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第六十八話 引き返せない理由

翌朝。


エデンでは、昨夜の事件による混乱がまだ続いていた。


司たちは港の被害状況を確認していた。


「Parrotの痕跡は、ほとんど残っていません。」


アルマが端末を確認する。


「ですが、爆発直前に別のアクセス記録があります。」


「Parrotとは違うのか?」


「侵入経路が異なります。」


司は黙った。


「……昨日の爆発については、まだ何も分からないってことだな。」


「はい。」


「なら、今は追わない。」


司は視線を港へ向ける。


「別の問題がある。」


アルマが頷く。


「金融システムですね。」


◇ ◇ ◇


司たちはレオンと通信を繋いだ。


『金融システムへの攻撃について、追加情報が出た。』


画面に大量の送金記録が表示される。


『盗まれた資金の一部が、複数の惑星へ流れている。』


「どこだ?」


『オルビス連合側の惑星が多い。』


司の表情が変わる。


「……オルビスか。」


『ああ。』


「それなら、犯人はオルビスじゃないのか?」


『まだ断定できない。』


レオンは即答した。


『送金先がオルビス側というだけで、オルビスが実行した証拠にはならない。』


『口座を経由させているだけかもしれないし、第三者が意図的にオルビス側へ流している可能性もある。』


「でも、今の状況で一番得をするのは……。」


『オルビス連合だろうな。』


レオンが続ける。


『ただし、それは現時点での推測にすぎない。』


司は画面を見る。


「数百億ダラーが動いてるんだよな。」


『そうだ。』


「そもそもダラーって、エデンが発行してる通貨なのか?」


『いや。』


レオンは首を振った。


『ダラーは、人類が残した共通規格の通貨だ。』


『モンスターからも共通してドロップするし、多くの惑星で通用する。』


「じゃあ、エデンの金ってわけじゃないのか。」


『違う。』


『ただ、エデンには最大規模の金融機関があり、ダラーを最も安定して扱える場所の一つなんだ。』


『それに、ダラーは単なる貨幣でもない。』


司が画面を見る。


『高い伝導性を持っているから、変換装置のような人類製テクノロジーの起動に使える。』


『溶解して素材として使うこともできる。』


『だから、いくらあっても足りない。』


「……戦略物資か。」


『そう考えていい。』


レオンが続ける。


『今回、エデン側が保証しなければならない損失はかなり大きい。』


「つまり、エデンにとっては相当な赤字か。」


『そうなる。』


司は腕を組む。


「……オルビスが犯人なら、かなり大きな利益になるな。」


『ああ。』


『だが、証拠はない。』


司は頷いた。


「分かった。」


◇ ◇ ◇


その日の午後。


新たな報告が入った。


『司。』


レオンから通信が入る。


『オルビス連合側の複数の惑星で、エデン軍の施設が攻撃された。』


「複数?」


『ああ。』


『さらに、エデンと同盟関係にある惑星も攻撃を受けている。』


「一気に動き始めたな。」


『エデン側も反撃を開始した。』


司は黙った。


『そして、最悪の報告がある。』


「何だ?」


レオンの声が重くなる。


『エンペラー・ゼニスの三人の子供のうち、長男が襲撃された。』


「……!」


シルヴィアが息を呑む。


『長男のコアが破壊された。』


「誰がやった?」


『分からない。』


『だが、オルビス連合側が、その事実を公表した。』


画面が切り替わる。


オルビス連合の声明。


『エンペラー・ゼニスの長男は死亡した。』


『我々は、エデンによる首相暗殺を忘れてはいない。』


『これは、その報復である。』


司は画面を見つめる。


「……オルビスが、自分たちの犯行だと言ってるのか?」


『少なくとも、そう受け取れる声明だ。』


アルマが静かに言う。


「ただし、声明と実行者の確定は別です。」


『その通りだ。』


レオンは答える。


『だが、もう問題はそこだけじゃない。』


「……分かってる。」


司は目を閉じる。


金融システムへの攻撃。


オルビス側への資金流出。


複数惑星への攻撃。


そして、ゼニスの長男のコア破壊。


それぞれが別々の事件だったとしても。


ここまで重なれば、エデン国内で「すべて別件だから冷静に」と言い続けるのは難しい。


『エデン政府は、オルビス連合による一連の攻撃だと判断した。』


『軍に総動員命令が出た。』


「全面戦争か。」


『ああ。』


通信の向こうで、警報が鳴る。


『エデン軍、戦闘態勢へ移行。』


『オルビス連合側も、すでに軍を動かしている。』


司は静かに画面を見る。


「……引けなくなったな。」


シルヴィアが小さく呟く。


「もう、止められないのかな……。」


司は答えなかった。


今回の事件が、本当にすべてオルビスによるものなのか。


それはまだ分からない。


Parrotとは別の侵入者。


金融システムへの攻撃。


オルビス側へ流れた資金。


そして、ゼニスの長男のコア破壊。


偶然が重なっただけなのか。


誰かが意図的に利用しているのか。


まだ何も分からない。


ただ一つだけ確かなことがある。


エデンとオルビス連合は、もう戦争を始めてしまった。


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