第六十一話 変わり果てた故郷
アルカディアを出発したシャトルは、デソラへ向かっていた。
司たちは機内で、レオンから受け取った調査記録を確認している。
「最後の通信は、この地点か」
司が端末を見る。
「スクラップ遺跡の入口付近ですね」
アルマが答える。
「ここまで来て、通信が途絶えた」
「調査隊は、そのまま行方不明か……」
司が画面を見つめる。
その時。
『司様』
アストラから通信が入った。
「ん?」
『今回の調査には、私も同行します』
司が顔を上げる。
「アストラも?」
『はい』
「でも、お前は戦えないだろ」
『承知しています』
『そのため、戦闘用ではないドローンを用意しました』
「ドローン?」
シャトルの格納区画が開く。
そこから。
ぞろぞろ。
ぞろぞろ。
小型ドローンが出てきた。
「……多くないか?」
シルヴィアが数える。
「一、二……九機あります」
アルマが答える。
『九機を同行させます』
「九機も?」
『現地での偵察、運搬、囮として使用してください』
司はドローンを見る。
武器らしいものは付いていない。
小さなカメラ。
簡単なアーム。
そして、申し訳程度の推進装置。
「レベルは?」
『一です』
「……弱いな」
『はい』
アストラは即答した。
『戦闘能力はありません』
「じゃあ、本当に荷物持ちと囮か」
『その認識で問題ありません』
シルヴィアがドローンを覗き込む。
「この子たち、何体くらいいるの?」
『現在、シャトル内で製造可能な数は増えています』
「増えてる?」
司が嫌な予感を覚える。
「おい、アストラ」
『はい』
「またスクラップを無駄遣いしただろ」
『必要な設備を追加しただけです』
「必要な設備って……」
司が周囲を見回す。
そこで初めて気付いた。
シャトルの内部構造が、以前と変わっている。
「……なんだ、これ」
新しく設置された機械。
オイル精製装置。
小型のドローン工場。
そして、機体を修復するための自己修復システム。
「いつの間にこんなものを……」
『今回の調査では、帰還できない可能性も考慮しました』
アストラの声は、いつも通り淡々としている。
『そのため、現地での継続活動に必要な設備を追加しました』
司は黙った。
「……お前なりに心配してるんだな」
『その認識で構いません』
「そこは否定しないのかよ」
『否定する必要がありません』
シルヴィアが笑った。
「アストラ、ありがとう」
『どういたしまして』
司は小さく息を吐く。
「まあ、助かるけどな」
九機のドローンを見る。
「じゃあ、こいつらも連れていくか」
『はい』
九機のドローンが一斉に動いた。
ぞろぞろ。
「……本当に荷物持ちだな」
◇ ◇ ◇
しばらくして。
シャトルがデソラへ到着した。
司は窓の外を見る。
荒涼とした大地。
壊れた建物。
錆びた機械。
見慣れた景色。
「……変わってないな」
司が呟く。
シルヴィアも窓の外を見る。
「うん」
しかし。
シャトルが宇宙港へ近付いたところで、二人の表情が変わった。
「……あれ?」
「何だ、これ」
かつてのデソラ宇宙港。
ボロボロだった設備。
壊れた発着場。
放置された施設。
それらが――。
整備されている。
「宇宙港が……」
シルヴィアが目を見開く。
「直ってる」
司も黙って見つめる。
完全に新しくなったわけではない。
それでも、明らかに人の手が入っている。
壊れていた設備が修復され。
発着場が整えられ。
新しい電力設備まで設置されている。
「俺がいた頃は、こんなのなかったぞ」
「私も知らない」
シャトルが着陸する。
司たちが降りる。
その時だった。
「……あれ」
アルマが指差した。
少し離れた場所に、一隻のシャトルが停まっている。
「天使軍の機体ですね」
「……調査隊のものか」
司が近付く。
機体には天使軍の識別コードが残っていた。
しかし。
「誰もいない」
扉は開いている。
内部には調査用の機材も残されていた。
「帰ってきてないのに、シャトルだけある……」
シルヴィアが不安そうに呟く。
司は機体を見つめる。
「やっぱり、何かあるな」
◇ ◇ ◇
司たちは、調査隊が最後に確認された地点へ向かった。
スクラップ遺跡。
かつて司が暮らしていた頃から存在していた、巨大な廃棄施設。
大量の機械や部品が積み重なり、巨大な遺跡のようになっている。
その入口が見えてきた。
「……止まれ」
司が手を上げる。
入口に何かいる。
一体のロボット。
人型。
白と蒼を基調とした装甲。
細身の女性型フレーム。
「……ヴァルキリーフレーム」
アルマが呟いた。
司の表情が変わる。
見間違えるはずがない。
エデンやオルビス連合の兵器と戦っていたもの。
現在、世界中で確認され始めている機体と同じ型。
そのヴァルキリーフレームは、遺跡の入口に立っていた。
まるで番人のように。
そして、その周囲には大量のアルファドローンの残骸が転がっている。
「……あれ」
シルヴィアが気付く。
「アルファドローン?」
「そうだ」
司が答える。
「大量に倒されてる」
さらに周囲を見る。
原住民らしき人々が、アルファドローンの部品を運んでいる。
スクラップ。
装甲。
機械部品。
それらを遺跡の中へ運び込んでいる。
「資源として使ってるのか」
司が呟く。
その横では、住民たちが小さな容器を受け取っていた。
「……オイル?」
シルヴィアが見る。
住民たちは嬉しそうに容器を抱えている。
「給料みたいですね」
アルマが確認する。
「資源を運ぶ対価として、オイルを受け取っているようです」
司は黙った。
デソラでは、金なんてほとんど意味がなかった。
買えるものがない。
外から物資が来ない。
何より、オイルそのものが生きるために必要だった。
「……そりゃ、オイルをもらえるなら働くよな」
司が呟く。
「ダラーなんか渡されるより、ずっとありがたい」
シルヴィアも頷いた。
「うん……」
司は入口に立つヴァルキリーフレームを見る。
「でも、あいつらは何なんだ?」
司たちが近付く。
ヴァルキリーフレームがこちらを向いた。
「ここから先は立入禁止だ」
低い声。
「危険だから、引き返せ」
司は足を止めた。
「俺たちは以前、この中に入ったことがある」
「問題ない」
「それでも駄目だ」
ヴァルキリーフレームは一歩も動かない。
「ここから先へ入ることは許可しない」
「お前たちは天使軍か?」
沈黙。
「オルビス連合か?」
沈黙。
「どこの所属だ?」
返答はない。
司は眉を寄せる。
「答える気はないってことか」
「警告はした」
ヴァルキリーフレームが腕を上げた。
「これ以上近付くなら、排除する」
「……やる気か?」
次の瞬間。
ヴァルキリーフレームが動いた。
速い。
だが。
「遅い」
司が横へ避ける。
アルマが大型チェインガンを構えた。
「待て!」
ヴァルキリーフレームが何かを操作する。
司の視界に、見覚えのある表示が浮かんだ。
『Penetration Tool』
「……!」
侵入処理が始まる。
だが。
「……何?」
ヴァルキリーフレームの動きが止まった。
「接続できない?」
もう一度。
「なぜだ……?」
さらに処理を走らせる。
「対象コアへ到達できない……?」
その表情が変わる。
「そんなはずは……」
ヴァルキリーフレームは司たちを見た。
「まさか……」
「私たちより……レベルが高い?」
司は眉を上げた。
「やっぱり、ペネトレーションツールを使ってたのか」
「……!」
ヴァルキリーフレームが後退する。
「レベル……五十?」
「そんな……」
司たちは黙って見つめる。
「こいつら、レベル50か」
アルマが確認する。
「アルカディアの一般兵では、対処は困難でしょう」
「だろうな」
司は頷いた。
だが。
「俺たちには、そこまで強くない」
司が一歩踏み込む。
「手足だけ止める」
「アウラ、ステラ」
「はい!」
「……分かった」
二人が動く。
大型雪玉がヴァルキリーフレームの足元へ直撃する。
「ぐっ!」
体勢を崩したところへ、シルヴィアのビームが腕を撃ち抜く。
アルマがもう一方の腕を破壊する。
司が最後に脚部を破壊した。
ヴァルキリーフレームが倒れる。
「……これで動けない」
司が近付く。
「一旦、シャトルへ運ぼう」
「尋問するの?」
シルヴィアが尋ねる。
「ああ」
司は頷く。
「所属も、ここで何をしてるのかも聞く」
その時だった。
「司様」
アストラから通信が入る。
「どうした?」
『周辺にドローンを一機派遣しました』
司が振り返る。
「……あれか」
そこには。
小型ドローンが一機。
いつの間にか、司たちの後ろに立っていた。
「お前、いつの間に……」
『現地での状況確認を行っていました』
「……そうか」
司は倒れたヴァルキリーフレームを見る。
そして、アストラのドローンを見る。
「こいつは俺たちが聞くより、お前が聞いた方がいいか」
『その方が効率的です』
「じゃあ、任せる」
アストラのドローンが、倒れたヴァルキリーフレームへ近付いていく。
司はその様子を眺めながら呟いた。
「……デソラで、一体何が起きてるんだ」
かつて何もなかった故郷。
そのスクラップ遺跡には、今や大量の機械が集められていた。
そして。
その入口を守っていたのは、世界中で確認されている謎のヴァルキリーフレームだった。




