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105話 予想外な招かれざる客

 ガルニエから王家の秘密の情報を要求されたジャッドは、長い間黙って考え込んでいた。

 恐らく、とうに数分は過ぎているはず。

 それでも彼女は、ぬるくなったティーカップを持ったまま難しい顔をしていた。


「……どうしました?

 今更怖気づいたのですか?

 それとも、何か時間稼ぎをしなければならない事情でも?」


「…………っ」


 ガルニエはかなり退屈そうにしている。

 これ以上待たせれば、彼の機嫌を損ねてしまうだけだろう。


 ジャッドの隣に座っているアデルは、着ているマントの中で刀に触れているようだった。

 一瞬目があったので、彼女は首を横に振って斬りかからないように合図を送る。

 するとアデルは、小さく舌打ちをして腕と足を組んだ。


(これ以上は……限界ね)


 ジャッドは深くゆっくりと深呼吸をした。

 そして腹を括り、彼が満足しそうな情報を頭の中で探し始める。


 これだと思ったのは、隣国との停戦協定の真意。

 表向きではただの平和協定だ。

 しかし向こうの領土内にチュテレールの基地を作ったり、ビザの発行なしで自由に国境を行き来できるなど……

 上手く利用すれば、相手国を乗っ取ることができる。


 正直これ以外の情報で、チュテレールないし王家に影響の少ないものはなかった。

 でもガルニエが満足できるか、甚だ疑問だ。

 一か八か、やってみるしかない。




 そう思い、ジャッドが重い口を開こうとした時だった。

 突然、アデルが窓の外に殺意を向けた。

 ガルニエも何か気づいたようで、彼と同じ方向を振り返る。

 それから僅かに遅れて、外から人の気配をジャッドも感じ取った。



 すると窓ガラスが突如割れ、一人の黒服の男が侵入した。

 身なりは昨夜ジャッドを襲撃した暗殺者と同じ。

 もちろん、殺害用のナイフも持っている。


「――アデル!」


 ジャッドが叫ぶと同時に、アデルは相手の喉元に刀を突き刺した。

 だがそれを皮切りに、複数の似たような格好の男が次々と入ってきる。


「はっ! 真っ昼間から堂々と……

 俺に早く殺されたくてしかないのか!?」


 アデルはここまで我慢してきた鬱憤を晴らすついでに、ジャッドどガルニエを守る戦いを繰り広げ始めた。



 ガルニエは何も言わず、ジャッドを背中の後ろに回らせた。

 危なくなったら国から逃げるとか言っていたものの、一応最低限の役目は果たすつもりらしい。

 もしかすると、ただ美味しい顧客を手放したくないだけかもしれないが。

 

 その間、アデルは2人の目の前で襲撃者に襲い掛かる。

 時には鮮血を飛び散らせたり、時には複数人で襲われ防戦したり。

 彼は攻防を何度も繰り返しながら、相手を圧倒し続けた。


「……くそ。

 護衛を外したんじゃなかったのか……?

 やむを得ん、撤退だ」


 リーダーと思わしき人物は、黒服の男達に逃げるように合図をした。

 すると彼らは次々と窓から逃げ出していき、アデルは深追いしようする。

 しかしジャッドから追いかけないように指示を受け、仕方なく部屋に残った人だけを狙った。


 そんな中、1人の襲撃者がガルニエと目が合った。


「――ガルニエぇぇぇぇ!!」


「っ!?」


 男は他の仲間達とは打って代わり、ナイフをしっかり握ってガルニエに狙いを定めた。

 ガルニエは武器を隠し持っていたのか、反射的に袖に手を突っ込み何かを取り出そうとする。

 だがその前に、アデルが背後から男を突き刺してしまった。


「が――――」


 男は血を吐きながら、アデルを見た。

 でも再びガルニエに狙いを定める。

 そして再びナイフを強く握ったその時――


 アデルは刀を90度回転させ、とどめを刺した。


「ぁ――が――――ぇ――……」


 男はそのまま、血を噴き出しながら倒れた。



 結局、アデルが倒した暗殺者は12人。

 昨日よりも多い。

 逃げ延びた人数も考慮すると、恐らく20人がかりで来たのだろう。

 アデルは顔に付いた返り血をマントで拭きながら、一息ついた。


「……かなり大規模な襲撃だったな」


「いえ、まだよ」


 ジャッドはなんの前触れもなく、狙撃銃を魔術で召喚し窓の外に照準を向けた。

 そして風でカーテンがふわっと舞って外が見えた一瞬をついて、狙撃とは思えない速さでトリガーを引いた。

 アデルは彼女が何をしたのかしばらく分からなかったが、急に外が騒がしくなり始めた。

 どうやら外に隠れていた狙撃手を殺し、高所から落ちた死体を近衛騎士が見つけたようだ。


「相手が潔すぎる。

 こういう時は、何か裏の手があるの。

 もしあなたが深追いしていたら、今頃頭に穴が開いていたかもしれないわね。アデル」


 ジャッドはそう言いながら、銃を片付け始めた。




 ジャッドは急いで近衛騎士を呼び、警備の強化と部屋の掃除を命令した。

 もちろんガルニエとの交渉も同じ部屋でやる訳には行かないので、侍従に別の部屋を準備させた。

 今度は外に多く見張りをつけ、アデルも着慣れた軍服姿になった。


 そうしてガルニエとジャッドの対談は再開された。

 しかし話題は、さっきの情報交換ではない。

 襲撃者の話だった。


「ジャッド様。

 もしかしてアレに昨夜襲われたのですか?」


「ええ、やっぱりあなたも彼らのこと知っているのね」


 ガルニエは少し間を置いてから、「もちろん」と低い声で肯定した。

 アデルだけなんのことかと置いてきぼりをくらったが、2人が親切に襲撃者の正体を教えてくれた。



 彼らの名前は、ディアーブル教団。

 マイナーな宗教集団だが、「人を殺せば救われる」という訳のわからないことを信じかなり危険らしい。

 よく通り魔事件や無差別殺人を起こすことがあり、指名手配をしてまで国が排除しようとしている。


 しかし、彼らはよく権力者の駒にされてしまうことがある。

 基本教団の人間は殺す相手を選ばないが、大金を弾まれれば話は別。

 そのせいで、よく金持ちが自分の気に入らない人物の暗殺を依頼することが良くあるのだ。

 そのせいで、このチュテレールから教団が無くならないという最悪の状態が続いているというわけだ。


「彼らを雇うには、一般人じゃ払えない額を用意しないといけない。

 それに城内に平気で出没できることから鑑みるに、雇い主は城の警備に口出しできる大物。

 雇い主を何とかしないと、私が城にいる限り永遠と狙われるでしょうね」


 ジャッドは落ち着いた口調でそう言い切った。

 正直分かっていたなら、もっと早く言ってほしかったとアデルは思った。

 話を聞いた限り、実力はアデルよりも下だかプロなのは間違いない。

 一体彼女は何を考えているんだ?


 ジャッドはアデルからの冷たい目線を無視して、新しく入れた紅茶を口にした。


「朝あなたに会うって決めた後、わざと『護衛なしでガルニエと密談する』っていう情報を流したの。

 そんな隙を向こうは逃さないと思うし、色々な情報を持つあなたを一緒に排除できれば好都合だと考えるのが自然。

 それにもし私が予想している人物が犯人なら、すぐに動くはず。

 正直ここまでうまくいくなんて驚いたけど、私の推理が正しかったことは証明されたわね」


「……?」


 アデルはジャッドの話についていけず、首を傾げた。



 けれども、ガルニエは違った。

 

 ジャッドは朝に情報を流し、黒幕がどこまで自分に近い人物なのかを測ったようだ。

 予想は見事に的中、相手は自分の身近にいる人物だということが分かった。


 さらに、おそらく彼女はガルニエが巻き込まれることも想定していた。

 彼は多くの情報を持っているがゆえに、中立を貫いていても敵が多い。

 さっきのように個人的な恨みを買ってしまうことだってある。



 そこまで考えると、ガルニエの頭にある仮説が浮上した。

 それがあまりにも面白く、自分が手ごまにされる感覚がすごく心地よく思う。

 まるで珍しい果実のように、甘くて瑞々しく感じてしまうほど。

 彼は笑いがこらえられなくなり、お面の下から不気味な声が漏れ出ていた。


「ふ、ふふっ……ふはは……

 まさか、ジャッド様……あなたは、これを切り札にしようと?」


 ジャッドは肯定するように、高揚するガルニエをまっすぐ見つめた。

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