第八話 力の分配
初心者ガレージへ戻る頃には、夜もすっかり更けていた。
白い照明が静かなガレージを照らしている。
シルヴィアは整備台へ腰掛け、大きく伸びをした。
「今日はいっぱい戦ったね。」
「ああ。」
司はアイテムバッグを開く。
中から取り出したのは、六十枚の追加メモリーだった。
透明な結晶が整備台へ並べられる。
「これ全部使うの?」
シルヴィアが目を丸くする。
「もちろん。」
司は頷いた。
「ガーディアン・アルファを倒す一番の目的は、これだからな。」
ガレージ端末へ追加メモリーを置く。
画面が静かに起動する。
【Additional Memory】
【対象を選択してください】
「まずは俺。」
デモンフレームを選択すると能力一覧が表示された。
【攻撃/防御/反応/命中/移動速度/レアドロップ/クリティカル】
司は迷わず反応へ十個投入する。
【反応能力が上昇しました】
続いて、
【命中】
へ十個。
【命中能力が上昇しました】
デモンフレームが一瞬だけ青白く輝く。
軽く腕を動かす。
「……速い。」
身体が思考へ吸い付くようについてくる。
照準を合わせる感覚も、わずかに鋭くなっていた。
「これが追加メモリーか。」
満足そうに頷く。
残り四十個。
「次はお前だ。」
「私?」
シルヴィアが少し緊張しながら前へ出る。
ガールズフレーム・アリスを選択する。
「アリスは遠距離向きだ。」
司は画面を操作した。
【命中】
へ十個。
【命中能力が上昇しました】
さらに、
【反応】
へ十個。
【反応能力が上昇しました】
「これで撃ちやすくなる。」
「本当?」
「きっと違いが分かる。」
シルヴィアは嬉しそうに微笑んだ。
残る追加メモリーは二十個。
司は少しだけ考え込む。
「使わないの?」
「いや。」
司は首を振った。
「次のボスでまた手に入る。」
「だったら、今使えるものは使ってしまおう。」
最後の二十個。
司は
【レアドロップ】
へ十個。
シルヴィアも
【レアドロップ】
へ十個。
【レアドロップ能力が上昇しました】
「これで次から宝箱の中身にも期待できる。」
シルヴィアは首を傾げる。
「宝箱って、中身も変わるの?」
「ああ。」
「レアアクセサリーも、宝石も、全部運次第だ。」
「だからレアドロップは腐らない。」
ガレージ端末が静かに終了する。
司はアイテムバッグから宝石を取り出した。
サファイア。
クリスタル。
ダイヤモンド。
照明を受け、美しく輝いている。
「売る?」
シルヴィアが尋ねる。
「売りたいけどな。」
司は苦笑した。
ガレージの外を見る。
見渡す限り鉄屑の世界。
「この星じゃ宝石を買える奴なんていない。」
鉄や部品なら売れる。
だが宝石は違う。
「次の惑星まで持って行こう。」
「砂漠惑星なら商人も多い。」
「そこで換金すればいい。」
幸い、アルファドローンを倒して貯めたダラーで、シャトル代くらいは十分払える。
「じゃあ準備は終わり?」
シルヴィアが笑う。
司も笑い返した。
「いや。」
「もう少し強くなる。」
「え?」
「ガーディアン・アルファを周回する。」
シルヴィアは思わず苦笑した。
「また?」
「ああ。」
「追加メモリーは確定だからな。」
「今のうちに集められるだけ集める。」
次の惑星は資源を巡る紛争地帯。
ゲームでは何度も訪れた。
だが、この世界ではどうなっているか分からない。
ゲームに存在しなかったエンペラードローン。
その存在だけで、ゲーム知識は絶対ではなくなった。
だからこそ。
強くなれる時に、強くなる。
「明日も忙しくなるぞ。」
「うん!」
シルヴィアはラビットケープのうさ耳を揺らしながら笑った。
「頑張ろう、お兄ちゃん!」
その笑顔を見ながら、司はふと遺跡の方角を見た。
何かが、引っかかる。
うまく言葉にできない、小さな違和感。
気のせいだろう。
そう思うことにした。




