第三十話 まだ、届かない
アルカディア上空。
巨大な機械兵器――エンペラードローンが、惑星の上空を悠然と飛んでいた。
まるで、何かを探しているかのようだった。
その姿を確認した天使軍は、即座に迎撃態勢へ移行する。
後方拠点とはいえ、アルカディアに残っているのは軍人が中心だ。
兵士たちは各所へ展開し、対空砲を次々と起動させていく。
「撃て!」
轟音が響く。
無数のミサイルが空を埋め尽くし、エンペラードローンへ殺到した。
ドォン! ドォン!
爆発が機体表面を覆う。
だが、煙が晴れても――。
傷一つない。
「……効いてない?」
「装甲に損傷なし!」
動揺が広がる。
それでも、兵士たちは撃ち続けるしかない。
アルカディアの主力部隊は前線へ送られている。
ここに残っているのは、後方防衛を任された部隊が中心だった。
それでも誰一人として持ち場を離れない。
「次弾装填!」
「撃ち続けろ!」
再びミサイルが空へ飛ぶ。
しかし、エンペラードローンは止まらない。
背部装甲が開く。
無数の砲門が展開された。
「来るぞ!」
次の瞬間。
光弾が降り注いだ。
対空施設が次々と吹き飛んでいく。
「うわぁぁっ!」
「砲台、沈黙!」
さらに上空。
アルカディアを周回していた防衛衛星が、主砲を展開する。
「衛星兵器、照準完了!」
「撃て!」
閃光が走る。
巨大なエネルギー砲が、エンペラードローンを正面から貫いた。
だが――。
エンペラードローンは速度を落とさない。
直後、その機体から放たれた光弾が衛星を貫いた。
爆発。
防衛衛星が粉々に砕け、宇宙空間へ破片が散っていく。
「衛星兵器、沈黙!」
「次の衛星を回せ!」
「ありません!」
ガレージの大型モニターには、その光景が映し出されていた。
シルヴィアが呟く。
「……強すぎる」
アルマも戦況を分析している。
「通常兵器による有効打、確認できません」
レオンは険しい表情でモニターを睨んだ。
「まだだ」
「アーク・ランサーを出せ」
その言葉に、整備兵たちが一斉に動き出す。
地下からせり上がってきたのは、巨大な砲台だった。
惑星防衛用大型兵器。
アーク・ランサー。
一撃に全てを懸ける、アルカディア最大級の迎撃兵器だった。
「砲撃準備!」
「使用者は?」
「レベル二十八です!」
レオンの顔が曇る。
「……現在、アルカディアに残っている中では最高か」
「はい」
司はモニターを見る。
エンペラードローンは、すでに目前まで迫っている。
「……それでも、足りない」
レオンが低く呟く。
その時。
司は自分のステータスへ目を落とした。
Lv30。
リミットキーは、まだ手元にある。
「俺なら……」
レオンが振り返る。
「司?」
「使わせてください」
「何をするつもりだ」
「アーク・ランサーを」
司はモニターへ視線を戻した。
「今の俺なら、さっきの人よりは出力を出せる」
レオンは一瞬だけ迷った。
しかし、他に手段はない。
「……分かった」
◇ ◇ ◇
司はアーク・ランサーの操作席へ座った。
目の前には巨大な照準モニター。
遠くにエンペラードローンが見える。
「レベル三十……」
司は息を吐く。
「これでも足りないかもしれない」
だが、照準から目を逸らさない。
「それでも撃つしかない」
照準を合わせる。
「アーク・ランサー、発射!」
轟音。
大地そのものが震えた。
光の槍が一直線に空を駆ける。
そして――。
エンペラードローンを直撃した。
閃光が空を覆う。
「……!」
司が目を見開く。
装甲が弾け飛んだ。
表面装甲が剥がれ、内部構造まで露出している。
「当たった!」
シルヴィアが叫ぶ。
「効いてる!」
アルマも即座に報告する。
「装甲損傷を確認」
「内部構造の一部が露出しています」
だが。
エンペラードローンは墜落しない。
黒煙を引きながらも、なおアルカディアへ進み続ける。
司は歯を食いしばる。
「……これでも倒せないか」
しかし、その直後。
エンペラードローンが突然、進路を変えた。
「……?」
機体が旋回する。
そのままアルカディアから離れていく。
「撤退?」
アルマが分析する。
「敵機、戦闘継続を中断」
「惑星圏外へ離脱しています」
ガレージの外から歓声が上がった。
司はモニターを見つめたまま動かない。
「……追い払った、のか」
勝ったわけではない。
ただ、撃退しただけだ。
それでも――。
「レベル三十でも、傷は付けられる」
司は小さく呟いた。
◇ ◇ ◇
その時だった。
再び警報が鳴り響く。
――ピィィィィッ!
『アルカディア管制より緊急通信』
『接近中のシャトルを確認』
全員がモニターを見る。
一隻の小型シャトルが、アルカディアへ接近していた。
『所属不明シャトル』
『乗員二名』
『識別名――』
画面へ表示された文字を見て、司の動きが止まった。
【定刻で帰ります】
【保険未加入】
「……は?」
シルヴィアが首を傾げる。
「変な名前……」
司は画面を凝視した。
こんな名前を付ける人間を、司は一人しか知らない。
「……まさか」
小さく呟く。
「プレイヤー……?」
その瞬間だった。
シャトルの進路上を、光弾が横切った。
「敵機接近!」
「シャトル、被弾!」
司が立ち上がる。
「助けに行く!」
「司!」
レオンが腕を掴んだ。
「離してください!」
「駄目だ!」
「でも、あいつらが……仲間かもしれないんです!」
「今のお前では無理だ!」
レオンの声が響く。
「さっきのエンペラードローンを見ただろう!」
「お前がアーク・ランサーを使って、ようやく装甲を剥がした程度だ!」
「今行けば、二人とも死ぬ!」
司は言葉を失った。
モニターの向こうでは、シャトルが必死に逃げ続けている。
だが――。
アルカディアの防衛システムが再び起動した。
残された砲台が一斉に火を噴く。
集中砲火を受けたエンペラードローンは、再び惑星から離れていった。
『敵機、アルカディア圏外へ離脱』
『追撃は行わない』
静寂が戻る。
司は拳を強く握り締めた。
「……まだ」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
「まだ、勝てないのか」
レベル三十。
装甲車。
アーク・ランサー。
それだけ揃えても、届かなかった。
そして何より――。
目の前にいたかもしれない「仲間」を、助けることもできなかった。
司は自分の拳を見つめる。
「……もっと強くならないと」
「次は、助けられるくらいに」
モニターには、遠ざかっていくエンペラードローンが映っていた。
その向こうには、まだ無数の星々が広がっている。
司はその光景を見つめながら、静かに拳を握り直した。




