第六十話 故郷の異変
アルカディア。
ネメシアから戻った司たちは、レオンのいる施設へ呼ばれていた。
「それで、デソラに戻るつもりなのか?」
レオンが尋ねる。
「ああ」
司は頷いた。
「ネメシアの封鎖区域は、今の状況じゃ調べられない」
「だったら、別の手掛かりを探すしかない」
「ヴァルキリーフレームのことか」
「それもある」
司は答える。
「俺がデソラの地下で見つけたものと、今確認されている機体が同じ系列なら、何か分かるかもしれない」
「……そうだな」
レオンは端末を操作した。
「実は、天使軍でもデソラについて調査を始めている」
「やっぱりか」
「お前から買った宝石がきっかけだ」
司が顔を上げる。
「宝石?」
「ああ」
レオンが画面を見せる。
「鑑定の結果、かなり価値のある資源だと分かった」
「これまで、ほとんど価値がないと思われていたデソラから、あれだけの宝石が出てきた」
「それで、天使軍としても再調査する必要が出てきた」
「なるほどな」
司は頷く。
だが。
レオンの表情は晴れない。
「ただし、問題がある」
「何だ?」
「調査隊が戻ってこない」
「……え?」
シルヴィアが声を漏らした。
「最初の調査隊が帰還しなかった」
「そこで、別の部隊を送った」
「それも戻っていない」
司の表情が変わる。
「通信は?」
「途中で途絶えた」
「救難信号は?」
「確認できていない」
「……」
室内が静かになる。
レオンは続けた。
「現在、複数の調査隊が消息不明だ」
「原因は?」
「分からない」
司は黙って考える。
自分が知っているデソラは、何もない惑星だった。
他の惑星へ行くこともできない。
外から支援物資が届くこともない。
残されたオイルを飲みながら、家族や近所の人間と助け合って生きる。
それだけの場所だった。
そんな場所で、調査隊が戻ってこない。
「……司」
「何だ?」
レオンが尋ねる。
「デソラって、誰かが統治してたのか?」
「統治者?」
「ああ。政府でもいい。惑星を代表する人物とか」
司はしばらく考えた。
「……知らないな」
「本当に?」
「ああ」
司は記憶を辿る。
「俺がいた頃は、そんな奴はいなかったと思う」
「みんな、自分の家族や近所の連中と助け合ってた」
「機械が壊れれば、直せる奴が直す」
「オイルが余ってれば分ける」
「でも、デソラ全体をまとめる代表者なんて……」
司は首を横に振る。
「聞いたことがない」
シルヴィアも頷く。
「私も知らないよ」
「私は家族と過ごしていただけだから」
「他の惑星へ行くこともできなかったし」
「外から支援物資が届くこともなかった」
シルヴィアは少し俯いた。
「少ししかないオイルを飲んで」
「家族で助け合って」
「それだけで精一杯だった」
レオンはしばらく黙っていた。
そして。
「……そうか」
「だが、デソラは形式上、天使軍の領域だったはずだ」
司が顔を上げる。
「ああ」
「ガレージにも、天使軍の紋章はあった」
「登録上は、今も天使軍領だ」
レオンが頷く。
「だが、登録と実際の管理は別の話だ」
「デソラには、何百年も天使軍の部隊が常駐していない」
「物資の供給もない」
「行政を担う組織も確認できない」
「現地に、天使軍の意思を代弁する人物もいない」
司は黙って聞いていた。
「……名目だけ残ってたってことか」
「そういうことだ」
レオンは頷く。
「だから今回、調査を行うにしても、現地の誰かに話を通すという手続きが成立しない」
「それで、直接調査隊を送った」
「ああ」
司は眉を寄せる。
「でも、戻ってこない」
「……そうだ」
レオンの表情が険しくなる。
「それが現在、天使軍が最も警戒している問題だ」
司は椅子にもたれた。
自分が知っているデソラ。
何もない惑星。
他の惑星へ行くこともできず、外から支援を受けることもない。
家族や近所の人間と助け合いながら、残されたオイルで生きていく。
そんな場所だった。
なのに今は。
宝石が見つかり。
地下には大量のヴァルキリーフレームが眠っていた。
そして、天使軍の調査隊が戻ってこない。
「……俺が知ってるデソラと、今のデソラ」
司は小さく呟く。
「何か違うな」
アルマが答える。
「現在の状況には、未知の要因が存在すると考えるべきでしょう」
「そうだな」
司は頷いた。
「だから、実際に見に行く」
レオンが司を見る。
「危険だぞ」
「分かってる」
「調査隊が戻ってきていない」
「それでも行く」
司は迷わなかった。
「俺たちなら、少なくとも地下施設の場所を知ってる」
「それに、俺とシルヴィアはデソラで暮らしてた」
「何も知らない調査隊より、現地について分かることはある」
レオンはしばらく司を見つめた。
やがて。
「……分かった」
「ただし、無理はするな」
「分かってる」
レオンが端末を操作する。
「天使軍が持っている調査記録も共有する」
「調査隊が最後に確認された地点と、通信が途絶えた場所を送る」
「助かる」
司が端末を受け取る。
アルマがデータを確認する。
「これなら、現地での捜索に利用できます」
「よし」
司は立ち上がった。
「デソラへ行こう」
シルヴィアも立ち上がる。
「うん」
アルマが端末を操作する。
「出発準備を開始します」
司は一度だけ、端末に表示されたデソラの文字を見た。
かつて、自分が暮らしていた惑星。
何もないと思っていた故郷。
他の惑星へ行くこともできず。
外から支援を受けることもなく。
残されたオイルを飲みながら、家族や近所の人間と助け合って生きていくしかなかった場所。
そんな故郷で。
今、何が起きているのか。
司たちは確かめに行くことになった。




