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第七十話 迷宮攻略

アルカディア。


司たちは、クロム・ラビリンスの入口に立っていた。


巨大な門。


その奥には、暗い通路が続いている。


「……本当にここ?」


シルヴィアが見上げる。


「ああ」


司は端末に表示された地図を見る。


「間違いない」


アルマが入口周辺を確認する。


「天使軍の調査記録があります」


「どんな感じだ?」


「到達記録がかなり不規則です」


「五階で途切れている部隊もあれば、八階まで進んだ記録もあります」


「十三階まで到達した記録もありますが、その後の記録はありません」


司は記録を確認する。


「……これ、単純に実力不足ってわけじゃないな」


「どういうことですか?」


「このダンジョン、ハズレのルートを進むと入口に戻される」


「入口に?」


シルヴィアが驚く。


「ああ」


「しかも、戻されたって表示されない」


司は地図を見る。


「だから、自分たちがどこまで進んだのか分からなくなる」


アルマが記録を見直す。


「それなら、調査記録が一致しない理由も説明できますね」


「正解ルートは固定されてる」


司が続ける。


「一度覚えれば、次からは問題ない」


「ただし――」


司は仲間たちを見る。


「俺以外は、そのルートを知らない」


「……」


全員が黙った。


「じゃあ、お兄ちゃんについていけばいいんだ」


シルヴィアが苦笑する。


「そういうこと」


「……本当に大丈夫でしょうか」


アウラが不安そうに尋ねる。


「大丈夫だ」


司は門の奥を見る。


「ゲームの頃に何度も周回した場所だからな」


ステラが小さく欠伸をする。


「……昔から迷わなかった?」


「俺はな」


「……すごい」


「ゲームだから覚えてただけだ」


司が歩き出す。


「行くぞ」


「うん!」


シルヴィアたちも続いた。


◇ ◇ ◇


第一階層。


最初の分岐。


司は迷わず左へ進む。


「こっち」


「分かるの?」


「分かる」


さらに進む。


二つ目の分岐。


「右」


三つ目。


「左」


「本当に迷わないね……」


シルヴィアが感心する。


だが。


「……あれ?」


アウラが立ち止まった。


「どうしました?」


アルマが振り返る。


「こっちの道も、先に続いています」


「ハズレだ」


司が即答する。


「え?」


「入ってみるか?」


「いいんじゃない?」


シルヴィアが一歩踏み出す。


「待て」


司が止める。


「その先、敵がいる」


「……なんで分かるの?」


「覚えてるから」


「便利だね、お兄ちゃん」


司はため息をつく。


「便利というか、ゲームの記憶だ」


その時。


奥から地響きが聞こえた。


ゴゴゴ……。


「ほらな」


壁の向こうから、巨大なゴーレムが姿を現した。


「レベル28」


アルマが確認する。


「弱いな」


司が言う。


「でも、放っておくと面倒だ」


アルマが大型チェインガンを構える。


「私がやります」


一斉射撃。


ゴーレムの装甲が砕ける。


シルヴィアもビームを撃つ。


アウラとステラも雪玉を放つ。


数秒後。


ゴーレムが崩れ落ちた。


「……終わった」


シルヴィアが言う。


司は残骸を見る。


「この先へ進むと、入口に戻される」


「なら、倒さなくてもよかったんじゃない?」


「そうだけど、もう出てきたからな」


司は来た道を戻る。


「次」


◇ ◇ ◇


二階。


三階。


四階。


司は迷わず正解ルートを進んでいく。


だが。


「司」


アルマが呼び止める。


「何だ?」


「シルヴィアがいません」


「……え?」


司が振り返る。


「シルヴィア?」


返事がない。


「お兄ちゃん、こっち!」


遠くから声がする。


「何してるんだ!」


「だって、この道も行けそうだったから!」


司は頭を抱えた。


「そっちはハズレだ!」


「ごめん!」


「戻ってこい!」


シルヴィアが走って戻ってくる。


その後ろから、ゴーレムが三体追ってきた。


「……」


司が無言になる。


「ごめんなさい」


「倒すぞ」


「はい……」


戦闘が始まる。


一体。


二体。


三体。


全て倒す。


「……疲れた」


シルヴィアが肩を落とす。


「まだ四階だぞ」


「もう四階なんだよ」


「そういう考え方か……」


アウラが小さく笑う。


ステラは壁にもたれている。


「……眠い」


「お前は寝るなよ」


「……寝てない」


「目を閉じてるだろ」


「……考えてる」


「何を?」


「……眠ること」


「寝るな」


◇ ◇ ◇


六階。


七階。


八階。


階層が上がるにつれ、敵も強くなっていく。


ゴーレムだけではない。


大型機械。


装甲獣。


遠距離攻撃を行う敵。


「敵のレベルも上がってきたな」


アルマが確認する。


「それでも、まだ余裕はあります」


「そうだな」


司も答える。


このダンジョンでは、各階層に守護者が配置されている。


正解ルートを進むには、階層ごとの戦闘を避けて通れない。


探索。


戦闘。


分岐。


そして、時にはハズレルートの処理。


少しずつ、疲労が蓄積していく。


九階。


十階。


「……疲れた」


シルヴィアが呟く。


「まだ十階だぞ」


「だから疲れたんだよ」


司は苦笑する。


「300階あるんだからな」


「言わないで!」


シルヴィアが叫ぶ。


アウラも小さく息を吐く。


「……先は長いですね」


ステラは、


「……帰りたい」


と呟いた。


「まだ帰らない」


司が即答する。


「十二階までは行く」


「何かあるの?」


シルヴィアが聞く。


「クラッド・オブラグナロクが出る」


「それって、ミッドナイトが欲しがってたやつ?」


「ああ」


「じゃあ、そこまでは頑張ろう」


シルヴィアが少しだけ元気を取り戻した。


◇ ◇ ◇


十二階。


広い部屋。


中央には、一体の巨大な機体が立っていた。


【十二階の守護者】


「……来たか」


司が武器を構える。


守護者が動く。


巨大な腕が振り下ろされた。


「散開!」


全員が左右へ飛ぶ。


床が砕ける。


「速い!」


シルヴィアが叫ぶ。


アルマが大型チェインガンを撃つ。


アウラとステラが雪玉を撃ち込む。


司は守護者の側面へ回る。


「ここだ!」


攻撃。


装甲が砕ける。


だが、守護者も反撃してくる。


一撃。


二撃。


全員が回避する。


「アウラ!」


「はい!」


「足を狙え!」


「分かりました!」


アウラの雪玉が脚部へ集中する。


ステラも続く。


「……動き、止まった」


「今だ!」


シルヴィアのビーム。


アルマのチェインガン。


司の攻撃。


三方向から攻撃が集中する。


守護者の装甲が崩れる。


そして。


轟音。


巨体が床へ倒れた。


「……勝った」


アウラが息を吐く。


「やった!」


シルヴィアが喜ぶ。


ステラは、


「……疲れた」


と呟いた。


「お前も戦ってただろ」


「……した」


「そうだな」


司は苦笑した。


◇ ◇ ◇


守護者の消滅と同時に、奥の宝箱が開いた。


司が近付く。


中には一つのフレームが入っていた。


【クラッド・オブラグナロク】


「……これか」


司が手に取る。


黒を基調とした重厚なフレーム。


ゲーム時代、ミッドナイトが使い続けていた機体。


「約束したからな」


司は収納欄へ入れる。


「持って帰ろう」


「うん」


シルヴィアが頷いた。


◇ ◇ ◇


十三階。


十四階。


十五階。


そこから先は、敵の強さが明らかに変わった。


「レベル70……」


アルマが敵を確認する。


「こっちは72」


「もうそこまで上がったのか」


司が呟く。


階層が上がる。


敵も強くなる。


それに合わせるように、司たちのレベルも上がっていった。


六十一。


六十三。


六十六。


六十八。


戦闘を繰り返すうちに、獲得経験値も増えていく。


そして。


「……70」


司がステータスを確認する。


「お兄ちゃん、70になったの?」


「ああ」


シルヴィアも確認する。


「私も70」


「私もです」


アウラが頷く。


ステラも端末を見る。


「……70」


アルマも、


「私も70です」


全員がレベル70。


だが。


「……もう、きついな」


司が周囲を見る。


敵のレベルはさらに上がっている。


連戦。


探索。


守護者。


そして、時々ハズレルートに入りかける。


「このまま進めることはできます」


アルマが言う。


「ですが、消耗が大きすぎます」


司は少し考えた。


「……一度帰るか」


シルヴィアがすぐに頷く。


「賛成」


アウラも、


「私もです」


ステラは、


「……帰りたい」


「決まりだな」


司は来た道を振り返る。


「今日はここまで」


◇ ◇ ◇


アルカディア。


基地へ戻った司たちは、クロム・ラビリンスで得たデータをレオンへ渡した。


「十二階まで到達したか」


レオンが驚く。


「ああ」


司は地図を広げる。


「正解ルートは固定されてる」


「ただし、ハズレに入るとゴーレムが出てくる」


「倒した場合でも、その先は入口に戻される」


「なるほど」


レオンは頷く。


「なら、そのハズレルートを利用できるな」


「そう思ってる」


司が続ける。


「一階のハズレルートなら、レベル30未満のゴーレムしか出ない」


「ドロップは大したことない」


「でも実弾には弱い」


「マシンガンを装備した兵士なら、安全に倒せる」


レオンは少し考える。


「……訓練場にできるな」


「ああ」


「兵士がレベル60になるまで、一階を周回させる」


「60になったら、次の階層へ進ませる」


「これなら、後方の兵士も戦力を上げられる」


「そういうことだ」


アルマが入手したフレームを並べる。


「こちらも検証しました」


レオンが見る。


「ペネトレーションツールへの耐性か」


「ああ」


司が頷く。


「今回入手した高レベルフレームを複数調べた」


「結果は?」


アルマが答える。


「いずれも侵入処理に失敗しました」


「……やはりか」


「ただし、これだけでレベル60以上のフレームすべてに耐性があるとは断定できません」


「まだ調査が必要です」


レオンは頷いた。


「それでも、軍にとっては大きい」


「研究を続けよう」


「ああ」


司は一つのフレームを見る。


クラッド・オブラグナロク。


「これはミッドナイトに渡す」


「分かった」


レオンも頷く。


「それ以外のフレームは?」


「軍で研究に使ってくれ」


「了解した」


◇ ◇ ◇


その日の夕方。


ミッドナイトが基地へやってきた。


「……本当に手に入れたのか」


クラッド・オブラグナロクを見る。


「ああ」


司が渡す。


ミッドナイトはしばらく黙って、フレームを見つめていた。


「……懐かしいな」


「そんなに気に入ってたのか?」


「サービス終了まで、ずっと使ってたからな」


ミッドナイトが小さく笑う。


「もう一度見るとは思わなかった」


「使うのか?」


「ああ」


ミッドナイトは頷いた。


「今の俺が、もう一度これに乗れるかは分からないけどな」


司は少しだけ笑う。


「乗ればいいだろ」


「……そうだな」


ミッドナイトはフレームを受け取った。


◇ ◇ ◇


その後。


天使軍では、クロム・ラビリンス一階の周回訓練が始まった。


レベルの低い兵士たちが、マシンガンを装備してゴーレムを狩る。


一体。


二体。


十体。


少しずつ経験値が積み重なっていく。


「これなら、安全に鍛えられる」


レオンが訓練状況を確認する。


「戦争が続く限り、兵士の育成は重要だ」


そして。


クロム・ラビリンスの攻略記録も、正式に軍のデータベースへ登録された。


司はその記録を見る。


十二階まで。


その先は、まだ未知。


「……300階か」


司は地図を閉じた。


「次は、もっと先まで行くか」


シルヴィアが笑う。


「うん」


アウラも頷く。


「次は、もっと頑張ります」


ステラは欠伸をする。


「……今度は寝てから行く」


「それがいい」


司は苦笑した。


クロム・ラビリンス。


司たちの攻略は、まだ始まったばかりだった。


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