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第二話 おかえり、シルヴィア

スクラップ遺跡へ足を踏み入れた瞬間、乾いた金属音が響いた。


コツ……

コツ……


通路の奥から、小さな影が姿を現す。


半透明のゼリー状装甲。


丸い頭部。


二本の細い脚。


アルファドローン。


ゲームでは「スライム」と呼ばれ、初心者が最初に戦う相手だった。


「久しぶりだな。」


司は鉄パイプを握り直す。


攻撃力は1。


だが、それで十分だった。


アルファドローンは正面装甲こそ硬いが、頭部と胴体の隙間だけは装甲判定が存在しない。


正式サービス開始直後、その仕様を知らない初心者たちは正面から殴り続けて返り討ちに遭い、掲示板は阿鼻叫喚だった。


しかし、一度知ってしまえば話は別だ。


歩く素材。


それがアルファドローンだった。


「悪いな。」


巡回ルートを読み切り、背後へ回る。


鉄パイプを差し込み――


カンッ。


乾いた音。


アルファドローンは一瞬だけ震え、そのまま静かに崩れ落ちた。


【Alpha Drone Core】


【Alpha Drone Frame】


【Alpha Drone Armor】


素材が転がる。


司は迷わず回収した。


「あと百九十九体。」


ゲームなら面倒な素材集め。


だが今は違う。


妹の命が懸かっている。


一体。


また一体。


巡回ルートを覚え切っている司にとって、アルファドローンは脅威ですらなかった。


ただ黙々と倒し続ける。


時間だけが過ぎていく。


やがて。



【Alpha Drone Frame ×200】



目的の素材が揃った。


「これだけあれば十分だ。」


ガレージへ戻る。


整備台では、シルヴィアが静かに眠っていた。


胸のランプは黄色のまま点灯している。


「ただいま。」


返事はない。


眠っているだけだ。


司は素材を抱え、ガレージ奥の巨大な装置の前へ立つ。


円筒型の変換装置。


ゲームでは何千回も利用した設備だった。


「さて……。」


素材を投入口へ入れる。


【Alpha Drone Frame ×100】


【変換対象を選択してください】



目の前へいくつもの設計図が浮かび上がる。


ガールズフレーム。


その一覧だった。


元気そうな少女。


騎士風。


巫女風。


メイド。


様々なデザインが並ぶ。


その中で、司の手は迷わず一つを選んだ。


「アリス。」


画面が切り替わる。



【Girls Frame】


【Alice】



「やっぱり残ってたか。」


正式サービス当時。


見た目の人気だけならトップクラスだったスキン。


軽量で扱いやすく、防御性能も平均以上。


何より、とにかく可愛い。


その人気から、プレイヤーたちは半ば冗談でこう呼んでいた。


「ロリコンホイホイ。」


思わず苦笑する。


「懐かしいな。」


【変換開始】


低い駆動音がガレージへ響いた。


大量の素材が光へ変わっていく。


白い粒子が空中へ舞い上がる。


やがて。


ゆっくりと人型を描き始めた。


細い脚。


小さな身体。


華奢な腕。


金色の長い髪が一本一本編まれるように形成される。


最後に、青い瞳がゆっくりと開いた。


さらに青と白を基調とした衣装が身体を包み込む。


スカートにはハート、スペード、クローバー、ダイヤ。


四つのスートをあしらった刺繍。


まるで童話から飛び出してきたような、不思議の国のアリス。


「……。」


司は思わず息を呑んだ。


「ゲームじゃ全部スキップしてたけど……。」


「こんな演出だったのか。」


最後に光が消える。


完成したボディが整備台へ静かに横たわった。


司は慎重にシルヴィアのコアを取り外し、新しいボディへ接続する。


認証開始。


数秒の沈黙。


そして。


「……お兄ちゃん?」


ゆっくりと青い瞳が開く。


「おかえり。」


シルヴィアは何度か瞬きを繰り返す。


ゆっくり身体を起こした。


「これ……私?」


恐る恐る自分の腕を見る。


指を動かす。


脚を動かす。


立ち上がる。


一歩。


二歩。


何の異音もなく歩けた。


「動く……!」


嬉しそうにその場でくるりと回る。


金色の長い髪がふわりと舞った。


「かわいい……。」


自分の服を見下ろし、頬が緩む。


「この服も?」


「ああ。」


「気に入った?」


シルヴィアは満面の笑みで何度も頷いた。


「うん!」


その笑顔を見た瞬間。


張り詰めていたものが、ようやく少しだけほどけた。


「よかった。」


その一言だけだった。


もう帰る家はない。


父さんも。


母さんも。


あの日まで笑い声が響いていた家も、すべて鉄屑になった。


それでも。


失いかけた家族を一人、取り戻せた。


その時、ガレージの端末が電子音を鳴らす。


【新規変換可能】


【Player Frame】


「……そうだった。」


主人公自身も強化できる。


ジャンクフレームでは、この先を生き残れない。


司は静かに端末へ手を伸ばした。


「次は俺の番だ。」

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