◆006◆ボタンと可能性
「戻って来れたのか?」
モクジは手脚を確認するよりも先に、ステータスウインドウを確認する。
「経験値は—— あるな、よっしやぁ!」
セーフポイントよりも先の区画に進んでも、死んで帰れる事が分かった。
スキル【痛覚無効】もレベルが上がり、死ぬ事も苦では無くなってきたが、それでもまだ恐い。
「ケイト…… あいつ、ぜってー俺らの事を助けずに見てたよな?」
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「あ! あっぶねぇ!」
カウントダウンを思い出して、慌ててモクジはボタンを押す。
ガゴン!!
「—— 助けてくれたの? ありがとう……」
モクジが殺された後、ケイトは残ったゴブリンを瞬殺した。
初めて見る【鉄の剣】に戸惑いはしたが、ケイトの動きにゴブリンはついて来れずに呆気なく倒される。
ジルを助けたつもりは無く。
あわよくば【鉄の剣】を手に入れたいくらいに考えていた。
「じゃあ……ボク、急ぐんで……」
ケイトはその場を気まずそうに離れようとするが、ジルがそれを許さない。
ケイトも本気で逃げれば逃げる事は出来ただろうが、モクジの事が—— 死んだらどうなるかが気になり立ち止まる。
「パーティーのさぁ……」
「何よ!」
「いや、モクジの表示ってどうなってる? 組んでたんだろ? パーティーを」
「モクジ? ケイトが見殺しにしたんじゃ無い!」
『そうか。この女は、一度も死んで無い、もしくは死んだ記憶が無いから理解出来ないか——』と、思い至り。
「僕とパーティーを組まないか?」
「どうして私があんたと!」
言って、ジルは言葉を飲み込む。
「本当に? 守ってくれるの?」
それは、少し違った。
守りたいからでは無く。
パーティーとして、何が出来るのか、何が起こるのかを知って起きたかった。ただそれだけだったのだが。
それでも、強制的にケイトのスキルはジルに適用される。それだけでも十分に効果はあり、ケイトはまだ知らないが、レベル15とレベル3で、経験値を共有する事によるパワーレベリングは圧倒的な効力を発揮する事になる。
「ゴブリンはどっちから来たか分かります?」
「守ってくれるの? って、聞いてるの!」
「……守りますよ」システムが——。
「言ったからね! 絶対だからね! 裏切ったら許さないからね!」
パーソナルスペースが極めて狭いジルは、カイトに詰め寄る。
スタート時の基本装備は、皆等しく同じで。
防具【薄いズボン・薄いシャツ】
武器【木の棒】
装飾【無し】
道具【布袋】
薄いズボンは黒のスキニーパンツの様で。
薄いシャツは安物の白いTシャツの様で。
下着はパンツさえ履いて無い事は、カイトは事前に確認しており。そうなると、他の下着も着けてない事は明白で。
事前に上半身裸の、モクジの姿を確認した事から、衣服も耐久値が下がる事は理解した。
それにも関わらず目の前の少女は、蒼い髪を乱れさせて、ほぼゼロ距離で問いただして来る。
こいつは、色々な意味で危険だと感じ、即座に『守りますよ——』とは、言ったが。本心では無いので、それはシステムがと自分自身に言い訳をした。
「それよりもゴブリンはどっちから?」
たわわな乳房がケイトに触れるかどうかという所にあり、それから目線を逸らした先に、ジルの細く長い指が伸びる。
「え? 緑色のだったら、あっちの角から来たよ!」
「良いですか? ジルさん? あなたのステータスはボクのスキルで補償されます」たぶん。
「だから、安心して後方を警戒しながら、何かあれば声を上げてついてきて下さい」何かあれば、全力で逃げますが。
「分かったわよ! それよりも、カイトはどうしてそんなに急に敬語なのよ」
「あなたが怖いからですよ」色んな意味で。
「ちょっとー! 怖いってどういう——」
二人が仲良く会話を続けるには、迷路は危険な場所で、後方から早くもスライムが複数ポップアップして。
「ちょっと! アレどうにかして」
「大丈夫—— です。酸に触れても耐性スキルで何も起きないので、安心して倒して下さい」
「倒すって? 私が?」
「そうです。アレくらいだったら脅威にもならないから、やってみて下さい」死んでも知りませんが。
「エイッ!」—— と、繰り出されたジルの棒術は流れる様で、華麗で、見とれる程に綺麗だった。
直前まで愚痴を溢していた人物とは、まるで別人の様で。
「はぁー。疲れたぁー」
「ジルさん! ここに来る前は何をしていたんですか?」
レベルによる、ステータス補正があったとしても、その型まではすぐには身に付かない。
バク転をする筋力があっても、練習をしないと出来ない様に。
モクジはセーフポイントで、忍者と称して色々と練習を重ねた結果、俊敏な動きを身につけていた。
「えっ? 何?」
「ここに、来る前は。何をしてましたか?」
「そんなの……覚えて無いわよ。ケイトは覚えてるの?」
覚えていない。
モクジの事を内心バカにしていた。
セーフポイントで、そんなモクジ以外の誰かを待っていたが、ただ待つだけの日々は得策では無く。
実際に忍者の真似事を試して見ると、バク転・バク宙・壁走り・垂直木登り等を、モクジが苦戦する真横で、ケイトはアッサリと出来てしまった。
レベル差による補正はあったが、その動きを身体が覚えていた事に疑問が残っていた。
そして、ジルの動きを見て確信する—— セーフポイントまで辿り着いた三人がたまたま辿り着いたのでは無く、トイレの個室に詰め込まれた人は多く居て、自分達は選ばれたという事を。
モクジにしても、考え方は大変におめでたいが、戦闘センスの高さは認めていた。
ジルにしても、チートスキルは納得出来ないが、複数のスライムを瞬殺出来る動きを見ていて、ただの少女で無い事は分かった。
モクジが戻るのを待つか。
ジルと共に先に進むか。
いつ来るか分からない第三者を待つか。
ケイトは三つの選択肢から、先に進む事を選択した。
「ジルさん—— モクジは生きてるから、俺達は先に進もう」
「嫌よ! 私は騙されない!」
『何を根拠にこの女は——』 と、面倒になりながらもセーフポイントのボタンの例もあり、この先一人では進めない事も十分に可能性としてある事を考えた上でケイトはジルに告げる。
「一緒に来るかは任せます。俺は行きます」
「ちょっと! 待ちなさいよ——」
足を止めようと、ケイトの正面に回って、ジルは息を飲む。




