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第五十五話 エグゼキューター・ドラゴン

アルカディア。


避難区域を抜け、司たちはシャトルのある格納庫へ向かっていた。


「……ここを離れるのか。」


「うん。」


シルヴィアが頷く。


「ネメシアに行けば、エンペラードローンについてもっと分かるかもしれないから。」


「そうだな。」


司も頷いた。


エンペラードローンの製造施設。


そして、デソラを破壊した機体と同じ型の存在。


そこに何が残されているのか。


実際に行って確かめるしかない。


その時だった。


「……司。」


アルマが足を止める。


「ん?」


「向こうから誰か来ます。」


司が振り返る。


避難区域の通路を、一人の男が歩いてくる。


「……あれ?」


シルヴィアが目を見開く。


「ミッドナイト?」


男もこちらに気付いた。


「……お前らか。」


「やっぱりミッドナイトだ。」


司が声を掛ける。


「どうしてここにいるんだ?」


「逃げてきた。」


ミッドナイトは淡々と答えた。


「……エデンから?」


「ああ。」


司たちは顔を見合わせる。


「今はアルカディアにいる。」


「ここで何してるんだ?」


「酒場で働いてる。」


「相変わらずだな。」


司が苦笑する。


ミッドナイトは少しだけ肩をすくめた。


「死ぬのは一回で十分だからな。」


その言葉に、司は何も言わなかった。


「これからネメシアへ行く。」


「ネメシア?」


「ああ。」


「……物騒な場所だぞ。」


「知ってる。」


司は頷く。


「それでも行く。」


「そうか。」


ミッドナイトは、それ以上止めなかった。


「じゃあな。」


「ああ。」


短い別れだった。


司たちは、そのまま格納庫へ向かった。


◇ ◇ ◇


シャトルの前では、アストラが機体の最終確認を行っていた。


「外部損傷はありません。」


「長距離航行用の調整も完了しています。」


「出発準備は整っています。」


司が頷く。


「よし。」


アストラがシャトルへ乗り込む。


最後に機体内部を確認し、自分の位置へ戻った。


「ネメシアまでの航路を設定します。」


「頼む。」


司たちが乗り込む。


シャトルがゆっくりと発進する。


アルカディアの都市が遠ざかっていく。


やがてシャトルは大気圏を抜け、宇宙空間へ出た。


「……ネメシアか。」


司は前方を見つめる。


そこには、まだ遠い惑星がある。


ネメシア。


かつてエデンが管理していた惑星。


そして現在は、オルビス連合の管理下にある。


「……あそこに、あの機体の秘密がある。」


司は小さく呟いた。


◇ ◇ ◇


しばらく航行を続けたところで。


「……ん?」


アルマが反応した。


「前方に機影。」


司がモニターを見る。


「何だ?」


映し出された姿を見て、司の表情が変わった。


「……エンペラードローン。」


巨大な機体。


竜のようなシルエット。


間違いない。


「ネメシア方面へ向かっています。」


アストラが報告する。


「ネメシアへ?」


司が眉をひそめる。


「何しに行くんだ……?」


その時。


エンペラードローンの機体が、こちらへ向きを変えた。


「……気付かれたか。」


次の瞬間。


光が走る。


「攻撃を確認。」


アストラが警告する。


シャトルの前方を、エネルギー弾が通過した。


「やっぱり攻撃してくるか!」


司が操縦席を離れる。


「アストラ!」


「はい。」


「レイヴンは?」


「組み立てが完了しています。」


アストラが即答する。


「出撃可能です。」


司は一瞬だけ黙った。


レイヴン。


今回が初めての実戦だ。


「……ぶっつけ本番か。」


「そうなります。」


「まあ、やるしかないな。」


司はレイヴンへ乗り込んだ。


◇ ◇ ◇


レイヴンが宇宙へ飛び出す。


「……速い。」


司は機体の反応を確認する。


操縦桿を動かす。


レイヴンが、それにほとんど遅れることなく反応した。


「これなら……。」


前方からエンペラードローンが迫る。


砲撃。


司は機体を横へ滑らせた。


巨大な光線が、レイヴンの横を通過する。


「危ねえ……。」


司は機体を加速させる。


一気に距離を詰める。


エンペラードローンも向きを変える。


だが。


「逃がすか!」


レイヴンが敵の側面へ回り込む。


攻撃。


直撃。


装甲が砕ける。


「……効いてる!」


司はさらに攻撃を続ける。


エンペラードローンが反撃する。


だが、レイヴンはその攻撃をかわす。


「アルカディアでは……。」


司は以前の戦闘を思い出していた。


あの時も、エンペラードローンと戦った。


追い返すことはできた。


だが。


「仕留めきれなかった。」


あの時は、それが限界だった。


だが。


「今は違う。」


レイヴンの武装が敵を捉える。


「終わりだ!」


高出力の攻撃が放たれる。


エンペラードローンの装甲が大きく破壊される。


巨体が揺れる。


そして。


爆発。


エンペラードローンは宇宙空間で完全に沈黙した。


「……やった。」


司は操縦席で息を吐いた。


同じ型の機体。


デソラを破壊したものと同じ姿。


だが、これは「あの日」の個体ではない。


それでも。


司は、操縦桿を握る手に力を込めた。


あの日は、何もできなかった。


アルカディアでは、追い返すことはできた。


だが、仕留めきれなかった。


それが、今は違う。


「……これなら。」


司は静かに呟いた。


「もう、誰も奪わせない。」


初めての実戦。


そして。


以前は仕留めきれなかった相手を、今度は倒した。


司はしばらく、爆発の消えた宇宙空間を見つめていた。


◇ ◇ ◇


ネメシア。


惑星へ到着した司たちは、オルビス連合の管理施設へ向かった。


「エンペラードローンを撃破した?」


出迎えた兵士たちは、司たちの報告を聞いて驚いていた。


「はい。」


アルマが答える。


「ネメシアへ向かっていた機体を撃破しました。」


「……信じられない。」


兵士が言葉を失う。


「通常の兵士では、あの機体にまともな攻撃すらできない。」


「この地域の兵士は、ほとんどがレベル二十台です。」


司は少し驚いた。


「そんなに差があるのか。」


「あなたたちは?」


兵士が尋ねる。


「俺たちはレベル60だ。」


「……60?」


兵士の顔が固まる。


「そんな兵士が……。」


司は答えなかった。


ただ。


ここでは自分たちの戦力が、明らかに異質なのだと理解した。


◇ ◇ ◇


ネメシアは現在、オルビス連合の管理下にある。


そのため、司たちは惑星内を自由に行動できるわけではなかった。


「エンペラードローンの施設について調べたい。」


司が申し出る。


オルビス側の兵士が頷く。


「施設の一部は、すでに調査しています。」


「ただし、封鎖されている区画もあります。」


「危険だからか?」


「それもあります。」


兵士が答える。


「設備が古く、何が残っているか分からない。」


「それに、オルビス連合としても、まだすべてを把握できていません。」


司は頷いた。


「なら、見られるところだけでいい。」


「分かりました。」


案内された施設の外周から、内部の一部を確認する。


そこには巨大な製造設備が残っていた。


「……これが。」


司は足を止める。


「エンペラードローンを作っていた場所か。」


「はい。」


アルマが設備を確認する。


「エデン製の規格と一致します。」


司は黙って設備を見る。


デソラを破壊した機体。


その製造元。


ここまで来ても、まだ誰が命令したのかは分からない。


◇ ◇ ◇


その時。


「司さん。」


オルビス側の担当者が声を掛けてきた。


「一つ、見てもらいたいものがあります。」


案内されたのは、施設の別区画だった。


ただし、そこも自由に立ち入れる場所ではない。


担当者が遠隔モニターを起動する。


格納庫の内部が映し出された。


そこには。


一体の巨大な機体が映っていた。


だが。


「……色が違う。」


シルヴィアが呟く。


銀色。


竜を思わせる外見。


エンペラードローンに酷似している。


だが、細部が異なっている。


「これは?」


司が尋ねる。


担当者が答える。


「エンペラードローンを参考に、我々が再構成した機体です。」


「完全な復元ではありません。」


「残っていた設備とデータだけでは、完全な再現はできなかった。」


「だから、構造を解析して再設計した。」


アルマが画面を見る。


「素材が違います。」


「はい。」


担当者が頷く。


「安価な炭素繊維を使っています。」


「軽量化も行った。」


「その結果、エデンの機体よりコストは安くなっています。」


司は黙って機体を見る。


「名前は?」


担当者は答えた。


「エグゼキューター・ドラゴン。」


その名前を聞いた瞬間。


司の表情が変わった。


「……エグゼキューター。」


処刑人。


「物騒な名前だな。」


シルヴィアも少し不安そうに機体を見る。


「これ……何に使うの?」


担当者は一瞬だけ黙った。


「交渉のためです。」


「エデンとの?」


「ああ。」


担当者が答える。


「我々は、これをエデンへの交渉材料として使うつもりです。」


「すでに何機か完成しています。」


「ただし、完全な復元はできません。」


司は画面を見る。


複数の機体が格納されている。


「……交渉材料、ね。」


その時。


別のオルビス側の兵士が口を挟んだ。


「これがあれば、エデンの重要人物を消すこともできる。」


担当者が睨む。


「余計なことを言うな。」


「ですが……。」


「今は交渉が優先だ。」


司は黙っていた。


重要人物を消す。


エグゼキューター。


この機体が何を想定しているのか。


わざわざ名前まで付けられている。


ただの脅しではない。


「……暗殺か。」


司が小さく呟く。


シルヴィアが振り向く。


「お兄ちゃん……。」


「たぶん、そういうことだ。」


◇ ◇ ◇


施設を出た後。


司たちは、オルビス連合の代表者と少しだけ話す機会を得た。


「あなたたちは、天使軍なのか?」


「そうだ。」


「なら、我々と協力する気はないか?」


司は首を横に振る。


「俺たちは外交のために来たわけじゃない。」


「ただ、エンペラードローンについて調べに来ただけだ。」


「そうか。」


代表者は少し残念そうにした。


「天使軍は、エデンとも貿易をしている。」


「そうだな。」


「だから、我々とは簡単には手を組めない。」


司は腕を組む。


「天使軍はエデンとも貿易をしてる。」


「どう頑張っても、中立が限界だろうな。」


代表者は黙っていた。


だが。


「もし天使軍と悪魔軍が、我々の連合に加盟するなら。」


「……。」


司は顔を上げる。


「エデンに勝てると思っています。」


一瞬。


場の空気が変わった。


「加盟、ね。」


司は苦笑する。


「ずいぶん大きく出るな。」


「理想論だけ並べても……。」


代表者が続ける。


「天使軍の兵士とて、白昼夢を見ながら戦争しているわけではあるまい?」


司の表情がわずかに険しくなる。


シルヴィアも黙った。


その言葉が、妙に引っ掛かった。


戦争。


理想論。


まるで、戦場で失われたものなど関係ないような言い方だった。


司はそれ以上言い返さなかった。


ただ。


「……俺たちは、ここで何かを決める立場じゃない。」


「それだけは覚えておいてくれ。」


代表者は頷いた。


「分かっています。」


◇ ◇ ◇


施設を離れた後。


司たちは、しばらく無言で歩いていた。


「……あの人。」


シルヴィアが小さく口を開く。


「ちょっと嫌だった。」


「俺もだ。」


司が答える。


「ただ、オルビス全体がああだとは限らない。」


アルマが続ける。


「内部でも意見は分かれている可能性があります。」


「そうだな。」


司はネメシアの空を見上げる。


オルビス連合。


エデン。


天使軍。


悪魔軍。


どこも一枚岩ではない。


そして。


エンペラードローン。


その製造元がエデンだと分かっただけでも、大きな一歩だった。


だが。


「……まだ、誰が命令したのかは分からない。」


司は呟く。


ネメシアには、まだ封鎖された区画が残っている。


そこに何があるのか。


それはまだ分からない。


「調査は続ける。」


司が言った。


「この惑星に残されたものを、全部調べる。」


アウラが頷く。


「……はい。」


ステラも短く答えた。


「……うん。」


司たちは、ネメシアの奥へ視線を向けた。


そこには。


まだ誰も知らない過去が残されている。


そして。


その中心には。


デソラを破壊したエンペラードローンの秘密が眠っていた。


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