第七話 六つ目の奇跡
ガーディアン・アルファが完全に停止すると、ボス部屋に静寂が戻った。
焦げた金属の匂いだけが漂う。
その中央で。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
立て続けに六つの音が響いた。
「えっ……。」
シルヴィアが目を丸くする。
土煙の中から、六つの宝箱が姿を現していた。
「宝箱……。」
「六個も?」
司も思わず固まる。
「六個……?」
あり得ない。
ゲームではガーディアン・アルファの宝箱は一人につき三個。
二人なら六個。
そこまでは合っている。
「つまり……。」
思わず苦笑する。
「ちゃんと人数分判定されるのか。」
シルヴィアは首を傾げた。
「人数分?」
「あとで説明する。」
司は宝箱へ近付いた。
「まずは開けよう。」
一つ目。
カチリ。
蓋を開く。
白い光が溢れ、中から十枚の透明な結晶が現れた。
【追加メモリー ×10】
そして、その下には青く輝く宝石。
【サファイア ×100】
「当たりだ。」
司が頷く。
「追加メモリーだ。」
「メモリー?」
「あとで使う。」
今は説明している暇はない。
二つ目を開ける。
【追加メモリー ×10】
【クリスタル ×100】
「また当たり!」
シルヴィアが嬉しそうに声を上げた。
三つ目。
【追加メモリー ×10】
【ダイヤモンド ×100】
「ダイヤまで……。」
司は目を見開いた。
序盤としては十分すぎる。
残る二つはアクセサリーだった。
赤いマフラー。銀のモノクル。
「昔は見た目を気にしながら能力を盛るために、みんな集めてた。」
シルヴィアは両方とも羽織ってみて、楽しそうに笑った。
最後。
六つ目。
箱を開けた瞬間。
ふわり、と白い布が宙へ舞った。
長いうさ耳。
白いケープ。
内側には淡い水色の刺繍。
「わぁ……!」
シルヴィアが思わず駆け寄る。
「かわいい!」
司も息を呑んだ。
「……嘘だろ。」
視界へ表示が浮かぶ。
【追加メモリー ×10】
そして…
【ラビットケープ】
【レアドロップ率+50%】
「出た……。」
思わず頭を抱える。
「どうしたの?」
シルヴィアが不思議そうに見上げる。
「それ。」
司は真剣な顔になる。
「絶対になくすな。」
「え?」
「激レアだ。」
正式サービスでも、なかなか出なかった。
何百周。
何千周。
ようやく手に入るプレイヤーも珍しくなかった。
「そんなにすごいの?」
「ああ。」
司は頷く。
「名前はラビットケープ。」
「でも誰もそんな名前じゃ呼ばなかった。」
「え?」
「ウサケ。」
「ウサケ?」
「略称。」
シルヴィアは思わず吹き出した。
「変なの。」
「昔はみんなそう呼んでた。」
「『ウサケ持ってる?』とか。」
「『ウサケ出た!』とか。」
「『今日もウサケ出ない……』とか。」
懐かしい。
サービス終了まで毎日のように飛び交っていた言葉だった。
シルヴィアはケープを肩へ羽織る。
白いうさ耳が頭の後ろで揺れた。
アリスをモチーフにしたガールズフレームとの相性は抜群だった。
「どう?」
くるり、と一回転する。
「……似合う。」
司は素直に頷いた。
「そのまま着けてろ。」
「ほんと?」
「その装備は性能も最高クラスだ。」
「かわいくて強い。」
「お前にぴったりだ。」
シルヴィアは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、ずっと着ける!」
その笑顔を見ながら、司は六つの宝箱を見渡す。
追加メモリー六十枚。
宝石三百個。
レアアクセサリー三つ。
ゲームでも十分な大当たりだった。
だが。
「やっぱり……。」
司は静かに呟く。
「ゲームと同じところもあれば、違うところもある。」
エンペラードローン。
壊滅した村。
そして、この世界。
ゲームの知識だけを信じ切るには、まだ不安が残る。
それでも。
手の中には確かな成果があった。
「帰ろう。」
「ガレージで整理する。」
「うん!」
シルヴィアはウサケの耳を揺らしながら元気よく頷く。
二人は六つの宝箱の中身をアイテムバッグへ収め、静かになったスクラップ遺跡を後にした。
その時だった。
ふと、両親のことが頭をよぎる。
Scrap判定。
あの端末の文字だけは、まだ頭から消えない。
今は悲しんでいる場合じゃない。
そう思うたびに、胸の奥で何かが重くなる気がした。




