第六話 終わらない物量
スクラップ遺跡の奥は、不気味なほど静かだった。
足音だけが、錆び付いた通路へ反響する。
崩れた配管。
天井から垂れ下がるケーブル。
壁には、数百年前に人類が残した警告表示が薄っすらと残っている。
「……この先だ」
司は迷うことなく進む。
通路の構造は頭に入っている。
曲がり角を抜ける。
その先に、巨大な扉が姿を現した。
高さ十メートルほどの鋼鉄製ゲート。
中央には歯車を模した紋章が刻まれている。
「ここが……?」
シルヴィアが見上げる。
「ああ。気を付けろ。」
司はビームガンを構えた。
「この先は、今までとは違う。」
扉へ手を触れる。
ゴゴゴゴゴ……
重々しい駆動音とともに、巨大な扉が左右へ開いていく。
広い円形の空間。
だが、以前とは様子が違っていた。
天井や壁の一部が崩れ、その隙間から淡く発光する青いクリスタルが群生している。
機械の遺構と自然の洞窟が、長い年月をかけて融合したような光景だった。
「……こんな場所、あったか?」
司は眉をひそめる。
知っているはずの場所なのに、知らない。
その違和感を覚えながらも、視線を中央へ向ける。
そこだけが照明に照らされていた。
一体の巨大な機械が立っている。
全高四メートル。
両腕は巨大なシールド。
胸部には赤く輝くコア。
頭部には一本角。
視界へ赤い文字が浮かぶ。
【Guardian Alpha】
Lv.10
「やっぱりいた。」
司がビームガンを構えた瞬間。
ガーディアン・アルファの目が赤く光った。
ギィィィ……
両腕が展開する。
内部からゼリー状の物体が次々と吐き出された。
ぼとり。
ぼとり。
ぼとり。
床へ落ちたそれは、一瞬で人型へ変形する。
アルファドローン。
一体。
二体。
五体。
十体。
「うわっ……!」
シルヴィアが息を呑む。
「まだ増える!」
「こいつは本体より、あっちが厄介だ!」
司は周囲を見渡した。
アルファドローンの発生口。
数を減らしても、すぐに次が出てくる。
「シルヴィア!」
「右を任せる!」
「うん!」
アルファドローンが一斉に飛び掛かってくる。
「撃て!」
パンッ!
ビームが一直線に走り、先頭のアルファドローンを装甲ごと焼き切った。
一撃。
続けて二発、三発。
Quality MAXのビームガンなら、装甲を正面から撃ち抜ける。
「すごい!」
シルヴィアも引き金を引く。
ビームが命中し、アルファドローンが崩れ落ちた。
「一発で倒せる!」
「焦るな!」
司が叫ぶ。
「敵じゃない!」
「次に出てくる場所を見ろ!」
その瞬間。
床の発生口が開いた。
「そこだ!」
シルヴィアが反応する。
パンッ!
出現したばかりのアルファドローンが撃ち抜かれた。
「できた!」
「その調子だ!」
二人は距離を取りながら撃ち続ける。
倒す。
湧く。
倒す。
また湧く。
いくら撃っても、数が減り切らない。
「お兄ちゃん!」
「分かってる!」
司は歯を食いしばる。
「本体を止めないと終わらない!」
ガーディアン・アルファは、こちらを見下ろしたまま動かない。
だが、その胸部では赤いコアが明滅している。
「まず雑魚を減らす!」
司が一体を撃ち抜く。
「シルヴィア、道を開けろ!」
「分かった!」
二人の射撃で群れを押し返す。
その瞬間。
ガーディアン・アルファが動いた。
「来るぞ!」
巨大な腕が持ち上がる。
鋼鉄の拳が振り下ろされた。
ドォン!
床が砕ける。
シルヴィアが飛び退く。
「速い!」
「でも、直線的だ!」
司は攻撃の軌道を見切る。
横薙ぎ。
叩き付け。
踏み潰し。
大振りな攻撃ばかりだ。
「今だ!」
拳が床へ叩き付けられた瞬間、胸部が大きく開く。
赤いコアが露出した。
司は迷わず引き金を引く。
青白いビームがコアへ突き刺さる。
「シルヴィア!」
「うん!」
二本のビームが同時にコアを撃ち抜く。
ガギンッ!
亀裂が走った。
ガーディアン・アルファが大きくのけ反る。
「まだだ!」
司が撃つ。
シルヴィアも続く。
一発。
二発。
三発。
コアの亀裂が広がっていく。
そして――。
轟音と共に巨体が崩れ落ちた。
床が揺れる。
土煙が舞い上がる。
静寂。
それまで蠢いていたアルファドローンも、一体残らず停止していた。
「……勝った。」
シルヴィアがその場へ座り込む。
司もゆっくり息を吐いた。
「危なかったな。」
「うん……。」
シルヴィアが周囲を見回す。
「でも、倒せた。」
「ああ。」
司は頷いた。
「二人でも、ちゃんと戦える。」
今の装備なら、この先へ進める。
だが、今回の戦闘で分かったこともある。
この世界では、知識だけを頼りにするのは危険だ。
遺跡の構造も。
敵の挙動も。
以前知っていたものと完全に同じとは限らない。
司は崩れ落ちたガーディアン・アルファを見る。
「……次からは、もっと慎重に行こう。」
その時だった。
ガコン。
部屋の中央で、何かが落ちる音が響いた。
司はゆっくりと顔を上げる。
土煙の向こう。
鈍く輝く宝箱が姿を現していた。
「……報酬か。」
司は立ち上がる。
輪ゴムから始まった装備も。
シルヴィアの新しい身体も。
ここまで来るために必要だったものは、すべて手に入れた。
だが、まだ始まったばかりだ。
司は宝箱へ歩き出した。




