第三十五話 侵食
ネビュラ・ヴォルト。
装甲車は遺跡の入口付近で停止した。
司は周囲を見回す。
「……いた。」
少し先。
二体の警備ロボが立っていた。
だが。
「……これが?」
司の表情が険しくなる。
かつて見た姿とは、あまりにも違っていた。
本来は地味な迷彩柄のボディ。
しかし今は、全身が赤黒く変色している。
装甲は剥がれ、内部機構まで露出していた。
「ボロボロ……。」
シルヴィアが呟く。
アルマが分析する。
「通常の損傷状態とは一致しません。」
司は端末を操作した。
「ステータスを確認する。」
表示された情報を見た瞬間。
司の眉が動く。
【LEVEL 25】
【STATUS】
【CORRUPTION】
「……CORRUPTION。」
「侵食、か。」
見たことのない表示だった。
「レオンに映像を送る。」
アルマが記録を開始する。
「送信します。」
司は武器を構えた。
「まず、俺だけで接触する。」
シルヴィアが不安そうに見る。
「気を付けて。」
「ああ。」
司は装甲車から降り、警備ロボへ近付いていく。
「聞こえるか?」
反応はない。
「俺たちは天使軍の――」
その瞬間。
ギュンッ!
警備ロボの腕が跳ね上がった。
「っ!」
司が横へ飛ぶ。
警備ロボの拳が地面を叩いた。
轟音が響く。
「敵対行動……!」
司は距離を取る。
もう一体も動き始めた。
二体が同時に司へ向かってくる。
だが、その動きは明らかにおかしかった。
警備用としては、あまりにも単調だ。
回避行動も、連携もない。
ただ、司だけを狙って真っ直ぐ突っ込んでくる。
「……なんだ、こいつら」
一体の拳が振り下ろされる。
司は横へ飛んだ。
拳が地面を叩く。
轟音とともに、瓦礫が跳ねた。
「遅い!」
その直後、倒れたはずの一体が再び立ち上がった。
「……まだ来るのか」
損傷を一切考慮していない。
まるで、壊れることそのものを無視しているようだった。
ステータスを確認する。
【LEVEL 25】
「レベルは高くない。」
「なのに……」
司は警備ロボを睨む。
「動きが、俺の知ってるものと違いすぎる。」
それなら――。
司はビームガンを構えた。
「悪い!」
光線が走る。
狙ったのは胴体ではない。
腕。
脚。
そして関節部。
次々と駆動部を撃ち抜いていく。
しかし。
一体は、片脚を失っても止まらなかった。
ガリッ。
地面を引きずりながら、残った脚だけで司へ迫ってくる。
「……しぶといな」
司はさらに肩の駆動部を撃ち抜く。
腕を地面につき、這うようにして距離を詰めてくる。
「普通の警備ロボなら、とっくに停止してるだろ……」
司は眉をひそめた。
「こいつ、本当に何なんだ?」
ガクン。
一体の腕が落ちた。
続いて脚部が停止する。
司はもう一体にもビームを撃ち込む。
肩。
肘。
膝。
駆動部を一つずつ破壊していく。
ガクン。
ようやく二体とも動きを止めた。
「これで動けない。」
シルヴィアが装甲車から降りる。
「壊しちゃった……?」
「四肢だけだ。」
司は警備ロボを確認する。
「中枢部は無傷。」
「侵食の正体も分からないのに、完全に破壊するわけにはいかない。」
アルマも確認する。
「中枢機能に重大な損傷はありません。」
「なら運べるな。」
司は二体を見る。
「こいつらは天使軍の警備ロボだ。」
「何か分かるかもしれない。」
「シルヴィア、アルマ。頼めるか?」
「うん。」
「了解。」
二人が警備ロボを持ち上げる。
そのまま装甲車へ運んでいく。
司はその場に残った。
「……何だ?」
ふと、足元に違和感を覚えた。
周囲を見回す。
瓦礫。
破損した機械。
そして――。
「あれは……。」
以前、スクラップ遺跡で見たもの。
ガラクタドラゴンの残骸の中に落ちていた、謎のアイテム。
司は瓦礫を掻き分ける。
そこにあったのは、一つの金属製ツールだった。
表示を確認する。
【Penetration Tool】
「……嘘だろ。」
司の手が止まる。
ガラクタドラゴンの時と、全く同じアイテム。
一つだけなら、まだ偶然で片付けられた。
だが、二つ目となると話が違う。
「侵食された警備ロボ。」
「そして、ここにもこれがある。」
偶然とは思えなかった。
司はふと、ガラクタドラゴンの姿を思い出す。
異常な硬度。
そして、動力の大半が首へ集中していたという、不自然な構造。
「まさか、あいつも……。」
言いかけて、司は口を閉ざした。
確証はない。
それでも、頭の中で何かが繋がりかけていた。
司はそれを拾い上げる。
装甲車を見る。
「一度戻るか。」
「レオンに確認してみよう。」
回収した黒いデバイスをバッグへ入れる。
そして司も装甲車へ乗り込んだ。
ネビュラ・ヴォルトで見つかった、知らない異常。
その答えを求めるために――。
五人はアルカディアへ戻ることにした。




