第六十二話 スクラップ工場
捕獲したヴァルキリーフレームの尋問は、アストラに任せた。
司たちは、そのままスクラップ遺跡の内部へ踏み出した。
「……なんだ、これ」
数歩進んだところで、司が足を止める。
以前来たときにはなかった設備が、遺跡の内部を埋め尽くしていた。
壁や床には、新しい機械が大量に設置されている。
そして、その中央には広い空間があった。
「アルファドローンの出現地点です」
アルマが端末を確認する。
「……出現地点?」
司が見つめていると。
ガコン。
空間の中央に、突然アルファドローンが出現した。
「出た!」
シルヴィアが身構える。
だが。
直後、床が開いた。
「え?」
アルファドローンの足元から拘束用のアームが飛び出す。
ガシャン!
四肢を固定。
続いて、壁面から複数の砲門が展開した。
ドドドドドッ!
一斉射撃。
アルファドローンは抵抗する暇もなく破壊された。
「…………」
司は黙った。
数秒後。
「……工場じゃないか、これ」
アルマも周囲を見回す。
「戦闘ではありません」
「完全に処理工程ですね」
破壊されたアルファドローンは、自動で回収装置へ運ばれていく。
そこからさらに別の機械へ。
装甲。
フレーム。
武器。
部品。
それぞれが自動的に分類されていく。
「すごい……」
シルヴィアが目を丸くする。
「こんなことまでできるんだ」
「俺たちが前に来たときは、こんな設備なかったぞ」
司は周囲を見回した。
以前は、アルファドローンが出現するたびに、自分たちで倒していた。
それが今では。
出現。
拘束。
破壊。
回収。
選別。
すべてが自動化されている。
「かなり効率化されています」
アルマが言った。
「ああ」
司は奥を見る。
大量のアルファドローンの残骸が積み上げられていた。
山のような残骸。
その間を、作業用の機械やヴァルキリーフレームが動き回っている。
回収した部品を運び、整理し、さらに別の場所へ送っている。
「これだけの数……」
シルヴィアが呟く。
「毎日こんなに処理してるのかな」
「おそらくな」
その時だった。
数体のヴァルキリーフレームが、残骸を積んだ台車を押してきた。
向かう先は、遺跡の入口。
「……なんで入口へ?」
司が後を追う。
◇ ◇ ◇
入口では、何人もの住民が待っていた。
ヴァルキリーフレームが台車を止める。
すると、住民たちが残骸を受け取っていく。
「ありがとう」
「助かるよ」
「これだけあれば、しばらく使える」
住民たちは嬉しそうだった。
「……ずいぶん友好的だな」
司が呟く。
一人の住民が司たちに気付く。
「あなたたち、外から来たのか?」
「ああ」
「そうか」
住民は笑った。
「ここでは、あの人たちが色々助けてくれてるんだ」
「あの人たち?」
「遺跡の中にいる人たちさ」
住民は運ばれてきたスクラップを見る。
「俺たちは奥まで行けないからな。こうして入口まで持ってきてくれるんだ」
「……なるほど」
司は遺跡の奥を見る。
戦闘能力の低い住民が、アルファドローンの出現する場所まで入るのは危険だ。
だから、回収したスクラップを入口まで運んでいる。
単純だが、合理的な配慮だった。
「それだけじゃないよ」
別の住民が言った。
「身体も新しくしてもらった」
「身体?」
司が振り返る。
住民は自分の腕を軽く叩いた。
「前のボディは、もう限界だったからな」
「ここの人たちが交換してくれたんだよ」
司は住民の身体を見る。
そこでアルマが端末を操作した。
「……司」
「ん?」
「ステータスを確認してください」
司も住民のステータスを確認する。
【所属:デソラ住民】
「……デソラ住民」
「はい」
さらにボディ情報を見る。
製造時期。
交換履歴。
そして、以前のボディに関する記録。
「……本当に、現地の住民だ」
ボロボロだった旧式ボディを、新しいものへ換装されている。
しかも、本人たちはそれを歓迎している。
「これなら……」
シルヴィアが住民たちを見る。
「みんな、あの人たちのこと好きなんだね」
「もちろんだよ」
住民が笑う。
「昔よりずっと暮らしやすくなったからな」
「油も手に入る」
「身体も直してもらった」
「スクラップも持ってきてくれる」
司は黙った。
住民たちにとっては、実際に生活が良くなっている。
単純に「支配されている」とは言えない。
「……支持を得ようとしてるのか?」
司が呟く。
「デソラの住民から支持を得るために、生活を改善してる?」
「可能性はあります」
アルマが答える。
「ただし、それだけとは限りません」
「本当にデソラを発展させようとしてる可能性もあるか」
「はい」
「逆に、何か別の目的のために住民を取り込んでる可能性もある」
司は遺跡を見る。
「……判断できないな」
◇ ◇ ◇
司たちは再び遺跡の奥へ進んだ。
進むほど、設備は増えていく。
アルファドローンの処理施設。
スクラップの選別設備。
部品の修理設備。
さらに奥には、油を精製しているらしい設備まであった。
「……昔のデソラからは考えられないな」
司が呟く。
「スクラップを拾って、少しの油を手に入れて」
「それでなんとか生きてた場所だった」
シルヴィアも周囲を見る。
「今は、こんなに大きな施設になってる」
「ああ」
司は歩きながら設備を見る。
「誰かが、ここを作り変えたんだ」
その先に、下へ続く階段があった。
司は階段を見つめる。
そして、ふと足を止めた。
「……待て」
「どうしました?」
アルマが尋ねる。
「この先……」
司の記憶に、あの日の光景が蘇る。
自立型コアを見つけた地下施設。
その周囲に並んでいた、無数のヴァルキリーフレーム。
そして、アルマと出会った場所。
「……アルマを見つけた場所だ」
アルマが階段の先を見る。
「はい」
「同じ構造です」
「やっぱりか」
司はしばらく階段を見つめた。
「行ってみよう」
三人は階段を下りていく。
◇ ◇ ◇
地下へ進む。
だが。
地上とは違って、機械の音がしない。
人の気配もない。
やがて、広い空間へ出た。
「……」
司が立ち止まる。
何もない。
本当に、何もない。
壁。
床。
天井。
それだけだった。
「ここ……」
シルヴィアが周囲を見る。
「アルマを見つけた場所だよね」
「ああ」
司は頷く。
「でも……」
視線を動かす。
以前ここにあったはずのものは、何一つ残っていない。
「全部、なくなってる」
アルマが周囲を調べる。
「……調査された形跡があります」
壁には、何かを取り付けていた痕跡。
床には機材を固定していた穴。
一部の壁だけ、周囲より新しく削られている。
「機材を置いてた跡だな」
「はい」
「資料を置いていた場所もあります」
司が壁際を見る。
棚のようなものがあった形跡。
だが、何も残っていない。
「誰かが調べたんだ」
アルマが頷く。
「その可能性が高いです」
さらに奥へ進む。
そこにも何もない。
床には、大きな設備を置いていたような跡だけが残っている。
「……ここもか」
司はその跡を見つめる。
「俺たちが来るより前に、誰かがここを調べた」
「そして、持っていった」
シルヴィアが呟く。
「何を?」
司は答えなかった。
何があったのか。
何を見つけたのか。
それすら分からない。
ただ、何かが存在していた。
そして、それを誰かが持ち去った。
「……何を見つけたんだ?」
空っぽの地下に、司の声だけが響いた。
◇ ◇ ◇
しばらくして。
通信端末が鳴った。
『司様』
アストラの声だった。
「どうした?」
『捕獲したヴァルキリーフレームについて、まだ有効な情報は得られていません』
「……口を割らないのか」
『はい』
短い返答。
司は端末を見つめる。
地上。
地下。
そして、捕虜。
どれも、まだ答えには届いていない。
「……なら、直接聞きに行くか」
司たちは、捕獲したヴァルキリーフレームのいる場所へ向かった。




