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第三章 41 『大会⑥』

「わぁ...メルの奴ったらめちゃくちゃ人に囲まれてるじゃん。時間があるならさっきの一言について文句言おうと思ってたのに....」


 ロジェ達三人はチャガ・チャンガの正体がバレる前に退散するため、外に出ようとしていた。

 どうせこのまま会場に居たらロッキーさん辺りに捕まえられて事件について聞かれるのは目に見えている。だったら外の露店巡りを再開した方が何倍もマシと判断したのだ。


「まぁ仕方ねえだろ。カエルはともかく、犬の方ではメルも頑張ってたし、称えられて当然だ。この大会のMVPみたいなもんだし仕方ねえだろ」


「MVPねぇ。正直私の事を変に持ち上げなきゃ私もメロールの事褒めてたんだけどなぁ....」


「それに、メルはこの騒ぎが落ち着いたらいつもみたいに絡みに来るだろ。そん時にいくらでも文句を言ってやればいいじゃねえか」


 そう言われても、素直に飲み込めるほどロジェの気分は軽くならない。とりあえずいつ来るか分からないロッキーさんの呼び出しを拒否するか考えないと...


 そんな会話を交わしながら、人混みを縫うように出口へ向かう。

 背後から聞こえてくるメロールに対して浴びせられる歓声と拍手は、まるで自分の名前を呼ばれているみたいで、あまりにも振り返りたくない音だった。


 その光景を見ながらニヤニヤと笑みを浮かべていたあーるんが大きく伸びをしながら言う。


「メルがこの経験を気に訓練をサボらなきゃいいけどなぁ。まだまだ甘いとこ沢山あるから終わったらあとでたんまり扱いてやんなきゃ....」



 メル...あれだけ頑張ったのに扱かれるだなんて可哀想に.....



「まぁ、あの子も頑張ってたし良いところも沢山あるから褒めるつもりではあるけど、言う時は言ってあげなきゃね」


「.....先に言っとくけど、やりすぎはダメだからね?程々に...やりすぎ無い程度にね? 」


「うん! ちゃんとあの子が死なない程度にやるしそこは安心して! 休憩無しのダンジョン梯子リレーを半日くらいやる予定だから数回くらい気絶するかもしれないけど、これも全部メルの為だしきっと耐えられるよ! 」



 あーるんさ、まさかとは思うけどメルの為って言えば何でも許されると思ってない? 私も止める時は止めるわよ!



「....はぁ。流石に少しな休憩くらいは入れなさいよ? そんな事したらメルのお父さんに怒られるのが目に見えてるし、苦情が来るのは基本的に私なんだから」


 ロジェはこの時、修行を止めることを諦めた。理由は一つだ。さっきのチャガ・チャンガ発言の事でしっかり根に持っているからである。

 そもそもあーるんは、事前に言っとけばちゃんと手加減が出来る偉い子だし、ここで意趣返しをしても罰は当たらない――と思う。



「とりあえずこの後どうすんだ? 普通に露店巡りなのか、それとも他に見たいイベントでもあんのか? 」


「うーん....正直大会の騒ぎが終わるまで家に引き篭ってても良いんだけど、せっかくのイベントだし、個人的にはお店回りたいんだよねぇ....ほら、露店って沢山あるじゃん? 」


 大会が色々ともたついたせいで外は既に夕方た。

 なので今から露店巡っても何も無いかもしれないけど、もしかしたら少しくらいスイーツとか変わった魔道具が余ってるかもしれない―――けど、そんな事したらロッキーさん辺りに見つかった時面倒なんだよなぁ....どうしよう。


「でももう夕方でしょ? 優秀な物は流石に全部売れてるし、この時間から回っても良い事なんてないんじゃない? 今年はやけに人が多いらしいし、僕的には望み薄すぎる気がするなー」


「....やっぱりあーるんもそう思う? 」


「うん。ってかみんな同じ思考回路してると思うよ? 普通に考えたら分かる事だし」



 じゃあ大人しく家で魔法の練習でもしとこうかな...結界札アリの家なら誰かが入ってくるとは思えないし、仮に誰か来たとしても変な魔法生物達が追い払ってくれるから心配ないか。



「なら私は帰って大人しくしておこうかな。あ、そうだ!今日二人の為に晩御飯作ってあげる――っていったい!!! ちょっと、急に何すんのよグレイ! 」


 その言葉を聞いて何故か人の頭を軽く叩いてきたグレイが言った。


「おっとすまんすまん。ついお前の頭を叩きたくなってな。この大会中に俺を振り回した分の怒りを忘れてたんだ。元々一発くらいは叩く予定だったし許してくれ」



 振り回す....? いや私は何もしてないけど何怒ってるのかしらこの人。叩かれても痛くないし、別にこういうのは嫌いじゃないからいいけどさ...



「とりあえず家に居るんだったら俺は金策でもしてくるわ。ほら、このオークションが終わるまでに金返すって約束だったろ? 」


「うん。それは言ったけど、本当にどうやって稼ぐつもりなの? 商売やるにしてももう時間遅いし、やるスペースも余ってないだろうから、今から借金の分稼ぐのは相当厳しいと思うんだけど」



 そもそもこの時期に露店をやるなら許可を取らないと後で怒られるんだけど、どう稼ぐつもりなのかな?

 候補としては人気のない路地裏とかで物を売るとかだけど――あれで稼いでる人なんて見た事ないんだけど本当に大丈夫なんだろうか。



「いや、丁度良い顧客を俺知ってるんだよ。そいつは今丁度かなりの大金を手にしたし、今なら六千万万タールくらいその場で払ってくれるから大丈夫だ。というかおこれも前の狙い通りだし、あーるんをこっちで貰っていいか? 」


「えー、僕も行くの? 僕は既に金策したし、やるならグレイちゃん一人でいいじゃん! 」


「金策は金策だ。ほら、丁度良い感じに金を得た奴が居る良い客が居るだろ? 」


 その言葉を聞いて少し不安そうなあーるんが質問した。


「...あー、なるほどね! でもグレイちゃんさ、ちゃんと金策をやる許可貰ったの?この前までまだ手を出しちゃダメとか言ってなかったっけ」


「ちゃんとOK貰ったぞ。そもそも借金してるのは俺とお前なんだから来い。メルも暫くは解放されないんだし暇だろ。」


「なぁんだ、許可貰ってるなら先に言ってよー! 僕、あれに手を出すのめちゃくちゃ楽しみにしてたんだよねぇ。はー!! 久しぶりに面白そうな相手でワクワクするなぁ....」



 私を置いてけぼりで話が進んでるんだけど、もしかしてグレイの言ってる顧客ってあーるんも知ってるような大富豪なんだろうか? そんな大富豪と繋がりがあった記憶ないんだけど――ま、いっか。私記憶力悪いから覚えてないだけで、過去にそういう人が居たんだろう。二人が金策のやる気になってるなら止めはしない。



「よし、ロジェちゃん! 僕とグレイちゃんで絶対残りの借金稼いでくるから家で大人しくしててね。勝手に何処か行っちゃダメだよ? 」


「うんうん。けど汚いお金はダメだよ? ちゃんと正式な取引をして稼ぐか、物を売って売買契約を結ぶこと。良いわね? 」


「はーーい! あとで良い報告できるよう僕頑張るから!! よし、とりあえず取引前に軽く準備運動してこよっと」


 そう言ってあーるんが人混みを壊さないよう丁寧に隙間を通り抜けながら、風のように立ち去って行った。

 物の売買なのになんで体を動かす為の準備運動が必要なのかは分からないが、考えるだけ無駄だ。まだまだ未熟な私に出来る事なんて精々良い結果を待つ事しかない。



「....ったく。あいつは話も聞かずに行っちまったが、俺も上手くやってくるしお前は家で待っててくれ。あと、俺達の居ない間に絶対料理だけはすんなよ? 今日は俺がやるって決めてんだから!!! 」


 そう行ってグレイがあーるんの後を追いかけて行った。何故か入念に料理禁止を言い渡されるのでロジェは少し不機嫌になる。


「なんでよぉ...たまには私だって料理したいのにぃ....」


 そんな愚痴を零しながら小さな溜息を吐き、外に向かって歩きながらふと後ろを振り返ると、会場はもうほとんど元通りになっていた。破壊された床も、崩れた装飾も、既に片付けが始まっている。


 まるで――最初から事件なんて起きていなかったみたいに。



「.....ホント、あのカエルといい、犬といいなんだったのかしら。今日の料理大会は」



 私の料理は食われたし、よく分からないあの大きなカエルは消滅したし、なんだかんだで全部無事に終わったことになっている。何事においても被害なく平和に終わるのが一番だ。


 ――なのに、胸の奥で小さな棘みたいなものが引っかかっている気がした。


 理由は分からない。でも私がわざわざ考えるほどの事でもないし、多分気のせいね。



「ま....まぁ、落ち込んでても仕方ないか。帰って魔法の練習でもしておこっと。とりあえず、上手くロッキーさんにバレないように帰んなきゃなぁ。グレイ達、せめて私を家まで送り届けてから行って欲しかったよぉ....」


 そんな弱音を吐きながらロジェは認識阻害ローブの出力レベルを最大にし、足取り重く家に帰ることにした。やっぱりか弱い美少女が一人で外を出歩くのは心配しかないのよ....



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 メロールが王城に戻った頃には、外の喧ぎが嘘みたいに静まり返っていた。廊下に残るのは警備兵の足音と、書類を抱えて行き交う官吏達ばかりだ。こうなるのも無理もない。


 だって今回は私も犬に変化させられたり、あのカエルに襲われる可能性があったのだから。



 メロールは自分の部屋へ向かう途中、自室の前に居た自分の使いの者を呼び止めた。彼はメロール唯一の味方だ。きっとお父様もこの事を知っているだろうが、彼のおかげで王城からの脱出が出来たり、頼んだ情報をすぐに調べて教えてくれる超有能人物であった。


「ヴァッツィ、貴方に一つお聞きしたい事があります。お姉さ....ごほん。ロジェ達三人は会場の外に出て行きましたか?」


「彼女達三人が外に出たのは僕の目でしっかりと確認しています。会場内の混乱が収まる前に会場外へ出ていきましたので、例の騒ぎに関する事で絡まれている可能性は極めて低いと思います」


「そう...調べてくれてありがとう」


「いえいえ、この程度のお嬢様の頼みでしたらなんなりと....」


 ヴァッツィのいつもの返しに軽く手を振って答えながらメロールは自分の部屋に入る。私は彼にそれ以上の事を聞かなかった。チャガ・チャンガの事件解決の件も、料理大会のアレも、表向きにはすでに収束済のはずだ。

 事件証拠は見事に整い、観客にも目立った被害もない。責任の所在も曖昧なまま、誰も困らない形に落ち着いたと思う。


「これならきっとお姉様達が罪に問われる事は無い....はず」


 メロールはあの時、審査員席の近くにいたので何が起きたのかは全て知っている。あのカエルは確実にお姉様の仕込みである料理で大きく弱体化され、致命傷寸前まで持っていっていた。表向きには冒険者達の討伐実績になっているけれど、そこに関しては誰も咎めない。むしろ良い事だ。



 ――けれど、未来を見通す眼を持つロジェお姉様なら、あのカエルが会場に現れる事も最初から分かっていたはずだ。じゃなければ、カエルを一撃で消滅させる事が出来る料理なんて、事前に用意出来るはずがない。



 この事実は隠してもいつかバレる。そしてそれがバレたらロジェお姉様は、今の立場がかなり危うくなるだろう。

 だってそれは、会場のテロ行為が行われる事を知っていた上で私に試練を課すためだけに、事件を黙認した事になるのだから。


 こんなのがバレたら軽く見積っても今まで通りの生活が出来るわけが無い。


 だからメロールはあの宣言をした。お姉様の立場が罪人レベルで怪しくなるのは私自慢の遊び人係として許せなかったからだ。お姉様が不思議な力を使って解決したと処理しておけば、何もしないかった時よりも悪いようにされないと思う。


「普段から不思議な力で幾つもの事件を解決しているし、変に思う人も少ないはずだし...ね」


 そうすれば、きっとお姉様達は今まで通り平和に過ごせる。そう思った時には自然と体が動いていた。


 ロジェお姉様は未来予知が出来るので、私があの宣言をする事も想定済だったのかもしれないが、今はとにかく、ロジェお姉様達が事件に関する罪に問われない事を願うだけだ。仮に関わっていたとしても内密に処理される案件になると思う。


 メロールはそんな事を考えながら、いつもの服に着替えてから、お気に入りの兎のぬいぐるみを抱きしめて心を落ち着かせようと試みる。するとメロールは何か違和感を感じ取った。


「……今何か体に強力な寒気が走った気がする。気のせいかな」



 念の為外で着ていた服装のポケットなど順番に確認するが、軽く見ただけでは何が入っているようには思えない。でも気の所為で片付けるのは――何か嫌な感じがする。この妙な胸騒ぎはなんだろう...?



 その事を考えていると、メロールの中で一つの結論が過った。大会も無事に終わったし、自分でも勝手に終わった気がしていた。けどそれは違う。



 ――あぁ、なるほど....あの場であれだけの事をやったというのに、ロジェお姉様は私に対する試練はまだ終わりじゃないと、そう言いたいんですね....



 普段は感じないこの寒気といい、妙な胸騒ぎといい、これはきっとそれだ。何故か分からないけれど、メロールにはそう断言出来るだけの何かがあった。

 この胸騒ぎは審査員席にいた時に感じていたアレと同じものだ。だとすれば今自分に出来る事は何かを考えなければならない。暫く考えていると、メロールの中で一つの変わった出来事を思い出した、



 ――そういえば、ロジェお姉様はなんであの赤い狐のお面を私にくれたんだろう....



 それはこの前お姉様達が王城に来て、初めて私に稽古をつけてくれた時の事だ。この暴走する赤い狐の仮面を渡した時に彼女はこう言っていた。


『もしかしたらこれを使う時があるかもしれないし、今はメロールが持っておきなさい』....と。


 つまり、この仮面を使ってこれからお姉様はなにかするつもりだ。きっとそうに違いない。

 メロールは自分の手でしっかりと赤い狐の仮面を握りしめ、再びベットの上で寝転がった。部屋には、規則正しい時計の音だけが響いている。お姉様が厳しい課題を課してこない事を心の底から願いながらメロールは目を閉じた。





︎︎――その時、メロールの着替えた服のポケットの中で何かがゴソゴソと動いている事には気付かずに....

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