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第四十五話 新しい身体

第四十五話 新しい身体


天使軍基地。


三週間の滞在が始まってから、数日が過ぎていた。


司たちは回収したアイテムを整理しながら、基地の設備を使って装備の調整を進めていた。


「……結構集まったな」


収納欄に並ぶアイテムを確認し、司が呟く。


スノーマンの素材。


アイスキューブのヒートパック。


アイスクリスタル。


クリスタルウィング。


そして、フリーズ・サンクタムで手に入れた各種フレーム。


その中でも、司が気になっていたものがあった。


【アイスクイーンフレーム】


「これ、使えるんだよな」


変換装置へフレームを投入する。


装置が作動し、白と蒼を基調とした女性型フレームが完成した。


透明感のある装甲。


内部まで淡い蒼が透けて見える。


そこへアイスクリスタルを組み込む。


すると。


キラキラ……。


フレームの周囲に、小さな雪の結晶が舞い始めた。


「……綺麗。」


シルヴィアが目を輝かせる。


「エフェクトか。」


司が端末でアイテム説明を確認する。


【アイスクリスタル】


装備に特殊な視覚効果を付与する。


戦闘能力への影響はありません。


「……やっぱり効果なし。」


「でも綺麗ですよ。」


アルマが淡々と答える。


シルヴィアが司を見る。


「もう少し入れてもいい?」


「まあ……いいけど。」


さらにアイスクリスタルを追加する。


雪の結晶が増え、蒼い光がフレームの周囲を舞う。


「わぁ……!」


シルヴィアが嬉しそうに笑った。


「……まあ、いいか。」


司はその笑顔を見ると、それ以上は言えなかった。


本音を言えば、戦場でこんなに目立つエフェクトは避けたい。


だが。


「お兄ちゃん、綺麗だね!」


「ああ……そうだな。」


「合理性よりシルヴィアを優先しましたね。」


アルマが指摘する。


「……否定できない。」


◇ ◇ ◇


その日の作業を終え、整備区画を歩いていると、司は一人の整備兵に声を掛けられた。


「司さん、ちょっといいですか?」


「ん?」


整備兵が工房の奥を見る。


そこには、古びた機械部品が積まれていた。


「ヴィオラさん、相変わらず無茶してますよ」


「そうなのか?」


「支給された旧式ボディを自分でメンテしながら使ってるんです」


司は少し驚いた。


そういえば、ヴィオラはいつも古いボディのまま動き回っていた。


ボロボロではある。


だが、本人が普通に動いているので、そこまで気にしていなかった。


「……新しいの、作ってやるか」


「え?」


横にいたシルヴィアが顔を上げる。


「ヴィオラさんに?」


「ああ。余ってる材料もあるしな」


シルヴィアは少し考える。


そして。


「だったら、私たちでプレゼントしようよ。」


「私たちで?」


「うん。」


シルヴィアが笑う。


「いつも頑張ってるんだから。」


司はアルマを見る。


「どう思う?」


「問題ありません。」


「よし。」


三人は材料置き場へ向かった。


ガラクタ。


余っていたフレーム素材。


使い道のなかった部品。


それらを次々と変換装置へ投入する。


司が設計イメージを入力した。


猫。


大きな耳。


細身の身体。


そして、どこか悪戯っぽい雰囲気。


「チェシャ猫をイメージしてみるか。」


装置が唸る。


そして。


完成したフレームが姿を現した。


「…………。」


司は絶句した。


想像以上だった。


猫耳を思わせる形状。


細くしなやかなボディ。


大きな瞳を思わせるフェイスデザイン。


そして、全体的に妙に愛嬌がある。


「……かわいい。」


シルヴィアが呟く。


「だな。」


「これは良い出来です。」


アルマも頷いた。


◇ ◇ ◇


「ヴィオラ。」


「なによ?」


呼ばれて振り返ったヴィオラは、新しいフレームを見た。


「…………。」


停止した。


数秒。


さらに数秒。


そして。


「何この美少女!?」


「そこかよ。」


「ちょっと待って! 誰この子!」


ヴィオラはフレームの周囲をぐるぐる回る。


「かわいい……!」


目が完全に輝いていた。


「こんなの……!」


ヴィオラがフレームへ飛びつく。


「最高じゃない!」


「落ち着け。」


「無理!」


「ヴィオラさん、プレゼントです。」


シルヴィアが言う。


ヴィオラは司を完全に無視した。


「シルヴィアちゃんありがとう!」


「え?」


「アルマちゃんもありがとう!」


「どういたしまして。」


「二人とも最高!」


司が眉をひそめる。


「俺が作ったんだけど。」


ヴィオラが振り返る。


「…………。」


「何だよ。」


「ヤロウなんかに私の身体を作らせたの!?」


「……やっぱりこう言うか。」


司は深いため息をついた。


「嫌よ! なんで私の身体をヤロウが!」


「プレゼントを受け取る側の態度じゃないだろ!」


ヴィオラはフレームを抱きしめる。


「でもかわいい……!」


「そこは認めるのかよ。」


「これは私のものよ!」


「だったら使え。」


「言われなくても!」


ヴィオラは自分の自立コアを取り出した。


「じゃあ、移すわ。」


◇ ◇ ◇


作業は短時間で終わった。


新しいフレームへ自立コアが接続される。


各種システムが起動。


蒼い瞳が開いた。


ヴィオラは自分の手を動かす。


指を握る。


腕を回す。


そして、軽く跳ねた。


「…………すごい。」


「どうだ?」


「軽い。」


ヴィオラが腕を振る。


「反応速度も違う。」


さらに端末を操作する。


以前より明らかに速い。


「処理も安定してる。」


ヴィオラは嬉しそうに笑った。


「これなら仕事が倍以上できるわ!」


「そこまで違うのか。」


「旧式とは性能が違いすぎるもの。」


整備兵が苦笑する。


「そりゃそうですよ。今まで使ってたの、かなり古い型ですから。」


ヴィオラは自分の新しい身体を眺める。


「……最高。」


旧式のボディは、整備区画の片隅へ運ばれた。


これで、ヴィオラがそれを使うことはもうない。


◇ ◇ ◇


「さて。」


ヴィオラは作業台へ戻った。


その前には二つのコアが置かれている。


アイスクイーンコア。


そして。


スノーマンコア。


「じゃあ、こっちも始めるわよ。」


新しい身体になったことで、作業速度は以前とは比べものにならなかった。


部品の加工。


コアの調整。


フレームとの接続。


すべてが予定より早く進んでいく。


「……完成した。」


ヴィオラが最初に手に取ったのは、アイスクイーンコアだった。


「このコア、実は空っぽじゃなかったのよ。」


「空っぽじゃない?」


司が眉を上げる。


「量産型にしては珍しく、微弱な自我パターンが残ってた。」


「私の技術は、それを『育てて』完成させただけ。」


「ゼロから人格を作ったわけじゃない。」


司は少し驚いた。


「じゃあ、元々……。」


「そう。」


ヴィオラは頷く。


「アイスクイーンにも、スノーマンにも、微かにだけどコアの反応があった。」


「だから、私はきっかけを与えただけ。」


司はアルマを思い出す。


眠っていたコアに、意志が宿っていた。


あの時と、似ている。


「……そういうことか。」


「この子には、これね。」


司たちが作ったアイスクイーンフレームへ接続する。


蒼い光が走った。


そして。


「……ん。」


ゆっくりと目が開く。


「ここ……どこ?」


小さな声。


おどおどした少女のような声だった。


「起きたか。」


司が近付く。


少女は周囲を見回す。


「あなたは……?」


「俺は司。」


「司……さん?」


「そうだ。」


少女は少しだけ安心したように頷いた。


「私は……。」


その時。


少女の視線が自分の身体へ落ちる。


「……アウラ。」


「アウラ?」


「名前……アウラがいい。」


どうやら自分で決めたらしい。


「そうか。」


司は頷いた。


「よろしくな、アウラ。」


「……よろしくお願いします。」


おどおどと頭を下げる。


司は少し不安になった。


「……大丈夫か、こいつ。」


その横で。


「最高……。」


ヴィオラが震えていた。


「何が?」


「このおどおど感……!」


目が完全に危ない。


「最高に萌える……!」


「やっぱり任せる相手を間違えたかもしれない。」


司は頭を抱えた。


◇ ◇ ◇


「次。」


ヴィオラはもう一つのコアを持ち上げる。


「スノーマンコア。」


こちらには、シルヴィアが作ったスターダストフレームを使用する。


アイスクイーンフレームにクリスタルウィングを組み合わせて生まれた、別系統のフレーム。


蒼い透明感はそのまま。


ただし、その周囲には小さな星のエフェクトが浮かんでいる。


キラキラ。


キラキラ。


「……こっちも派手だな。」


司が呟く。


「かわいいでしょ?」


シルヴィアは満足そうだった。


「まあ……うん。」


ヴィオラがコアを接続する。


「起動。」


フレームの瞳が開いた。


「…………。」


数秒の沈黙。


そして。


「……眠い。」


「第一声それかよ。」


司が呆れる。


少女は目をこすった。


「寝ていい?」


「いや、今起動したばかりだろ。」


「眠い……。」


ヴィオラが眉をひそめる。


「……やっぱりスノーマンコアじゃ性格まで弄れなかったか。」


「何か言った?」


「何でもないわ。」


ヴィオラは少し不満そうだった。


だが、二人の姿を並べる。


アウラ。


そして、もう一人。


「……双子ちゃん。」


ヴィオラの目が輝いた。


「そっくり……!」


「なるほど。」


司も二人を見比べる。


確かに、顔立ちや体格には共通点が多い。


違うのはフレームと雰囲気くらいだ。


「双子ちゃん萌えるでしょ……!」


ヴィオラが両手を震わせる。


「最高……!」


司はスターダストフレームを見る。


「……選ばなかったのは、こっちだったか。」


アイスクイーンフレームはアウラ。


スターダストフレームは、もう一人。


そして。


「名前は?」


司が尋ねる。


少女は眠そうに顔を上げた。


「……ステラ。」


「ステラか。」


「うん……。」


また目を閉じる。


「眠い……。」


「起きろって。」


司は呆れながらも、二人を見た。


アウラ。


ステラ。


新しく加わった二人の仲間。


「そういえば。」


アルマが二人の状態を確認する。


「二人とも、すでにレベル30になっています。」


「え?」


司が端末を見る。


確かに、アウラもステラもレベル30と表示されている。


「もう30なのか?」


「ヴィオラが基地に残っていた設備を使用したためです。」


ヴィオラが得意げに胸を張る。


「使える設備は全部使ったわ。」


「それで最初から30か。」


司は二人を見比べる。


「……かなり育ってるな。」


「それだけじゃないわよ。」


ヴィオラが続ける。


「二人とも、リミットキーと追加メモリーの適用も済ませてある。」


「リミットキーまで?」


司が驚く。


「ええ。昔、ここが前線基地だった頃に使われていた予備品よ。」


「予備品?」


「兵士用に保管されていたもの。でも戦線が移って、この基地が使われなくなったあと、回収されずに残ってたの。」


ヴィオラは肩をすくめる。


「こんな場所まで、わざわざ取りに来る人もいなかったみたいね。」


「……なるほどな。」


貴重品なのに残っていた理由が、それなら納得できる。


ヴィオラが長くこの基地にいたからこそ、偶然見つけられたというわけだ。


「じゃあ……。」


司が端末を確認する。


「レベル50まで上げられるってことか。」


「その通り。」


アルマも頷く。


「育成上限の解除を確認しました。」


司は思わず笑った。


「そりゃいい。」


これなら、二人を一から育てる必要もない。


レベル30から始められるうえ、限界もすでに取り払われている。


「戦力として期待できそうだな。」


アウラは少し不安そうに司を見る。


「……ちゃんと、お役に立てるでしょうか。」


「大丈夫だろ。」


司は笑った。


「これから強くなればいい。」


「……はい。」


アウラが小さく頷く。


その横では。


「ふふふ……。」


ヴィオラが怪しい笑みを浮かべていた。


「レベル30の双子ちゃん……。」


「絶対に何か企んでるだろ、お前。」


「失礼ね。」


ヴィオラは胸を張る。


「私はただ、二人の成長を見守りたいだけよ。」


「その顔で言われても全然信用できない。」


「ひどい!」


ヴィオラが叫ぶ。


司はため息をついた。


だが。


新しい仲間が二人。


そして、ヴィオラ自身も新しい身体を得た。


三週間の滞在は、思った以上に大きな変化をもたらしていた。


「……戦力は、かなり増えたな。」


司は三人を見渡した。


アウラはおどおどしながらも、司たちのそばに立っている。


ステラは眠そうに目をこすっている。


そしてヴィオラは、そんな二人を眺めながら怪しい笑みを浮かべている。


司は小さく息を吐いた。


「……まあ、なるようになるか。」


新しい仲間たちとともに。


司たちは、次の行動へ向けて準備を進めていくのだった。


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