思うか? 」



 料理系魔道具を使用した事がバレれば後で面倒な事が起きるだろうが、先程人に囲まれた時に誰も咎めてこなかったのでまだバレてないと思う。



「まぁ確かにそうですが...」


「今回優勝した事で、備品購入とかで金欠気味だった俺達の手元は潤っただけでなく、身体強化に必須な特殊なポーションも手に入れた。それは有難い事だ。だが、これは何か都合が良すぎる」


 幾ら魔道具で下手さをカバー出来るとしても、あの結果はやりすぎだ。提出した後で気付いた事だが、俺達の出した料理はそもそも味付けを少し失敗している。会場に現れたカエルだって、俺達が一番活躍していたおかげで、トドメを指したらしいチャガ・チャンガと名乗る例の忌々しい女の次に感謝されたり、知名度も上げることが出来た。



 ――だが、ここまで都合良く出来すぎているともはやそれは幸運ではない。誰かの意図があると考えるのが普通だ。



 その言葉を聞いて、ロリイーネの右腕であるキースが答える。


「まさかとは思いますが、これもあのロジェとか名乗る奴らの仕込み.....なんっすかね」


 その可能性は大いにある。あのカエルだって最終的には奴らが討伐していたのだから、奴らが何か裏で手を回していたと考えれば全ての辻褄は合う...観戦席にいたベイスによれば、あいつらはそこで大声を出しながら呑気に俺達の事を馬鹿にしていたらしいので、考えるだけで腹立たしいが。


「まぁなんにせよ、奴らが裏で何かしら絡んでるに違いない。あいつら、絶対に何かを知ってるぞ。感謝はするが、その程度で俺達の怒りが治まると思っているなら大間違いだ」


 確かにこの大会のおかげで俺達の名はどん底からそこそこの位置まで戻った。それは紛れもない事実だ。


 だが、それだけで生まれた確執が完全に消えたと思われたら大間違いだし、ここで引き下がったりでもしたら――それこそ奴らの思う壷だ。このままロリイーネは奴らに舐められたまま終わる気はない。


「とりあえずロリイーネさん、どうしやす? 金もありますし、明日からオークションや露店巡りをやるのもありでっせ。一億あればそれなりに遊べますし、備品購入もしやすいですぜ」


「....一度拠点に戻るぞ。ここは荷物や金を置くべきだ。こんな大金を堂々と持ち歩くなんて馬鹿のやる事だからな」



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 拠点の建物が見えてくると、ベイスが金の入った袋を抱え直しながら笑いつつこう言った。


「いやー、しっかし一億っすよ、一億!これさえあればしばらくは遊んで暮らせますし、多少豪遊してもバチは当たりません。ここは一つ、みんなで温泉街でも行きませんか? 俺、一回皆さんとそういう場所に行ってみたかったんすよねぇ...」


「その気持ちは分からなくはないが、今は武具の新調が優先――いや待て、とりあえず酒だな。まずは祝賀会やってからだ!」


 キースやベイス達を中心に、この一億という大金の使い道が提案されていく。

 その一方でロリイーネは一人、無言で自分達の拠点の扉を見上げていた。臨時収入として一億の大金は手に入ったし、名もそれなりに戻った。文句をつける気もないし、不満な事なんて一つもない。




︎︎︎︎︎︎なのに、不思議と感じる胸の奥のざらつきは消えなかった――何か嫌な予感がする。



「おいおいお前ら、遊ぶのは構わんが――」


 ぽつりとロリイーネが言う。


「それよりも前に、俺達には片付けなきゃいけない『因縁』がある事を忘れんなよ? あいつらにこの期間中だけ手を出さない事には変わらないが、遊ぶ前にまずはそれを片付けてからだ。周りはオークションで浮かれてるが、俺達は明日からこの期間が終わるまで鍛え直す。奴らを完膚無きまでに倒す為のな」


 全員その事は頭に入っているだろうが、一度くらい言っておいても良いだろう。浮かれている時ほどしっかり紐を締め直すのがリーダーとしての役目だ。その言葉を聞いて仲間達からブーイングが上がるが、発言を取り消すつもりはない。


「えー。ロリイーネさん、せっかく大会に優勝出来たんだし、少しくらいは羽を伸ばしましょうよ! この期間に一切遊ぶの禁止は辛すぎですって! 」


「そうですぜロリイーネさん。俺はあの女に責任取らせるのも俺は忘れてねぇですが、たまには息抜きも大事だ。ベイスの言う通り、せめて今日くらいは息抜きしないとみんな死んじまいますぜ」


「.....お前ら、何か勘違いしてないか? 」


「何がです? 」


「誰も『今日から』やるとは一言も言ってないだろ? 路地裏を経由する事になるが、この時期でもやってるいい酒場を知ってる。荷物を置いたらそこで派手に騒ごうじゃねえか! 」


 その言葉を聞いて、仲間達が笑みを浮かべ、全員のテンションが上がっていた。


「さっすがですぜ、ロリイーネさん! 」


「よせよせ。俺だって少しくらいは羽を伸ばしたいとは考えていたから、な! 」


 そうキースに伝えながらロリイーネは拠点についてある鍵穴を回す。普段よりも鍵が軽い気がしたが、そもそも名が売れている俺達の拠点に堂々と侵入する馬鹿は見たことが無いのでその違和感をスルーする。


 そしてそのドアを開いた瞬間だった。自分達の後ろから高速で何かが駆け抜けていった。


「うおっ、なんだなんだ!? 」


 ロリイーネが即座に腕を伸ばし、謎の侵入者が投げてきた椅子を地面に叩き落とす。その叩き落とされた椅子は慣性が強すぎたのか、地面に落ちた瞬間粉々に砕け散った。突然の出来事に全員が手元にある武器に手をかけ、軽い戦闘態勢を取る。


 念のためロリイーネも気配察知に長けているキースに視線を送るが、反応を見る限り彼は誰も居ないと言っている。どうやら相当な大物のようだ。


「大金を手に入れたって話は出てるから誰かしら来るかもと思っていたが、もう来やがったか。一体何者だ? 」


 室内は静まり返っている。余談だが、ロリイーネ達の拠点はかなり広いし、そう簡単には侵入出来ない作りになっている。何度も部屋を確認するが、どこにも灯りもついていないし、人の気配もない。



 ――だが確実に、誰かが今、俺達に向かって椅子を投げた事だけは分かる。



 その判断をしたその時だった。今度は部屋にあった窓ガラスが盛大な破壊音と共に砕け散り、二人の侵入者が堂々と姿を見せる。


 割れた窓から入る月明かりを背に、青い目の女が天井から、そして黄色い目の男が窓から侵入し、二つの影がその場に降り立った。

 だるそうに肩を回しながら、青い目をした鬼のような仮面を被った一人が吐き捨てながら言う。


「やっと来ッたかてめぇらッ! どこで道草食ってたんだぁ? こっちは忙しいってのに時間を割いてまでまでずっっっっと待ってんのに、何時間僕らを待たせるつもりだぁ、あぁん"!? 」


 その一方で、この時期の露店に売ってそうなサンドホークをモチーフにしたふざけたお面を被った黄色い目をしている男は、割れた窓を見下ろして感心したように呟いた。


「いやーしっかし、窓ガラスを綺麗に割るのって意外とムズいもんだな。何時間練習しても全然上手くいかねぇし、今回の割れ方も九十点と言ったとこか? こんなんじゃ凝ってたカッコ良さも台無しだぜ 」


 その男がそう呟きながら指を鳴らすと、割れた窓の破片達が自我を持ち、自ら修復して行く。そして少し時間が経つと綺麗に元通りのガラスになった。いつの間にかさっき壊れた椅子ですらも元に戻っているのが分かる。



 これは恐らく修復系の魔法だ。となれば、この男は魔導師なのか? この男が魔法剣士だなんて情報は聞いた事がないが...



「....まさかてめえらの方からここに乗り込んでくるとは思ってもみなかった。何が目的だ! 」


 キースが声を上げ、ロリイーネは背中にある氷嵐槍斧に手をかけながら一歩前に出てこう言った。


「こんな方法で人の拠点に乗り込んで来るなんて馬鹿な真似しやがって....どうやらここで死ぬ覚悟は出来ているようだな」


 サンドホークのような変なお面をつけている方の男が、ゆっくりと口元を歪めてこう言った。


「あ、俺か? 俺達はな、お前らに用があってここに来たんだよ。安心しろ。そっちから攻撃してこなきゃ拠点を派手にぶっ壊す気はねえし、壊したとしてもある程度なら元に戻してやっからさ。とりあえず、その構えは解いとけよ? 俺達は戦う気なんてねえんだから」



 戦う気も派手に壊す気もない...? だとしたら窓ガラスの破壊と言い、やってる事と言ってる事が矛盾してるだろ。何が狙いだこいつら。



「俺達の要件は簡単だし、一つだけだ。色々と話せば長いんだが、まー...そうだな。用件を超絶簡単にまとめると、これだ」


 そして黄色い目をした男は、人差し指を立てながら落ち着いた声でこう言った。


「お前らには――この場で『対価』を払ってもらう。これは俺達が得るべき正当な取り分なんだから、きちんと頭数揃えて払ってもらうぜ」

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