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第三章 35 『おとしもの』

「はぁ、はぁ...ここまで逃げれば相手も追ってこないでしょ。久しぶりにここまで走ったから、正直疲れたのよ」


「俺思うんだけどよ、これ逃げる必要あったか? 多分だけどあいつらは俺達の事追ってきてねえぞ」


「...え?」


「どうせお前は必死に頭をだったせいで相手の顔を見てなかったんだろが、あいつらの顔は完全に理解する事を拒否してた顔だったぞ、てかそもそもな、俺達が頭なんて下げる必要もなかったろ。相手が幾ら怒ってるとはいえ、特に怒られるような事はしてねえんだから」


「あのさぁ.....そういうのに気付いてるなら先に言ってくれないかしら。久しぶりに全力で走ったから私、結構疲れたんだけどっ!? 」


 ロジェとグレイは打ち合わせ会場から全力で逃亡し、適当に大通りの端を歩いていた。私的には相手が怒ってるようにしか見えなかったのだが、どうやらグレイ的には違ったらしい。


「まぁとりあえず打ち合わせは大体終わってたから抜け出しても問題ないと思うけど、あとはどうすんだ? まだなんか買い物とかするなら俺も付き合うけど」


「うーーん.....私的には特にやりたい事は無いけど、一つ心配な事をあげるとしたらメルかなぁ。あの子だけ拾い忘れてきちゃったし」


 少なくともあの会場で私達と絡んでたのはメルだけだ。私の仲間だと判断されてロリコンさん達に絡まれていたらちょっと可哀想な気分になってくる――わざわざ助けに行こうとは思わないけど。


「あー...まぁ、メルもそのうち帰ってくるだろ。幾らあのロリコンでも人目の着く場所で手を出したりしないし、お前の流した例の噂のせいで絡みに行くとは思わねえしな」


「確かにそれもそっか...幾らロリコンさんでも流石にあの場でちびっ子に手を出したりしないわよね! 」



 ――噂.....? 私、そんなの流した覚えないんだけど、何の話?



「そういえばさ、あのババアが言ってた予言ってなんだったんだ? なんかめちゃくちゃ嫌な予感がするし、俺達は中身について何も知らないから一度見せてくれよ」


「占いの婆さんの? アレは確か迂闊に魔道具に手を出すなって話だったけど...そんな気になるものなの? 」


 そう言いながらロジェがローブの内ポケットに手を入れる。余談だがこの認識阻害ローブは、予備だろうと内ポケットの中身は共有されている。つまり、他のローブに物が入っていても違うローブから物を取り出せるのだ。まぁ、ポケットが小さすぎて紙とか小さく折りたたんだ携帯用の箒くらいしか最大のデメリットなんだけど....



 ポケットの中の丸めてしまった紙...紙...あった! これかな?



 感触のあった物を中から取り出すが、出てきた二枚の塊は説教用の手紙だった。それじゃないと思いながら再び中を漁るが、予言について書かれた手紙だけが見当たらない。確か酒場以外で手紙を取りだした覚えはないけど、なんで...?



 その時、ロジェの脳内に1つの結論が出る。



 ――もしかして、予言について書かれた紙をどこかに落とした?



「おいロジェ。顔色悪いけどどうした? なんか変なもんでも食ったのか? それとも忘れ物か? そういう事なら今すぐにでも――」


「...ない」


「.......は? おい、今なんつった? 」


「よ、予言について書いてある紙がないのっ!!! 私、知らない間に何処かに落としちゃったーーーー!!!! 」


 予言の事について書かれた紙を落とす事自体は問題は無い。なんせ書いた主の名前と宛先はいつも通り書かれてないし、誰かが書いたのか特定される可能性もないからだ。


 ――だけど一つだけ問題がある。それを拾った人間によっては街の中で大きな混乱を起こす可能性があるのだ。


 中身が無駄に予言っぽく書かれているのも相まって国の要人なんかに拾われでもすれば、下手したら街の中にある料理系の魔道具全てを回収し始めてもおかしくない。そうなったら非常に面倒だ。


「予言のアレ落としたっておま....何やってんだ! 変な騒ぎになったりでもしたら俺達じゃ責任取れないだろ! そんなプルプル震えて固まってる場合じゃねえぞ! 」


「....ままま、まぁ大丈夫よ。そんな都合良く国の要人が拾うわけないし? 落としたとしてもギルド横のゴミ箱の中か甘味巡りした時に行った店の中だもん。ギルドのゴミ箱の中なんてわざわざ調べるやつ居ないし、拾っても誰かのイタズラとしか思えないから。うん...そう――そうよロジェ、いつもみたく自信を持ちなさい! そんな都合よく国の要人が拾うわけないわ! ない...よね? き、きっと大丈夫! 」


 仮に国の要人なんかに拾われてたらもうどうしようもないし、変な騒ぎにならない事を祈るしかない。私にやれる事なんて、あの紙絡みの騒ぎが何か起きたらロッキーさんの元へ謝罪しに行く事くらいだ。ここで焦っても仕方が無いのである。


「...はぁ。とりあえず、ババアの予言が外れる事を願うしかねえか。仮に料理系魔道具が没収でもされたりしたらクソまずい飯のせいで、間違いなく大量の死人が出るからな。それだけは回避しなきゃやばい事になる」


「ねぇちょっと、それどういう意味? 大会で起きる事をなんか知ってるなら私に教えなさいよ! もうこれ以上事件に巻き込まれるのは避けたいんだからっ!! 」


「.....い、いや? べ、べつになんもないぞー...」


「うそつき...絶対なんか知ってるでしょ! このこの、このっ! 」


 ロジェは口笛を吹いて誤魔化しているグレイを軽く問い詰めながら、予言の手紙を無くしたことについて忘れる事にした。大会の事も全然決まってないから急いでに考えなきゃダメだし、どうせアレを拾ったところで騒ぎになんてならないし、なんとでもなるでしょ! うんうん。


「あ、そうだグレイ。この近くに美味しいモンブランを出すお店があるらしいの! 良かったらだけど一緒に食べに行かない? ほら、良い気分転換になるかもしれないし!! 」


「.....先に言っとくが、別に気分転換する必要はないぞ? まぁ行きたいってんなら着いてってやるけど」


 こういう時こそスイーツを使って全力で現実逃避するに限る。甘いスイーツでも食べて一度思考回路をリセットして落ち着きを取り戻すのよ!!!



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 ロッキーは、会議室で再び頭を悩ませていた。その頭を悩ませる原因は予言についてだ。


 グレイ達が廃街地区から回収してきたらしい押収物の中に『毒物料理大作戦』と書かれた一枚の冊子があったとの報告を受けた。ロッキーもすぐに中身を確認したのだが、どうやら最近起きている擬態型のカエル事件はこの《蹄の足跡》とやらの組織が管理していたカエルが逃げ出したらしい。


 廃街地区とは無法者のホームタウンのようなものだし、無法者同士の成果の奪い合いなんてよくある話だ。その場所の動き一つに目くじらを立てるような事でもない。


 それに、さっき街中では何故かロジェ殿に化けた例のカエルが三匹ほど捕獲されたらしいのでそれを元に使われている成分を解析し、対策を織り成しているところだ。

 その冊子に載っていた作戦を元に会場に関わる人間も全員入れ替え、現在は敵組織の内通者が内部に居ないか入念に洗い直しているところだし、この予言の事件は無事解決に進むだろう。誰しもがそう思った。




 ――なのに、この解決の兆しが見えたはずの予言が消える気配がない。



 本来、星晶占有院(せいしょうせんゆういん)の予言は、問題が完全に解決する兆しが見えた時に予言の内容が消えるサインのようなものを出すはずだ。なのに今回はそれがない。


 つまり、この予言の事件はまだ終わっていないどころか、これだけの時間と人を割いても事件の尻尾捉えられていないという事になる。


「今回の予言は本当に何を示してる。常に怪しいロジェ殿の動きを除いて、最近あった不審な動きと言えば擬態型のカエルが現れた事くらいだ。だからそれに尽力したというのに予言が消えないのは完全に想定外だし、予想がつかん....」


 やってくる観光客や持ち込まれる食材・魔道具を調べても相変わらず何一つとして異常がないし、一応念の為冊子に載っていた《蹄の足跡》のアジトと廃街地区の中枢にも人員を割いて調べさせたが、そこで得られる物は特に何もなかった。



 ――だとすれば、本当に今回起こる事件とはなんなんだ?



 頭を抱えて悩んでいるロッキーを見て、部屋に残っていた騎士が声を上げる。


「団長、落ち着いてください。そもそもオークションまであと数日あります! 敵はまだ動き出していないだけで、これから動きを見せるかもしれません。そう気を落とすのはまだ早すぎます」


「...オークション前日ともなれば外からやってくる者が今よりもかなり増えるし、それと同時に相手が動き出せば確実に捕まえ辛くなる。それまでには何としてでも解決の目星くらいは最低でも立てなければならんだろ」


「それは、そうですが...」


 オークションの時期になるとそれなりに知名度のある大規模なイベントという事もあって他国の有名貴族や権力者がやって来る事がある。そこで何か手遅れになるような事件が起きた場合、帝都の立場は相当悪くなるだろう。ただでさえこの国で最近起きた出来事が全て物騒なのだから、これ以上悪いイメージをつける訳にはいかない。


「ちなみに何か情報が上がってきたりしたか? 陛下の命令通りロジェ殿に監視を潜ませているが、あれはどうなっている」


「それなんですが――彼女の仲間であるグレイという男が来てからは監視が次々と不思議な術で眠らされているようです。何やら敵対していると勘違いされたみたいで...現在あの者達が何をしているかは掴めません」


「....あの男も余計な事をしよって。そこまでして自分達の手法を周りに見せたくないという事か」


 監視の共には全員に細心の注意を払い、常にかなりの距離を取って観察しろと伝えてある。この街を巡回している衛兵に彼女達の監視役を紛れ込ませたり、打ち合わせ会場の中に一つの監視の目を紛れ込ませたのだが、どうやら逆効果になったようだ。


「ですが、彼女が一人の時の行動は大量に入ってきてまして、まるで監視されている事に気付いていないかのように、五人いる監視のうちの三人に声を掛けたりしたとの報告もあります。『この国にある風の囁き亭ってどこにありましたっけ? 』と質問していたとかなんとかで...しまいには『わざわざ教えて下さりありがとうございます。私、忘れっぽいのであなた達のような顔見知りの方にはまた聞くかもしれません』と笑顔で言ってたらしいです」


「.....チッ、あれほどの実績を持つ策略家が自身が監視されている事に気付いていない訳が無い。顔見知りだとか皮肉のような発言をしてる事から察するに、どうせこれも我々の監視が甘いと馬鹿にしてるだけだ。その報告はしなくていい」


 そもそも今の時期の帝都は表を出歩く人は大量にいる。その中から監視の者ばかりそんな質問をするなんてわざととしか考えられない。偶然にしてはあまりにも出来すぎた話だし、あの者は我々を『道化の過錬』のターゲットにして常に弄んでいるのだから、これもその一貫として見た方がまだ納得出来る。


「....そうだとしたらとても嫌な感じがしますね。とりあえず報告に戻りますが、冒険者ギルドに入ったかと思えば一分も立たないうちに外に出て、その後冒険者ギルドの隣にあるゴミ箱の中に数十分ほど隠れていたとの情報があります。途中で監視の者が巨大化した例のカエルに遭遇したので、彼女がその時に何をしていたか不明ですが――それの対処が終わった頃にはその場から立ち去っていたようです」



 ――何故ゴミ箱に....? そんな馬鹿な事をして何がしたいんだ。



 用があったのに冒険者ギルドから即座に出てくるのはギリギリ理解出来る。本人にとって相当都合の悪い何かが中で起きたのだろう。


 だが、その後にゴミ箱に自分から入るのは何がしたいのか理解出来ない。冒険者ギルド横のゴミ箱なんて基本的に魔物の解体などで出た異臭を放つ廃棄品や生ゴミが多く捨てられており、中に碌な物が入ってない事くらい誰でも分かる。そんな所に入って隠れるだなんて何が目的だ?


「.....相変わらず理解の出来ない行動ばかりするもんだ。ちなみにその彼女が隠れていたゴミ箱について調べたか? 絶対に何も無いと言い切れるが、今までの実績がある以上は、彼女の行動全てを疑う必要がある」


「はい。一応そのゴミ箱を調べまして、するとそこから一枚の魔法文字で書かれているくしゃくしゃの紙を回収しました。現在鑑定の者に回して解読を急いでいるところです。ギルドの方でも確認は取ってますが、そこで魔法文字を使う文化はないようですし、誰かが捨てるにしても明らかに不自然なので、彼女の物と見て間違いないかと」


「魔法文字だと? まさかとは思うが、ロジェ殿は我々の監視が何かを見つける前提で、ヒントを残した訳じゃなかろうな」



 魔法文字はそこそこの魔力を消費して文字を描き、記号をベースに短めのメッセージを送るために使うものだが、これはロジェ殿からの事件解決へのメッセージとして見ていいのか? それともいつものような挑発なのか? 普段の行いを考えれば、圧倒的に後者の方が可能性が高いが――今は、なんとも言えん。


 ――どちらにせよ、それの結果を一度待つ必要があるな。これだけ人を割いて調べても予言について全く分からない以上は彼女に頼らざるを得ない。本来、この帝都の治安維持を担当する我々が折れるのは正直癪だが、今は事件の解決が優先すべきな以上は文句を言うまい。



 そんな事を考えていると、血相を変えた一人の騎士が部屋に入ってきた。手元には紙のような物を持っていたので恐らくゴミ箱にあった紙の鑑定が終わったのだろう。焦っているところを見る限り、何かしら動きがあったとみていいはずだ。


「団長、例の物の鑑定結果が出ました! 予言に関する最重要事項です! 」


「....なに!? ついに動きがあったのか!! 」


「はい。ロジェ殿が書いたと思われるゴミ箱にある手紙の内容はこうなっていました。所々破れていたので完璧には解読出来ませんでしたが、『近日中に料理用魔道具がこの国に持ち込まれ、それは大勢の民間人の命に大きな影響を及ぼす事になる』と書いていたそうです! 」



 料理系魔道具..だと? という事はやはりロジェ殿は何かを知った上でわざわざ人目につかないゴミ箱の中から情報を流したという事か。人目に付くような場所でそれを要求した瞬間、自分の立てた作戦が失敗するからこのような事をしたと言うならまだ理解は出来る。


 ――だが、いくら人目のない場所だとしても行動に対するリスクが高すぎる。あの場所を漁る人がいる可能性な限りなく低いとはいえ、我々が気付かなかったり、別の者にその伝言がバレていたらどうするつもりだ?



「とりあえずどうしましょうか? 彼女のこれが人が欲しいという事であれば我々が乗らない手はありません」


「.......ロジェ殿が何か事件解決の為に動いているのであれば今は問い詰めん。彼女は人目につくことを嫌っている気概があるからな。この予言絡みの話が終了次第、直接私から彼女に話を聞くが、今は要望通り動くぞ。料理に関係する魔道具を中心に全て調べ直し、人員もその調査に割くように指示しろ。これは最優先事項だ」


 その言葉を聞き、部屋にいた騎士達が大慌てで部屋から出て行った。一人取り残されたロッキーはため息をつきながらこう言った。


「……本当にこれでいいんだろうな? これがただ場を無意味に混乱させたいがために用意したものならば、私は絶対許さんぞ」

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