↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/79

第六十六話 追う者、逃げる者

アルカディアを出発したシャトルは、再びエデンへ向かっていた。


ネメシアへの航路が閉ざされている以上、今できることは情報を集めることだった。


「エデンに戻るの、二回目だね」


シルヴィアが窓の外を見ながら言う。


「ああ」


司も前方を見る。


「今度は、前より色々分かるかもしれない」


「ペネトレーションツールについても、ですか?」


アウラが尋ねる。


「そうだな」


「エデン自身が侵入を受けてるって話も気になります」


アルマが続ける。


「誰が、何の目的で侵入しているのか。まだ分かっていません」


「それを調べる」


司は頷いた。


「それと、ネメシアへの道が開いたら、エンペラードローンの件も調べる」


「うん」


シルヴィアが頷く。


「デソラを襲った機体だもんね」


司は何も答えなかった。


デソラ。


自分たちの故郷。


その記憶は、今でも消えていない。


◇ ◇ ◇


エデンの港へ到着する。


シャトルを降りると、以前と同じように厳重な警備が待っていた。


「街へ入る方は、身分証を提示してください」


警備兵が言う。


司たちは身分証を提示する。


「武器の持ち込みは禁止されています。確認しますので、所持品を見せてください」


司は一瞬だけ、シルヴィアたちを見る。


「分かった」


全員が外装スキンを適用した装備を見せる。


司の手にあるのは、ただの黒い工具箱。


アルマが持っているのは、どこにでもありそうな黒いタブレットケース。


シルヴィアのセプターワンドも、外見だけなら武器には見えない。


警備兵は一つずつ確認していく。


工具箱。


タブレットケース。


その他の荷物。


「……問題ありません」


警備兵が端末を操作する。


「武器の持ち込みは確認されませんでした」


司は内心で息を吐いた。


外装スキンがちゃんと機能している。


「街への入場を許可します」


「ありがとう」


司たちはそのまま通過する。


警備兵から離れたところで、シルヴィアが小声で言った。


「……本当にバレなかったね」


「ああ」


司は自分の工具箱を見る。


「外見だけなら、普通の道具にしか見えないからな」


「便利ですね」


アルマが黒いタブレットケースを見る。


「これなら、エデンの規則にも引っかかりません」


「ただし、街中で展開するなよ」


「分かっています」


「絶対だからな」


「合理的です」


「その返事、信用していいのか?」


シルヴィアが笑う。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん」


「お前まで言うな」


司は苦笑した。


その時。


警備兵の一人がアルマへ声を掛けた。


「……少しよろしいですか」


アルマが振り返る。


「はい」


警備兵が慎重に尋ねる。


「彼女のフレームについてです」


「以前、複数の惑星で、同型のヴァルキリーフレームがエンペラードローンやエグゼキューター・ドラゴンを破壊したという報告が上がっています」


「その関連で、同型機の入港には特別な確認が必要になっています」


司がアルマを見る。


「そういうことか」


アルマは頷いた。


「確認をお願いします」


警備兵は近くの端末を操作する。


しばらくして。


「確認が取れました」


警備兵が言う。


「入港を許可します」


アルマが戻ってくる。


「問題ありません」


「早かったな」


「必要な確認だけです」


「そうか」


司たちはそのまま街へ向かった。


◇ ◇ ◇


エデンの街は、以前と変わらないように見えた。


店が並び、人々が行き交っている。


だが、監視ドローンは以前より増えている。


「……警備が厳しくなってるな」


司が空を見る。


「先日の事件の影響でしょう」


アルマが答える。


「そうだろうな」


その時。


「……あれ?」


アルマが少し離れた場所を見る。


人混みの中。


一瞬だけ、何かが動いたように見えた。


「どうした?」


「いえ……」


アルマは視線を戻す。


「気のせいかもしれません」


その数十メートル先。


誰もいないはずの路地に、わずかな空間の歪みが生じた。


次の瞬間。


人影が現れる。


黒い装甲。


細身の機体。


背部には特殊な装置。


「……メタトロンフレーム」


男――Parrotは、周囲を見回した。


「見られた……?」


小さく呟く。


その顔には明らかな焦りが浮かんでいる。


彼の機体には、ステルス機能が搭載されていた。


周囲の景色に機体を溶け込ませ、存在そのものを隠す機能。


だが、今は解除されている。


Parrotは近くの端末を見る。


「……まずい」


急いで端末へ接続する。


ペネトレーションツールを起動。


だが。


「……入れない?」


何度試しても、アクセスが弾かれる。


「なんで……!」


その時。


「お前……」


背後から声がした。


Parrotが振り返る。


そこにいたのは。


「……ミッドナイト」


「よう」


Parrotの目が見開かれる。


「……くそっ、プレイヤーか!」


「……!」


司たちが少し離れた場所から振り返る。


「今の声……」


ミッドナイトも目を見開いた。


「俺を知ってるのか?」


Parrotは答えなかった。


むしろ、さらに焦った。


「まずい……」


そして。


「どけ!」


ミッドナイトを押しのける。


「おい!」


ミッドナイトがよろめく。


Parrotはそのまま人混みへ飛び込んだ。


「待て!」


ミッドナイトが叫ぶ。


司たちも追う。


だが。


人混みの中で、Parrotの姿が消えた。


「どこだ!?」


シルヴィアが周囲を見る。


「ステルス機能を再使用した可能性があります」


アルマが答える。


「くそ……」


司は周囲を見回す。


だが、もう見つからない。


「Parrot……」


ミッドナイトが呟く。


「お前、あいつを知ってるのか?」


「いや」


ミッドナイトは首を振った。


「名前を聞いたこともない」


「でも、プレイヤーだと分かった」


「ああ」


司は目を細める。


「じゃあ、あいつも俺たちと同じ……」


「そういうことだろうな」


◇ ◇ ◇


「ミッドナイト」


司が言う。


「お前、あいつに会ったことはないんだな?」


「ない」


「本当に?」


「ああ」


ミッドナイトは答える。


「ただ、あいつが俺を見た瞬間の反応は気になった」


「何か知ってる可能性は?」


「分からない」


ミッドナイトは周囲を見る。


「でも、あいつが何かを調べてたのは間違いない」


「端末にアクセスしようとしてた」


アルマが言う。


「しかも、ペネトレーションツールを使用していました」


司の表情が変わる。


「やっぱりか」


ミッドナイトも黙る。


「……俺たちが探してたものを、あいつが持ってる」


「そういうことになるな」


司は考え込む。


「でも、目的までは分からない」


「なら、追うしかないですね」


アルマが言った。


「そうだな」


司は頷いた。


「今度見つけたら、逃がさない」


◇ ◇ ◇


その後。


司たちは街の別の区画へ移動した。


Parrotが何を狙っていたのかを確認するため、周辺の端末や監視記録を調べる。


すると。


「……これ」


アルマが端末を確認する。


「何かありました?」


アウラが尋ねる。


「アクセス記録です」


「Parrotの?」


「可能性があります」


画面には、不自然な接続記録が残っていた。


ただし、途中で途切れている。


「侵入に失敗した?」


「そう考えるのが自然でしょう」


司が画面を見る。


「最初の端末では失敗してたからな」


「でも、こっちは……」


アルマが別の記録を表示する。


「別の端末へ接続を試みています」


「まだやってるのか」


「はい」


司は立ち上がる。


「行くぞ」


◇ ◇ ◇


別区画。


Parrotは再び姿を現していた。


今度は、別の端末の前。


「……今度こそ」


ペネトレーションツールを接続する。


端末の表示が乱れる。


「……入った」


Parrotが息を吐く。


画面に、次々とシステム情報が表示されていく。


そして。


「管理者権限……取れた」


Parrotの表情がわずかに緩む。


「これで、この街の警備システムを直接動かせる」


だが。


「そこまでだ」


「……!」


Parrotが振り返る。


司たちが立っていた。


「またお前か!」


Parrotの顔が青ざめる。


「なんで……!」


「今度は逃がさない」


司が一歩踏み出す。


Parrotは後ろへ下がる。


「くそっ……!」


ペネトレーションツールを引き抜く。


その瞬間。


街中の警備システムが一斉に異常を起こした。


「何だ!?」


警報が鳴る。


監視ドローンが一斉に旋回する。


「侵入者を確認」


機械音声が響く。


「対象を排除します」


「……待て!」


司が叫ぶ。


警備兵たちが銃を構える。


しかし、その銃口はParrotではなく――。


司たちへ向いた。


「何!?」


シルヴィアが叫ぶ。


「警備兵がこっちを狙ってる!」


「システムを書き換えたのか!」


司が叫ぶ。


「違う!」


アルマが即座に否定する。


「一時的に制御系を乗っ取られています!」


「殺すな!」


司が叫ぶ。


「警備兵だ!」


アルマが大型チェインガンを構える。


だが、撃たない。


「どうする!?」


シルヴィアが叫ぶ。


「逃げる!」


司が答える。


「警備兵を傷つけるな!」


司たちは一斉に走り出す。


背後から警備ドローンが追ってくる。


警備兵たちも追跡してくる。


Parrotは、その混乱の中で再びステルス機能を起動した。


「……消えた!」


アウラが叫ぶ。


「またステルスか!」


司が周囲を見る。


だが、Parrotの姿はもうどこにもない。


「くそ……!」


司は拳を握る。


「逃げられた」


アルマが端末を確認する。


「警備システムの制御は、すでに復旧しています」


「被害は?」


「現時点では確認できません」


「……ならいい」


司は息を吐く。


「でも、あいつはペネトレーションツールを持ってる」


「はい」


アルマが頷く。


「そして、警備システムまで一時的に侵食できる」


シルヴィアが周囲を見る。


「怖いね……」


「ああ」


司も頷いた。


「でも、まだ分からない」


「何がですか?」


アウラが尋ねる。


「Parrotが何を探してるのか」


司は遠くを見る。


「それが分からない限り、あいつを敵だと決めつけることもできない」


アルマが静かに頷く。


「現時点では、目的不明です」


「そういうことだ」


司は小さく息を吐いた。


「……これじゃ、いたちごっこだ」


しばらく沈黙する。


そして。


「でも」


司は顔を上げた。


「次は、逃がさない」


エデンの街には、再び平静が戻り始めていた。


だが。


そのどこかに、Parrotはまだ潜んでいる。


そして司たちは知らない。


Parrotが何を探していたのか。


なぜペネトレーションツールを持っているのか。


そして。


なぜ、彼がエデンへ来ていたのか。


その答えは、まだ街のどこかに隠されていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。