101話 持つべきは頼れる仲間
ジャッドは部屋の外にいる近衛騎士の隊長を呼んだ。
彼が慌てて駆け寄ると、ジャッドは何かを耳打ちし始めた。
アデルには内容が全く聞こえなかったが、ジャッドは終始いたずらっ子のような顔をしていた。
「…………え?」
ジャッドが離れると、隊長はぽかんとしていた。
でも彼女はにこにこしている。
「あの、失礼ですか……正気ですか?」
「ええ、もちろん。
心配しなくても大丈夫よ、いざという時はアデルが守ってくれるから」
隊長は不可解なのを隠さずに返事をすると、アデルをじっと見つめた。
一体何を囁いたのは不明だが、彼女は相当危険なことを考えているのだろう。
明らかに不満そうだ。
だがこんなに状況を楽しんでいるジャッドを止めるのは至難の業だ。
隊長は色々と小言を言っていたが、全部突っぱねられていた。
しばらくするととうとう説得のネタが尽きたらしく、隊長は渋々首を縦に振るしかなかった。
「そこまで仰るなら……はぁ、かしこまりました。
ドラクロワ殿、絶対に何があっても王女を守ってくださいよ?」
「当たり前だ」
隊長はジャッドに敬礼すると、素早く外に出ていった。
次に彼女は侍女を呼ぶためのベルを鳴らし、アルマを部屋の中に招いた。
「お待たせ致しました、ジャッド様。
ご用件は何でしょう?」
「アデルにぴったりの服を用意してくれないかしら?
貴族の人が着るような、格式のあるやつをね。
あと彼の刀が隠せるデザインがいいかしら」
「……? 承知いたしました、すぐお持ちいたします」
アルマは一瞬首を傾げていたが、王女の命令に従った。
一旦彼女は部屋を出て、数分後に衣服を持って戻ってきた。
それはアデルが絶対着ないような、かなり高級なものでマントまでついていた。
流石に何にも説明せず命令されることに、アデルは苛立ちを感じていた。
「おい、ジャッド。
俺に何をさせる気だ?」
「ふふっ、内緒。
あなたはそれを着て、普通に過ごせばいいの。
出来ればそれっぽい振る舞いをしてほしいけど……
そこまでは要求しないわ」
「……ちっ」
ますます解せない。
ジャッドが人差し指を自分の口元に当てて愉快そうにしているから、猶更頭にくる。
でもジャッドがアデルのはるか先を考えているのは、今に始まったことではない。
いつも全てが終わればはっきりするし、それ相応の成果が返ってくる。
色々と言いたいことはあるが、ここは大人しくぐっと堪えることにした。
アデルにとって、かなりの苦痛ではあるが。
「ドラクロワ様、お隣のシャワールームに移動していただけませんか?
お着替えをお手伝いします」
「はぁ……俺をなんだと思っている?
俺は子供ではない、一人で着替えられる」
「かしこまりました。
ではここでお待ちしておりますので、お手伝いが必要でしたらお呼びください」
アデルは鼻で返事した。
アルマから服を受け取るとアデルは大きく息を吐き、渋々シャワールームに向かった。
その後、ジャッドは貴族に扮したアデルと一緒にガルニエを探し始めた。
彼女の立場なら彼を呼び寄せることはできる。
だがジャッドはそうしなかった。
ガルニエにわざわざ探してくれたという恩を売るつもりなのか、はたまた別の目的があるのか。
少なくとも、アデルには一切理解できなかった。
唯一分かることとしては、何かを企んでいることだけだ。
アデルは慣れない格好をさせられたせいでぎこちない歩き方をしていた。
最初はジャッドの命令だからと、渋々従っていた。
だがストレスがどんどん溜まっていき、限界を迎えそうになった。
「おい、そろそろ教えろ。
一体何を考えている?」
「悪いけど今は無理ね。
作戦の成功率をあげるためなの、我慢して頂戴。
大丈夫、うまくいけばすぐにわかるから」
「――くそが」
アデルはますます機嫌が悪くなった。
言動をそれっぽくしろと言われていないのが唯一の救いだった。
多分ジャッドはアデルには無理だと判断しただけかもしれないが。
周囲を警戒しつつも、アデルは早く終わってくれないかということだけ考えていた。
広間に出ると、遠くに4人の人物が集まっているのが見えた。
彼らは休憩用に置かれているソファに座り、何やら話し合っている様子。
内容は分からないが、雰囲気から察するに他愛のない雑談をしているようだ。
恰好を見ると、3人が軍服、残りの一人は普通のフォーマルな服装だ。
しかし、その軍人ではない男は怪物のようなお面をつけていた。
「あれがガルニエか……
ずいぶん変わった輩のようだな」
「あのお面は、物語に出てくる鵺っていう生き物を模っているんですって。
ヴェロニックから聞いた話、敵に素顔を知られないようにつけているらしいわ。
それが彼のアイデンティティとなっているけれど」
2人が彼らに近づくと、こちらを向くように座っていたガルニエが一番先に気づいた。
彼は挨拶をするためにゆっくりと立ち上がると、他の人達もジャッドとアデルの方を向く。
その後一人の軍人以外が全員立ち上がり、ジャッド達の方に体を向けた。
ガルニエと雑談していたのは、なんとレジェとエーベルだった。
そして、もう一人は――
「えっ!? オランド少将!?」
「ハロー、ジャッド様。
元気そうで何よりです」
オランドは他の3人が各々敬礼する中、椅子に座ったまま手に頭を添えた。
「すみませんねぇ。
前の戦いの後遺症で足を悪くしちゃって。
立ったり歩いたりするのが結構大変なんですよぉ」
そう言って、オランドは手元の杖をジャッドに見せびらかした。
彼は策略家で前線に戦うことはほとんどない。
それでもオランドは元々馬に乗って戦況を判断したりすることが多い。
この状態では、おそらくそういったことももうできないだろう。
「そうだったの……
ごめんなさい、私を庇ってこんなことに。
死地を彷徨ったって聞いたわ。
私が未熟なせいで、あなたを危険な目に合わせてしまって……」
「いえいえぇ、お気になさらいでください。
確かにこの前みたいな無茶は出来なくなりましたけどぉ、頭は無事ですから。
ボクはまだバリバリ働けますよ?
それにジャッド様をあの戦況で生還させたことが、ボクの唯一の戦果ですからねぇ」
他の3人が席に座った際、オランドはすごく誇らしげな顔をしていた。
それが彼女の罪悪感を吹き飛ばしてくれた。
ジャッドは4人が開けてくれたスペースに腰かけた。
もちろん、アデルもその輪の中に入った。




