第六十九話 思い出のフレーム
アルカディア。
エデンとオルビスの戦争が始まってから、数日が過ぎていた。
司たちはエデンから戻り、次の行動を決められないまま基地で待機していた。
ネメシアへの航路は、まだ閉鎖されている。
「……暇だな」
司が端末を閉じる。
「情報を待つしかないとはいえ、何もできないのは落ち着かない」
「仕方ありません」
アルマが答える。
「現在は軍も対応に追われています」
シルヴィアも頷いた。
「次に動けるまで、少し待つしかないね」
その時。
「お前ら、まだここにいたのか」
聞き覚えのある声がした。
司が振り返る。
「……ミッドナイト?」
避難区域の方向から、ミッドナイトが歩いてくる。
「久しぶりだな」
「お前、アルカディアにいたのか」
「ああ。エデンから逃げてきてな。しばらくここで働いてる」
「また逃げたのか?」
「死ぬのは一回で十分だよ」
ミッドナイトは苦笑した。
司はそれ以上、何も言わなかった。
◇ ◇ ◇
「そういえば、お前らレベルいくつだ?」
「60」
「……60?」
ミッドナイトが目を丸くする。
「もうそこまで上がったのか」
「ノルドで周回してたら、そこまで上がった」
「なるほどな」
ミッドナイトは少し考える。
「なら、クロム・ラビリンスに行ってみたらどうだ?」
「クロム・ラビリンス?」
司は少し考えた。
以前、アルカディアに来たばかりの頃にも、その名前を聞いたことがある。
当時は、敵の強さと複雑な構造から、まだ自分たちには早いと判断した場所だ。
「……あの時とは、状況が違うな」
「そういうことだ」
ミッドナイトが頷く。
「あそこは今でも難しい。ただ、お前らなら挑戦する価値はある」
「何かいいものでも出るのか?」
「出る」
ミッドナイトの目が少し変わった。
「クラッド・オブラグナロク」
その名前を聞いた瞬間、ミッドナイトの表情が少し変わった。
「ゲームのサービス終了まで、ずっと使ってたフレームなんだ」
「思い入れがあるのか?」
「ああ」
ミッドナイトは頷く。
「だから、もし手に入ったら俺に売ってくれ」
「いいぞ」
司は即答した。
「使わないなら売る」
「助かる」
ミッドナイトは嬉しそうに笑った。
◇ ◇ ◇
「それと、もう一つ話がある」
ミッドナイトが端末を取り出した。
「最近、フレームについて調べてる」
「何か分かったのか?」
「ペネトレーションツールへの耐性についてだ」
司の表情が変わる。
「一部のフレームは、構造そのものが違う」
「その中には、ペネトレーションツールによる侵入が確認できないものがある」
アルマが尋ねる。
「構造によって耐性が変わる?」
「そういうことだ」
ミッドナイトは画面を切り替えた。
「さらに調べてみたら、レベル60以上のダンジョンでドロップするフレームに、その特徴を持つものが多かった」
「多かった?」
「今まで調べた範囲では例外がない」
ミッドナイトは端末を見ながら続ける。
「だから、レベル60以上のダンジョンでドロップするフレームには、デフォルトでハッキング耐性が付いている可能性が高い」
司が腕を組む。
「クロム・ラビリンスのフレームも?」
「そういう可能性がある」
「まだ仮説だけどな」
「それでも、軍にとっては重要な情報ですね」
アルマが言う。
「実際のフレームで確認できれば、防御手段として利用できるかもしれません」
「そういうこと」
ミッドナイトは端末をしまった。
「だから、クロム・ラビリンスに行くなら、その辺りも調べてみてくれ」
「分かった」
司は頷いた。
「クラッド・オブラグナロクが出たら、お前に渡す」
「そっちも頼む」
ミッドナイトは笑った。
「本当に欲しいんだな」
「当然だろ」
◇ ◇ ◇
司はそのままレオンのところへ向かった。
「クロム・ラビリンス?」
「ああ」
司はミッドナイトから聞いた話を説明する。
「レベル60以上のダンジョンでドロップするフレームに、ペネトレーションツールへの耐性がある可能性が高い?」
「まだ仮説だ」
「実際に確認してみないと分からない」
レオンはしばらく考えた。
「……それでも、確認する価値はある」
端末にクロム・ラビリンスの地図が表示される。
「ここは以前から攻略対象になっている」
「だが、軍だけでは奥まで進めていない」
「なら、俺たちが行く」
司が言った。
「あの頃とは違う」
「レベルも上がったし、今なら挑戦できる」
レオンは頷いた。
「頼めるか?」
「ああ」
「まずはお前たちが先行して、安全なルートを確保してほしい」
「その後、少人数の兵士を送り込む」
「実戦経験を積ませるわけか」
「そうだ」
レオンが答える。
「現在、後方基地にはレベルの低い兵士が多い」
「戦争が長引けば、彼らも前線へ出る可能性がある」
「その前に、少しでも経験を積ませたい」
司は地図を見る。
「分かった」
「それと、ダンジョンで入手したフレームは軍でも調査する」
「特にレベル60以上のダンジョン産フレームについては、ハッキング耐性を確認したい」
「了解」
司は頷いた。
「使わないフレームなら、軍に渡す」
「助かる」
レオンが少し笑う。
「クラッド・オブラグナロクだけは?」
「ミッドナイトに売る」
「そうだったな」
レオンも苦笑した。
司は地図を見つめる。
クロム・ラビリンス。
以前は手を出せなかった場所。
今度は、レベル60の自分たちが挑む。
しかも、その奥にはペネトレーションツールへの対抗手段になるかもしれないフレームが眠っている。
「……久しぶりに、ちゃんと攻略するか」
シルヴィアが笑う。
「うん」
アウラも頷いた。
「頑張ります」
ステラは欠伸をする。
「……眠い」
「お前はいつもそれだな」
「……でも行く」
アルマが静かに言った。
「準備を始めましょう」
「ああ」
司は端末を閉じた。
次の目的地は、クロム・ラビリンス。
戦争の行方を待つだけではない。
今できることを、一つずつ進める。
司たちは、そのための準備を始めた。




