第四十三話 氷結遺跡
天使軍基地。
司たちは、ヴィオラとの話を終え、出発の準備を整えていた。
「じゃあ、行ってくる」
司が声を掛ける。
「スノーマンのコアと素材、忘れないでよ!」
「分かってるって」
「絶対よ!」
「何度も言わなくても分かる」
背後から飛んでくる声に、司はため息をついた。
その横で、シルヴィアが装甲車へ乗り込む。
「……あの人、ずっとあんな感じなの?」
「たぶんな」
「帰ってきたら触らせてね!」
「絶対嫌です!」
「なんでよ!」
「ほらな」
司は呆れながら運転席へ乗り込んだ。
アルマが装甲車を確認する。
「雪原用装備、正常です」
「ヴィオラに借りたやつだな」
「はい。雪上での走行性能を向上させています」
「十分だ」
司はエンジンを始動させた。
「行くぞ」
装甲車は基地を出た。
◇ ◇ ◇
雪原を進んでいると、前方に白い影が見えた。
「スノーラビー」
司が端末を確認する。
その数は数十体。
さらに上空にはスノーバードの群れまで飛んでいる。
司はアクセルを踏み込んだ。
「……轢くか」
「え?」
「まとめて轢く」
「お兄ちゃん、容赦ないね……」
「狩りなんだからいいだろ」
装甲車が雪を巻き上げながら加速する。
ドガッ!
白い機体が宙を舞う。
さらに群れへ突っ込む。
ドガッ、ドガッ、ドガガガッ!
「すげえ……」
司は思わず笑った。
「楽だな、これ」
「ドロップアイテムが散乱しています」
アルマが淡々と報告する。
「あとで拾える分だけ拾おう」
「了解」
その先では、スノーマンの群れが道を塞いでいた。
「次も轢く?」
シルヴィアが聞く。
「もちろん」
「……楽しそうだね」
「実際、楽しい」
装甲車が再び雪原を駆け抜ける。
雪とともに、スノーマンのコアや素材が周囲へ散らばった。
「これは後で回収だな」
司はそのまま装甲車を走らせた。
◇ ◇ ◇
やがて、雪原の向こうに巨大な建造物が現れた。
「見えた」
フリーズ・サンクタム。
白い雪に覆われた遺跡が、静かに佇んでいる。
司は装甲車を止めた。
「……これが、フリーズ・サンクタムか」
ゲームの中では何度も見た場所だった。
だが、実際に目の前にすると印象が違う。
壁には風雪による傷が刻まれ、通路には人が残した痕跡もある。
ゲーム画面では背景に過ぎなかった場所が、今は実際の建造物としてそこに存在していた。
「……やっぱり、同じじゃない」
司は小さく呟いた。
「何か変?」
シルヴィアが尋ねる。
「見た目は似てる。でも、ゲームとは違う」
「どういうこと?」
「ゲームじゃ、何年経っても同じだった」
司は遺跡を見上げる。
「でも、ここは違う」
三人は装甲車を降り、遺跡内部へ入っていった。
◇ ◇ ◇
内部へ入った途端、白い影が一斉に動いた。
「来るぞ!」
スノーラビー。
スノーバード。
スノーマン。
さらに氷塊のようなモンスターまで姿を現す。
「アイスキューブまでいるのか」
司はビームガンを構えた。
「装甲車でいけるところまでいく」
「了解」
装甲車が通路を駆け抜ける。
スノーラビーを跳ね飛ばし、スノーマンを弾き、アイスキューブを踏み越えていく。
空中を飛ぶスノーバードには、三人が車外から射撃を浴びせた。
ほどなくして、周囲から敵の姿が消える。
雪と氷の床には、大量のドロップアイテムが残されていた。
「追加メモリーに、ヒートパック……」
司が拾い上げる。
「それにスノーマンのコアか」
「必要な素材は揃いそうですね」
「まだ先にもいるだろ」
司は先へ進む。
戦闘を重ねるたび、端末から電子音が鳴った。
【LEVEL 40】
そして、さらに奥へ進んだところで。
【LEVEL 41】
「……もう41か」
司は思わず笑った。
「ここ、かなり効率いいな」
シルヴィアも嬉しそうに笑う。
「いっぱい強くなれるね」
「ああ」
司は先を見た。
「でも、本命はスノーマンのコアだ」
◇ ◇ ◇
さらに奥へ進む。
やがて、広いフロアへ出た。
その中央に、四体の大型ロボットが立っている。
「……中ボスだ」
司が足を止める。
天使軍の旧式ロボット。
損傷した装甲の隙間から、赤い光が覗いている。
「こいつら、正面から相手すると面倒なんだよな」
「どうしますか?」
アルマが尋ねる。
司は周囲を見渡した。
「いつも通りだ」
四体が一斉に動き出す。
司は一体を引き付け、そのまま別の個体の射線へ誘導した。
轟音。
攻撃が別のロボットへ命中する。
「よし。そのままやれ!」
敵同士が互いを巻き込みながら攻撃を始める。
アルマとシルヴィアが隙を突いて攻撃を加える。
やがて一体が倒れ、続いて二体目。
最後の一体が崩れ落ちた。
「……終わった」
司は息を吐いた。
「相変わらず面倒な配置だ」
「ですが、無事に突破できました」
「だな」
司たちはさらに奥へ進んだ。
◇ ◇ ◇
やがて、大きなゲートへ辿り着く。
「この先がボスエリアだ」
司は壁面を調べる。
すぐにスイッチを見つけた。
「これだ」
カチ。
動かない。
「……ん?」
もう一度押す。
カチ。
「なんでだ?」
アルマが確認する。
「凍結しています」
スイッチの周囲には、分厚い氷が張り付いていた。
「こんなの、前はなかったぞ」
司は眉をひそめる。
シルヴィアが覗き込む。
「溶かせばいいんじゃない?」
「その方法が分からない」
司は収納欄を開く。
そして。
「あ」
目に留まったアイテムがあった。
【ヒートパック】
「これなら……」
司は取り出してみる。
だが、使い方が分からない。
シルヴィアが手を伸ばした。
「貸して」
「気をつけろよ」
「うん」
シルヴィアはヒートパックを持って、スイッチへ近付く。
その瞬間。
「きゃっ!」
ツルッ。
パキッ。
ヒートパックが床へ落ちた。
「…………」
三人が固まる。
「割れちゃった……」
シルヴィアが申し訳なさそうに呟く。
だが。
「……待て」
司が床を見る。
ヒートパックの周囲だけ、氷が溶けている。
「熱が出てる」
「本当だ」
司は目を輝かせた。
「そういうことか」
ゲームでは単なるアイテムだった。
だが、現実では違う。
「割って使うんだ」
「割るの?」
「そうだ」
司は残りのヒートパックを取り出した。
「シルヴィア、手伝ってくれ」
「うん!」
パキッ。
パキッ。
パキッ。
ヒートパックから発生した熱が、凍り付いたスイッチへ伝わっていく。
少しずつ氷が溶ける。
「あと少し」
アルマが確認する。
「凍結部分、融解しています」
さらに一つ。
パキッ。
最後の氷が崩れ落ちた。
カチッ。
スイッチが動く。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大なゲートが開き始めた。
「開いた!」
シルヴィアが声を上げる。
その先には、暗い通路が続いている。
さらに奥には、巨大なフロア。
司はその入口で足を止めた。
ゲームでは、ここまで来ればあとはボスを倒すだけだった。
だが、今は違う。
三年間、誰も訪れていない遺跡。
凍り付いたスイッチ。
そして、この先にいるはずの守護者。
「……さて」
司はビームガンを握り直した。
「ボスが、まだ同じとは限らないよな」
シルヴィアが頷く。
アルマも武器を構える。
三人は、ゆっくりとゲートの奥へ進んでいった。




