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108話 どれが本当の脅威?

 ガルニエは立ち去る際にこう付け加えた。


「現状、チュテレールはグエッラの兵器に対抗できる有効打はごく僅かです。

 それに、ノア・ブランシェは善良で人望の厚い方です。

 彼が考えているアイデアは、おそらく我々にとっての最善策でしょう。

 ……ですが、こう考えてしまうのです。

 いくら手がないとはいえ、本当に彼らと同じく越えてはいけない線を越えてもいいのでしょうか?

 根拠はありませんが、なぜか胸騒ぎがするのです。

 まるでこの選択がこの国――いえ、世界の運命を変えてしまうような……そんな気がしてならないのです」


 それだけ言って、彼は立ち去ってしまった。

 アデルがジャッドの顔を覗き込むと、彼女はとても複雑な表情をしている。

 どうしたのかと尋ねてみても、何も返してくれない。


 彼女は無言のまま、その部屋を出てしまった。

 大慌てでアデルが追いかけるも、どうやら彼を気遣う余裕がない様子。

 ずっと上の空で、ただどこかに向かって歩いているだけ。

 明らかに、様子がおかしかった。



 ジャッドは謁見の間に向かい、ガルニエから聞いたことを国王に全て淡々と話した。

 その時にガルニエからもらった資料も渡すと、国王は下を向いて大きなため息を漏らした。


「…………わかった。

 リュカとマエルは処罰しよう。

 こんな短時間で役目を果たしてくれて感謝する」


「……はい」


 ジャッドはそれだけ言うと、敬礼して謁見の間を後にしてしまった。

 アデルは何とか彼女についていくも、やはり何かを考え込んで周囲が見えていない。

 気づくと、窓の外はオレンジ色に染まり始めていた。


 


 やっと忙しい一日が終わり、ジャッドは自室へと戻った。

 今日こそ外で見張りをしようかと考えたが、どうしても彼女の様子が気になって仕方がない。

 それに犯人が分かったとはいえ、まだ実行犯が全員捕まったわけではない。

 結局、アデルは昨日と同じようにそばにいてあげることにした。


「おいジャッド、中に入っていいか?」


「……」

 

 部屋の扉を閉めようとしたジャッドに声をかけたが、返事はなかった。

 代わりに彼女はドアノブから手を放し、資料を机の上に置いてベッドに入っていく。

 アデルはもやもやした気持ちを抱えながら、それを肯定とみなして部屋の中に足を踏み入れた。



 アデルはソファに腰かけ、日課の瞑想を始めた。

 その間ジャッドは態勢を時々変えているらしく、布の擦れる音が聞こえてくる。

 それが気になってしまい、結局アデルは全然集中できなかった。

 仕方なく彼は瞑想を止め、面倒くさそうに頭を掻いた。


「はぁ……何をそんなにくよくよ悩んでいる?」


「……」


 やはり返事はない。

 それが余計に腹立たしかった。


「おい、いい加減にしろ。

 貴様のことだ、どうせ些細な事を抱え込んでいるのではないか?

 ……全く、そこは昔と変わらんな」


「……」


 以前、ジャッドは兄姉にいじめられてふさぎこんでしまったことがある。

 今の彼女は、どこかその時の面影を感じられた。

 どんなに立派な軍人として成長したとしても、やはり本質を変えることは難しいようだ。

 今でも彼女は普通の女の子のように弱く、うじうじしてしまう。

 だからこそジャッドは、遠慮なく叱ってくれるアデルを護衛に選んだのかもしれない。



 そんな期待に答えるように、アデルは声を荒げ始めた。


「まさか実の兄姉を陥れたことに罪悪感を感じているわけではないよな?

 それとも、俺を利用したことを今更後悔しているのか?

 下らんな、そんなことでいちいち落ち込んでいるようでは貴様は――」


「違う」


 突然、ジャッドはアデルにも負けない声量で言い放った。

 予想外の反応に、アデルは目を丸くしてしまった。

 彼女はまだベッドから顔を出そうとはしない。

 それがかえってもどかしく感じる。


「じゃあなんだと言うのだ?

 俺の性格を知っているだろ?

 とっととはっきりさせてくれ、無性にイライラする」


「……」


 また黙り込んでしまった。

 アデルの堪忍袋は、とうとう限界を迎えこめかみに血管が浮き出始めた。



 でも、今回の沈黙は今までと違うようだ。

 なんとなくだが、アデルに自分が抱え込んでいるものをぶつけるために言葉を探しているだけのような気がする。

 そう思うと、一気に熱が冷めていった。


 しばらく気まずい時間が流れたかと思うと、やっとジャッドは布団に埋もれたまま声を発した。


「……――私達、このまま進んでもいいのかしら?」


 アデルは言っている意味が理解できず、言葉にならない声が出た。

 それでもジャッドは続ける。


「ガルニエ情報官が最後に言ったことが……頭から離れないの。

 確かに今のこの国には、グエッラに対抗できる戦力が必要不可欠よ?

 でも……だからといって禁忌の魔術に手を出していいのかしら?

 ずっとそのことを考えているのだけれど……答えが出ないの」


「……」


 それに、そのアイデアを提案しようとしているブランシェは悪い噂が殆どないほど皆に愛されている人物だ。

 ジャッドもアデルも彼に会ったことはないが、それでも良い印象を持っているほど。

 確証はないが、恐らく私利私欲に関係なく国を思っての立案なのは想像に固くなかった。

 だからこそ、ジャッドの頭を悩ませているのだろう。



 アデルはわざとらしく、大きく息を吐いた。


「はぁぁぁぁぁ……

 俺は難しいことは分からん。

 だが他にグエッラに対抗できる妙案があるというのか?」


「それは……」


 ジャッドは明確に答えることができなかった。

 ほどなくして、アデルは小さく舌打ちをして腕を組んだ。


「なら『背に腹は替えられぬ』というやつだろう?

 確かに世界が危険視している魔術に頼るのが恐ろしいことは認めよう。

 だが躊躇えば、この国が滅びる。

 貴様は一線を越えるのと、自滅とどちらがいいというのだ?」


「……そう、ね……そう、よね…………」


 ジャッドはとても歯切れが悪そうに返事をした。

 まだ納得はしていないようだが、他に選択肢がないことも理解したようだ。

 アデルの方はというと、小難しいことを考えさせられて知恵熱が出そうだった。


「そんな重大なこと、一人で考え込むのには無理があるのではないか?

 まだ明日もあるのだろ? 一度その防衛大臣とやらに会ってみたらどうだ?

 少しは肩の荷が下りるだろう」


「…………うん」


 顔は見えないが、さっきよりも声色が少し明るくなった気がする。

 やっと彼女の心のケアが終わったと判断したアデルは、息を吐きながら全身をソファに委ねた。

 柄にもないことをやったせいで、かなり疲れてしまった。


「あーあ、もうこれ以上俺に考え事をさせるな。

 仮眠を取らせてもらうぞ」


「えっ? ちょっと待って、アデル――」


 ジャッドが飛び起きた頃には、アデルは刀を持ったまま目を瞑っていた。




「なら、この胸騒ぎは何だと言うの……?」

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