第二十七話 鋼鉄の突破
ガレージの奥。
巨大な変換装置の前へ、百台を超える木馬が次々と運び込まれていた。
小さな子供用。
大人が跨れる大型のもの。
材質も大きさも様々だ。
それらが、装置の前へ山のように積み上げられていく。
レオンは腕を組んだまま、その光景を眺めていた。
「……本気なのか」
司は頷く。
「はい。」
「これでいけます。」
整備兵の一人が困惑したように口を開く。
「変換装置へ入れるのは鉄材やオイルだ。」
「木馬なんて初めて見たぞ。」
「そもそも、何に使うんだ?」
司は答えず、変換装置の操作端末へ手を置いた。
シルヴィアが隣から覗き込む。
「本当にこれで装甲車になるの?」
「ああ。」
「試してみれば分かる。」
司が実行ボタンを押す。
瞬間。
山積みになっていた木馬が一斉に光へ包まれた。
ゴォォォ……
低い駆動音が格納庫へ響き渡る。
木製の車体が光の粒へ変わり、装置の内部へ吸い込まれていく。
整備兵たちは言葉を失っていた。
数十秒。
やがて、駆動音が止まる。
光が静かに収束していく。
そこに現れたのは――。
一台の軍用装甲車だった。
分厚い装甲。
大型タイヤ。
直線的で無骨な車体。
木馬から生まれたとは、とても思えない。
「……完成だ。」
司は車体へ手を伸ばした。
冷たい金属の感触。
間違いない。
ちゃんと動く。
司は重いドアを開いた。
操縦席。
計器類。
通信装置。
助手席。
後部座席。
細かな配線に至るまで、必要な設備が揃っている。
「……すごい。」
シルヴィアも後部座席を覗き込む。
「本当に車になっちゃった……。」
司は車内を見渡した。
これまで何度も目にしてきた設計。
だが、実物として見ると印象が違う。
単なる移動手段ではない。
人間が乗り込み、操縦し、戦うための空間として作られている。
「悪くない。」
司は小さく頷いた。
アルマが後部へ回る。
天井のハッチを開き、ラージチェインガンを固定する。
カチリ。
金属音が響いた。
「固定完了。」
「旋回範囲、良好。」
「迎撃任務へ移行可能です。」
「頼む。」
司は運転席へ戻る。
その横では、シルヴィアが嬉しそうにビームガンを眺めていた。
外見は先ほどのセプターワンド。
「えへへ。」
「やっぱり可愛い。」
司が苦笑する。
「……気に入ったのか?」
「うん。」
シルヴィアは嬉しそうに笑う。
「武器だけど、可愛い方がいいじゃん。」
アルマも一度だけ視線を向ける。
「戦闘能力に変化はありません。」
「分かってるよ。」
シルヴィアは笑った。
「でも、可愛いは大事なの。」
司は何も言わず、エンジンを始動した。
ブォン……
低い駆動音が格納庫へ響き渡る。
整備兵たちは装甲車を見つめたまま動かなかった。
一人が呆然と呟く。
「……木馬から、これが?」
「ありえない……。」
別の整備兵が車体を軽く叩く。
コン。
鈍い金属音が返ってくる。
「普通の変換装置なら、こんな装甲は作れないぞ。」
レオンも車体を眺めていた。
「司。」
「はい。」
「お前はいったい、何をした?」
司は少し考えた。
「……ちょっとした工夫です。」
「それで説明になっていると思うか?」
「思ってません。」
レオンは額へ手を当てた。
「だろうな。」
司は笑いながらアクセルへ足を乗せる。
その時、端末へアストラから通信が入った。
『マスター。』
『本艦の自律保守システムによる点検は順調です。』
『現時点で航行に問題はありません。』
「分かった。」
「アストラにはシャトルを頼む。」
『了解しました。』
司は前方を見る。
「俺たちはフォージ・アーカイブへ行く。」
シルヴィアが助手席から身を乗り出す。
「今度こそ突破できるかな。」
司は前方を見据えた。
「やってみるさ。」
「さっきとは違う。」
今度は、敵の攻撃をまともに受ける必要はない。
装甲で耐えながら距離を詰める。
アルマの火力で敵を抑える。
そして、必要なら撤退する。
司はハンドルを握った。
「行こう。」
「フォージ・アーカイブだ。」
「うん!」
アルマもハッチから身を乗り出す。
「迎撃準備、完了。」
装甲車がゆっくりと動き出す。
その姿を見送っていたレオンが、不意に声をかけた。
「司!」
装甲車が止まる。
司が窓を開ける。
レオンは真剣な表情を浮かべていた。
「一つだけ頼みがある。」
「何ですか?」
「フォージ・アーカイブは、かつて辺境惑星の資源データも管理していた施設だ。」
「もしかしたら、デソラの記録も残っているかもしれない。」
司の表情が変わる。
「デソラの?」
「ああ。」
レオンは頷いた。
「あの星は四百年以上前に放棄された。」
「だが、お前が持ち帰った宝石は、その認識を覆した。」
「もし資料が残っていたら……持ち帰ってくれ。」
司は少しだけ考えた。
そして頷く。
「分かりました。」
「探してみます。」
レオンは満足そうに頷いた。
「頼んだ。」
司は窓を閉める。
アクセルを踏み込んだ。
エンジン音が一段と大きくなる。
装甲車は宇宙港を後にした。
目指すのは、地下深くに眠るフォージ・アーカイブ。
今度は徒歩ではない。
鋼鉄の車体と、十分な火力を手にしている。
だが。
司はまだ知らなかった。
フォージ・アーカイブの奥で待っているものが、単なる強敵ではないことを。
そして。
デソラに関する記録が、四百年以上の空白を埋める手掛かりになることも――。




