第二十九話 帰還、そして来訪者
フォージ・アーカイブを出た装甲車は、アルカディアの街へ戻っていた。
目的は達成した。
リミットキーを三つ回収し、デソラに関する資料も、わずかながら持ち帰ることができた。
「……終わったな」
司が呟く。
助手席のシルヴィアも頷いた。
「うん」
「今度こそ、ちゃんと帰れるね」
アルマは後部座席から報告する。
「車体、損傷なし」
「帰還に問題ありません」
司はハンドルを握ったまま笑った。
「装甲車、作って正解だったな」
「はい。」
「今回の探索では、有効な装備でした」
◇ ◇ ◇
ガレージへ戻ると、レオンが待っていた。
装甲車が停車する。
扉が開き、司たちが降りてくる。
三人の無事を確認すると、レオンは安堵したように息を吐いた。
「無事だったか」
「はい」
司はアイテムバッグから三つのリミットキーを取り出した。
「これを」
レオンの目が見開かれる。
「……リミットキー?」
「三つあります」
レオンはその一つを手に取った。
淡い光を放つ結晶を、信じられないものを見るように見つめる。
「本当に……手に入れたのか」
「フォージ・アーカイブのガーディアンから」
「そうか……」
レオンはしばらく言葉を失っていた。
やがて、深く息を吐く。
「よくぞ無事で帰ってきた」
その声には、隠しきれない喜びが滲んでいた。
「正直、帰ってくるまで心配していた」
司は少し照れくさそうに笑う。
「まあ、色々ありましたけど」
レオンは三人を見回す。
「それでも、全員無事だ」
「それだけで十分だ」
◇ ◇ ◇
ガレージの整備台には、回収した資料が並べられていた。
デソラの記録。
『VALKYRIE』と刻まれた金属板。
そして、天使軍と悪魔軍の歴史を記した記録媒体。
レオンは資料を一つずつ確認していく。
「これは……」
司が説明する。
「ほとんどは劣化していて読めませんでした」
「修復設備が必要です」
「だが、これだけ残っていれば十分だ」
レオンは記録媒体を慎重に扱う。
「デソラが本当にただの廃棄惑星ではなかったのなら、調べる価値はある」
「それに……ヴァルキリーか」
金属板へ視線を落とす。
「聞いたことのない名前だ」
司はアルマを見る。
アルマは黙って記録板を見つめていた。
「何か分かるか?」
「現時点では不明です」
「ですが、私に関係する可能性は否定できません」
司は小さく頷いた。
「……そうだな」
デソラで目覚めたアルマ。
正体不明のフレーム。
そして、そこに残されていた『VALKYRIE』という記録。
偶然で片付けるには、気になることが多すぎた。
「修復できる施設を探そう」
レオンが言う。
「お願いします」
司も頷く。
ふと、アイテムバッグの中にあるリミットキーを思い出した。
これを使えば、ようやく自分たちの行動範囲も広がる。
だが――。
「今日は、もう休もう」
「使うのは明日にする」
シルヴィアが頷く。
「うん。」
その時だった。
ガレージ内に警報音が響き渡った。
――ピィィィィッ!
全員が一斉に顔を上げる。
「何だ?」
整備兵が端末を確認する。
しかし、数秒もしないうちに表情が変わった。
「……外部から緊急通信です」
「アルカディア管制から?」
「いや……これは」
次の瞬間。
ガレージの大型モニターが自動的に切り替わった。
【全域緊急警報】
【アルカディアへ接近する未確認飛翔体を確認】
司は画面を見上げた。
そこに映っていたのは――。
巨大な翼。
長い尾。
鋭い角。
まるでドラゴンを思わせる姿をした、巨大な機械兵器だった。
「……ドラゴン?」
シルヴィアの表情が固まる。
司も画面から目を離せない。
知っている。
あの姿を。
デソラで見た。
崩壊する街。
逃げ惑う人々。
そして――空から降りてきた、あの機械兵器。
「……あれは」
司の声が低くなる。
シルヴィアも画面を見つめた。
「これ……」
「あの時の……」
長い尾。
鋭い角。
焼け落ちる街で見た、あの姿と同じだった。
司は拳を握る。
「エンペラードローンだ」
レオンが振り返る。
「知っているのか?」
「デソラで見た」
「俺たちを襲った奴だ」
レオンの表情が険しくなる。
「……あれが?」
「なら、ただの飛翔体じゃないな」
直後、管制から新たな情報が流れた。
【対象、惑星アルカディアへ接近中】
【広域センサーによる解析完了】
【推定レベル――四十五】
司の目が細くなる。
「……四十五?」
思わず呟く。
レベルだけを見れば、決して突出しているわけではない。
だが、司は知っている。
あの兵器は、数字だけで判断できる相手ではない。
デソラで見た破壊力。
あの機体が何をしたのか。
「まずい……」
司が呟く。
【所属――不明】
【アルカディア全域に避難命令を発令】
【住民は直ちに指定された避難区域へ移動してください】
【繰り返します】
【アルカディア全域に避難命令を発令】
そして。
【天使軍全部隊へ】
【迎撃準備を開始せよ】
ガレージの空気が、一瞬で変わった。
整備兵たちが慌ただしく動き始める。
武器を運び出す者。
通信端末へ駆け寄る者。
格納庫では、次々と兵器が起動していく。
レオンもすぐに指示を飛ばした。
「第三中隊を招集!」
「宇宙港周辺の防衛線を構築する!」
「住民の避難を最優先だ!」
「了解!」
兵士たちが一斉に走り出す。
シルヴィアはセプターワンドを握り締めた。
「……戦うの?」
司はモニターを見上げる。
映し出された巨大な機械兵器。
デソラを焼いた存在。
今度は、このアルカディアへ向かっている。
「分からない」
司は答えた。
「でも、あれが来るなら……」
装甲車へ視線を向ける。
「俺たちも準備する」
アルマが立ち上がる。
「迎撃準備を開始します」
司は頷いた。
その時。
モニターに映る機体が、ゆっくりと翼を広げた。
巨大な推進器が青白く輝く。
アルカディアへ向けて、さらに速度を上げていく。
司はその姿を睨み続けた。
デソラで起きたことは、まだ終わっていない。
そして今。
その怪物が、アルカディアへ向かっている。




