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第三章 38 『大会③』

『点数の方が出揃いました!審査員六名による総合得点は五百六十二点です!皆様、大きな拍手の方をお願いします!』


「.....なんかこんなんばっかだねーこれ。どの料理もすごく美味そうなのに意外とみんな評価が厳しくて満点とかが全然出ないから見応えがあんまないなぁ...接戦なのは良いけど、こういうのっていきなり バーン! って高い点数が出るから面白いのにぃ」


「確かにそれもそうね。メルがずっと九十点固定な理由は何となく分かるから一旦置いとくとして、他の人達が思ったより九十点後半を出し渋ってるところが驚きよ。それだけ本気の審査って事なんだろうけど」


 ロジェとあーるんは始まった料理大会の様子を大人しく座って見ていた。....というかさっきからあの暑苦しい男が何か食べる度に意味わからない事を叫びながらひたすら一人で喋ってるだけなので、正直うんざりして飽きてきている――正直早く帰って外の露店巡り再開したいのよ。


「でもさ、どれも見た目だけは凄い凝ってるわよね。グレイの考えたアレほどじゃないけど魔物の姿を完璧に再現してたりする訳で...みんな一体どうやってそんな風に形を作ってるのかは気になるわ」


「うーーーん...そういうのってあれじゃない? 魔物の死体から型を取ってるとか――そこから餅とか色々使って形を固めたら出来そうだよ? じゃなきゃあんな絵に書いたような料理が幾つも出るわけないっしょ」


「誰も食欲をなくなるようなそんな食欲が無くなるレベルのグロい表現しろなんて一言も言ってないんだけど。冒険者ならともかく、一般人もこの大会に参加してるんだから、そんなやばい方法取るわけないでしょ? 」



 本当にそうだったとしたら料理という界隈に二度と足を踏み入れない気がするのでやめてください...



「夜明けの時だ...」


 心做しかキルメも私に同意してくれてる気がする。大人しくキルメの頭を撫でながら「早く終わらないかなー」とか考えていると、次に出てきた料理に引っかかるものがあった。


『エントリーナンバー十二番! こちらは、この国の強者パーティとして有名なあの《霜刻の凍鳥》による出品となります! 』



 確かこれって――あのロリコンさん達のアレだよね? この前の打ち合わせにも彼らは参加してたし、ここに出ていてもおかしくはないけどあの人達って料理出来たんだ。なんか意外ね。



「あれ? これってあのロリコン野郎の飯じゃん! あいつら参加してたんだ。知らなかったなぁ。ロジェちゃん、僕が居ない間になんか酷い目合わされたりしてないよね? 大丈夫だった? 」


「うんうん、そんな心配はしなくて大丈夫! あの打ち合わせの時もまぁ色々とあったけど、あなたが心配するような事は一切されてないわ。そもそもグレイがずっと居てくれたから何が起きようがなんとでもなるのよ」



 まぁギルドで偶然会った時は追いかけ回されたけど、そんな事正直に言えばこの子は何しでかすか分かんないし、怪我もしてないんだから言わない方がいいよね。この子は誰よりも私の身を心配してくれるし、本当に相手が死ぬ可能性あるから...



「なら良かったぁ。懲りずにまたロジェちゃんにちょっかい出しに来てたら息の根止めに行くとこだったよぉ。何も手を出してないなら行かなくていいよね! 許可も貰ってないし! 」


「....言っとくけど、仮に何かあったとしても私が死なない限りは行かなくていいからね? そこまで過保護にならなくとも私だってその場を誤魔化す魔法くらい使えるし、そういう事して欲しい時はちゃんと私から言うから」


 まぁそんな物騒な許可なんてこの先も出す気はないけどね。少なくとも本気で殺されそうになるまでは出す必要性は薄いと言える。


『こちらの一品は、あの災害を起こす氷結熱鳥(オーバーフロスト)の気性の荒さを再現するかの如く、氷による冷気と力強い眼差しを見事再現しきった逸品。その名も氷結熱鳥のシャーベットとなります! 』



 へぇ....シャーベットなんてこの大会出して良かったんだ。そんな事なら私もシャーベットみたいなスイーツ系にすれば良かったなぁ。スイーツの方が普通の料理を作るよりは知識あるし、何より見た回数が桁違いだもん。その方がもっと上手く作れてただけに残念だわ。



 会場のアナウンスを聞いて、手を叩いて笑いながらあーるんがロジェに話しかけてくる。


「あいつら氷結熱鳥好きすぎでしょ。あの程度の魔物の討伐実績をどんだけ擦ってんだー!って話。はぁー、おもしれー! あんなの耐性つけたら余裕だから雑魚だって言ってやったのに、あいつら全然理解してねえじゃん! 」


「まぁまぁ、あれは世間一般的に見ればちゃんと強い魔物だし、誇る実績に値するからそんな言い方しないのっ! しーっ、しーー!! 」


 周りには幸い人が居ないので助かっているが、仮に彼らの関係者にでも聞かれていたら更に怒らせる事になる。こんな場所だと誰に聞かれてるか分かんないし、ただでさえあそこまで怒らせてるんだから、これ以上面倒な確執とか作らないでもらいたい。



 てか、ロリコンさん達に聞かれてないよね...? 彼らは大会に参加してるからこの場で殴り込んでくるとは思えないけど...



 念の為周りの席を確認するが、私達の遠く後ろに座っているなんとなく見覚えのあるようでないアフロ頭の男がこちらに鋭い視線を向けている気がする――これは見なかったことにしよう。うんうん。



 そんなこんなでキルメを撫でながら現実逃避をしていると、会場の空気が突如として大きく変わる。


 審査員六人が料理を食べた瞬間、人が変わったかのように目を輝かせて言葉を失った。それはまるで審査員席と会場の空気は、燃え盛る火山と吹雪に見舞われた氷山くらいの真逆の空気感が出来上がっており、観客席からは到底理解出来ない謎の温度差が完成していた。この反応を見る限り、彼らの料理が不味いとは思えないので、これは恐らく美味しい方の反応だろう。


『おっと....!? し、審査員の一人があまりの味の美味さに倒れました! 倒れた者はこの世に未練のないような幸せそうな表情をしております!それだけではなく、メロール皇女様がまるでスライムかと錯覚させるようにその場で液体状にとろけております! その証拠に先程から食べている手が止まりません! 』


 味で人が倒れるって何事...? そんなに料理が美味しいってんならなんで冒険者なんてやってるんだろうか。審査員が倒れるほど料理が上手いなら冒険者なんかやめて料理人になりなよ。私達を追っかけ回してるよりもそっちのが才能あるよ――多分。


「へぇ...あいつら中々やるじゃん。スイーツに厳しいうちのメルをあそこまで満足させるだなんて相当じゃない? メルってロジェちゃんと同じくらいスイーツにうるさい子なんでしょ」


「そうよ。まぁ私の拘りには敵わないけどあの子も相当スイーツの知識を持ってるし、意外と面倒な子だからね。けど、その子をあそこまで満足させるなんて本当に凄いわね---まさかとは思うけど魔道具でも使ってるのかしら」



 正直私も魔道具は使っているから人の事は一概には言えないけど、使ってるんだとしたらこれは完全にズルね。こんな大会に魔道具を使用してまで優勝したいだとか、どんなだけ名誉が欲しいのよここの人達はっ!!!



「夜明けの時だ...」



 なんとなくキルメに考えている事を見透かされている気がするが、気の所為だと判断してスルーする。分かってる....言いたい事は分かってるけど、私も言いたくなったんだもん、許してよもうっ!



『さてさて、皆様お待ちかねの評価が出揃ったようです。審査員の皆様が同評価するのか深く頭を悩ませていましたが、どうなるのでしょうか! 』


 アナウンスの声と同時に会場が更にざわつき始める。今までは周りもここまでざわつくような事は無かったのだが、すごい熱気だ。会場のほぼ全員が息を呑んで注目しているようにも見える。


『な、なななな、なんとーーー!? この料理の総合得点が五百九十六点、今大会でほぼ満場一致の百点が出ましたー!!! あれだけ食に厳しい精鋭達を完敗だと唸らせたのはある意味『奇跡』なのではないでしょうか。皆様、今一度、今一度盛大な拍手をお願いします! 』


 その評価を聞いて会場で過去一番の大きな拍手が巻き起こり、歓声をあげるものもいる――これは、流石の私も負けたかな?


「わぉ.....ほぼ満点叩き出してくるなんて凄いなぁ。まさかのダークホースが優勝しそうな勢いあるし、あそこまで腕があるなんて思ってなかった。グレイちゃんの腕があってもロジェちゃんが優勝出来るかは怪しいかもねこれ」


「あの暑苦しい男ですら九十八点出してるし、これは負けたかしら...私には秘密兵器のフライパンがあるからワンチャンはあるかもしれないけど、平均九十九点は相当厳しいわね」


 今までラあの暑苦しい男は九十点に届かないくらいの位置ばかりを出していたのに、この料理だけは九十八点を出した。つまり、そう評価せざるを得ない程に異常な美味さをもつ料理を出さない限りは勝ち目はない。


 一応見た目やテーマ性などの評価ポイントはあるが、その部分は全員がこだわって作っているので点数に関係あるようで全くない。審査員による評価の大部分は『味』中心だ。ここから私が逆転優勝するには、味で彼らの胃袋を掴めない限り無理だろう。


「平均九十九点かぁ。でもでも、メルのお父さんはそれなりの結果を残したら許してくれるって言ってたし、気にしなくていいんじゃない? 優勝しろとは言われてないんだし、御役御免にはされないかも! 」


「私は別に御役御免でも構わないけど、そうなったら私を推薦してくれたメルが怒られるかもしれないから可哀想だし、今は勝てることを願うしかないわね。でも大丈夫、私の元には昨日あーるん達を気絶させるほど美味しい料理があるからきっと勝てるわよ!! 」


「そ、それもそっかぁ...あ、やっとグレイちゃん帰ってきた!! 場所わかんなかったりするかもだし、僕の方から手を振ったりした方がいいかな? 」


「流石にグレイでも気付くわよ。グレイは変わってるけど目は腐ってないし、私達の周りにはそもそも誰も居ないんだから」


 そうして少しするとロジェの右隣にグレイが座って話し掛けてくる。彼はどこか悩んでいるかのような表情をしているが、私が考慮する事でもないので、いつものようにそれをスルーする。


「ふぅ...やっと見つけた。てかなんでお前らの周りだけこんな席が空いてんだ? 」


「あーるんのいつものアレよ。私は別にやんなくて良いって言ってるのに周りの客に勝手に手を出しちゃってね、そのせいで距離取られちゃってさぁ...グレイからも何か言ってやってよ! こういうのはもう二度とやらないようにしろって!! 」


 その言葉を聞いて数秒考えてからグレイが口を開く。


「....なんだ。なら俺が止める必要ねえな。というか今更俺から言っても変わんねえし、こいつは基本的に無闇矢鱈に手を出さない。行動に出たってことはいつものアレだろ? 」


「うんうん! いつものアレだよー! 変な虫が居たから追っ払うために絡みに行っただけ。でもロジェちゃんがまだ泳がせろって言うからやめたんだよねぇ。別にここでぶっ殺しても良かったんだけど..」



 なんか違う解釈されてる気がするけど、ホントに正しく伝わってんのかしら。面倒だから止める気ないけど、余計な厄介事に首突っ込まないでよ?



「てかロジェ、お前の狙い通りにしてきたけど、本当にアレでいいんだな?俺的には別に構わねぇけど、やりすぎだけには気をつけろよ?」


「えっ....と、うんうん。アレはそのままでいいよ。今回も上手くやってきたんでしょ? 」



 正直なんの事か何一つ分かんないけど、グレイの事だしきっと裏で何かやってるんだろう。私は何かと余計な事をしがちなので、変に口出しする気も、それを否定する気もない。グレイがOKと言ったら大体の物事は上手くいくし、私なんかが考えるだけ無駄なのだ。



「そんな事より次の料理はなんだと思う? 私的には多分パン系のものが来ると思うの! 」


「.....急にどうしたんだ? そんな急いで話題なんて変えて。別に気にはしないけど、なんかあるなら先に教えろよな」


「料理の腕が初心者と同レベルの私でも作れるものだったら嬉しいなーって思っただけだけど...特に理由なんてないわよ? 」


 これ以上話を広げても余計な事になる気がするので、ロジェは全力で話題を変えることする。その後もなんだかんだで色々と問われたが何とか誤魔化し、次に出てくる料理の発表を待っていると、新たな料理が審査員の前に並ぶ。


『熱が冷めきらないこの灼熱の大会で次に登場する料理はどうなるのでしょうか!? それでは参りましょう。エントリーナンバー十三番、料理は雪のように白い麺と秘伝の出汁が絡み合った最高のひと品、『雪兎の餅饂飩(もちうどん)』です! 』



 へぇ....饂飩かぁ。名前自体は聞いた事あるけど、確か材料が世間的に流通してないから貴重かどうだかで帝都では中々お目にかかれない珍しい料理じゃない。私も死ぬまでには食べてみたいけどどんな味がするんだろう。滅びた文明にあった饂飩だと、昆布の旨みと鰹節の香りが鼻から気持ちよく抜ける出汁とふくよかな小麦の甘みと噛んだ時のもちっとした弾力があって最高らしいけど、それって本当なのかな。



「饂飩か.....やっぱり帝都ってデカい国だから珍しいもんも出されるんだな。俺も食べた事ねえからすげえ気になるぞ。確かロジェの話だとめちゃくちゃ美味い料理なんだろ? 」


「うん。私も本でしか見た事ないから分かんないけど、それは凄く美味しいらしいよ。話によれば作る際の手軽さと食べた時の満足度の高さから『安心と幸福の逸品』って揶揄されてらしいし」


「いいなぁ。あれは中々食べられる代物じゃないからこの場で食べれるメルが羨ましい.....今すぐ審査員席に殴り込んで、僕が食べる分も残しとけって言ってこようかな」



 なんかしれっとあーるんがすごい事を言っている。これ以上変なのに目をつけられたくないので、頼むから大人しくしておいて下さい....



 会場に顔を向けず三人で向かい合いながら、そんなくだらない会話を交わしていると、突如として会場がざわつき始める。何事かと思い、ロジェも会場の方を見渡すとすごいハプニングが起きていた。


『な、ななななな、なんということでしょうーーー!? 先程の料理を食べた者がほぼ全員犬の姿を変わってしまいました。メロール皇女とサブロー様以外の者が全て犬に変身するとは何事だー!? 』


 それは突然の出来事だった。先程出てきた饂飩を食べた審査員四名が全員犬に変わっていたのだった。「ワン! 」と力強く鳴く者や「クゥーン....」と困惑の音を鳴らす者もいる。何故か無事だったメルは一人困惑していたが、すぐさま近くにいた警備の者に身を守られているのが見える。



 確かこれって滅びた文明にいた『秋田犬』って奴だよね.....? なんでそんな変身なんてしてるのかしら。演目には一つも書いてなかったけどもしかして――なにか一発芸的な催しでもやるのかな?

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