第四十話 新たな旅路
ガレージ。
紙飛行機が、ゆっくりと床へ落ちた。
司はしばらくそれを見つめていた。
「……もういい」
「お兄ちゃん、怒ってる?」
「怒ってない」
「でも顔が怖いよ?」
「怒ってない」
「そう?」
シルヴィアは首を傾げた。
その横で、アルマが紙飛行機を拾い上げる。
「司」
「なんだ?」
「レイヴンの製造準備が整っています」
「……そうだったな」
司はようやく顔を上げた。
「まずは作るか」
◇ ◇ ◇
ガレージ中央。
集めた素材が、変換装置の前に並べられている。
司は必要な素材を一つずつ確認すると、装置へ投入した。
「これで全部だな?」
「必要素材は揃っています」
「よし」
装置を起動する。
低い駆動音が響き、内部で光が走った。
素材が次々と消えていく。
やがて。
装置が停止した。
「できた?」
シルヴィアが覗き込む。
だが、そこに完成した機体はなかった。
床に並んでいたのは、大型のパーツだった。
機体フレーム。
主翼。
尾翼。
エンジン。
装甲。
内部機構。
「……パーツ?」
アルマが確認する。
「レイヴン本体ではありません」
司は目の前の部品を見つめた。
「装甲車は一瞬だったのに」
「今回は組み立てろってことか」
司はため息をついた。
変換装置が何でも完成品にしてくれるわけではないらしい。
「まあ、三メートルの機体を一瞬で組み立てる方がおかしいか」
その時。
「手伝おう」
振り返る。
レオンと整備兵たちが立っていた。
「調査に協力してもらった礼だ」
レオンが言う。
「これだけの量なら、人手があった方がいい」
「助かる」
司は素直に礼を言った。
「じゃあ、運ぶぞ」
◇ ◇ ◇
レイヴンのパーツは、次々とシャトルへ運び込まれていった。
フレーム。
エンジン。
装甲。
各種機器。
大型部品を整備兵たちが運び、司たちが配置を確認していく。
「これで全部か?」
「最後のパーツです」
「よし」
やがて、全ての部品が格納庫へ収まった。
「助かった」
司がレオンを見る。
「礼を言うのはこちらだ」
レオンはシャトルを見上げる。
「それにしても、本当に戦闘機を作るとはな」
「必要だからな」
「完成したら見せてくれ」
「ああ」
レオンたちがガレージを出ていく。
司たちもシャトルへ乗り込んだ。
◇ ◇ ◇
シャトル内部。
「司」
アストラが近付いてきた。
「頼みがあります」
「なんだ?」
「ガラクタとアルファ・ドローンのフレームを分けてもらえませんか」
司が眉を上げる。
「何に使う?」
「作業員が必要です」
アストラは淡々と答えた。
「今後の作業量を考えると、私一人では非効率です」
「これらがあれば、作業用ドローンを製造できます」
「レイヴンの組み立ても進められます」
司は少し考えた。
「分かった。好きに使っていい」
「ありがとうございます」
アストラはすぐに作業へ取り掛かった。
◇ ◇ ◇
しばらくして。
シャトル内部に機械音が響き始めた。
「……何してるんだ?」
司が振り返る。
「ドローンを製造しています」
「いや、それは分かる」
司の前で、一体の小型ロボットが完成した。
続いて二体目。
三体目。
「……多くない?」
シルヴィアが目を丸くする。
さらに一体。
また一体。
「アストラがいっぱい……」
「必要な数です」
「何体作る気だ?」
「三十体」
「三十……」
司は言葉を失った。
シルヴィアは楽しそうに完成したドローンを眺めている。
「私も手伝う!」
「お願いします」
「アルマも!」
「私もですか?」
「うん!」
「……了解」
こうして、シルヴィアとアルマまで作業へ駆り出された。
◇ ◇ ◇
数時間後。
司はシャトルの外に立っていた。
そして。
「…………」
絶句する。
「なんだこれ」
以前とは、明らかに姿が違っていた。
船体には追加装甲。
各所には武装。
増設された機器。
そして、内部には大規模な作業区画まで追加されている。
「……やりすぎだろ」
エンペラードローンを考えれば、武装強化そのものは理解できる。
問題は。
「なんでガレージまであるんだよ」
司は内部へ入った。
壁面には照明。
装飾柱。
妙に豪華な意匠。
医療設備。
そして、レイヴンを組み立てるための作業区画。
「…………」
司はアストラを見る。
「お前、俺のガラクタを無駄遣いしてないか?」
「余剰資材を有効活用しました」
「そういう問題じゃない」
「無駄にはなっていません」
「限度ってものがあるだろ」
さらに奥へ進む。
その時、外からレオンの声がした。
「司、いるか?」
「レオン?」
「完成した装備を見せてもらおうと思ってな」
「ああ。ちょうどいい」
司はレオンを招き入れた。
そして。
レオンの足が止まった。
「…………」
壁沿いに並ぶ扉。
「……これは?」
「各人の私室です」
シルヴィアが扉を開ける。
「私の部屋?」
「はい」
「綺麗!」
シルヴィアの顔が明るくなる。
「司の部屋もあります」
「俺のも?」
「全員分です」
司は自分の部屋を見る。
レオンも覗き込む。
「…………」
「…………」
二人とも無言になった。
一方。
「いい部屋だね!」
シルヴィアは嬉しそうだった。
アルマも隣で部屋を確認している。
「私はシルヴィアに協力させられただけですが」
「でも楽しかったよね?」
「……否定はしません」
司は改めてシャトル内部を見回した。
装甲。
武装。
医療設備。
作業区画。
個室。
生活に必要な設備まで揃っている。
「……まあ」
この先、何が待っているのか分からない。
未知の惑星。
未知の遺跡。
そして、エンペラードローン。
ここで生活しながら戦えるなら、悪い話ではない。
「……悪くはないな」
司が呟く。
そしてアストラを見る。
「しかし」
「はい」
「どうやったんだ、これ?」
「企業秘密です」
「お前、そういうこと言うタイプだったか?」
アストラは答えなかった。
◇ ◇ ◇
出発準備が整った。
格納庫には、三十機の作業用ドローン。
そして、レイヴンのパーツ。
司はその光景を眺めながら、ふと思い出す。
「アストラ」
「はい」
「Penetration Toolについて、そろそろ教えてくれないか?」
「アクセス条件を満たしていません」
「……やっぱり?」
「レベル50以上が必要です」
司は肩を落とした。
「まだ先か」
結局、ここでも条件付きだった。
◇ ◇ ◇
アルカディア。
シャトルがゆっくりと上昇する。
司は窓から惑星を見下ろした。
フォージ・アーカイブ。
ネビュラ・ヴォルト。
Penetration Tool。
そして、メタトロンフレーム。
何一つ解決していない。
それでも。
「出発するぞ」
司が言った。
「次は第三惑星、ノルドだ」
シャトルは加速する。
アルカディアを離れ、宇宙へ飛び出していく。
◇ ◇ ◇
第三惑星、ノルド。
氷と海に覆われた小さな辺境惑星。
天使軍の同盟惑星だが、現在は前線へ兵力を送っているため、残存戦力は少ない。
司は惑星情報を確認した。
「警備が薄いなら、今の俺たちには都合がいい」
「遺跡は?」
アルマが答える。
「一か所です」
「一か所か」
司は表示された惑星情報を見る。
アルカディアでは、遺跡の利用に軍の許可が必要な場所が多かった。
その点、ノルドなら動きやすい。
「しばらく、ここで戦力を整えるか」
司はノルドを見つめた。
氷と海に覆われた、辺境の惑星。
これから何が待っているのかは分からない。
ただ一つ確かなのは。
この惑星も、司たちの旅の途中にあるということだった。
シャトルは、ノルドへ向けて降下を開始した。




