◆004◆ボタンを押せば次に進める?
「パーティーメンバーのスキルを全てコピー出来るって」
深紅の双眸で、ジルのステータスウインドウを見つめるケイト。
他人のウインドウは見る事が出来ないから、説明を聞く事しか出来ないのだが。
真夏の空の様に、澄んで綺麗な蒼い瞳を輝かせて、ジルは首を傾げる。
「何みてるの?」
黒い短髪を掻きむしり、黒い眼まなこを細めて「詳しく説明しろよ—— 」と、モクジはケイトに詰め寄る。
「簡単な事だよ。僕達が苦労して手に入れたスキルは210秒…… たったの210秒でここまで辿り着いた…… 偶然辿り着けたジルも使う事が出来ると言う事ですよ! 分かりました?」
「あ、おまえ今、ぜってー俺の事馬鹿にしただろ?」
「して無いです。はぁーーー」
ケイトは、焼き上がった魚を持ち、その場から立ち去った。
「怒らせちゃったかな?」
「うーん。俺もあいつの事はよく分からんけど、いつもあんな感じだったから気にしないで。それよりも、魚食うか?」
ニコっと笑うと、ジルは蒼い髪を風に泳がせてモクジの横に座る。
「私、ジルって言うの。よろしくね」
「お、おう! よろしくな」
—— それから暫くの間、他の者が現れるまで、セーフポイント内を捜索したり、訓練をして時間を過ごしたが、ジル以降に誰かが現れる事は無く。
「しょうがねーな。行くか?」
「遅すぎるくらいですね…… でも、チートさんがいますし、問題ないでしょう?」
「チートさんって、私の事?」
「そうです。不正の様なプログラムの事を言うんです」
ケイトとジルはお互いに納得のいかない様子で、迷路の先へと進む境界線の前に立つ。
5つの内の、3つのボタンを三人で同時に押す事で扉は開いた。
ステータスウインドウには、いつのまにか【パーティー】の項目が追加されていて。
この先も個人で行くのか、パーティーで行くのかについて揉めている。
「せっかくこんなに待ったんだからよぉ。パーティー組もうぜー」
「僕は絶対に嫌です! 一人で行きます」
「死んだらどうすんだよ? ここから先も助かるとは限らないんだぞ!」
セーフポイントを挟んでるとは言っても、基本的なシステムは変わらないと確信するカイト。セーフポイントで待っていたのは、こんな根性だけの粗暴な男では無く。ましてや、偶然で辿り着いて【創造神の祝福】などという、チートスキルを持った少女では無く。
「どうして僕じゃ無いんだ……」
と、アイテム【木の棒】を見つめて呟く。
「待て!おい!どこ行くんだ!」
迷路に向かって走り出すカイトを、追い掛けようとするモクジを、ジルが抱き着いて止める。
「ちょっと。か弱い乙女を置いてどこ行くのよ!」
「……仕方ねーな。俺とパーティー組むぞ!」
「パーティー?」
ジルは教えられるままに、パーティーを組んだ。
モクジの現在のスキル——
【痛覚無効Lv1】
【酸耐性Lv1】
【斬撃耐性Lv1】
【空腹耐性Lv3】
それらが、ジルに共有される。
「空腹耐性って言っても、我慢が出来るくらいで何も食べないと動けなくなるから、おまえは荷物持ちと、後方支援な」
「分かった。けど——」
「どうした?」
「トイレはどうしたら良いの?」
「心配するな。RPGにトイレは無い!!」
説明不足も甚だしい。
ゲームなどやった事も無く。
ましてや、異世界転生物なのど、読んだ事も、見た事も無いジルには何が何やら分からずに。
「そんな膨れるなよぉ。行きながら教えてやるから——」と、その説明もゲーム用語など、分からない単語を並べて話して来る為に、ジルの苛立ちは募るばかりで。
それでも、時折現れるスライムを簡単に倒すモクジの姿は頼もしかった。
「あいつ、どこまで行ったんだー?」
真っ白な迷路には、朝も夜も無く。
ひたすらに白い世界が広がるだけで。
セーフポイントであれば、謎の天井が時間の経過を星空や青空を映し出し教えてくれるのだが。
時間の経過は、腹の減り具合で感じるしか無いのだが、それさえも【空腹耐性】で狂っている。
「どこまで行ってもスライムばっかりだな」
ジルにはモクジが、なぜそう言って笑っているのかが理解出来ず。
「そーだ!おまえレベルはどうなってる?」
言われるがままに確認をすると。
「【レベル2】になってる!」
「だよなー。やっぱりパーティーで経験値は分配されてるんだ」
フムフムと、一人で納得するモクジの顔を叩はたきたい衝動を抑えてジルは説明を求めた。
「——それで、モクジのレベルは?」
「俺は今、5だ!」
「それで、ケイトは?」
「あいつは、確か15って言ってたなぁ」
「言ってたなぁ…… じゃ、無いのよ! どうして一人で行かせたのよ!」
「だから、追い掛けようとしたら、おまえが俺を止めたんだろ?」
何が起きているかも分からない、ジルのストレスは頂点に達してモクジに詰め寄り、胸元を掴む。
セーフポイントの宝箱から手に入れた【布の服】の耐久値はあっという間に下がり切って、丸い粒のエフェクトを伴って消失した。
「おまえ! 何て事するんだ!」
「酷い! 変態!!」
勢い余って、モクジはジルを押し倒す。
貴重な防具が消失して、泣きたいのは自分の方なのに、押し倒された少女は被害者の様に涙を流していて。
「悪かった…… わざとじゃ無いんだ……」
と、自分の感情を抑えて、差し出した手は拒絶される。
「もう私に構わないで!」
スライムのポップアップは、規則性が無かった。時間によるランダムポップだと、結論付けていたモクジとカイトだったが、それとは別にポップアップする仕組みがあり。
立ち上がり、モクジから離れようとするジル。それを追い掛ける事もせずに、憐れむ様に見送っていると、迷路の角を曲がった所から、全力でジルが走って戻ってきた。
「どうした? どうした?」
「助けて。ごめんなさい。私が悪かったから助けてー!」
ジルが指を挿した、迷路の角からは、緑色の醜悪な小鬼が現れた。
その手に持っているのは、モクジ達が持つ【木の棒】などとは比べ物にならない程に強そうな、鋭利な金属の刃が光る【木の槍】だった。
「ゴブリン……」




