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107話 とても愉快な敗北

 腹筋が痛くなろうが呼吸が苦しかろうが、ガルニエは笑い続けていた。

 そんな中ジャッドとアデルは、ガルニエをただ眺めていた。

 明らかに危険な状態ではあるが、2人とも落ち着かせようとは一切しない。

 結局ガルニエが普通に話せるようになるまで数分を要した。


「はぁ……はぁ……

 すみません……取り乱してしまいまして……

 こんなに心がくすぐられたのは久方ぶりでして……

 ふふっ、これはとんだ儲けものですね……」


 ガルニエは生き絶え絶えなうえに、声がガラガラになっていた。

 加えてソファにもたれかかり、天井を向いている。

 お面で表情は見えないが、どこか嬉しそうなのはなんとなく分かった。

 その証拠に、彼の声色は弾んでいる。


「本来守られる立場でありながら、ここまで賭けに出るとは。

 それになりふり構わず他人を手駒にする覚悟と潔さ……

 卿の度胸、とても気に入りました。

 いいでしょう、卿のお望みの情報を提供いたしましょう。

 王女がとても面白い顧客ということが、私にとってとても貴重な情報になりますから」


「っ!? 本当に……!」


 ジャッドは思わず聞き返すと、ガルニエはゆっくりと頷いた。


 正直アデルにはガルニエの判断基準が一切理解できなかった。

 先ほどから自分だけが置いてきぼりになってしまっていたり、扱いが雑だったりと色々と不満が溜まっていた。

 そのせいで、この中でアデルだけが眉間にしわを寄せていた。

 でもジャッドはガルニエと同様、満足そうだ。


「ジャッド様が言うように、リュカ王子とマエル王女を何とかしてくれることはメリットしかありません。

 それに安全であることに越したことはありませんし、何より卿を失うのは本当に惜しい。

 今後も何か私で良ければお力になりますよ……ふ、ふふっ」


 完全に含みのある言い方だ。

 まるで怪しい商人が金ずるとなる顧客を見つけたような感じだ。

 王女に対して取っていい態度ではない。

 でも、もう誰も突っ込もうとはしなかった。



 ガルニエは少し時間が欲しいと告げた後、一旦自室へと戻っていった。

 それからアデルとジャッドでくだらない雑談をしながら残りの紅茶を飲み干したころ、彼は戻ってきた。

 手元に持っていたのは、書類の束だ。


「お待たせしました、こちらを差し上げます」


「……これは?」


 ジャッドがガルニエが差し出してきた書類を受け取ると、軽く目を通した。



 そこにあったのは、金の流れの詳細情報と何枚もの写真だった。

 写真にはリュカやマエルが、秘密裏にグエッラ側の人物に合っている時のものだった。

 中にはグエッラの総帥であるビアンキの姿もある。

 どれもはっきりと写っており、これは言い逃れできないだろう。


 金の流れに関しては、税収と公費の不一致部分について触れられている。

 どうやら相当の金額の差があるようで、どこに使われたのか不明なのだそうだ。

 しかもその用途不明の金の大半は、リュカやマエルに関係するものらしい。

 あくまでも憶測だが、さっきの写真と合わせるとグエッラにお金を流している可能性がある。

 もしあっているなら、これは2人の王位継承権をはく奪されかねない重大事件だ。


「これが、私が持ちうるお二人の重大な秘密です。

 これだけあれば、あの馬鹿どもを十分没落させることはできるでしょう。

 因みにどのように扱うおつもりなのか、お伺いしても?」


「……」


 ジャッドは書類から目を離した。

 どうやら既に答えはあるらしく、すぐに顔を上げた。

 その時の表情は、いつもの凛々しい彼女だった。


「お父様に全部出すつもりよ。

 その後のことは、全部お父様に一任するわ」


「は? 貴様が手を下さんのか?

 てっきり恨みつらみを全部人前でぶちまけるもんだと思っていたが」


 ガルニエは、アデルの発言に賛同の意を示した。

 リュカとマエルは、ジャッドが彼らに地獄を見せてもいいほどのことを今までしてきた。

 むしろ、ここで仕返しをしない方がおかしい。




 ジャッドは苦虫を嚙み潰したような顔をした。

 どうやら自分が制裁を下したいという思いは強い様子。

 でも彼女は、アデルとガルニエの予想とは反する答えが返ってきた。


「今やるべきことは、お兄様とお姉様の制裁ではないわ。

 私の仕事は、あくまで明後日の会議で信用できるのが誰なのかを把握すること。

 お兄様とお姉様が信用できないと分かった以上、”正面突破派”の意見が参考にならないのは明白よ。

 下手に私が裁きを下せば、国家的な問題なのに『ただの兄妹の覇権争い』として扱われてしまうわ。

 ……大丈夫、お父様なら2人に相応の罰を与えてくれるはずよ」


「はぁ……貴様がそれでいいなら俺からは何も言わん」


 アデルは明らかに不機嫌そうに、明後日の方向を向いてしまった。

 一方ガルニエは怖いお面に手を添え、何かを考えこみ始める。

 しばらくすると、彼は少し不満げながらも渋々納得したように見えた。


「面白いものを見れると期待していたのですが……

 そういう理由でしたら、仕方ありません。

 代わりにと言っては何ですが、ぜひとも今後私に素晴らしいものを見せてくださいね?」


 そう言うとガルニエは立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。

 ジャッドとアデルもそれに続いてソファから腰を上げ、ガルニエが立ち去るのを見送ろうとした。




 その時、ガルニエが突然立ち止まった。

 彼はドアの前で、背中を向けたまま微動だに動かない。

 いつもお面に気を取られていたが、ガルニエの髪はさらさらしていて男性にしては長かった。

 しかも色もネイビーととても気品がある。

 それが彼の地毛なのかは分からないが。


 そんなことをジャッドが考えていると、ガルニエはゆっくりと振り返った。


「そういえば……1つ情報を差し上げましょう」


 ジャッドは首を傾げた。

 さっきのやり取りで、彼が渡し忘れたということはあまり考えづらい。

 恐らく、リュカとマエルに関するものとは別だろう。

 だがこれ以上無償で情報をくれるとは到底思えなかった。


「対価を払うつもりはないのだけれど」


「ええ、構いません。

 ここからは情報官としてではなく、私個人としてお伝えしたいのです。

 何せ、思うところがありまして」


「……?」


 ますます不可解だ。

 彼の性格を鑑みるに、こんなことは滅多にないだろう。

 どうやらただ事ではないらしく、ジャッドは無意識に息を飲んだ。


「我々”兵器開発派”の中に、ノア・ブランシェ防衛大臣がいらっしゃるのですが……

 彼はどうやら、PLUTO-0001に対抗できる兵器のアイデアをお持ちのようでして。

 国王にお願いをし、参考人を遠方から呼び寄せたそうです。

 恐らく現状ですと、彼の案が飲まれる可能性が高いでしょう」


「それって……いいことじゃないの?」


 ガルニエはきっぱりと否定した。

 どうやら問題は別にあるらしい。

 ジャッドでも何のことかさっぱりだったが、彼から発せられた言葉ですべて納得した。




「――参考人は、禁忌の魔術の使い手です」

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