第四十六話 雪玉の新兵器
天使軍基地。
三週間の滞在も、すでに半ばを過ぎていた。
司は変換装置の前で、武器一覧を確認していた。
「……そろそろビームガンを作るか」
今後の探索を考えれば、予備の武器はあったほうがいい。
そう思いながら一覧を眺めていると。
「……ん?」
見慣れない名前が表示されていた。
【スノーディスペンサーガン】
「何だ、これ?」
司にはまったく覚えがない。
アルマが端末を確認する。
「該当する武器データはありません。」
「新しく出てきたのか?」
司は少し考えた。
未知のアイテムには警戒するのが常だった。
だが、これは変換装置から表示された武器データだ。
Penetration Toolのような、正体不明の物体とは違う。
「……試しに作ってみるか。」
必要な素材を投入する。
変換装置が稼働し、しばらくして一丁の銃が完成した。
白と蒼を基調とした銃。
銃口は丸く、どこか玩具のようにも見える。
「……武器には見えないな。」
司が手に取る。
その時。
端末に表示が出た。
【装備可能者】
【アウラ】
【ステラ】
「二人専用?」
アウラとステラが顔を見合わせる。
「私たちだけ……?」
「試してみよう。」
司は二人に銃を渡した。
◇ ◇ ◇
基地の外。
アウラがスノーディスペンサーガンを構える。
「……撃ちます。」
ポンッ。
銃口から飛び出したのは、雪玉だった。
「…………。」
司が固まる。
ポンッ。
もう一発。
ポンッ、ポンッ。
アウラが引き金を引くたび、雪玉が次々と発射されていく。
「……雪玉?」
ステラも試してみる。
ポンッ。
ポンッ。
やはり雪玉。
しかも弾数は減っていない。
「無限かよ。」
司は呆れた。
「なんだ、このふざけた武器は……。」
その時。
基地の外からモンスターが現れた。
「アウラ、試してみろ。」
「はい!」
ポンッ!
雪玉がモンスターへ直撃する。
ドンッ!
モンスターが吹き飛んだ。
「……え?」
アウラ自身が驚いている。
「もう一度。」
ポンッ!
また一体が倒れる。
ステラも撃つ。
ポンッ!
ドンッ!
「……普通に強い。」
司は武器を見直した。
弾薬を消費しない。
連射できる。
しかも物理攻撃として十分な威力がある。
「ビームガンの物理版みたいなものか。」
さらにアウラが引き金を押し続ける。
「……?」
銃口の前に雪が集まり始めた。
雪玉が大きくなる。
さらに大きくなる。
「おいおい……。」
最終的には、人の頭ほどもある巨大な雪玉になった。
「チャージ攻撃か?」
アウラが発射する。
ドゴォン!
巨大な雪玉がモンスターをまとめて吹き飛ばした。
「……便利だな、これ。」
さっきまで玩具扱いしていた司だったが、評価を改めざるを得なかった。
◇ ◇ ◇
その時、基地から整備兵が走ってきた。
「司さん!」
「どうした?」
「ちょうどよかったです。」
整備兵が基地の外側を指差す。
そこには大型の蓄電器が並んでいる。
しかし、その表面には無数の傷がついていた。
「これ、モンスターにやられたのか?」
「そうなんですよ。」
整備兵が困ったように笑う。
「前線が上がってから、ここにいた兵士たちがいなくなりまして。」
「周辺のモンスターを倒す人がいなくなったんです。」
「それで蓄電器が襲われてるのか。」
「はい。」
整備兵はため息をついた。
「壊されるたびに、私たちが修理してます。」
「今までは、モンスターにつつかれながら修理してましたよ。」
「……それは嫌だな。」
「もしよければ、周辺のモンスターを倒してもらえませんか?」
司はアウラとステラを見る。
二人ともスノーディスペンサーガンを構えている。
「ちょうどいい。」
司は頷いた。
「試射も兼ねて、掃除するか。」
「助かります!」
◇ ◇ ◇
こうして、基地周辺のモンスター駆除が始まった。
アウラが雪玉を撃つ。
ポンッ!
ステラも撃つ。
ポンッ!
時にはチャージした巨大な雪玉を放ち、まとめて敵を吹き飛ばす。
「……本当に便利だな。」
司は感心しながら戦闘を続けた。
基地の外壁。
蓄電器の周辺。
雪原の奥。
長い間放置されていた場所には、多数のモンスターが潜んでいた。
そして。
「レベルが上がりました。」
アルマが報告する。
「もう?」
その後も戦闘を続ける。
「また上がりました。」
「早いな……。」
気づけば、アウラとステラだけではない。
司たち自身のレベルまで上昇していた。
そして。
【Lv.50】
「…………。」
司が端末を見る。
「全員50?」
「はい。」
アルマが頷く。
「全員、レベル50に到達しています。」
司はしばらく黙っていた。
「……基地周辺のモンスターを駆除してただけなんだけどな。」
そこまで言って、司の動きが止まった。
「……待てよ。」
司は端末の表示を見つめる。
「レベル50……。」
「これ、Penetration Toolのアクセス条件じゃないか?」
シルヴィアが目を見開く。
「あ……!」
「そういえば、ずっと聞けなかったんだよね。」
「ああ。」
司の表情が変わる。
これまで何度も阻まれてきた情報。
その条件が、今ようやく満たされた。
「今なら、アストラに聞ける。」
アルマが頷く。
「アクセス権限の条件を満たしています。」
「……フリーズ・サンクタムが終わったら、真っ先に確認する。」
司はそう言って、フリーズ・サンクタムの方向へ視線を向けた。
◇ ◇ ◇
基地へ戻る。
整備兵たちが蓄電器の状態を確認している。
「本当に助かりました!」
「これでしばらく修理しなくて済みます!」
「それならよかった。」
司が答える。
その横で。
「アウラちゃん!」
ヴィオラが駆け寄ってきた。
「ステラちゃんも!」
「ヴィオラさん?」
「怪我は!?」
「ありません……。」
「本当に?」
ヴィオラはアウラの身体を確認する。
続いてステラの身体も確認する。
「傷は……ないわね。」
「よかった……。」
そして二人を抱きしめる。
「よく頑張ったわね、私の娘達!」
「…………娘?」
司が呟く。
ヴィオラが振り返る。
「そうよ。」
「誰がお前の娘だよ。」
「私の娘達よ!」
「いや、違うだろ。」
ヴィオラは二人を抱え込んだまま、司を睨む。
「何よ。」
「いや、これからフリーズ・サンクタムに行こうと思ってるんだけど。」
「駄目。」
即答だった。
「……何が?」
「この子達は連れていかないで。」
ヴィオラがアウラとステラをさらに抱き寄せる。
「危険な場所なんでしょう?」
「ああ。」
「じゃあ駄目!」
「いや、本人たちは戦えるぞ。」
「関係ない!」
ヴィオラは完全に過保護になっていた。
「私の娘達を危険な場所に連れていくなんて……。」
「お前、本当に何なんだよ。」
「この人でなし!」
「なんで俺が!?」
「ロリコン!」
「お前が言うな!」
司の叫びが基地に響く。
シルヴィアが苦笑する。
「ヴィオラさん、過保護だね。」
「当然よ!」
ヴィオラは真顔だった。
「この可愛い娘達に何かあったら、私はどうすればいいの!?」
「だから娘じゃないって。」
「娘よ!」
アウラがおずおずと口を開く。
「……ヴィオラさん。」
「なに?」
「私、司さんたちと行きたいです。」
「…………。」
ヴィオラが固まった。
ステラも眠そうに続ける。
「……私も。」
「…………。」
ヴィオラの顔が絶望に染まる。
「娘達ぃぃぃぃぃ!」
「だから本人たちが行きたいって言ってるだろ。」
司は呆れながら言った。
ヴィオラは二人を抱きしめたまま、涙目で司を見る。
「……絶対に無茶させないでよ。」
「分かってる。」
「絶対だからね。」
「ああ。」
ヴィオラはしぶしぶ二人を解放する。
「……いってらっしゃい、私の娘達。」
「だからその呼び方やめろ。」
司は深いため息をついた。
だが。
これで準備は整った。
全員レベル50。
新しい武器も手に入れた。
そして、前回は手を出せなかった隠し部屋へ挑む条件も揃った。
さらに。
レベル50に到達したことで、長く閉ざされていた情報へのアクセス権も得た。
司はフリーズ・サンクタムの方向を見る。
「……今度こそ、奥まで行くぞ。」
アウラが頷く。
「はい。」
ステラも眠そうに頷いた。
「……行く。」
その背後では。
「気をつけてね、私の娘達……!」
ヴィオラがいつまでも手を振っている。
司は振り返らずに歩き出した。
「……あいつ、本当に大丈夫か?」
アルマが答える。
「大丈夫ではないと思います。」
「だよな。」
司は苦笑した。
フリーズ・サンクタムの隠し部屋。
そして、ようやく条件を満たしたPenetration Tool。
次に待っているものは、まだ誰にも分からない。
ただ一つだけ確かなことがある。
今度は、以前とは違う。
司たちは、準備を整えて再びフリーズ・サンクタムへ向かうのだった。




