第三話 これが、俺の本来の姿
「次は俺の番だ。」
シルヴィアが整備台の横で心配そうに見つめる中、司は変換装置の前へ立った。
画面には新たな選択肢が表示される。
【Player Frame】
【現在:Junk Frame】
「やっぱりあるか。」
思わず笑みが漏れる。
正式サービスでは、プレイヤー用フレームは何種類も存在していた。
重装甲型。
高機動型。
狙撃特化。
支援型。
そして──。
汎用型「デモンフレーム。」
迷う理由はなかった。
サービス終了の日まで、自分が使い続けた愛機。
黒を基調とした装甲。
鋭く伸びた角を思わせる頭部。
細身でありながら高い耐久性を持ち、近接・射撃どちらにも対応できる万能型。
初心者が憧れ、中級者が乗り換えを迷い、上級者が最後に戻ってくる。
そんな完成されたフレームだった。
「よろしくな、相棒。」
司は静かに選択する。
【素材を投入してください】
アルファドローンの素材を次々と投入口へ放り込む。
【Alpha Drone Frame ×100】
【変換開始】
重い駆動音がガレージへ響いた。
白い粒子が装置の中を渦巻き、一つの人型を作り上げていく。
黒い装甲。
赤いライン。
鋭いシルエット。
最後に頭部へ二本の角状アンテナが取り付けられた瞬間、司は思わず息を呑んだ。
「……やっぱり格好いいな。」
ゲームでは何度も見た姿。
だが、現実で目の当たりにすると迫力が違う。
装甲一枚一枚が美しく噛み合い、まるで芸術品だった。
【変換完了】
司は整備台へ横たわるデモンフレームへ近付く。
ゆっくりと現在のジャンクフレームからコアユニットを取り外し、新しいフレームへ接続した。
認証開始。
視界が真っ白になる。
次の瞬間。
身体の隅々へ力が満ちていく。
今まで軋んでいた関節は滑らかに動き、半壊していた右腕も完全に修復されていた。
軽く拳を握る。
空気を切る音だけが響く。
「すごい……。」
シルヴィアが目を丸くした。
「お兄ちゃん、別人みたい。」
「いや。」
司は肩を回しながら笑う。
「これが本来の俺だ。」
鏡代わりの金属板へ映る姿を見る。
黒い装甲。
赤い発光ライン。
鋭い赤いアイセンサー。
まさしくゲームで見慣れたデモンフレームだった。
「やっぱり落ち着く。」
思わずそう呟いてしまう。
だが、その直後。
違和感を覚えた。
「……軽い。」
ゲームでは分からなかった。
装甲は重いはずなのに、まるで身体の一部のように自然に動く。
指先まで、自分の意思がそのまま伝わる。
「これが現実か。」
ガレージの隅に転がっていた、整備用の大型エネルギーセルへ視線が向く。
「試してみるか。」
両手で持ち上げるつもりで腕を掛けたが、拍子抜けするほど軽く持ち上がった。
「……こんな物まで。」
ジャンクフレームではびくともしなかった重量だ。
何度か身体を動かしていると、ガレージ端末が再び起動した。
【装備がありません】
【武器を装備してください】
「あ。」
そうだった。
フレームだけでは意味がない。
デモンフレームは素手でも戦える性能ではあるが、さすがに鉄パイプ一本では心許ない。
「武器……。」
ガレージのラックを見る。
何もない。
変換装置にも素材が残っていない。
シルヴィアが首を傾げる。
「またアルファドローン?」
「いや。」
司は首を振った。
「武器は武器からしか作れない。」
変換装置にはルールがある。
ボディはボディ。
武器は武器。
装飾品は装飾品。
どれだけ素材があっても、別カテゴリーには変換できない。
「つまり、最初の武器になる"触媒"が必要なんだ。」
「この星に武器なんてあるの?」
「あるにはある。」
司はゲームの記憶を辿る。
デソラの修理屋。
その片隅。
誰も見向きもしないワゴンの中に、ひとつだけ売られていた。
「攻撃力ゼロ。」
「当たっても痛くない。」
「子供向けのおもちゃ。」
シルヴィアは目をぱちくりさせた。
「そんなの武器なの?」
「武器カテゴリーなんだ。」
ゲームでは完全なネタアイテム。
誰も買わない。
しかし、変換装置だけはそれを『武器』として認識する。
だからこそ。
最低ランクのビームガンへ変換できる唯一の触媒だった。
「行こう。」
「街へ。」
「まずは、おもちゃを買いに。」
シルヴィアは思わず吹き出した。
「なんか変なの。」
「ゲームって、そういうもんだ。」
二人はガレージのシャッターを開ける。
外では夕日が赤く鉄屑の大地を照らしていた。
妹は新しい身体を手に入れた。
自分も新しい力を得た。
次に必要なのは、戦うための牙。
司は夕日に染まる鉄屑の街を見渡す。
あのエンペラードローンは、まだどこかにいる。
ゲームには存在しない、正体不明の何か。
一度は殺されかけた。
今の自分では、まだ届かない。
それでも。
「このまま殺されてたまるか。」
声に出すと、自然と拳に力が入った。
シルヴィアが隣で静かにこちらを見上げる。
「ここからが、本当のスタートだ。」




