第三十九話 正常化
アルカディアのガレージ。
司たちは、ネビュラ・ヴォルトから戻っていた。
床には、持ち帰った素材が並んでいる。
司は端末の一覧を確認した。
「……これで揃ったな」
レイヴンの製造に必要な素材。
十分な量が集まっていた。
「何周したんだろうね」
シルヴィアが苦笑する。
「数えてない」
司も苦笑した。
改竄されたネビュラ・ヴォルトは、想定以上に危険だった。
ベータ・ドローンは本来存在しないビーム兵器を使い、ガーディアン・ベータまで異常な武装を備えていた。
装甲車がなければ、もっと苦戦していただろう。
「それにしても、あの状態は何だったんだろうな」
司が呟く。
「Penetration Toolを回収した途端、全部元に戻った」
アルマが頷く。
「回収後、敵機体の異常な武装および挙動は確認されなくなりました」
「フォージ・アーカイブでも同じだった」
司は腕を組む。
「やっぱり、あれが原因と考えるのが自然だな」
レオンが答える。
「だが、正体はまだ分からない」
「誰が何のために使っているのかもな」
司は黙った。
メタトロンフレーム。
侵食された警備ロボ。
改竄された遺跡。
そして、二度にわたって発見されたPenetration Tool。
まだ、点が線になっただけだ。
「まあ……今は考えても仕方ないか」
司は端末を閉じた。
「とりあえず、レイヴンを作ろう」
「そうだね」
◇ ◇ ◇
「それと、もう一つ」
レオンが端末を操作する。
「お前たちがネビュラ・ヴォルトを調べている間、過去の記録も確認してみた」
司が振り返る。
「何か出た?」
「決定的なものはない」
レオンは首を横に振った。
「ただ、過去にも遺跡の状態と記録が一致しない事例がある」
「機械の故障や経年劣化として処理されたものがほとんどだ」
司は画面を見つめる。
「……ネビュラ・ヴォルトだけじゃないってことか」
「その可能性はある」
レオンはPenetration Toolの記録を表示した。
「これについても調査を続ける」
「分かった」
司は頷いた。
「何か分かったら教えてくれ」
「ああ」
◇ ◇ ◇
その頃。
ガレージの一角では、別の光景が広がっていた。
「ここを折るの」
シルヴィアが一枚の紙を折っている。
周囲には数体のロボットが集まっていた。
「なるほど」
「こうか?」
「そうそう」
折り目をつける。
開く。
また折る。
やがて一枚の紙が、鶴へと形を変えていく。
「完成」
「綺麗だな」
「これ、飾っていい?」
「うん」
司は少し離れたところから、その様子を眺めていた。
「……すっかり馴染んだな」
アルマが答える。
「適応能力が高いようです」
「まあ、それはそうなんだけど」
シルヴィアは楽しそうだった。
そして次の紙を手に取る。
「今度はこれ」
「何を作るんだ?」
「飛行機」
シルヴィアは紙を折り始めた。
何度か折り目をつける。
やがて完成したのは、見慣れた紙飛行機だった。
「できた」
シルヴィアが掲げる。
司は何気なく視線を向けた。
そして。
「…………」
動きが止まった。
視界に表示が浮かんでいる。
【航空機】
「…………は?」
シルヴィアが首を傾げる。
「どうしたの?」
司は紙飛行機を見る。
もう一度確認する。
【航空機】
「ちょっと待て」
「それ、航空機なのか?」
「……本当だ」
シルヴィア自身も表示を確認する。
アルマも覗き込む。
「【航空機】と認識されています」
司は無言になった。
ふと、ネビュラ・ヴォルトで回収した素材を思い出す。
【ベータ・ドローン・フレーム】
【CATEGORY:航空機】
「…………」
司の顔が引きつる。
「これ、レイヴンに必要だったよな」
「うん」
司は紙飛行機を見る。
【航空機】
鶴を見る。
【装飾】
もう一度、紙飛行機を見る。
【航空機】
「…………」
数秒の沈黙。
そして。
「じゃあ俺たち……」
司の声が震える。
「何十周もして……」
「命懸けで素材を集めて……」
シルヴィアが紙飛行機を見つめる。
「これも航空機だから?」
「そういう問題じゃない!」
司の叫び声がガレージに響いた。
「素材集める前に教えてくれよ!」
「ご、ごめん……」
「いや、シルヴィアは悪くない!」
司は頭を抱える。
誰が悪いわけでもない。
ただ。
「……この分類システム、どうなってんだよ!」
ロボットたちが呆然と司を見る。
アルマは紙飛行機を確認した。
「分類上は、航空機です」
「分かってるよ!」
シルヴィアが紙飛行機を飛ばす。
紙飛行機は、ふわりと宙を滑っていった。
司はそれを無言で見送る。
「…………」
誰も、何も言わなかった。




