第二十八話 鋼鉄の進撃
フォージ・アーカイブ。
重厚な扉を潜った瞬間、複数のラビーが姿を現した。
背中のガトリングが一斉にこちらを向く。
「来る!」
次の瞬間。
ガガガガガガガッ!!
激しい銃撃が装甲車を叩いた。
だが――。
ガンッ!
ガンッ!
乾いた金属音が響くだけだった。
装甲には傷一つ付かない。
シルヴィアが目を丸くする。
「全然効いてない!」
司は前方を見据えた。
「これなら行ける!」
アクセルを踏み込む。
装甲車が一気に加速する。
ラビーの群れへ真正面から突っ込んだ。
「アルマ!」
「了解。」
ハッチから身を乗り出したアルマが、ラージチェインガンを掃射する。
ドドドドドドドッ!!
ラビーの装甲が次々と砕け散る。
一体。
二体。
三体。
群れが瞬く間に崩れていく。
シルヴィアも窓からビームガンを構える。
「えいっ!」
青い光が走り、ラビーを撃ち抜いた。
その直後。
通路の奥から、無数の小型機械が転がってくる。
「ボムボム!」
司が叫ぶ。
「止まるな!」
ボムボムが次々と接近する。
アルマが砲身を向ける。
ドドドドドッ!!
先頭の一体が爆発する。
その爆風で後続もまとめて吹き飛んだ。
司はアクセルを踏み続ける。
「この車なら、押し切れる!」
装甲車は爆発の煙を突き抜け、そのまま奥へ進んでいく。
◇ ◇ ◇
しばらく進んだところで、司は車を止めた。
「ここから先は、一度降りよう。」
シルヴィアが周囲を見る。
「何かあるの?」
「ああ。」
司は管理区画へ向かう。
そこには、古い資料棚と記録端末が並んでいた。
レオンの頼み。
デソラに関する記録を探すためだ。
司は棚を調べていく。
だが。
紙の資料は、触れた端から崩れていった。
「……駄目だな。」
アルマが記録を確認する。
「紙媒体の保存率、一パーセント未満。」
「電子記録を優先するべきです。」
「そうしよう。」
司は端末を起動する。
長い沈黙の後、古い画面が点灯した。
大量のデータが表示される。
その中から、司は惑星名を探す。
「……あった。」
【DESOLA】
司は画面を開く。
しかし、表示された情報はほとんどが破損していた。
資源量。
地質情報。
採掘記録。
どれも欠損が多い。
それでも、一部だけ読み取れる。
【資源調査:継続】
【希少鉱物:複数確認】
【採掘計画:保留】
司が眉をひそめる。
「……資源がない惑星じゃなかったのか。」
デソラは放棄された惑星。
それがアルカディアで聞いた認識だった。
だが、この記録を見る限り、少なくとも当時は資源開発の対象だったらしい。
さらに別の記録を開く。
そこには、一枚の画像が表示された。
黒い装甲。
長い四肢。
特徴的な頭部。
その横には――。
【VALKYRIE】
司は息を止めた。
「……アルマ。」
アルマが画面を見る。
「私と同型でしょうか。」
「分からない。」
司は記録を拡大する。
だが、肝心の仕様データは失われていた。
「持って帰ろう。」
司は端末の記録を保存する。
「デソラのことも、お前のことも。」
アルマは静かに頷いた。
「了解しました。」
◇ ◇ ◇
さらに奥へ進む。
今度は軍事記録が残っていた。
【天使軍】
【悪魔軍】
そして、その両方に関係する古い外交記録。
司は画面を読み進める。
星間統治権。
連合への加盟。
通行宙域。
資源採掘権。
利益配分。
複数の問題が長年にわたって積み重なっていた。
やがて交渉は決裂。
冷戦状態へ移行。
そして――戦争。
その後、両陣営は互いを敵として宣伝し始めた。
「……最初から、善悪で分かれてたわけじゃないのか。」
シルヴィアが画面を見る。
「じゃあ、悪魔軍って名前も?」
「たぶん、後から付いた名前だ。」
司は記録を保存する。
「少なくとも、この記録を見る限りはな。」
何百年も続いた戦争。
敵を悪と呼び続けるうちに、いつしか本当の呼び名すら忘れられていった。
司は画面を閉じた。
「これも持って帰る。」
◇ ◇ ◇
中央区画。
巨大な送電ケーブルが天井から伸びている。
司は足を止めた。
「……これだ。」
アルマがケーブルを見上げる。
「電力供給ラインですね。」
「ああ。」
「切断しますか?」
「やる。」
司はビームガンを構えた。
光線が走る。
バチィッ!!
ケーブルが切断される。
施設全体の照明が一瞬だけ暗くなった。
「これで向こうの動きが鈍るはずだ。」
司は車へ戻る。
「念のため、もう一つ仕掛ける。」
取り出したのは、木馬を加工した際に余った接着剤と輪ゴムだった。
シルヴィアが呆れた顔をする。
「……またそれ?」
「使えるなら使う。」
「その考え方、嫌いじゃないけどさ。」
司は笑った。
◇ ◇ ◇
巨大な円形広場。
中央には、大型の充電装置が設置されている。
その奥から地響きが響いた。
ドォン。
ドォン。
巨大な影が姿を現す。
キングラビー。
両腕に大型チェインガン。
背中には大量の爆弾。
「来るぞ!」
ガガガガガガガッ!!
チェインガンが火を噴いた。
司はハンドルを切る。
弾丸が装甲車の横を薙ぎ払う。
「アルマ!」
「射撃します。」
ドドドドドドドッ!!
ラージチェインガンが火を噴く。
キングラビーの装甲が弾け飛ぶ。
だが、巨体は止まらない。
「シルヴィア!」
「任せて!」
青いビームが走る。
キングラビーがよろめく。
司はアクセルを踏み込んだ。
「接近する!」
装甲車が一気に距離を詰める。
キングラビーがチェインガンを向けようとする。
だが、近過ぎる。
砲身が装甲車を捉えられない。
「今だ!」
司は車体を旋回させる。
「足を狙え!」
三人の攻撃が脚部へ集中する。
ドドドドドドッ!!
ジュウウウウッ!!
装甲が砕ける。
キングラビーが大きくよろめいた。
その時だった。
「……動きが止まった?」
シルヴィアが呟く。
キングラビーの動きが明らかに鈍くなっている。
司は送電ケーブルの切れた天井を見る。
「電力が足りないんだ。」
キングラビーが充電装置へ飛び込む。
だが。
ガコン。
装置が途中で停止した。
「よし!」
接着剤で固めた可動部が、かろうじて形を保っている。
機械が無理やり動こうとする。
ギギギギ……。
だが、電力が足りない。
キングラビーは立ち上がれない。
「今だ!」
アルマが撃つ。
ドドドドドドドッ!!
シルヴィアも続く。
司は車体を正面へ向けた。
「終わらせる!」
三方向から攻撃が集中する。
轟音。
火花。
そして――。
ズゥゥゥン……。
キングラビーの巨体が崩れ落ちた。
しばらくして、その身体が光の粒へ変わっていく。
戦闘が終わった。
広場には、大量のアイテムが散らばっていた。
スクラップ。
高品質合金。
大型チェインガン。
そして――。
三つの光る結晶。
司は駆け寄った。
「……リミットキー。」
シルヴィアが拾い上げる。
「三つある!」
アルマも一つを手に取る。
「必要数を確保しました。」
司は三つのキーを見つめた。
これで先へ進める。
そして。
デソラの記録も手に入った。
アルマのフレームに関する手掛かりも。
天使軍と悪魔軍、その戦争の始まりに関する記録まで。
司は全てをバッグへ収納した。
「目的は達成した。」
「戻ろう。」
三人は装甲車へ乗り込む。
フォージ・アーカイブを後にするために。
司はバックミラーへ視線を向けた。
暗い遺跡。
何百年もの間、誰にも触れられなかった記録。
そこには、この世界がまだ知らない過去が眠っていた。
そして司自身も、ようやく気付き始めていた。
自分が知っているのは、この世界のほんの一部に過ぎない。
「……帰ったら、全部整理しないとな。」
装甲車が走り出す。
鋼鉄の車体は、静かな遺跡を後にした。




