第三十六話 不穏な影
アルカディアのガレージ。
装甲車が戻ると、司たちはすぐに整備区画へ向かった。
「レオン。」
司が声を掛ける。
レオンが振り返る。
「戻ったか。どうだった?」
「問題があった。」
司は後ろを指差した。
「警備ロボが二体、侵食されてた。」
レオンの表情が変わる。
「侵食?」
「これを見てくれ。」
アルマが記録した映像を端末へ転送する。
モニターに、赤黒く変色した二体の警備ロボが映し出された。
レオンは無言で映像を見つめる。
「……この機体は、確かにネビュラ・ヴォルトの警備用だ。」
「だが、こんな状態は見たことがない。」
「ステータスにはCORRUPTIONと出ていた。」
司が答える。
レオンの目が険しくなる。
「CORRUPTION……そんな項目、聞いたことがない。」
「軍のシステムにも存在しない表示だ。」
司は少し考えた。
「俺も、あんな表示は初めて見た。」
レオンはそれ以上追及しなかった。
「それで、二体は?」
「四肢を破壊して動けなくしただけだ。」
「中枢は無傷。」
シルヴィアが付け加える。
「今は修理台に移してあるよ。」
「そうか。」
レオンは少し安心したように息を吐く。
「破壊しなかったのは正解だ。」
「原因を調べられるかもしれない。」
「俺もそう思う。」
司はアイテムバッグから、一つの金属製ツールを取り出した。
「それと、これ。」
レオンが目を向ける。
「……何だ?」
司は端末を操作する。
画面に名称が表示された。
【Penetration Tool】
レオンの表情が消えた。
「……どこで?」
「ネビュラ・ヴォルトで。」
「瓦礫の中に落ちていた。」
「以前、ガラクタドラゴンが落としたものと同じだ。」
レオンはツールを手に取る。
表面を慎重に確認する。
「同じ……?」
「ああ。」
司は頷いた。
「一つなら偶然だと思った。」
「でも、二つ目が出てきた。」
「しかも、侵食された警備ロボの近くで。」
沈黙が落ちる。
アルマが淡々と告げる。
「両地点における共通点は、現時点ではこのツールのみです。」
「因果関係は確認できません。」
「だが、無関係とも言い切れない。」
レオンが答える。
司は頷いた。
「俺もそう思う。」
「ガラクタドラゴンも、普通じゃなかった。」
「異常な硬度。」
「不自然な動力構造。」
「そして、その近くにもこれがあった。」
シルヴィアが不安そうに尋ねる。
「じゃあ……このツールが、何かをおかしくしてるの?」
「分からない。」
司は首を横に振る。
「まだ何も分からない。」
「ただ――」
司は侵食された警備ロボの映像を見る。
ゲームでは見たことのない異常。
それが、二つ続けて起きている。
しかも、どちらも普通ではない。
「偶然で片付けるには、ちょっと多すぎる。」
レオンはしばらく考え込んだ。
「このツールについて、俺たちの記録にも情報があるか調べてみる。」
「頼む。」
「ただし。」
レオンが司を見る。
「ネビュラ・ヴォルトへ戻るのは待ってくれ。」
「警備ロボの侵食原因が分からない以上、危険すぎる。」
司は少し考えた。
「……分かった。」
今はまだ、情報が足りない。
下手に動けば、何が起きるか分からない。
「じゃあ、警備ロボの修理を優先しよう。」
「原因が分かれば、何か手掛かりになるかもしれない。」
アルマが頷く。
「了解しました。」
シルヴィアも続ける。
「じゃあ、あの二体を直せば、話を聞けるかもしれないんだね。」
「ああ。」
司はPenetration Toolをアイテムバッグへ戻した。
その時。
ガレージの奥から、かすかな金属音が響いた。
ガコン。
全員が振り返る。
修理台の上。
侵食された警備ロボの一体が、動かないはずの頭部をわずかに動かしていた。
「……今、動いた?」
シルヴィアが呟く。
司は武器へ手を伸ばす。
だが。
警備ロボは、それ以上動かなかった。
レオンがゆっくりと近付く。
「……まだ終わっていないのか。」
赤黒く変色した装甲の隙間から、小さなランプが明滅している。
一度。
二度。
三度。
規則的な点滅だった。
アルマがそれを見つめる。
「……信号を発しています。」
「信号?」
司が眉をひそめる。
「はい。」
アルマは解析を続ける。
「ただし、現在の軍用通信規格とは一致しません。」
レオンの表情が険しくなる。
「軍用じゃない?」
「現時点では、判断できません。」
ランプが再び明滅する。
一度。
二度。
三度。
そして――。
警備ロボの内部から、微かな電子音が響いた。
『――……警告……』
全員が息を呑む。
『……内部……侵入……』
そこで音声は途切れた。
ガレージに静寂が戻る。
司は警備ロボを見つめた。
「……内部に、何かいるのか?」
誰も答えられなかった。
ただ一つだけ確かなことがある。
ネビュラ・ヴォルトでは。
彼らが知らない何かが、すでに動き始めていた。




