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102話 軍人同士の会談

 来客者休憩用のスペースで、ジャッドやアデルを含む6人がソファに座って向き合っていた。

 最初皆アデルの格好を見て、驚いたりくすくす笑っている。

 なのに誰もわけを聞かず、ただ周りの視線だけが痛々しい。

 アデルの顔が真っ赤になり怒りの沸点を超えそうになった時、ジャッドが慌てて話題を振った。

 

「コホン! ……どうして少将がここに?

 確か明後日の会議の名簿には、あなたの名前がなかったはずだけど」


 そこでジャッドの隣にいるレジェが真顔に戻り、口を開いた。


「俺が説明しましょう。

 先の戦争の件で、軍上層部は閣僚に責任を追及されまして。

 特に軍を仕切ったエーベルさんと、作戦の立案者のオランドが目を付けられ……

 軍法会議にかけられました」


「え――」


 ジャッドは開いた口が塞がらなかった。

 でも、当然といえば当然のことだろう。

 あの戦いで戦犯にかけられるのは、間違いなくその2人だ。

 逆に2人が責任を取らなければ、どこからか不満の声が上がってしまう。

 こればかりはどうしようものないことだ。


「エーベルさんの軍法会議は数週間前に終わりましたが……

 オランドは重傷を負ったせいで、最近まで入院生活を送っていました。

 つい先日やっとこいつの軍法会議が始まって、今日決着がついたところですよ」


「…………どうなったの?」


 ジャッドが躊躇しながらも、恐る恐る聞いた。

 その時唾を飲み込んだが、喉につっかえてむせそうになってしまった。

 しかしそこはぐっと堪え、少し苦しそうな顔をするだけで済んだ。

 そんな中オランド本人が、なぜかハイテンションで答えてくれた。


「降格して、少佐に逆戻りしましたー!

 いやぁ……クビを覚悟していたんですけどねぇ。

 ボクが最善を尽くしたうえでの敗北だって認められた上に、今軍は人材不足でして。

 良くも悪くも、なんか残っちゃいましたぁ。

 なのでこれからは少佐と呼んでくださいね?」


「え、えぇ……わかったわ」


 ジャッドの顔は少し引きつっていた。

 ここまで当の本人が明るいと、どう振舞えばいいのか分からなくなる。

 他の人達も同様、困り果てていた。



 アデルとジャッドは、エーベルの方をじっと見た。

 オランドの処罰を考えるに、彼女の場合はもっと重たいはず。

 するとガルニエが2人の聞きたいことを察したらしく、代わりに答えてくれた。


「エーベルさんは、この()()()のようにはいきませんでした。

 彼女は総司令官を辞任し、軍を離れることを強いられました。

 代わりに、生き残った指揮官の中で一番経験豊富なレジェが総司令官となる予定です」


「――」


 アデルとジャッドは、返事をすることができなかった。

 それでもガルニエは淡々と続ける。

 

「エーベルさんがここにいるのは、レジェのアドバイザーをしているためです。

 急な辞任でしたから、仕事を完全に引き継ぐまで彼のそばにいる予定です。

 礼の明後日の会議にも、レジェの付き添いで彼女は参加するのですよ」


 よく見て見ると、確かに服装が少しおかしい。

 これまで総司令官らしい格式のある軍服を着ていた彼女が、今では一般兵と遜色のない姿だ。

 逆にレジェの方がしっかりと着込み、華やかな装飾をつけている。

 ジャッドは反応に困ったが、逆にエーベルの方が優しく声をかけてくれた。


「ご心配なさらないでください。

 極刑に処されなった分、かなり温厚な処置ですから。

 むしろこれで肩の荷が下りたとほっとしているんです」


「逆に俺が大変な目にあうことになったがな。

 全く、どいつもこいつもどうして俺に全部押し付けたがるんだよ?

 おかげさまで徹夜ばっかだよ、はぁ……」


 レジェは目頭を掴みながら、深くため息をついた。

 確かに今の軍を任されるのは、相当の重荷だ。

 ジャッドはもちろん、アデルでさえその大変さは予想がつく。

 レジェは皆から憐みの眼差しを向けられていた。




 その後も、軍に関する最新情報が次々と4人の口から出てきた。

 指揮系統の再構築の方法、指揮官達の近況、部隊の再編方法など。

 どれもそのうち兵士全員に共有されることではあるが、やはりいち早く知れることはいいことだ。

 特に秘密事項とかもないので、レイモン達に手紙で知らせれば安心するだろう。

 ジャッドは話を聞きながらそう考えていた。



 特に一番興味を惹かれたのは、第14部隊の処遇について。

 30人ほどになってしまった部隊は、予想通り他の隊に吸収されることになった。

 だが精鋭が集まる第14部隊を多くの指揮官が欲しているらしく、なかなか決まらないらしい。

 その中には、アデルの父セルジュ・ドラクロワも混ざっているようだった。


「部隊の雰囲気から鑑みるに、ボクの意見としてドラクロワ(赤イノシシ)が一番いいんじゃない?

 だってヴェベール少佐の性格を熟知しているから、一番扱いを理解しているはずだし。

 隊員達も一番それが理想的だと思うけどなぁ」


「でもあの人、教育に関しては相当厳しいわよ、マルク。

 ほら、アデル君が勢いよく頷いている。

 私としては、ランベールが面倒を見るのが一番じゃないかしら?」


「おいおい、勘弁してくれ……

 これ以上の厄介ごとは抱えたくないんだが……」


 レジェが再び頭を抱えると、皆が笑い始めた。

 ちなみにドラクロワ中将は城に来ているらしい。


 ジャッドがアデルに会いに行くか聞いてみると、彼は拒絶した。

 会うと何かしらで絶対に説教されるらしく、ろくな目に合わないとのことだ。

 別に彼に会わないといけない用事もないので、ジャッドはそれ以上何も言わなかった。



 そんな中、突然ガルニエが話題をがらっと変えてきた。


「ところでジャッド様。

 卿はどうしてここにいらっしゃるのですか?

 アデル・ドラクロワの服装から察するに、何かご用事があると思うのですが」


 そう言いながらガルニエは、恐ろしいお面をアデルの方に向けた。

 アデルはやはりジロジロ見られるのが恥ずかしいらしく、また顔が赤くなり始めた。

 当の本人にもこんな格好をしている理由が分からないのだから、猶更居心地が悪いだろう。


「当ててみましょうか?

 私から情報を引き出したいのではないですか?

 内容は、そうですね……明後日の会議に纏わることでしょうか」


「――ええ」


 流石だ。

 何もヒントとなることを言っていないのに、状況から全部当てられてしまった。

 これがチュテレール全体の情報を支配する諜報部のトップの腕というわけだ。

 わずかな情報で、大きな情報を得てしまう手腕に舌を巻くしかなかった。


 他の4人も感心しつつも驚きを隠せないでいた。

 そんな中ガルニエは一切取り乱すことなく、落ち着いたトーンで話を続ける。


「度胸は認めしましょう。

 ですが、私がそうやすやすと知りたいことをお教えするとは思っておりませんよね?

 私は誰にも肩入れするつもりはありません、信じるのは事実のみ。

 話術で私を説得することは無理ですよ?」


「わかっているわ、だからあなたは信頼されているのよ。

 だから――取引しましょう?

 あなたが欲しいものを与える代わりに、私が欲しい情報を教えて。

 それなら文句ないでしょ?」


「ほう……」


 ガルニエは皆に見守られる中、顎に手を添えて考え込み始めた。

 しばらくすると手をお面の中心に移動させ、下を向いて肩を震わせ始めた。

 何事かと思いそのまま見守っていると、ガルニエは自然と声を漏らし始めた。

 鳴き声や独り言ではない。

 これは……笑い声だ。


「ふふっ、ははは……ふはははは!

 これは面白いですね! 実に面白い!

 いいでしょう、卿を掌の上で転がしてあげますよ。

 王家の情報を知れるこんな機会……滅多にありませんからね」


 ガルニエはしばらく嬉しそうに笑ってた。

 この後オランドとレジェ、エーベルは用事があるらしくその場を立ち去った。

 3人とも少し心配そうにしていたが、ジャッドが大丈夫と言い張って無理やり納得させていた。


 オランド達が立ち去った後、ガルニエは密室で話したいと意気揚々とジャッドに言った。

 そこで彼女は彼の希望に添える部屋を侍従に用意させ、3人だけでそこに入った。

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