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第四十四話 氷の女王

フロアゲートの先。


司たちは、巨大な空間へ足を踏み入れた。


天井は高く、壁面は厚い氷に覆われている。


その中央に、一体の大型ロボットが立っていた。


白を基調とした女性型の機体。


手には、巨大なフロストハンマー。


「……アイスクイーン?」


司は端末を確認した。


表示された名称は、記憶にあるものとは違っていた。


だが、その姿には見覚えがある。


白い装甲。


女性型のフレーム。


巨大なフロストハンマー。


「……おかしいな。」


司は眉をひそめた。


知っているはずの機体と、目の前にいる機体。


姿は同じなのに、情報が一致しない。


その時。


ズンッ!


巨大なフロストハンマーが振り下ろされた。


「来るぞ!」


司たちは一斉に散開する。


床が大きく砕けた。


「アルマ、右!」


「了解。」


アルマが射撃を開始する。


ビームが白い装甲を撃ち抜く。


シルヴィアも続いて射撃する。


「私も!」


「無理するな!」


「大丈夫!」


三人の攻撃が集中する。


装甲が剥がれ、内部機構が露出していく。


しかし。


「……弱いな。」


司は思わず呟いた。


これまでの改竄は、いつも敵を強くする方向だった。


なのに、これは逆。


弱くなって、名前まで変わっている。


「……パターンが違う。」


司はそう呟いた。


攻撃は単調。


動きも遅い。


一撃の威力こそ高いものの、避けることは難しくない。


「お兄ちゃん、これなら!」


「ああ。」


司はビームガンを構える。


「一気に終わらせるぞ!」


ドォン!


集中攻撃が機体を貫く。


大型ロボットの動きが止まった。


そして。


ドゴォォン!


機体が光とともに弾け飛んだ。


「……終わった。」


司は煙の向こうを見つめる。


「…弱かったな。」


「お兄ちゃん、驚いてたね。」


「知ってる姿と違ったからな。」


司は残骸へ視線を向けた。


「姿だけじゃない。」


「何かがおかしい。」


◇ ◇ ◇


ボスが消えると、奥の壁が開いた。


内部から宝箱がせり出してくる。


「報酬か。」


司が駆け寄り、蓋を開ける。


「……おお。」


中には四種類のアイテムが入っていた。


【アイスクイーンフレーム】


【アイスクイーンコア】


【アイスクリスタル】


そして。


「ダイヤモンド三十個。」


司が固まった。


「多いな。」


アルマが確認する。


「三十個で間違いありません。」


「これは当たりだ。」


フレームとコアも貴重だ。


アイスクリスタルにも用途がありそうだ。


そしてダイヤモンド三十個。


「ヴィオラとの取引材料としては十分すぎるな。」


シルヴィアが宝箱を覗き込む。


「全部持って帰るの?」


「当然。」


司はアイテムを収納する。


「置いていく理由がない。」


その時。


司は床に残された残骸へ目を向けた。


白い装甲。


巨大なフロストハンマー。


そして、何も語らなくなった機体。


「……天使軍の機体だったんだな。」


司は端末に表示された情報を、もう一度確認する。


【天使軍・守護機】


だが。


「……待て。」


司は眉をひそめた。


ここは天使軍の施設ではない。


これまでの探索でも、天使軍がこの場所を管理していたという痕跡は見つかっていない。


そもそも、天使軍の機体がここに置かれていること自体がおかしい。


「じゃあ、なんでこいつがここを守ってたんだ?」


答えは出ない。


この機体は、フリーズ・サンクタムの最奥で待ち構えていた。


まるで、何かを守るように。


だが。


「……何を守ってたんだ?」


司は周囲を見回す。


ボスがいた場所。


その奥にあった隠し部屋。


そして、そのさらに奥から感じた強烈な反応。


「……関係あるのか?」


分からない。


今の司には判断できなかった。


「まあ、今はいい。」


司は残骸から視線を外す。


報酬は手に入った。


それに、隠し部屋には明らかに何かがある。


「戻ってくる必要はありそうだな。」


司はそう呟いた。


「その時に調べればいい。」


◇ ◇ ◇


ピッ。


端末から電子音が鳴る。


「……レベル43。」


司が端末を確認する。


「三人とも43です。」


アルマが報告する。


「順調ですね。」


「ノルド、うますぎるだろ。」


司は笑った。


「経験値も素材も美味い。」


「来て正解だったな。」


その時。


司がふと、壁を見る。


「……ん?」


ボス部屋の奥。


壁の一部だけ、妙に構造が違っていた。


「アルマ。」


「はい。」


「ここ、何かある。」


アルマが確認する。


「内部に空間があります。」


司はビームガンを構えた。


「やっぱりな。」


ドォン!


ビームが壁を破壊する。


氷と装甲の破片が崩れ落ちる。


その奥には、隠された部屋があった。


そして。


そのさらに奥から、強烈な反応が返ってくる。


司はしばらく黙っていた。


「……いるな。」


「何がですか?」


「強い奴だ。」


シルヴィアが覗き込む。


「戦うの?」


「今は無理。」


司は即答した。


「装備も足りないし、レベルも足りない。」


「でも、せっかく見つけたのに。」


「だから後で来る。」


司は部屋の奥を見る。


「今の俺たちじゃ、勝てない。」


「だったら、準備してからだ。」


司は踵を返した。


「今回は報酬も十分だ。」


「隠し部屋は後回し。」


◇ ◇ ◇


天使軍基地。


装甲車を戻すと、ヴィオラが待ち構えていた。


「帰ってきた!」


「約束のものだ。」


司は収納欄からアイテムを取り出す。


「スノーマンのコアと素材。」


ヴィオラの目が輝いた。


「よし!」


受け取った素材を端末で確認する。


「これなら作れる。」


「頼んだ。」


司が頷く。


「自立型コアの製作、よろしくな。」


「任せて。」


ヴィオラが素材を抱え込む。


その時。


「……ん?」


突然、ヴィオラが顔を上げた。


「どうした?」


ヴィオラはシルヴィアを見る。


「……何かいる。」


「何か?」


「もっとかわいい子の気配がする。」


司の顔が引きつった。


「お前、何か分かるのか?」


「分かる。」


ヴィオラの視線が司の収納欄へ移る。


「何を持って帰ってきたの?」


「……これか?」


司は少し迷った。


そして。


アイスクイーンコアを取り出す。


「フリーズ・サンクタムの守護機から出た。」


「…………。」


ヴィオラが固まった。


次の瞬間。


「貸して!」


「おい!」


ヴィオラがコアを奪い取る。


「ちょっと待て!」


「すごい……!」


ヴィオラはコアを両手で抱え込み、食い入るように眺めている。


「こんなフレームのコア、どこで見つけたの!?」


「だから、フリーズ・サンクタムの守護機だって。」


「守護機!?」


ヴィオラの声が一段高くなる。


「これ、最高じゃない!」


「いや、返せ。」


「嫌!」


「おい!」


ヴィオラはコアを抱えたまま端末を操作する。


「これなら……。」


「待て。」


司が肩を掴む。


「何する気だ?」


ヴィオラは満面の笑みを浮かべた。


「三週間。」


「……何が?」


「三週間あれば、この子を組み上げられる。」


「そんなにかかるのか?」


「かかる。」


ヴィオラはコアを離さない。


「最高の機体にしてあげる。」


「別に最高じゃなくてもいいんだけど。」


「私が嫌。」


「なんでお前の都合なんだよ。」


「技術者として妥協できないの。」


ヴィオラはきっぱりと言った。


「三週間。」


「その間、好きにしてていいわ。」


「基地には部屋もあるし、オイルもある。」


司はアルマとシルヴィアを見る。


「どうする?」


「特に問題ありません。」


アルマが答える。


シルヴィアも頷いた。


「ゆっくりできるなら、いいんじゃない?」


司は少し考えた。


そして。


「……まあ、いいか。」


ヴィオラは再びコアへ視線を落とす。


「ふふふ……。」


「三週間後が楽しみね。」


司はその様子を見ながら、深いため息をついた。


「……本当に、どうなってんだあいつ。」


シルヴィアが小声で呟く。


「お兄ちゃん。」


「ん?」


「私、あの人に触られないよね?」


「触らせない。」


「絶対?」


「絶対。」


シルヴィアは安心したように頷いた。


こうして。


司たちは、しばらく天使軍基地を拠点にすることになった。


三週間後。


ここで、新たな機体が完成する。


司たちは、その完成を待ちながら、次の戦力強化へ動き始めた。


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